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「君と居れば」

ついに最終回!

走ってきた人は誰だ?そしてこの物語のクライマックスに、一体何が起こるのか!?

駿馬の如く走ってきた騅の運命は如何に!?

※6,000字程度です。

2013年6月12日…

とある大通り



 その走ってくる男の人がこちらに近づいてくるにつれ、だんだん誰かがわかってきた。

黒髪短髪、黒スーツ、青いネクタイ、そして武士のような風貌。

その人物は、車の前に来ると息を切らしながらも僕のことをじっと切なさを感じる眼で見つめていた。

「窓を開けてさしあげてください。」

と、運転席に座る執事に促されて窓を開けると、その人は窓枠にガッと両手で捕まり息を整えながらもこう言い放った。

「はぁ…………はぁ……騅……。警報銃……持って……いたんだな……」

やはりこの声は詠飛さんだ。

僕は警報銃をてっきり純司さんの誕生日パーティーのときに後醍醐家に忘れてきていた、と思っていたので、慌てて周囲を探すとなんと僕のお尻の下にあった。

道理で座り心地が悪かった訳だ。

「えっと……すみません?」

「謝るな……。」

「36歳武士の本気のダッシュ、中々見ものだったぜ?」

と、傑さんは後部座席との仕切りから顔を出して、詠飛さんを好意的な目で見て言った。

「ふざけるな……全く……はぁ。」

「詠飛さん。」

僕はこれを聞くのは、今しかないと思っていた。

もう僕は20歳になる。このまま後醍醐家の養子だったら、養子の猶予期限が来ていたのだ。

「ん?」

「僕の両親は今どこで何をしているんですか?」

僕がすっかり落ち着いた詠飛さんを見上げると、詠飛さんの黒目が僅かに揺れたのが見えた。

「……ついに来たか。」

傑さんは試すように僕の後ろから声をかけてきた。傑さんも知っていたのか……。

僕だけまた知らなかったのか?

「騅、お前の両親は……もうお前に会っている。」

詠飛さんは僕を温かい目で見つめている。口調も比較的穏やかだ。

誰だ?

父親になり得る人物……先生は後鳥羽の人とわかったから無いとして、大家さんは性格が全然違いすぎるから無いね……。

え? 誰だ?

僕はぐるりと回りを見渡してみた。

執事の誰かという可能性もあるが、隣に座る執事は全く顔が似ていない。

「ふっ……お前の目の前に居るだろう?」

詠飛さんはそう言うと、あの時見せてくれた眩しい笑顔で僕の頭を撫でてくれた。

「え……? 詠飛さんが……? でも、僕が……拾われたのって……」

駄目だ。声が震えてきている。まさか詠飛さんだとは思ってもいなかった。

「俺だ。」

「どうして、養子何か……」

「ああでもしないと俺の過ちで産ませた子だったから、父上様が許してくれなかっただろう。」

「……じゃあ、お母さんは……?」

僕が涙声で言うと、詠飛さんはきょろきょろと車の中を見渡す。

「傑。騅の母上様はどこだ?」

「お? 知らねぇよ。おふくろまでは聞いてねぇしな。」

傑さんは興味無さそうに仕切りをいじったりして遊んでいる。

「えっと……あの、詠飛さんのもう1人の子どもは……?」

「あぁ。そいつなら今、片桐組でエーススナイパーをしている。」

「え!?」

僕は思わず叫んでしまっていた。

月道と僕は実の兄弟!?

たしかに少し似ているところはあったけど、まさかそこまで近い人物だとは。

「詠飛兄は4回ヤッた内の2回も妊娠させたんだぜ? 俺みてぇに上手く出来ねぇからさ。」

傑さんはこういう話題だとやけに饒舌だ。

日雇いバイト仲間が噂していた通りで、誰でも気に入れば……らしい。

「黙れ。持ち合わせが無かっただけだ。」

「ふぅん。あと、あの話もしねぇとじゃね?」

と、ニヤニヤしながら言う傑さんに対し、

「そうか。」

詠飛さんは顎髭をさすりながら、僕の方や傑さんの方を見たりと視線を泳がせている。

何か迷っているのだろうか?

僕にとってはもうこれ以上の驚きは無いと思っているのだけど……。

「お前は“BLACK”にて大変な価値のある人物とされている。だからこそ、俺ら後醍醐家のモノとしたい。」

詠飛さんはそこで言葉を切ると、まだ何か迷っているのか何度も顔を左手で拭ったり、頬を何度も叩いたりしている。

「そこでだ……お前には俺か傑の手で……」

詠飛さんの口が「こ」を発音する口に動いた瞬間、2人の間に黒い影が飛び入り“それ”は詠飛さんの頬を思い切り引っ掻いた。

「っ……!」

詠飛さんが慌ててそれを退けると、僕の膝の上にちょこんと座った。

「リヴェテ……!」

僕がぎゅっと抱きしめると、詠飛さんは目を丸くしている。

「ヴェリテ、何故猫になぞなっている?」

するとリヴェテ改めヴェリテは可愛らしく小さい欠伸をし、何度か咳払いをした。

「人語は久しぶりね。えっと、私はあなたのお母さんよ。まぁあのね、純じぃに頼んで猫にしてもらっているのよ。人前に出るにはその方が都合が良かったのよ。おかしいと思わなかった? ……分析の鋭いあなたなら、とうに気付いていた筈よ。」

ヴェリテは僕の目をじっと見つめ、首を傾げている。

たしかに不審な点は幾つもあった。

 猫が監視カメラの場所を知ってたり、詠飛さんと傑さんの争いを仲裁したり、文字を見上げていたり……今考えれば有り得ないことだらけだった。

それにこの猫が人間だとしても、後鳥羽から逃げた1人だと思っていたから。

「お母さん。」

「な~に?」

「僕をどうして産んだの?」

「それはこの頭でっかちのミスとは言え、産まれてくる子に罪は無いでしょう? それに、下ろすだなんて命がもったいないじゃない。だけど、留学生だった私のせいで金髪になってたし、それでイジメを受けていたでしょう? 本当にごめんなさいね。」

ヴェリテはそのつぶらな瞳から涙をほろりほろりと零し、僕の服を濡らしていった。

本当のお母さんは、いつもどこかから僕を見ていたんだ。

後醍醐家の名家様のお母さんとは大違いで。

「ううん。でも僕、犯罪もしたし傷つけた人たちも居るんだよ?」

「知ってるわ。でも止められなかったのは、頭でっかちと私の責任。まさかドアの鍵を閉められちゃうとは思わなくって。……そうやって黒く染めていると彼にそっくりね。」

ヴェリテは僕の髪を愛おしそうに撫でた。猫の手で。

 僕は完全に頭が真っ白になっていた。

詠飛さんがお父さん、リヴェテと呼んでいた猫がお母さん。

そのことを傑さんが少しでも知っている。

純司さんも猫にした張本人だから、この関係は知っていることだろう。

 すると、傑さんは突然僕のこめかみに銃を突きつけた。

それを合図に詠飛さんはヴェリテの首根っこを掴み、仕切りの奥へと放り投げた。

必死に抵抗するヴェリテを傑さんは片手で押さえ込み、ロープで縛っている。

「えっ…!? 2人ともどういう……!?」

僕が2人の目を見ると、それは権力に揺らいだ恐ろしい欲望の目であった。

 “BLACK”という地位がそんなに欲しいのか?

 そこまでして僕を殺したいのか……?

「騅。お前は知りすぎた。そこの執事もだが。」

詠飛さんが僕を先程とは打って変わって血に飢えたような恐ろしい目で見下ろすと、傑さんは執事の頭に数発弾丸をぶち込んだ。

「さて、お前もこうなって片桐総長に報告をすれば……“BLACK”は後醍醐のモノだな。」

傑さんは僕のこめかみに銃口を当てたまま、舌なめずりをしている。

だが、執事の時には余裕そうだった詠飛さんの目にはまだ迷いが見える。

そうだ。僕と詠飛さんは血が繋がっているではないか。

「詠飛さん、僕……」

と、涙目で見上げて言いかけると、

「詠飛兄、こいつはお前の過ちの子だろ!!」

という傑さんの怒号が響いた。

その言葉を聞いて一瞬瞳が揺らいだが、しばらくすると瞬きも少なくなり覚悟を決めた表情になってしまった。


 マズイ……僕は殺されるのか。

20歳になる前に。

僕がそっと目を閉じ両手を上げるという諦めの姿勢を示すと、傑さんは銃口に指をかけようと少しずつ誤爆をしないように動かしていた。


 すると一筋の光が僕の瞼の裏を赤く染め、思わず目を開けるとそれはどうやら車か何かの乗り物がこちらの方に向かってきているようだった。

それはやがて歩道の方に乗り上げ、ただでさえガードレールの事故があり野次馬が集まっていたので、今度は何事か、と悲鳴と共にまた集まってきてしまっていた。

それにエンジン音の轟音や悲鳴、そして酷くなってきた雨音に混じって男の人の声も聞こえてきた。

「どけやぁぁ!!」

あれ?

僕は思わず耳を疑っていた。

詠飛さんがライトの眩しさに腕で目を覆っていたので身を乗り出せる限り乗り出すと、かなり大型の黒いバイクは僕らの乗っている車の目の前で止まった。


 傑さんは車から飛び出し、詠飛さんも完全に戦闘体勢でその人物を睨んでいた。

その空気感は凄まじく、誰も近寄れない雰囲気が漂っていた為、野次馬たちは道を挟んだ先まで退散していた。


 そして3人の睨み合いが始まった。

バイクに乗っていた人物はそれから降り、ヘルメットを外して軽く頭を振った。

雨に濡れる茶色い髪、あの浅黒い肌といい、決定的なのは似合いすぎて驚いた軍服。

もうその人物の手には重厚な槍が握られていた。

「藍竜組の“虎”こと菅野か。俺に一度たりとも勝ったことがねぇのに、また負けに来たのか?」

傑さんは銃を両手に持ちくるくるとトリガーガードに指を入れて回しながら言っている。

かなり余裕そうなことから、やはり傑さんは優秀で強い殺し屋なのだろう。

「そうやないで……。俺は戦いに来たんとちゃう。……騅を解放しろ。」

と、菅野さんはいつもの明るく快活な声ではなく、かなり押し殺した声で言っている。

「それは俺が決めること。俺は騅の父親であり――」

「そんなん関係あらへん!!」

菅野さんの気迫に押された詠飛さんは、拳を力強くぎゅっと握る。

「威勢の良い虎じゃねぇか。さて、俺ら2人から正々堂々と奪えるのか? 威勢だけの良い虎め。」

「やかましわ!!」


 ついにこの怒号を合図に傑さん、詠飛さんと菅野さんの戦いが始まってしまった。

ぶつかりあう槍といつの間にか持ち替えた散弾銃、そして詠飛さんの拳。

 僕が毎日鍛錬していても一度も勝てなかった程強い詠飛さんの重い拳。

“ガラス師”がいかに飾りだったかがよく分かるのだけど。

 僕の方に注意が一切無いことを確認し、仕切りからヴェリテを抱き上げ縄を解いてあげた。

するとヴェリテは「槍使いの彼の為に隙を作るわ」と言い残し、窓から出ていき傑さんの銃に横から噛み付いた。

 それで見事に隙が出来、菅野さんはドアを開けるのも面倒だったのか、窓から僕の身体を無理矢理引っ張りだし、そのまま手を引かれてバイクへと乗り込んだ。

「メットは自分で被ってや。あと、めっちゃしがみついといてな? ええな!?」

と、一方的に告げると菅野さんはエンジンをかけた。

ヴェリテの方を見ると、銃を曲げんとばかりに噛みつきコントロールを見事に失わせている。


 僕らが出発する間際にヴェリテに向かって手を伸ばすと、彼女は僕の腕を伝い股の間に入り込んだ。

僕はそれを確認し、菅野さんの腰にしっかりしがみついた。

その瞬間にバイクは轟音を立ててあっという間にその場から離れ、タイヤをパンクさせようと撃ってきた銃弾を巧みに避け、僕らは颯爽と走り去っていった。


――どこまでも。



数十分後……

藍竜組



 僕らはどこにでもありそうなコンクリート造りの学校の前に着き、門をくぐるとすぐにあるアスファルトの駐車場にバイクを止めて降りた。するといつもの様にヴェリテは僕の足元に丸まった。

「ふぅ……生きててほんま良かったわ~騅ぃ~!」

と、いつもの快活な声に戻った菅野さんは俺のことをぎゅっと抱きしめた。

「あんな……騅のこと裾野に調べてもらっててん。そしたら今日黒河とグルになって殺すのがわかってん。裾野には止められたんやけど……黙ってられへんかった。たとえ、一度も勝ったことない相手がおったとしてもな。」

菅野さんは僕の肩に顎を乗せてそう言うと、そっと身体を離して笑顔を向けてくれた。

その覚悟は本当に格好いいし、何度かしか会ってないけど菅野さんにはとても好感を持てるし、真っ直ぐな印象がある。

「あの……ありがとうございます。バイク、乗れるんですね。」

僕が率直な気持ちを伝えると、菅野さんは目を丸くし何度も瞬きをした。

いやだって、僕はバイクも車も運転できないから。

初心者マークも見当たらないし、それに確か今17歳だったような?

「せやで。何年か前に取ってん。あー……殺し屋は特別でな、ちょこっとだけ早く取れんねん。」

「……羨ましいです。」

「騅とはもっと話してたいんやけど……ほら、裾野に許可を得ないと……“BLACK”を3人でやってもええかっていう……な?」

菅野さんはわりかし物をはっきり言う方だと思うけど、何だか頭を掻きむしり始めたり、首の後を撫でていたりと落ち着きが急に無くなってきている。

 そう言えば、「裾野さんは結婚して菅野さんに優しくなった。」みたいなことを月道が言っていたような。そう考えると、裾野さんはやはりまだ怖いのだろう。

「はい。あの……」

「裾野は怖いで? でも俺が言わんとあかんやん? ……あかんやんかぁ~。」

菅野さんは歩き出しながらも頭を抱えている。

これは僕も覚悟をしておいた方が良さそうだ。



藍竜組 裾野&菅野部屋



 僕らが部屋に入るなり、裾野さんは僕と菅野さん、そしてヴェリテを順に見比べた。

その表情は鬼そのもの。赤黒いオーラと角が見えてきそうだ。

 部屋はシンプルな事務所のような造りで、白い床と壁に、高窓は黒い無地のカーテンで隠れている。

入り口を入ってすぐ左には背の高い青いパーテーションが高窓の方まであり、その先はこの位置では見えない。

右の方は、背の高い観葉植物、書籍の沢山入った豪勢な棚、そして高そうな夜景の絵が掛けられている。


「菅野。自分が何をしたかわかっているのか?」

裾野さんは腕を組んで高窓に寄っかかっており、入り口からそこまで何も直線上に物が無いせいか、かなり威圧感を感じる。

「わかってる! せやけど、俺は騅と戦いたい。」

「俺が許可を出す前に部屋を出たお前に、今更何を言われようが頷きたくないな。」

「お願いや、裾野ぉ~。一生のお願いや~、な?」

と、菅野さんは顔の中心で手の平を合わせ、「頼むて! お願いや~」と言っている。

その様子が僕にはどうもおかしかったが、裾野さんの真顔を見るとその気も失せる。

「はぁ……お前はどうしようもないガキだな。」

「そんなこと、わかっとるってぇ~……。」

菅野さんの甘ったるい声を無視し、裾野さんはどんどんこちら側との距離を詰めてくる。

そして僕らの目の前に立つと、

「このバカに免じて、“BLACK”での協力関係を許可する。ただし、騅に関しては俺らの重要護衛人となるから、戦場には赴くが安全な場所に居てもらうことになる。それでもいいのか?」

と、僕を見下ろして言う裾野さん。

その目は有無を言わせないものがあるが、決して厳しいそれではない。

「はい。」

と、僕が空気をブルッと震わせるくらいにはっきり言うと、裾野さんは頷き、菅野さんは「よっしゃ!」と喜んでいた。ヴェリテも嬉しそうに微笑んでいる。

それに釣られ、自然と僕もやっと心から笑うことが出来た。



 僕の生涯20年、色んなことがありすぎた。

この世に産まれ名家である後醍醐家の運命に翻弄され続け、後白河家の滅亡と後鳥羽家の権力格下げ、そして後醍醐家の逆転劇も見てきた。

その過程でイジメに遭い続け、高校で落ち着いたと思えば後醍醐家の秘密にまた惑わされ、ついには殺人に手を染め、色んな人を傷つけ絶望させた。

それでも様々な人に助けられ、僕は今ここに居る。


 これからどんな戦いが待ち受けていようと、僕は必ず生き残ってみせる。

“BLACK”の標的としての騅ではなく、“後醍醐家のもう1人の息子だった”騅として。

(意外と長くなかった……)

おっと!読了いただきまして、ありがとうございます!

2月下旬から書き始めてやっとゴールインです。

この先、スピンオフ(5話程度予定)&番外編(10話程度予定)も書きますので、

そちらも応援よろしくお願いします!


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