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「迷い、そして睨み合い」

2話続きの後ろの子。

少し短めです。


藍竜組稼ぎ頭の2人と睨み合う黒河には何か秘密が……?

2012年9月5日夜…


 それから車に揺られること数十分。

都会のビルのそばに車はゆっくりと止まった。

運転手は先程のおじさんとは違う人で、僕はその人に違和感を感じた。

いや、あのおじさんがおかしかったのか?

運転手さんって帽子を被るのが普通? おじさんは被って無かったけど。

でも、結局聞くことが出来ずに車を降りてしまった。


「きんきら騅。この屋上まで監視カメラに映らずに上がるから、しっかり俺の後ろを離れないで付いて来て。」

「ら、らじゃ!」

僕が映画で観た殺し屋を真似して返事をすると、見事に鼻で笑われた。

実際はこうでは無いみたい。

 それから外階段を使い、慎重に上がるかと思いきやかなりのスピードで上がるので付いて行くのが大変だった。だから着いた時には、ぜぇぜぇ息を切らしてしまっていたが月道は全然平気そうだった。

10階建ては余裕なのかな?

僕はハードケースから出した狙撃銃を準備する月道を、遠目に見ながらそんなことを考えていた。

 その間に月道はイヤフォンで何かを話しながら銃口の位置を調節している。

人によって違うのかもしれないけど、月道は匍匐(ほふく)前進のあの格好で狙撃銃を構えている。

僕は耳を塞いで待機していたが、引き金を引いたのが見えた時は何も耳に響かなかったので手を離すと、

「復讐のご依頼、心よりお待ちしております。」

という絶対零度並に心が凍る声で月道は呟いた。

そして僕は全身が段々凍っていくような感覚がしたが、僕にではなく殺された誰かに向けて言ったのだろうと自分に言い聞かせ、なんとか落ち着かせた。


 その後二言三言イヤフォンで話すと通信を切って狙撃銃の撤収作業に入り始めたので、そっと声をかけると、

「クロワッサンが食べたい。」

と、目を輝かせて言うので僕は何度も頷いた。

コンビニならそこらへんにあるだろうし、財布を見ると残金157円だったので、おそらく足りるだろう。

僕は財布をしまい、月道の側に駆け寄った。

「あの言葉って、ずっと言ってるの?」

「復讐のご依頼? あれは初めて殺した日から言ってる。」

「どうして?」

月道の表情を伺うと、僅かに曇っている。

思い出したくないものがあるのかな?

「片桐総長に決め台詞を言うように言われていて、考えたのがこれ。」

月道はその時だけ僅かに表情が晴れた。

あんな大きな寮が4つもあって1人1人の名前や特徴を総長さんが覚えているとは考えにくい。

「……総長さんは、月道のことすごく頼りにしてるってことだよね?」

「そうかもしれないけど。あと、重要な案件の時にしか言うなと言われてる。」

月道は襟足に入り込んだ髪の毛を払いながら淡々と言う。

「じゃあもし、僕のことを――」

「やめて。」

僕はその言葉にハッとさせられた。

月道の目は大きく泳いでいて、涙を浮かべている。

これはいくらなんでも言い過ぎた。

僕はうつむいて「ごめん」と小さく言うと、月道は無言で頷いた。



 月道の撤収作業が終わったのでまた監視カメラに映らないように帰ろうとすると、重そうな槍を持った見覚えのある茶髪の男性と、剣を腰に差した黒髪の落ち着いた雰囲気の男性がこちらに近づいてきた。

それを見るや否や、月道は僕を自分の背後に行くように、と鬼気迫る声で言ってきた。

月道とはかなり身長差があるから、僕は屈むようにして隠れた。


 やがて2人の男性はある程度まで距離をつめると、緩やかに口元を歪めた。

「片桐組の黒河月道。今殺した奴が誰だかわかってるのか?」

月道の背中越しに聞こえる鋭く重い声はおそらく黒髪の人のそれだろう。

「知ってる。藍竜組と片桐組の間者でしょ。」

月道は腕を組んでいて何だか余裕そうだ。

だが空気はかなり重いし、僕ならすぐにでも逃げ出しそうなくらい張り詰めている。

「俺らの獲物やったんよ。まーったく趣味の悪いことしてくれはるなぁ、黒河。たしかに藍竜組側の人間やし? 片桐組の情報を盗んで渡そうとしたところやもんなぁ? ……せやけど身内のことは身内で処理するのが“殺し屋業界(ウチら)”のやり方ちゃうん?」

やっぱりそうだ。この聞き覚えのある声は菅野さんだ。

僕が見たあの瞳の奥の嫌なものの勘は間違っていなかったんだ。

「君が彼なら情報を渡してたでしょ? それと間者は上の指示だって話だけど。」

「その通りだ。このバカが面倒なことを言ったことは謝る。だが、ヤツが盗んできた情報はお前のところの優秀な情報屋による罠情報(ウイルス)だった。そこで不始末を俺らが殺ることになった。」

「あっそ。じゃあ先に殺った者勝ちでしょ?」

月道の言う通りだ。

何に例えたらいいのかわからないけど、同じ目標物を先に取ったからって文句を言われるのはおかしい気がする。これであってるのかな?

「ちゃうねん、俺らそういう用もあんねんけどな?」

菅野さんが何かを言いかけると、ゴンッという鈍い音が響いた。

多分、黒髪の人が頭をぶったかな。

「黙れバカん野。俺らはこの顔に似合わないが脅迫をしに来た。」

黒髪の男性はまるで「友だちに会いに来た」みたいに言っているけど、内容は完全に犯罪行為だ。

それに声色が段々怖くなっているような。

だけど、菅野さんの「何やて!?」とか「はぁ~!?」という声で何とか平常心を保ててはいる。

何というか、そういうところは殺し屋らしくない気がする。

「脅迫? 相手が違うんじゃない?」

「いや、黒河がいい。脅迫用件は、俺らが連日不眠症にさせられかけているあの件についてだ。お前が情報屋よりも情報を持っていることを誰かが間者に漏らしたらしいのだが? ……それを教えろ。」

「・・・」

月道は組んでいた腕をおろし、握り拳をつくっている。

もしかしてマズイ情報でも持ってるの?

「黙るなら後ろにいる奴を殺す。教えるならノーサイドにする。これでも約束は守る質だ。」

いや待って……僕が居ることに気付かれてる!?

僕はそう思うと、へなへなと腰が抜けて座り込んでしまった。

そう言われても月道はまだ黙っている。

「お黙りお通しいたしますーとでも言うんか?そんなら後ろのやつ……って、あんたは!?」

菅野さんと僕は目が合った瞬間、お互いに目を見開きっぱなしになるほどの衝撃を受けた。

敬語が間違っていることを指摘するよりも前に、菅野さんの殺し屋用の軍服姿があまりにも似合っていて驚いてしまっていた。

「菅野さん……!」

「騅やん! こりゃあかんわ、裾野。俺は裏切りだけは出来へんねん。」

菅野さんは僕をぐいと立ち上がらせて、肩や頭をポンポンと叩いている。

やはりこの人は殺し屋らしくない。

すると黒髪の男性改め裾野さんはあきれ返っているのか、首をぐいと回した。

「仕方ないバカだな。はぁ……今日はこのバカに免じて取り逃がしたことにしておく。だが次会った時は、わかってるな?」

裾野さんは菅野さんの襟足を猫のそれをつまむようにきゅっと掴み、そのまま立ち去っていった。

そのとき、菅野さんが僕の方に笑顔で手を振ってくれたのが少しだけ嬉しかった。


 2人が去ったとき、月道は大きく深呼吸をした。

「情報については聞かないで。」

「もちろんだよ。菅野さんなら大丈夫だけど、裾野さんと会ったりしたら……。」

「そうだけど……裾野は結婚してる。」

「へ?」

「俺も驚いた。左手薬指のシンプルな指輪。道理で菅野に優しくなったのね、納得した。」

「うぅぅ……以前を想像したくないなぁ。あ、クロワッサン!」

「買いに行こう。」


 こうして2人はクロワッサンを買い、それぞれ家に、寮に帰ることにした。

明日ついに僕は人を殺すことになる。

僕の心の扉の前には、いつの間にか良心が姿を消してしまっていた。

読了いただきまして、ありがとうございます!

2話続きは初挑戦だったのですが、これを1話にぎゅっとすると1万文字弱になるのですよ……。

なので、きりの良いところで分けてみました!

次回投稿日は、何もなければ6月4日土曜日です。

お楽しみに♪

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