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「終焉と新生」

黒猫かわいいもふもふ。

騅もだんだん成長していきますね……!

2010年1月8日…

後醍醐家別棟 騅の部屋

後醍醐 騅



 僕が学校に行く準備をしていたところ、5回くらい慌ててノックをしてきたので出てみると、

「騅様! メイドの高橋です! 〈賞金首制度〉が終わることを詠飛様より言伝を預かっていました! 政府からの挨拶はもう長男間で済んでいるので、後鳥羽家の方に純司様と詠美様以外のご子息様方が参れば良いとのことです!」

こんなに早口で言われた上に、若干敬語が間違っている気がしてモヤモヤしたけど、僕は大きく頷いた。

 そうそう〈賞金首制度〉とは政府が発令した制度で、金銭面で癒着してきた旧御三家(後鳥羽、後醍醐、後白河)の者たちを合法的に殺させようとした制度だった。

 詠飛兄さんはこれに追われて面倒だったみたい。

すると高橋さんは続けて、

「あ! 学校の方には連絡は入れてあります! 今日は学校はお休みしてください! とにかく急いで急いで下さい!」

と、言いながら身振り手振りがどんどん大きくなる高橋さん。

いつもは物凄く落ち着いている高橋さんがこんなに慌てているのだから、相当急がないとマズイ。

それにしても何でその2人を外したんだろう?

僕はそう考えながら、制服に袖を通して本棟前へ向かった。

「リヴェテも行く?」

僕が部屋を出る前に布団の上で丸くなっている黒猫に聞くと、喉をゴロゴロと鳴らしながら僕のところに来た。

 あまり見たくはないけど一応性別がわかるところを見て、メスだとわかったから最近気になって勉強しているフランス語の辞書を適当に開いたページ、そして目をつぶって指差した単語を並べ替えたものにした。

しっかり飼い猫の証である金色の鈴も付けてあることだし、僕の身に何かあっても平気だろう。



 本棟前で詠飛兄さんと傑兄さんに合流した。

2人とも黒スーツに詠飛兄さんは青のネクタイで、傑兄さんは黒のネクタイをしていた。

「傑、騅。後鳥羽家までは後白河と違って徒歩では行けない。俺が乗れるものは馬だけだ。その上、傑はバイク免許しかない。騅、悪いがどちらかに相乗りしてくれ。」

詠飛兄さんが黒い毛並みの整った馬を撫でながら言うので、僕は無意識に「武士だ……」と呟いてしまったが、傑兄さんがこちらに目をくれたくらいで済んだ。

「じゃあ……バイクで。」

と、僕が消え入りそうな声で言うと、詠飛兄さんは「其の方が良い」と大きく頷いてくれた。

すると、傑兄さんは僕にヘルメットを投げ渡した。

「これ被って乗らねぇと俺が捕まるからさ。あと、振り落とされねぇようにしっかり腰に掴まってろよ。」

と、ヘルメットを被りながら言う傑兄さんはとっても格好良かった。

「あの、傑兄さん。」

と、僕の後ろに隠れていたリヴェテを抱き上げると、

「ん? ねこ……?」

と、眉をひそめたがすぐに微笑み、

「悪ぃがここでもいいか?」

指差した先は座席下の荷物を入れるところだ。

僕が小さく頷くと、リヴェテも大人しくそこに入った。

 バイクのエンジンがかかり、僕の身体に振動が直に伝わってくる。

それに傑兄さんは色んな人を普段から乗せているから、心から安心できた。

その乗ってる人って、ほとんど女の人だけどね。

 僕が腰に腕を回すと傑兄さんはその手をぎゅっと握って、

「もう少し強く。結構俺の運転荒いから。」

と、少し気恥ずかしそうに言った。

僕が言われた通りに強くぎゅっと掴むと、バイクを急発進させた。

そして僕の身体がどこかに飛んでいってしまいそうなくらいのスピードで山道を駆け抜けていく。

それでも詠飛兄さんの馬の方が速い。

本当に馬を選ばなくてよかった。僕は少しだけホッとした。


 後鳥羽家に着くまで何十分かかったのかはわからないけど、バイクから降りると僕の両腕はジンジンしてしまっていた。それにかなりぐったりと疲れてしまった。

そのことを傑兄さんにいくら訴えても鼻で笑われるだけだった。

だが中に入っていたリヴェテはというと、降りてすぐに元気そうに僕の回りをぐるぐると歩き回っていた。


 後鳥羽家は後醍醐家とは比べ物にならないくらい大きかったし、庭も広かった。

例えるなら、この前図書館でたまたま読んだ『フランス幾何学式庭園』に関する本に載っていた、ヴォール・ル・ヴィコント宮殿にかなり似ていた。

詠飛兄さんに聞くと、どうやら後鳥羽家初代当主がその宮殿をかなり気に入っていたらしく、それでそっくりに建ててしまったようだ。

そういう人たちの考えていることや気持ちは、僕にはよくわからない。

 3人と1匹でだだっ広い庭を歩き進めていくと、ようやくお城のような建物の前にたどり着いた。

するとそこには、後鳥羽家当主を始めとした黒スーツに赤いネクタイ又は赤いドレスを着た7人が待ち構えていた。

 両家は小川程度の距離を取って横一列に並び、1番明るい赤色のネクタイをした長男智輝は腕を組んで僕らを見下ろしている。

そこで詠飛兄さんが1歩前に出ると、後鳥羽家の人たちは一斉にそちらに視線を向けた。

「〈賞金首制度〉が終わった。これは両家にとって大きな利益。今後とも互いに協力し合い、互いを高めあおう。」

そう詠飛兄さんが言い終えると、智輝さんは同様に1歩前に出た。

「ほう……実に営業的だがまぁいい。そうだ、お前ら後醍醐家に紹介していない弟がいたな。ほら、出てこいよ。」

そう智輝さんが顎をしゃくると、黒髪しか居ない後鳥羽家のメンツの中では明らかに浮く白髪短髪で僕と同年代の男の子がそろりと出てきた。

男の子は、痩せこけた小さい顔には大きさの合わない黒いマスクをし、赤みがかった茶色い吊り目が隠れるほど伸びた前髪は何年も切り揃えられていないのか、かなり縮れてしまっている。背丈は僕よりもかなり小さく、スーツから覗く手や首は角ばっていて、栄養を求めているように感じた。


「後鳥羽潤です。」

彼は短くそう言うと、苦しそうに何度も咳をした。

すると智輝さんは虫を追いやるようにシッシッと遠ざけた。

「結核だっけか?」

智輝さんが兄弟に向かって言うと、

「肺炎でしょ?」

と、詠飛兄さんのことが好きな愛子さんが面倒そうに言う。

「シロは肺がんだよ。」

今度はアダ名名人の紅夜さんが口を挟む。

すると智輝さんは「まぁどうでもいいや」と、投げやりに言った。


 僕は何で弟の病気も知らないのだろう、と首を傾げたが、恐らく全員仲良しという訳ではないというだけなのだろう。

それにしてもあんな言い方は何だろう? 少し酷いと僕は思った。

すると傑兄さんが僕の手をパシッと叩くので視線を落とすと、無意識にキツイ握りこぶしをつくっていた。

お礼を言おうと思って見上げると、傑兄さんは口パクで「あいつら性格悪ぃよな」と、言っていた。


「そうそう、詠飛。ウチの愛子とのことは考えてくれたかなぁ?」

「あまりどうこう言いたくはないが、まさかあの殺し屋を送ったのはお前か?」

「おぉ~そうだ。あいつらの報告書を見たが、かなり深手を負ったんだってな。それと、邪魔をした片桐組の黒河月道と佐藤永吉。あいつらがお前の無能な手先か?」

「新手の殺し屋だな。まさか槍術日本王に剣道日本王を組ませるとはな。」

と、一旦言葉を切った詠飛兄さんだが、聞き慣れない名前を聞いたせいか、首をかしげうつむき加減で数秒考えこんだ。

「……? いや違う。向こうが勝手に来ただけだ。」

「ほぅ。まぁいいや。」

智輝さんは投げやりに言うと、家の中に入っていってしまった。

そしてそれに続いて他の兄弟も入っていく。

やはり夏霞先生の姿は無い。

後鳥羽家とは言っていたのだけど……。

って、あれ? 潤さんは入らないのかな……?

誰かを待つようにその場にずっと立ちつくしている。


「あのっ……」

僕が潤さんに話しかけると、彼は僕の目を凝視したまま何も話そうとはしない。

「他の人たちは――」

「黒河月道の居所は片桐組なの?」

彼は驚くほど綺麗な声で聞いてきた。

僕が曖昧に頷くと、潤さんは目を輝かせ、

「君、すっごい黒河に似てる!」

と言うと、僕の右手を両手ですくった。

「そうかな……?」

僕が視線を彼から外した瞬間、一瞬手に痛みが走った。

ハッとして手を見ると、紙で切ったような傷が親指の腹にできている。

「ごめんね。う~ん、君もAB型かぁ……。話しかけてくれてありがと。またね!」

潤さんはそう一方的に言うと、かわいらしく手を振って走り去った。


 君も……?

そう言えば月道はAB型だと言っていたけど、それは潤さんのおかげで知ったのだろうか?

だけど病院で診察したわけではないので、僕は話半ばにしか聞かなかった。



 帰りは行きよりかは疲れずにバイクに乗っていられたけど、やはり足取りが覚束なくなる程疲れてしまったので、別棟の僕の部屋まで傑兄さんにおんぶしてもらった。

疲れさせたお詫びだって。

そう言って女の人を……これは考えないようにしておこう。



 僕の部屋に着くと、ベッドにドサッと乱暴に下ろされた。

運んでもらっただけありがたいので、僕は何も文句は言えなかった。

リヴェテは僕のお腹の上でまた丸くなっている。

「傑兄さん、ありがとうございます。」

「いいよ。お前がそこらへんの女なら襲ってるけどな。フフッ……。」

「はぁ……やっぱりそうでしたか。」

「まぁな。そうだ。純司と姉さんが外された理由知りてぇか?」

傑兄さんはベッドにそっと腰掛けると、僕の顔を覗きこんできた。

好奇心旺盛な僕が頷かない訳がない。それをわかって聞いているのだ。

「はい……。」

「まず姉さんは愛子ってやつと仲が悪い。それは兄崎で思い知ったよな?」

「はい。火花が見えました。」

「じゃあ純司が行けねぇ理由。わかるか?」

「行けない理由? 純司兄さん自体に問題有りですか?」

「そうだな。後鳥羽家の何人かが失踪して、1人は殺し屋、1人は教師になっていることは知っている。ただあと1人は純司が実験道具に捕まえた奴でな……そいつは好評失踪中だ。」

傑兄さんは、スラリと伸びた長い足を組みかえ満面の笑みで言った。

夏霞先生は後鳥羽から逃げたから顔を変えたのかな?

傑兄さんですら気付かなかったのだから、相当今より優しい顔だったのだろう。

「好評失踪中って……。たしかにそれじゃあ行けませんね。」

「あぁ。俺もそいつがどこに居るのか知らねぇけど、何年も前だから……実験にでも失敗して殺したんじゃねぇの? じゃ、俺はもう行くよ。」

傑兄さんに寝転がりながら会釈をすると、ドアの閉まる音がした。

 それと同時に鯨級の欠伸がここまで聞こえてきて、僕はフフッと笑ってしまった。

ふと見やると、リヴェテは傑兄さんの醸し出す雰囲気に怯えていたのか、小刻みに震えていた。

でも僕が撫でてやると、すぐにその震えは収まった。



 そして机の方を見ると、何か数字が彫ってあった。

――2 1 2 8 2

読了いただきまして、ありがとうございます!

次回投稿日は、緊急投稿をする場合は5月18日水曜日。

定期投稿日に出す場合は、21日土曜日です。

お楽しみに♪

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