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「動向」

騅はこの後どうなってしまうのか……?

そして、騅の周りは確実に彼を中心に動き始めている……

どうなる……騅!


2012年9月6日夜3時59分……

後醍醐 騅



 僕は段々男の子に近づく……じりじりと後ずさりをする男の子。

よく見たら黒髪じゃないか……。それにその怯えた顔……いつの日かの僕みたいだ。


――ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン……


 耳につんざく重低音の柱時計の鐘。

あぁもう4時か。

殺す前からもう……30分は経っているのか。


――ピンポーン……ピンポーン……

「黒野さーん! 新聞でーす!」

新聞を届けに来た若い男の声がする。

「……あれ? 開けますよ~?」

開けるということは、この状況が……!

そう思うと咄嗟に鍵を閉めようと走ったが、間に合わなかった。


 何も知らずドアを開けた新聞屋と返り血で真っ赤に染まった顔をしている僕が、目と鼻の先の距離で鉢合わせたのだ。

新聞屋は僕の顔を見るなり腰を抜かし悲鳴をあげたが、持っていた携帯電話で警察に通報している。


 でも僕は……何もしなかった。

逃げも隠れもせず、腰を抜かす新聞屋の近くにずっと居た。

僕の腕に警察が手錠をかけるまで。

 男の子の方を振り返ると僕をギロリと睨みつけてきたが、僕は彼に口パクで伝言を託すことにした。

「弟をよろしく」と。



後醍醐家本棟 自室

後醍醐 詠飛



 俺が丁度自暴自棄になっていた時に傑と純司は許可無く入ってきた。

2人とも何故だがニヤニヤしている。

「詠飛兄、ニュース見た?」

傑は目をギラつかせてはいるが、殺意ではない。おそらく相当傑にとっては嬉しかったに違いない。

……詠美の死が。

「勿論だ。しばらくすれば後鳥羽が来るだろう。お前らは部屋から出なさい。」

後鳥羽に会う時は極力この2人を巻き込みたくはない。

しかも今回は養子とはいえ、後醍醐のもう1人の息子故“後醍醐家の不祥事”として大々的に報道されてしまっている。

それに短気で思い込みの激しい傑に、おっとりして面倒見が良さそうに見えてかなり自分をひた隠す純司のことだ。後鳥羽の面前で何をしでかすかわからぬ。

 すると俺の言葉を聞いた2人はつまらなさそうに頷き、部屋から大人しく出て行った。


 だいたいそれから10分経つか否かの時に、後鳥羽と政府要人が来るとの知らせを受けた。

もう俺は覚悟を決めねばならぬ。

“ガラス師”の没収、名家からの没落、養子取りの制限……考えただけでも頭が痛い。

一度でも警察に捕まればこうなることを教えなかったこと、女性当主の存在を伝えなかったこと……騅はおそらく、いつも自分だけ何も知らないと思い悩んでいただろう。

――そう考えれば俺も残酷だ。


 後白河家当主もこういう気持ちだったのだろうか?

我が後醍醐と政府要人が“滅亡”を伝える際、あの人は諦めたような顔をしていた。

それにその翌日の取り壊しに伺った際にはもう事切れていたこと。

――もしや俺もそうなるのだろうか?

だが、幸いなことに俺を含め兄弟は3人居る。

跡取りは居るのだから、まだ良いのだろうか?

これでは堂々巡りだ。

考えすぎだと詠美に怒られたこともあった。

何も考えずに受け止めるしかあるまい。


 そう考えていたときに、後鳥羽家長男の智輝と次男の龍之介、そして政府要人2名が部屋に入ってきた。

やはり後鳥羽家の連中は黒スーツ、黒シャツに赤いネクタイだ。

そこまでして俺を敵対視するか。

というのも、俺は黒スーツに白シャツ、そして深青のネクタイだからだ。


 一通り政府要人の紹介を受けたところで、あの書類が出された。

「後醍醐家長男、後醍醐詠飛。末男の不祥事の責任を取っていただく。まず、特殊能力の没収。次に養子取りの制限。最後に後鳥羽への絶対服従だ。」

政府要人の1人目が読み上げ、書類を渡されたところで、後鳥羽家の連中を見れば声を押し殺して大笑いしている。

そして2人目が俺に近づき、首を左手で何回か不思議な間隔を置いて絞めると、段々ガラス球程度の能力玉が喉元の方に上がってきた。

なるほど、こういう仕組みだったのか。

……感心している場合で無いのはわかっているが、少し神秘的なものを感じた。

しばらくするとガラス球が口からはらりと落ち、政府要人1人目の持っていた白い布に収まった。

「以上を持って能力没収完了とする。尚、名家の地位は後鳥羽家により保証される。それでは失礼する。」

政府要人らはそのまま一礼をして帰っていった。


 するとしばらく黙っていた後鳥羽家の2人は声を押し殺さずに大声でわざと笑った。

「名家の地位は俺らが保証してやるから安心しろよ、古太鼓えびさん。」

と、まるで嫌味を言うためにその顔に産まれたと言っても過言ではないくらい人を腹立たせる顔をしている龍之介が嫌らしく言う。

「古太鼓はお似合いだな。ほれ、守ってやるんだから、土下座でもして俺ら本人の前でお願いでもしろよ、古太鼓さん?」

智輝は実の弟の病気すら把握しない自分勝手な男だ。

それにこの嫌味の言い方。実に女々しい。

「後鳥羽家には感謝している。没落も覚悟していたからな……ただ。」

「ただぁ?」

と、2人は俺に執拗に顔を近づけ声を揃えて言う。本当に腹立たしい。

「いつまでもそう鳴いていられれば良いのだが。……鳥はいつか落つる生き物。俺の周りをを飛び回っていられるのも長くはないぞ、後鳥羽。」

俺が語尾を強めて言うと、後鳥羽の2人は分かりやすいくらいにしかめっ面になり俺を睨み上げてはいるが、

「今日にでも愛子とくっ付ける!」

「そうしろ、龍之介。ほら、来いよ……後醍醐。」

少し焦燥感の感じる口調になった故、本日は満足としよう。

確信もないのに斯様なことを言ってよかったものか。

 まぁ鳥羽家が黒河家への過剰な挑発故、とある情報屋によって墜とされた史実もある。

それを今は信じようぞ。



一方……

藍竜組 裾野&菅野部屋

菅野


 藍竜組は全寮制やけど、基本的に土日は家に帰っても大丈夫っていうめっちゃゆるいところやねん。

それに何歳以上何歳以下とか無いし、パートナーも適当に総長が遠距離部門と近距離部門の2つを用意してくじを引くらしいで。

そう考えると俺らは少し特殊なんやけど、話すと長いねん……。

 何が特殊てくじ引きで選ばれていないこともそうなんやけど、近接武器同士で組めたこともかなり特殊なんよ。それに男同士、4歳差っていうのも。

ふつう同い年の男女コンビで、たま~に同い年同性コンビが出来るくらいなんよ。

これは男同士くっつかへんようにしてるらしいねんけど、裾野は……まぁ話すと長いからええわ。


 もう朝のニュースを見てびっくりしたで。

しかも後醍醐家の不祥事にされて、騅はたしか養子やろ……関係あらへんのに。

俺は勿論、なんとかして助けたいことを2人掛けのソファの隣に座る裾野に話すことにしたで。

「裾野、どないしよ? 騅が大丈夫か心配や。」

「騅はお前の想い人か何かか? この前はそれで黒河を殺り損ねたし、その前は暗殺の待ち合わせに遅れただろ。」

「想い人って…………何や?」

と、俺が聞くと裾野はコーヒーを思い切り吹き出した。

こいついつも俺のことを笑ってくるんよ。めっちゃムカつくやろ?

「分かりやすく言うと好きな人だ。物を知らなさすぎだぞ、菅野。」

裾野は笑いながらコーヒーを吹き出して汚した床をティッシュで完全に拭ききると、俺のおでこをデコピンした。

「好きな人って、めっちゃ顔が熱くなる方やろ?」

俺は勉強が苦手やったから、先生は裾野みたいなもんや。

それで、ふつう同性同士の好きは顔が熱くならんって教えられたんよ。

「あぁ。」

「じゃあちゃうな。騅は友だちとして好きや。」

「ならよかった。」

裾野は俺の腰に手を回すと耳元で、

「お前は俺みたいになるなよ。」

なんて言いながら手まで握ってきやがるから、バッと払いのけて、

「何言うてんの? 何年か前にも言ってたやんか。それに俺は人気者やから、女子にモテモテなんやで~? 誰かみたいにお高くとまらへんから~。」

と、右目でウィンクをした後に裾野にデコピンをし返すと、思い切り頬をぎゅっと摘まれた。

「誰がお高いって?」

「裾野や。」

と、いたって素直に言うと裾野は摘んだ手を離した。

こいつは自分が回りくどい癖に、俺が回りくどいのは大嫌いやねん。面倒やろ?

「あと、騅のことは俺に預けろ。」

と、自分の左胸をトントンと叩いて自信たっぷりに言う裾野に嫌気がさし、

「え!? あかん、絶対あかんて! 騅に手出すとかあかん!!」

と、思わず大声で叫ぶと重い拳が頭に落ちてきた。

「いたっ! 何すんねん!」

「はぁ……本当に簡単な日本語で言わないと伝わらないなぁ。だから、騅のことは俺が情報屋でも何でも使って情報を掴ませるから、お前はヘタに動くな。あと、しばらく留守にするが何かあったら連絡する。」

裾野は長い足を組み直して微笑みながら俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

動物みたいに撫でるから、せっかく整えたヘアスタイルが台無しになることを何度も言ってるのにコレや。

せやけど、裾野が「任せろ!」言う時は必ず解決してくれはるから、俺は頷くしか無いんやけどな。



後鳥羽家 愛子の部屋

後醍醐 詠飛



 俺は半ば強制的に愛子の部屋に連れていかれ、初夜を過ごすようにと言われた。

その話は彼女にも伝わっているらしく、性欲促進の香水や雰囲気作りにせっせと労力と時間をかけている。それは部屋に居ればわかることなのだが、そこまでして俺と……言うのも恥ずかしい。

 俺が上着を脱ぎ捨てネクタイを緩めると、愛子は安心しきった顔で俺を見上げる。

駄目だ……麗華と居る時に感じたものが無い。

これでは二の舞になるのは確実だ。

そうは思いながらも小型カメラの存在に気が付いた俺は、仕方なく彼女を押し倒すしか術が無かったのだった――

読了いただきまして、ありがとうございます!

次回投稿日は何も無ければ、6月11日土曜日です。

お楽しみに。

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