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「月光の美しい血の夜に」

さて、この日が来ましたね。

ついに騅は人としての道を外してしまう……


※グロい意味のR18にチェックが入っていない作品ですので、

ライトに表現しています。ご了承下さい。


2012年9月6日……

後醍醐 騅



 僕は後醍醐家の本棟玄関にいる。

なぜかって……なんでだろう?

足元にいるリヴェテに問いかけてもゴロゴロと喉を鳴らすだけだ。

 すると、スーツ姿の詠飛兄さんと見事に鉢合わせてしまった。

「おはよう、騅。何か用か?」

詠飛兄さんは僕のことを見上げて落ち着いた口調で話しかけてきた。

もうこの声を聞くのも今日で――

「あの……」

「ん?」

「詠飛兄さんに子どもはいますか?」

僕は菅野さんに言われてからずっと気になっていたことをぶつけてみた。

今日で、と覚悟を決めるなら、聞いてみるしかないのだ。

「……居るよ。」

「え?」

「2人居る。1人は完全に女性(おなご)の方に似てる。」

「そ、そうなんですか……。」

また知らなかった。

僕はいつも知らないのだ。仕方ない。

「聞かないのか?」

詠飛兄さんのその聞き方は……

「何を、ですか?」

「何歳になるのか、趣味は何か、仕事は何をしているのか、何だってあるだろう。」

「いえ……いいんです。いってらっしゃいませ。」

僕が失望しているのはなぜだ?

子どものいる詠飛兄さんの実の妹で、唯一の女性当主を殺すことになるから?

でももう決めたことだから……もう良心は消えたのだから。


 僕は話を逸そうとリヴェテを拾い上げた。

「この子、本棟の近くに居たんです……その、ずっと言ってなくて……」

と、僕がうつむいてぼそぼそと言うと、詠飛兄さんは僕の頭を優しく撫でた。

「知ってたよ。」

その言葉に僕は思わずパッと顔をあげた。

――あの時の笑顔……

僕はいつの間にか目を奪われてしまった。

この笑顔も……

「騅? 今日は様子がおかしい。もしかして、今生の別れになる夢でも見たのか?」

詠飛兄さんはいつも通りの優しい表情で僕のことを見ている。

僕はそっと左側の毛先をいじりながら、

「はい、そうなんです。」

と、次に顎を少しさすりながら言った。

 リヴェテは僕のさすっている手をペロッと舐めると、僕の腕からスッと逃げ、

その場にちょこんと座った。

「猫が待ちくたびれているようだな。」

それを見た詠飛兄さんは苦笑いしながら僕に別れを告げて家を出た。


 いよいよだ。

でも僕には自信が無かった。

第一、月道のようにあの型が取れるか……それが1番の不安だった。

駄目だ駄目だ……こんなことを言ったら月道に怒られる。

僕はあらゆる邪念を振り払って、高校へと向かった。


――待ち合わせは、16時に片桐組前。

またプリウスで迎えに来るのだ。



16時…

後醍醐 騅



 僕が車に乗り込むと、そこにいた運転手はまた帽子を被っていないおじさんだった。

「お疲れ様です。」

「あ、ありがとうございます。あの……帽子被らないんですね。」

「あぁ……おじさんは特別だからね。」

「偉い人だからですか?」

「あぁ、そうだよ。」

おじさんはハンドルから左手を離し、鼻を少し掻いた。

何も付いてなかったんだけどな。


 しばらく揺られると片桐組のよくわからない場所につき、僕は道順を思い出しながら寮を目指した。

ここに来るのも最後になるのだろうか?

それとも、ここに“殺し屋”として住むことになるのだろうか?

いや、たしか月道に向いてないとか言われたような……

僕は殺し方も復習していると、いつの間にか寮の前に着いた。

そこにはもちろん、仕事着の軍服を着た月道が入り口で待っていてくれている。

「きんきら騅。時間は午前3時30分だよ。それまで一緒に居て。」

月道は僕の手を引き、また例の部屋に入った。

もうここも3度目になるのか……。


 前回の2回とは違い、すんなりと部屋に入るとすぐに香るのは、いやらしい感じの香水。

この前とまた違うものかな?

「もう慣れた?」

「う、うん……。」

僕は何も疑わずに月道の後に付いて行くと……って、またベッド!?

時間もあるし、今度こそそういう展開に……あれ?

……僕ってもしかして?

「ねぇ、“汚れ仕事”って知ってる?」

月道は俺を押し倒し、その上に馬乗りになっている。

表情はいつもは絶対に見せないであろう、熱っぽいもので、

僕はその目に吸い込まれつつある。

「い、いや?」

僕は変な動揺を隠しつつ、平常心を保って返事をする。

すると、月道は上着を脱ぎベッドの外へと放り投げる。

その行為から何か期待をしているのか、僕の心臓が段々うるさくなってきている。

「俺みたいな男が女装をして、こういう状況に持ち込んで……」

と、月道は僕に顔を近づけていくと僕は自然と目を閉じてゆくが、

「殺す仕事。」

と、冷徹に言い放たれ、ガッと首を絞めてきた。

月道は女装をしていないというのに、僕は騙され……え?

「げほっ……げほっ……るろっ……えっ……‥!」

僕は目を見開き抵抗しようとあらゆる関節を動かそうとするが、どこも言うことを聞かない。

よく見れば、あの時の包装人形の体勢だ。

だが月道はすぐに首を絞めていた手を離し、僕の頬を思い切り叩いた。

「いたっ……! げほっ……」

「俺は“汚れ仕事”もプロだけど、男のままで騙される人は2人目。」

月道は僕の腹の上に座ると、僕を氷の眼で見下ろしている。

「……え?」

「はぁ……もしきんきら騅がこれから殺し屋になれたら、片桐総長はまずこの仕事をやらせそうだから。」

「えっと……? 僕が……?」

向いてないと言ったのは月道の筈だけど……‥。

「まだ先の話。ならないならいいけど。」

「待って、月道。僕にたしか――」

「向いてないよ。でも、これなら出来るでしょ。……まぁこの仕事が終わってからにしよう。あと、ごめん。」

月道は僕からそっと退くと、僕の頬に唇を優しく落とした。

 何でだろう……胸騒ぎがする。

月道がこんな優しいことってあったかな?

それにこんなに甘えてくるなんて……おかしいって言うと変だけど、調子が狂う。

「月道、どうして……?」

「何も訊かないで。仕事のことだけ考えてよ。」

そう言いつつも、月道は何だかそわそわしている気がする。

髪をいじったり、歩き回ったり何だか落ち着きが無い。

――殺し屋がどうしてそんなに……?

――どうして僕の先の仕事のことも……?

僕は頭の中に咲き誇った疑問たちを自問自答で無理矢理摘み取りながら、出発時刻まで時間を潰した。



午前3時30分…

後醍醐家別棟前

後醍醐 騅



 もうここに来たんだ。

二度と月道が褒めてくれた綺麗な目には戻れない。

僕はそう覚悟を決めて、別棟へと入った。


 中に入るとやはり真っ暗だ。

メイドたちはお父さんに一時的に帰らせ、お母さんに言ったら喜んで嘘をつくと言ってくれた。

あと詠飛兄さんに会った後別棟に戻してから、リヴェテが出てこないように僕の部屋には鍵をかけてある。

 僕は詠美姉さんの部屋まで防犯カメラに映らないように、起こさないように忍び足で歩いた。

おっと言い忘れていたけど、僕の耳には黒い小型のイヤフォン型無線機がある。

これで外にいる月道と会話ができる。もちろん声を押し殺して話すから、感度は高めにしてある。

「月道、今部屋の前に来た。」

「わかった。ナイフでニ突きくらいして。」

「ら、らじゃー。」

また月道から鼻で笑われたが、僕はじっとり緊張の汗をかきながらも黒い革手袋でドアノブをゆっくり回した。


 部屋は真っ暗だが、詠美姉さんのベッドまでの道は月道のスナイパーに付いているレーザーポインターが導いてくれる。

それに感謝しつつ、僕は忍び足でどんどん幸せそうな寝息を立てる詠美姉さんに近づいていく。

 一歩……一歩……ゆっくりと歩みを進める度にカーペットが僕の足音を吸っていく。

そしてついにレーザーポインターが消える。

 もうベッドの前だ。

僕は音を立てないように慎重にベッドにあがり、脚を踏まないようにじりじりと包装人形体勢にさせる。

 寝返りをうつな……寝返りをうつな……

僕はそう考えながらナイフを黒いジャケットの胸ポケットから出し、力の限り振り上げ、今までの思い出が頭の中に流れ込む前に、喉元を2回突き刺した。


 血が僕の服に飛び散る。

――顔が生暖かいと思ったら顔にも飛び散っている。

――ナイフは月光に照らされ、赤黒く光っている。

あぁ……僕はついに手を下したんだ。

これで後醍醐家を壊さなくて済むんだ……。

もう二度とあんな忌わしい歴史を繰り返させない。

 意外と冷静な自分に驚いたが、月道と話そうとすると全然息が吸えなかった。

あれ……? おかしいなあ……?

「きんきら騅。音でわかった。早く外に出て。」

月道はいつもと変わらない口調で僕を催促する。

だが僕の身体は中々動こうとしなかった。

 詠美姉さんの死に顔……まるで寝顔じゃないか。

僕は詠美姉さんを幸せにしてあげたんだ……!

そう思うと笑えてきた。

でも、僕はナイフの刃を舐めながら部屋を後にした。

あぁ……もう少し血で濡れてくれたってよかったんだよ……?


だが、そんな狂気な自分も外に出るまでであった……

というのも、無線の向こうから、

「……黒河月道。政府要人の護衛はどうした……?」

という、どこかで聞いたような声が聞こえてきたからだ。

僕はその声で我に返り、月道の居る本棟屋上を見上げた。


 そこには……月光に照らされスナイパーを剣に見立てて構える月道と、あの時の忍者さんが睨み合っていたのだ。

あの時は楽しそうに話していたのに……。

「黒河月道。片桐組片桐 湊冴(そうご)総長より直々に“生け捕り許可証”を頂戴した。罪状は、“政府要人警護の放棄”と“元身内殺しへの協力及び警護”だ。……これ本当、なんだよな?」

忍者さんはまだ迷っているのか、最後は涙声で言っている。


 だからあの時、スケジュール帳を見て困っていたのか。

そんな大事な用があるなら、言ってくれれば良かったのに。

それにこのことを予想できたから、僕の頬にキスしたり仕事を教えようとしたりしたの……?

 僕はまた……何も知らなかったんだね。

「うん、間違いないよ。それにしてもどうしてこのことを知ってるのかが不思議だけど。」

「俺、見ちゃったんだよ。あの運転手、副総長だったよ……。」

「……待って! そんなはずは……! 運転手は1番信頼している次期エーススナイパーにした筈……!」

「月道が慌てるなんてレアだな。まぁあの御方の方が一枚上手だったんだよ……。だからさ……月道……お願いだから大人しく捕まってくれよ。……俺とお前の仲だ。傷つけて捕まえたくないから……!」

忍者さんはじりじりと月道との距離を詰めてくる。

僕は途方に暮れながらその様子を見ていたが、突然僕の方を向いて銃を構え、僕の足元すれすれに銃弾を撃ち、

「逃げて!!」

と、無線を通さずとも聞こえる程に叫ぶ月道の気迫に押され、僕は衝動的に走っていたが……

「協力者も捕まえることって書いてあるんだよ……。逃したら俺も……!」

「じゃあ俺を殺してからにして。」

月道のその氷の声に僕はハッとして足を止めた。もう2人の様子は見えない。

だが、金属がぶつかり合う音と2人の怒号が僕の耳に響いた。

「佐藤……!!」

「黒河ぁぁぁ!!」

2人の激しい戦闘がしばらく続き、僕は思わず小声で「頑張れ、月道」と何度も言ってしまっていたが、月道からの返信は無かった。


 そのとき――パンッという乾いた銃弾のような音が聞こえて思わず来た道を戻ると――

月道が本棟の屋根から落ちるところが見え、そこに追い打ちをかけるように――


 僕にはもう限界だった。

叫びたかったけど、何も言葉が出なかった。

そして気付いたらもう全速力で走っていた。


――走って

――走って

――走って


 そうして何十分、何時間と走りこんで倒れ辿り着いたのは、とある目立たない茶色い一軒家だった。

月道がもう死んだんだ……僕もいっそのこと死んでしまおうと、門のないその家にふらりと入った。

どうして鍵が空いていたのかも、どうして家に明かりが付いていないのかもわからなかった。

ただ出迎えた男女2人の首を斬り落とし、その血を舐めると、2人はそれぞれ壁へと倒れた。

あぁ……おいしい。

残念だけど、僕はその2人の影に隠れていた歳の近い男の子のことは殺せなかった。

だってもう……ナイフの刃こぼれが酷かったから。

「ねぇ……」

男の子は何も返事をしないで、ただ僕のことをじっと見つめている。

その目は泳いでいて、もう恐怖に溺れている。

「そんな顔を僕もしていたよ……ねぇ、僕とお話しようよ……。」

僕がいくら話しかけても何も言わない男の子は、ジェスチャーで何かを必死に訴えている。


 耳、駄目、耳、駄目、今、駄目、僕と死んだ2人を指差す、ショック。

あぁ……耳が聞こえなくなったんだ。

そうか。


 僕はナイフをその場に落とし、男の子に近づいていく――

あれ?

月道の声も忍者さんの声も聞こえない。

どうやら僕はいつの間にか無線を切ったらしい。

じゃあ、いいかな?

緊急にも関わらず読了いただきまして、ありがとうございます!

ライトになってない等のご意見がございましたら、ご連絡下さい……。

加減が難しいのです。


次回投稿日は、定期投稿日である6月4日土曜日です。

お楽しみに~。


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