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「後鳥羽との決着」

騅はどうなった!?

後醍醐と後鳥羽の関係は……!?

2013年2月

拘置所

後醍醐 騅



 3畳ほどの小さな独房で1人、捕まった時の服装で寝転がっている。

僕は3人を殺した殺人罪により判決はもちろん有罪で死刑囚になった。

それに凶器もその場にあったことや、男の子の証言からもう明らかだったけど。

でも僕は取り調べのこととか一切覚えてなくて、いつの間にかここに居たようなものだけど、確実に月日は経っていて殺人を犯した日からもう1年以上過ぎていた。


「はぁ……」

僕は溜息をついていた。

部屋には紙と鉛筆、何冊かの本もあるが、どうにも何もする気になれない。

 リヴェテは元気だろうか?

傑兄さんと純司兄さんの協力も虚しいものになってしまったが、元気だろうか……?

月道は……考えないでおこう。


 そのとき、ドアから1枚の手紙が舞い込んできた。

そこには達筆な字で僕の名前が書かれている。

送り主は……

「詠飛兄さんだ……。」

僕は手紙を拾い上げ、封を夢中で破り1枚の手紙を取り出した。

そこに書かれていたのは……

〈騅。お前は本日をもって勘当とする。尚、出所後に後醍醐家へ近づくこと、また全ての名家に近づくことを厳禁とし、これを破った場合は政府により厳罰が与えられる。以上。〉


 僕は詠飛兄さんの直筆で書かれたその文を見て、震えが止まらなくなった。

やっと自分が如何に重い罪を犯したのかが理解できた。

ちょっとイタズラ心で人の物を盗った、友だちをカッとなって殴った等とは比較ができない程の重い罪を犯したのだ、僕は。

 この手で3人の人間の人生を……握りつぶしたのだ。

当然の罪、死ぬことでしか償えない人生を代わりに与えられたのだ。


 それでも涙が出なかったのは、少なくとも後悔していないからだろう。

僕がこの先泣くとすれば、月道の墓参りだけだろう。

そう思いながら、週3回だけ許されている屋外への外出許可を貰った時間までぼんやりと考え込んでいた。



拘置所内屋外

後醍醐 騅



 ここは死刑囚たちとの交流の場。

僕は始めはそう思っていたが、いざ出てみれば独房程の広さで鉄格子の柵が張り巡らされており、監視官も勿論立っているし、たいてい1人。

 だが15分だけしかない貴重な空気を吸ったり、太陽の光を浴びたりできる時間なのだ。

今日も1人だろうと思い鉄製の冷たいドアを開けると、そこには1人のおじさんが立っていた。

彼は40代くらいに見えるが、背筋も太陽の方を見上げる姿勢も大変美しかったので、実際よりも若く見えた。

服装は黒スーツで買ったばかりなのか、白いシャツもパリッとしている。

黒い髪に垂れ目、団子っ鼻、大きめの浅黒い顔、細身。何となくアンバランスだが、好感の持てそうな人だった。

「あの……」

僕が近くに行って話しかけると、おじさんはパッとマスコットのような愛らしい笑顔を浮かべた。

「おお! 君も死刑囚か! いや~それにしても久々に人と話をするなぁ!」

おじさんの声は、かなり渋い声でアニメに出てきそうな程印象深い声だった。

「あ、はい……」

言われて見れば僕も3ヶ月振りの会話だ。

僕はおじさんの隣に立ち、一緒に太陽を見上げた。

こんな閉鎖されたところから見ても、今まで見ていた太陽とまるで同じだ。

みんな同じ空の下に居るというのは最もだな。

「君はどうして死刑囚になったんだい?」

おじさんが僕の全身をチラッと見て言うので、おそらく金髪で見た目だけは真面目そうだったので疑問に思ったのだろう。

「えっと……」

僕は今までのことをざっくりと話した。

月道のことは勿論伏せて。あくまでも単独犯だったことを強調した。

「な~るほどね。いや~そんな若いのに計画はバッチリだったのか~。すごいなぁ。おじさんはね、アパートの大家をしていたんだけど、そこで愛煙家の住民とトラブルになっちゃって!」

「愛煙家の人とトラブルということは……おじさんは嫌煙家ですか?」

「そうなんだよ! よく聞いてたね。それでね、その人との口論が収まらなくて、ある日呼び出して八つ裂きにしちゃったんだ。あ、そうそう。おじさんは一応、元殺し屋だったからね~。」

きっと言ったら悪いと思うけど、今まで会った殺し屋は誰も異様な雰囲気を持つ美形が多かった。

でもおじさんは……腕は良かったのだろうか?

「……殺し屋。」

「そうそう! 元だけどね。それでね――」

「そこの死刑囚。もう時間だ。」

僕はその監察官の鋭い声を聞いて残念に思ったが、おじさんは肩をすくめて微笑みながら僕の元を去った。

もっとおじさんの話を聞きたかったな。

 僕はそう思いながら残りの数分を過ごし、冬の厳しい寒さを肌に感じながら独房へと戻った。


 そこで待っていたのは、監察官数名。

独房の荷物という荷物を片付けられている。

しかし、監察官の1人には手紙が見える。

「2069番。手紙だ。その返信を書き次第、監察官から荷物を貰え。お前は釈放だ。」

僕は思わず目を丸くし、「へ?」という間抜けな声まで出してしまったが、監察官は用件のみを伝えると、そそくさと立ち去ってしまった。


 僕は独房に戻り手紙の入った大きめの茶色い封筒を開けた。

「え……? 傑兄さん……いや、傑さんから? 何だろう。」

僕は小学校低学年並の暴れた字を読み解きながら最後まで目を通した。


〈騅、元気にしてるか? 傑だ。勘当のことは聞いてる。あと、片桐組が余計なことを始めやがった。その名も“BLACK計画”だ。これは簡単に言うと殺し屋たちのバトルロワイヤルで、片桐組総長の許可なしに同業者を殺すことは不可能。あと、藍竜組も他の組もこの計画に参加している。そして最後に残った殺し屋に“BLACK”という自由奔放に殺せる地位と権力を与えられる。まぁカッコ良く“BLACK”とか言ってるけど、結局のところ殺し屋王だよな~。あ、そうだ。誰かは明らかにされてねぇけど、ある人を殺すとほぼ確実らしいぜ! わかったら連絡する。釈放の知らせ、届いてるか? 傑〉


 “BLACK”……僕は正直何のことだかわからなかった。

色々こんがらがっている僕の思考回路では何も分析ができない。

 それに突然の釈放はどうやら後醍醐家からなのだろうか……?

でも勘当された僕を救ってくれるとは思えない。

だから傑さんはきっと誰かから聞いたのだろう、絶対そうだ。


 僕は返事を書かずに独房を出て、まとめられた荷物の中に手紙を入れた封筒を押し込んだ。

今の僕に関係のない話だ。後醍醐家にも近づけないし。

 はぁ……僕は長い溜息を吐きながら塀の外へと出た。

今日は冬の厳しい寒さを感じるが、それよりも日が高い。

空気が澄んでいる。

あぁ……こんなに僕は素晴らしい世界に居たのだ。

僕は肺いっぱいに息を吸い込み、目を閉じて大きく息を吐いた。


 すると、渋い男の人の声で「君! 君!」という声が聞こえて目を開くと、

「おぉ!! やっぱり君か! おじさんもな、釈放になったんだよ。」

と、笑顔で話す元大家のおじさんが居た。

「それは……良かったですね。」

「おう! それで、元大家をしていたアパートにも大家としてまた戻れることになったんだよ! そこでな、君を住まわせたいんだが……どうだ?」

おじさんは屈託のない笑顔で僕を見ているが、やはり元殺し屋。眼の奥には嫌なものがある。

だけど、僕には身寄りがない。

ここは思い切って甘えてもいいのかな?

「じゃあ……お願いします。」

と、お辞儀をしながら言うと、おじさんは「おぉ! 住民が増えた!」と嬉しそうにはしゃいでいた。

う~ん、本当に40代なのだろうか……?

 僕は光のオーラが全身に見える大家のおじさんと一緒にアパートを目指した。

まだ僕は生きていてもいいのだ。



一方、これより少し前……

後醍醐家本棟 自室

後醍醐 詠飛



 俺は部屋にこもりきり、愛子との初夜を回顧していた。

だが、そうするだけでも吐き気がするのだ。

その行為の得手不得手等は構わないのだが、俺ももう若くはない。

……察しろ。

さて、本日も名家への謝罪回りに1日を使う羽目になりそうだ。

 あいつを勘当したことに関しても謝罪せねばならぬのが何よりも腹立たしい。

俺は乱雑に髪の毛を乱し、思い切り頭を机に打ち付けた。


――カー、カー、カー!


 烏か?

俺は髪を適当に直し窓の方に歩み寄ると、1羽の烏が窓枠に止まっていた。

その足には手紙が挟まっている。

――まさか。

俺は何か引っかかるものがあったが、窓を開けて烏から手紙を取った。

すると、その烏は人為的に操られているかのように飛び去っていった。

 俺は早速椅子に座り、2つ折にされていた手紙を開いた。


〈後醍醐家長男様へ。

 今までの後鳥羽家の悪事を一筆したためて片桐組の烏階にお送りください。

歴史はまた繰り返す。

 鷹階 エースインフォーマー〉


 俺が丁度手紙を読み終えた頃、ゆっくりとノック音が3回響いた。

「どうぞ。」

と、入室許可を言い渡すと、その人物はぐしゃぐしゃの伸びきった黒髪に、上下黒いジャージを着ていた。

「お久しぶりですね。」

奴は丁寧に西洋風のお辞儀をした。

「伝説の情報屋の孫か。」

「……名前あるんですけどね。藤堂(ふじどう)からすと申します。」

からすはボサボサの頭髪を掻きむしりながら言った。少しフケが飛んだ気がする。

「からす。この手紙は……」

「あー。それ今書いてください。」

こいつは父親の性格までも継いでいるのか。

 あぁ父親も情報屋でかなり世話になったのだが、かなり適当な奴でその場で考えたことしか口にしなかった。

「わかった。だが、少し時間を貰う。」

「大丈夫ですよ。本日は後鳥羽が、片桐組(ウチ)の視察に来るんですよ。でもまぁ長男と次男だけなんですけど。そこで、昨日の小型カメラのこともありますし……」

それを聞いた俺は段々身体の奥の方が冷えていく感覚になっていった。

「は!?」

「え!? あ、あれ片桐組のカメラですよ。ごめんなさいね。まぁ後鳥羽には消えてもらおうかな~って思ってるんです。」

……適当にも程がある。

それが俺の正直な感想だが、こいつは幼少の頃から頭の回転が速く天才児と名高い男だ。

「わかった。……書き終わった。」

俺が手紙を渡そうと立ち上がると、烏が俺の手元に飛んできて一筆したためた手紙を持って行ってしまった。

「後はあれが総長様のところに行くんで大丈夫です。……あの歴史は繰り返させますから。」

からすは珍しく真顔で言うと、一礼して部屋を出て行った。

 こいつの祖父は伝説の情報屋、父親は巧妙な情報屋、そしてこいつは片桐組の情報屋を率いる天才児。

一体どうなっているんだ。

というのも、俺は機械がそこまで得意でない故、どうやって情報を得ているのかが疑問で仕方がない。

だが今はあいつを信じるしかない。



一方その頃……

片桐組 総長室



 片桐組の中世の城のようなところの最上階にある片桐組総長室。

そこは誰しもが恐れる部屋とされている。

レイアウトはまるで中世の孤高の城のように怪しくも気高いゴシック風。

 その部屋に訪れたのは後鳥羽家の長男と次男。

片桐組副総長である片桐 湊司(そうじ)は一通り片桐組内部の案内を済ませ、総長の元へと来たのだ。

「湊司、ご苦労。」

「いえいえとんでもないことで御座います。……? そのお手紙は?」

湊司が指差すのは総長の片桐 湊冴(そうご)の手に握られている2通の便箋。

「後醍醐の旦那からだ。」

「ほぅ……。歴史を繰り返しましたね。」

「やはりそう思うか。」

「はい。総長と同意見でこの上なく幸せです。」

「そうか。からすと後醍醐の旦那に謝礼金を。あと、外に待たせている2人を呼べ。」

「かしこまりました、総長様。」

湊司は湊冴の実の兄で、黒い高級そうなスーツがはちきれそうなくらいの筋肉質を持ち、温厚な面や共感しやすいという良い面もあるが、独裁者の弟にひたすら媚を売る姿から“媚売りの副総長”と呼ばれている。


 後鳥羽家の2人が入室すると、湊冴は席を立ち2人の前に立ちはだかった。

湊冴は推定198cmでかなりの巨漢。後鳥羽の2人は約175cmで細身。

彼らには湊冴が巨人に見えたに違いないだろう。

「後鳥羽家長男智輝、次男龍之介。お前らが後醍醐の旦那に今までしてきた悪事、ここに本人より預かっている。」

「言いそびれておりましたが、ただいま全国ネットで殺し屋全員、全名家そして政府に流れておりますよ。」

湊司の横槍で一気に後鳥羽の2人の表情が曇った。

「それでは読み上げさせていただく。…………」

湊冴が後醍醐詠飛のしたためた便箋を読んでいく。

後鳥羽の2人は段々青くなっていき、終いには力なく座り込んでしまっていた。


「以上だ。さて、世間に問おう。bボタンを押せ。(なぶ)り殺しは青、拷問の末殺害は赤、そして何もしないが黄だ。投票時間は5分だ。」

湊冴がそう言い終えると、どんどん投票数値が高まっていく。

 黄色0票、青3,000票そして赤が500票という結果が5分後に出た瞬間、

「嬲り殺す。申し訳ないが、ここから先は見せられない。この度は協力に感謝を申し上げる。」

と、湊冴が一礼をして言うとデータ放送のスイッチが切られた。

すると湊司が2人に執拗に歩み寄り、その顔をじーっと見つめた。

「さぁさぁ……後鳥羽家の当主さんに次期当主さん。嬲り殺しのお時間ですよ。」

湊司がそう言うと、2人は震え上がり互いに身体を寄せあい、恐怖からか口をわなわなと動かしていた。

そいつらを湊司は無理矢理立ち上がらせ、総長室から追い出した。


 その後の後鳥羽家の当主は、後鳥羽紅夜になったという噂が広まっているそうだ。

だが数日後に正式に当主になったことも発表されたらしく、2人の遺体も後鳥羽側に返されたことが判明している。



そのまた数日後…

後醍醐家本棟 自室

後醍醐 詠飛



 俺は政府より正式に最名家という名家としては最も気高い地位を提案されたが、断っておいた。

理由を訊かれても困るが、強いて言うなら権力誇示をしたくないというところだろう。

それ故政府には最名家という地位を今後無くすように進言し、めでたく聞き入れられた訳だが。

 それと後鳥羽家長女愛子との結婚も白紙になり、あくまでも噂だが自害をしたとのことだ。

これで後鳥羽家は当主を含め5人となった。

そして紅夜当主になってから、後鳥羽は後醍醐のことをひがんだり嫌味を言ってこなくなった。


 さて、今日も雲ひとつない快晴だ。

これなら仕事がより一層捗りそうだ。

緊急にも関わらず読了いただきまして、ありがとうございます!

次回投稿日は何も無ければ、6月11日土曜日です。

お楽しみに♪

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