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「僕の回想物語-淡い4年間-(後編)」

中編にて告白された大川さんとは……?

そして悲劇とは……?

2008年7月…

醍醐中学校 正門付近

後醍醐 騅



 僕と大川さんが付き合っていることは、意外にもこの頃にならないと全校に知れ渡らなかった。

というのも、僕の自慢の親友たちが色々動いてくれていたらしい。

 そして今日も2人で少し距離をあけて登校すると、あの時の7人のレインボー集団がヤンキー座りをして校庭の真ん中で待っていた。

それを無視して通ろうとしたときに黄が鼻で笑ってきたので視線を向けると、

「今日からスペシャルな毎日が始まるぜ?毎日がエブリディになるぜ?ひひっ……!」

そう嬉しそうに言うので、僕は首をかしげた。

すると、大川さんは「放って…」と途中まで言い、僕の腕を引っ張って行った。

 下駄箱は異常なし。

僕は何も考えずに上履きを履いたのだが――

「……いっ!!」

何かが足の裏にチクッと刺さった。

それは大川さんも一緒だったようで、同様に声をあげていた。

靴底を見ると、見事に長めの画鋲が2本刺さっていた。

これは見落としていた。

「大丈夫? 怪我は無い?」

「……うん。」

と、言いつつも大川さんの白のハイソックスにはうっすらと血が見えたが、僕は触れないことにした。

 次に異変を感じたのは廊下。

僕と大川さんが通ろうとすると、皆は端に避けてしまう。

そしてフランケンシュタインを見るような目で見ては怯え、肩を寄せあったり壁際ギリギリまで寄っていたりしている。

誰がそうさせている?

僕と大川さんは普通の中学生の筈だ。

いや、僕は普通じゃないけど。でも、髪色や背なら幾らでもここには居る。

僕は色々考えを巡らせながら、2年B組へと入った。


 流石に小学生時代のように黒板消しが落ちてくることは無かったが、親友以外のクラス全員に睨まれるのは中々ダメージが大きかった。

僕は大川さんとは別れ、親友の元へ行った。

すると2人の口からとんでもない言葉が飛び出したのだった。

「この原因はどうやら後醍醐には無いようだよ。」

鈴木はメガネをグイとあげながら言う。それに続けて、

「そう。後醍醐くんじゃなくて、大川さんなんだよ。その内容が本当かはわからないけど、結構刺激が強いんだ。聞ける?」

早川はワックスで綺麗に整えた短い茶髪を気にしながら言った。

刺激が強いってどういう意味で言っているのだろう?

実はご両親が――というものか、実はすっごく――とか。いや、それはそれで困るが。

結局、僕は怖いもの見たさで何度も頷いた。

「じゃ言うね。大川さんは、すっごく……」

「待って!」

「後醍醐。普段俺らが話しているような話題では無い。」

「あ……ごめん。続けて。」

「おっけ。すごくアニメとか漫画が大好きなんだけど、その中でもすっごく……」

「やっぱり!」

「だから後醍醐。」

「ごめん。」

「ボーイズラブが好きなんだ。」

「………」

やっぱりそうだ。僕は彼女の言動が気になってはいた。

「黙るのか。もしかして知ってたのか?」

僕は頷き、2人に告白された後のことを話すことにした。



1ヶ月前… 帰り道


「あの……後醍醐くん。」

「ん?どうしたの。」

僕が大川さんの方を向くと、彼女は恥ずかしそうに目をそらし何度も深呼吸をした。

「後醍醐くんは……その…早川くんと……あ、いや……」

「早川と?親友だよ。それがどうかした?」

すると大川さんは顔を真赤にし、

「え?じゃあ………あんなに仲が良いのって……え?」

と、顔を手で覆ってしまうので、僕は首をかしげた。

たしかに早川とはお互いに小突きあったり、お互いに髪の毛をくしゃくしゃにするのが習慣になりつつあったが、それをどうこう言われると困ってしまう。

だから僕は、束縛をしたいタイプだとしか思わなかった。私以外と話さないで! ……という感じの。



現在に戻る…


 僕が話し終えると、2人は目を丸くした。

「俺と後醍醐くんよりも、鈴木の方が仲が良いと思ってた……! ほら、教えあってんじゃん?」

「ポイントはそこではないぞ、早川。」

と、鈴木に牽制されてもペロッと舌を出すだけの早川。悪びれてないな、こいつ。

「これで裏は取れそうだ。」

「どうするの?」

早川は瞬きを早めた。何を考えているのだろう。

すると鈴木は俺をギリっと睨み上げ、

「大川さんと別れるか、この仕打ちに耐え続けるか。お前ならどうする?」

と、聞いてきた。いつにも増して切れ長の目が吊りあがっている。

「俺なら後者。」

僕がそう答えると鈴木は感心した様子で、

「やはり。」

と、頷くのに対し早川はというと、

「俺なら一緒に転校。」

と、ニッと笑ってみせた。どうやら逃げ出すのも早いようだ。

「とりあえず、俺らも手を打つ。俺は伊達に学年2位をやっている訳ではない。早川も頭では役に立たないが、体育会系に顔が広いのは活かせそうだ。」

そうやってサラッと言う鈴木の分かりやすい早川に対する皮肉は、

「そうだね!」

という、早川の一言であっさりスルーされてしまった。

「ありがとう。俺も何とかして――」

「お前は何もやるな。レインボー軍団に目を付けられているのだろう?」

流石鈴木。情報が早い。

「うん。じゃあ、鈴木と早川に任せるよ。」

「わかった。」

「おっけ。全部収まったら何か奢ってね! あ、アイスがいいな!」

と、早川は棒アイスを舐める仕草をしながら屈託のない笑顔で言った。

ふと鈴木の方に目を遣ると、呆れているのかため息をついていた。

そう言えば、この2人は正反対の性格だからなぁ。

僕は親友たちに感謝しつつ、この1年は持ちこたえた。



2009年12月某日…

醍醐中学校 3年B組

後醍醐 騅



 鈴木と早川のおかげで2年の間も3年になってからも、あの時ほどの仕打ちはしてこなかった。

僕も大川さんに色々掛けあってみたり、部屋に行って要らない漫画を捨てさせたりした。

そのおかげで徐々にではあるけど、僕と早川の仲について言うことが少なくなってきていた。

それにここ最近は何も言って来なくなっている。

このまま卒業すれば高校に入るし、落ち着いてくれるだろうと3人で期待していた。

しかし、この日にまさかあんなことを強要するだなんて僕らは思いもしなかった。


 それは試験期間最終日のことだった。

受験も近い僕らは全員ピリピリしていて、テストの時はその雰囲気が更に増していた。

 そして試験が終わり、受験もあって全員部活禁止のまま帰ることになったものの、暇を持て余していた3人はテストのことや志望校のこと等を話していた。

だけどいつの間にか皆帰っていたので、僕らも帰ろうと支度を始めていた。

そこにやってきたのは、顔を真っ赤にした大川さんだった。

A3サイズの大きなノートを持っている。

大川さん、実は絵がとても上手いのだ。なんせ美術で最高点である「10」を取っている。

そんな大川さんは僕らの元にズカズカと大股でやってきて、自慢の絵を見せてくれた。

しかし、そこに描かれていたのは――

「えっ……」

ショックで思わず言葉を無くす早川。鈴木は早川の背中をそっと擦った。

「大川さん。僕らをこんな目で見てたの?」

僕が怪訝そうな表情をすると、

「そう……だよ。私が……言った通りに……して?」

と、今までにない程色っぽい声で言われてしまい、僕は頷くことしか出来なかった。


――とにかく女の子を大事にしてくれ。…お願いだ。


 最近僕とパッタリ言葉を交わさなくなった詠飛兄さん。

それでも僕は詠飛兄さんを1番信頼しているし、この言葉は特に最近大事にしている。

これを信じている限り、彼女の頼みは断れない。

僕はそう考えていた。


 ふと気が付くと大川さんは僕の制服に手をかけようとしている。

何もしない僕を見兼ねた早川は後ろから僕の腕を引っ張り、彼女から引き剥がした。

「……どうして?」

大川さんは、涙を目にいっぱい溜めて声を震わせて言った。

「こっちが聞きたいよ!」

それに対し、早川は完全に敵を威圧する目で見ている。

「駄目だよ、早川。女の子は大事にしないと――」

そう無意識にポツポツと言いかけると、鈴木は僕の右頬を叩いた。

僕はその勢いで机にぶつかり、ガタガタと机がずれる音と共に倒れた。

「誰に言われたかは知らない。だが後醍醐。お前は解釈を誤っている。その人は恐らく女の子なら誰でも、願うことなら何でも、という意味で言ったのではないと思う。俺は少なくともこれと決めた人だけを大事にしてほしい、という意味であると思う。それも何でも聞くのではなくて、お互いに心地良い関係で。」

鈴木はそう言い終えると、僕に手を差し伸べた。

 僕は今まで間違っていたのか?

詠飛兄さんが言いたいことを――

僕に伝えたかったことを――

 僕は鈴木の手を取り立ち上がると、何だか景色がいつもより綺麗に見えた。

今までの灰色っぽい景色ではない、冬の短い日が落ちていく様がはっきりと。

そして大川さんの方に目をやると彼女だけが酷く黒く見えた。

今言わないと……!

「大川さん、今までありがとう。ごめん。今、別れて欲しいんだ。僕には君が酷く黒く見えるよ。だけど、大川さんには美術の才能がある。高校は別だけど、その美術を活かして文化祭のアーチの模様とか、全国に出してみるとか、いくらでも可能性がある。まぁ趣味は否定しないけど、人に強要したら仲間が居なくなっちゃうから、もうしちゃ駄目だよ。……ここで約束しよう?」

僕は自分で言ったことに恥ずかしくなり最後はうつむいてしまったが、大川さんは笑顔で頷いてくれた。

その時の彼女はもう黒くなくなっていて、綺麗な夕日に照らされた美しい姿になっていた。

そして2人は握手をして、手を振ってさよならをした。

その様子を早川は顔をほころばせて見ていたし、鈴木は頷いていた。



 僕はその後、無事に醍醐中学校を卒業をした。

幸運なことに受験を経て第一志望の高校に行けた。

残念ながら、早川と鈴木とは別れてしまったけど。

2人はそれぞれスポーツ推薦と学力面の推薦で高校を事前に決めていたので、あんなに僕の為に色々動いてくれたのだろう。そう思うと、始めに言ったことを訂正しないといけない。

かけがえのない日々がないだなんて、少し違っていた。

早川と鈴木に出会えたこと、学校生活を過ごせたことは、今振り返ればとても楽しかった。

レインボー軍団のことばかりを頭に思い浮かべていたから、始めにそう考えてしまっていたのだ。

振り返るときは、もっと深部を思い出すようにしようっと。


 僕がそう思いながら後醍醐家の別棟に入ろうとすると、本棟の方から1匹の黒猫が僕のところに歩いてきた。

そして黒猫は僕の周りをくるくる歩きまわり、どこかへと歩き出した。

僕はなぜだか追いたくなって、ついつい後を付いていってしまった。

どうやら最近付けたと噂の防犯用の監視カメラの場所を全て回ったようだ。

そして黒猫は僕の足にすりすりと擦り寄ってきた。

僕はしゃがんでわしゃわしゃと毛を撫でながら、何で今……?と、考えを巡らせてみると合点がいった。

また僕だけが場所を知らないパターンだからだ。

何かと僕だけが兄弟の中で1番知らないので、ガラス製の猫でも作って――

いやでも明らかに毛並みがあった。

じゃあ、この黒猫は一体……? 僕は黒猫を抱っこして毛をそっと撫でながら、結局人でも猫でも一度関わると放っておけないので、別棟の部屋でこっそり飼うことにした。

緊急にも関わらず読了いただきまして、ありがとうございます!

次回投稿日は、定期投稿曜日の土曜日です。

日にちは、5月14日です。

お楽しみに♪

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