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「僕の回想物語-淡い4年間-(中編)」

夏霞先生のせで、たった1つの中学しか行けなくなってしまった騅。

月道によれば、この小学校と同じような悲惨な学校と聞いているが……?


※偏見、若干の下ネタ注意。

お年頃なので……

2007年4月某日

後醍醐家別棟 騅の部屋

後醍醐 騅



 中学1年生。

僕の金髪は益々伸びて、もうお尻のあたりまできてしまっていたので、思い切って胸の前あたりまでバッサリ切った。

どうせ初めて会う人だから驚かれもしなかったけど。

身長も平均の152cmを大きく上回る、162cmまで伸びていた。

そのせいで健康診断を受けている間も皆が小さく見えたし、見下ろしているのは正直嫌だった。

それに醍醐中学校の生徒たちを見ていると、皆僕みたいな髪色の人たちばかりで、黒髪の方が希少価値が高い。

それに素行もかなり悪い人たちばかりで、並んでいる時も喧嘩がそこら中で起こっていたし、女子にアレをしようとして外に連れ出される人も居た。

それを見るとどうしても傑兄さんの武勇伝が思い浮かぶけど、言うと怒られるから日記にも書いていない。

 小学校の卒業式で衝撃的な言葉を放った夏霞先生と、たまたま小学校の前を通った時に会ってしまったのだ。いつも正門前で挨拶なんかしない人なのに。


1ヶ月前…

白河小学校正門前

後醍醐 騅



 先生に初めて声をかけられた時は、心臓をいきなりぎゅっと掴まれたみたいに驚いたんだ。

だって、絶対に外になんか出たくない! とか言うような人だったから。


「後醍醐。」

あの時と変わらない渋い声で言う先生は、若干額に汗を浮かべていたし眩しそうに眉をひそめていた。

もちろん、特攻服ではなくて派手な白のスーツだったけど。

「は、はい!」

僕は、先生の方に向き直った。

「思い出したか?」

「いえ……。先生、あの……どうしてあんなことを? えっと、どうやって?」

「御三家には能力がそれぞれ3つずつ与えられていたが、後鳥羽と後醍醐にはもう1つずつ与えられているらしい。どうやら俺は“人を操る能力”を授かったらしく、数年も前からお前らで試してきている訳だ。」

「……後醍醐にも? って、先生は後鳥羽家の人……。」

「らしい。思い当たらないならいい。噂だ。お前でもそれくらいはわかってただろ。」

「あ、はい。パーティーの時に居た記憶があるので……。」

「くれぐれも詠飛を。」

「……はい?」

「では。」

と、言葉を切ると先生は学校の方へと走って行ってしまった。

後醍醐家には、詠飛兄さんの“ガラス師”以外にもある……?

傑兄さんの射撃の上手さ?――そう言えば見たことがない。

意外にも詠美姉さんとか!――それだったら戦ってるよね。

純司兄さんにも謎が多いし、滅多に部屋に入れてもらえない。



現在に戻る…

後醍醐家本棟 純司兄さんの部屋前

後醍醐 騅



 純司兄さんの部屋にどれくらい入ってないか。

そう言えば、日記を盗み見た時以来入ってない。

いつも断られてしまうから困ってはいたものの、傑兄さんもあまり入れないとか言っていたので、何となく疎遠になっていた。

だけど今日はどうしても聞きたいことがある。

それは、後醍醐家のもう1つの能力のことについてだ。

というのも、傑兄さんに聞いたところ……

「あいつ、空気操ってたんじゃねぇの?」

という意味深な言葉を言っていたからだ。


 僕の手のひらは緊張のせいか手汗でべっとりしているし、喉もカラカラになってきている。

何度も生唾を飲んでは浅い深呼吸をしている。

そんな震える手でノックをすると――

「いいよ~。」

という今までにない快活な声で返事が来て、僕は緊張の緩みをどこにやっていいのかわからなくなってしまい、変な周期の呼吸を繰り返してしまった。



後醍醐家本棟 純司兄さんの部屋

後醍醐 騅



 数年振りに入った純司兄さんの部屋はあの時と変わらない薬品だらけの部屋だった。

「どうしたの~?」

いくつものフラスコと向き合いながら聞いてくる純司兄さんは、以前にも増してハムスターっぽくなった気がする。口の曲がり具合がね。声は流石に変声期を終え多少は低い声になっていたものの、男子の中では高い方だと思う。

白衣を纏う姿は科学者そのもので、そこから覗く黒いスキニーパンツもかなり似合っていた。

「えっと……純司兄さんって、後醍醐家に能力が2つあることはご存じですか?」

と、僕が言うと純司兄さんはフラスコを振っていた手を止め、僕の方にゆっくり向き直った。よかった、笑顔だ。

「うん。それ、俺だよ。……ほら!」

純司兄さんは両腕を横いっぱいに広げ、両手をぎゅっと握った。

すると、段々息が苦しくなってきた。

僕はその場に座りこんでしまった。

酸素がどんどん無くなっていく感覚がして必死に空気を求め、いつもの倍以上は息を吸っていたと思う。だけどそれでも間に合わなくなってきた頃に、純司兄さんはパッと手を離した。

「はぁ……はぁ……」

やっと息ができた。首には赤い引っかき傷がついてしまっていた。

「苦しかった? ごめん。“魔法使い”っていう能力。そのまんまだからつまらないけど、物心ついた頃から使えたんだ。手のひらから炎は出るし他にも色々! 自分の能力の研究ばかりしてるから、最近太ったんだよね。わかる?」

純司兄さんは眩しいくらいの笑顔で僕を見つめ、自分の腰あたりの肉をつまんでいた。言われて見れば、顔が少しふっくらした気がする。

でも元がもやしみたいに細かったから、今の方が好きかもしれない。

「魔法使い……! ということは、後白河戦の時も?」

「あれ? そっちの方が気になるんだ。んーまぁそうだよ。さっき騅にやった方法で殺したけど、かなり強く握ったから数秒でころん、だったよ。」

と、小さい虫を殺した話をしているかのように軽く言う純司兄さんに、僕は少しだけ背筋がゾッとした。人間を殺しているのに。

「どうしてそんな顔するの?」

明らかに不満気な顔で頬を膨らませる純司兄さんに、僕は後ずさりをしながら、

「あ、いえ……ではまた……。」

と、苦笑いを浮かべつつ逃げようとしたところ、

「待って。」

見事に止められてしまった。

「騅のDNAを貸してほしい。万が一、後醍醐家が全く関係のない犯罪に勝手に巻き込まれたときに提出できるから。お願い。」

純司兄さんは椅子から立ち上がり、僕の顔を覗きこんできた。

僕よりも少しだけ身長の低い純司兄さんの上目遣いは、男の僕でもドキッとしてしまう程目の輝きが眩しい。

「はい。」

僕はいつも人の頼みを断れない。これは新しい短所かもしれない。

純司兄さんの言われた通りに口内を綿棒で擦って渡すと、純司兄さんはニコッと微笑んで、口パクで「ありがとう」と言ってくれた。


――まさかこのことが後の僕を苦しめるとは知らずに。


2008年6月…

醍醐中学校 2年B組

後醍醐 騅



 その当時の僕は前髪を結っていたし、元からストレートでは無かったからかなり浮いてはいた。

まぁ制服の学ランだけはしっかり着ていたというのもあるかもしれないけど。

 1年のときはクラスが良かったのか、全くイジメも無かったし、むしろ平和主義的なクラスで、グループワークをするにも1人になってしまわないように全員で気を配っていた。

 しかし、2年にあがった時に初めて3年生の怖さに気付かされてしまうことになるとは知らずに、ここ数ヶ月を過ごしていた。


 それは豪雨だったある日、僕が友人数人と廊下の真ん中を歩いていた時のこと。

僕らは他愛もない話をして盛り上がっていたり、年頃だったのでそういう話もしていた。

突然目の前に現れたのは、学ランのボタンも留めず、カラフルなインナーを見せつけている、僕らよりも一回り以上大きい7人の集団だった。

「おい!!」

と、大声をあげたのは青いインナーの筋肉質な男。

僕以外の友人は思わず、「ひぃっ」と声をあげていたが、僕にとっては傑兄さんに銃口を突き付けられる方が余程怖いので、じっと堪えることができた。

「3年生様がここの廊下を渡りたがってるんですけど!?」

次は緑。僕らよりも小さいので、恐らく1年だろう。

「3年生様だぞ、てめぇら!!」

と、紫。顔は知っているので同級生だ。いつの間にか友人たちは廊下の端にうずくまっている。

僕にはどうしても大奥のように譲らないといけない理由がわからず、立ちつくしていた。すると、一番大きいリーダーらしき赤が僕に殴りかかってきた。

――それじゃあ遅いよ。

僕はすっと避け、その腕をぐいと逆に曲げて関節技を決めた。

だけど、赤は全く怯んでもいないし痛がる素振りも見せない。

「おい、そこのパツキンの2年。レッド様にそんな技が効くとでも思ってんのか?」

黄があざ笑うように言うので、尚更分からなかった。

それにいつの間にか赤が僕の腕から離れていたし、今度は逆に顔を大きな手のひらで鷲のようにガッシリ掴まれ、力任せに廊下の壁に背中と頭をぶつけられた。

「……っ!」

僕は目を白黒させながら、廊下の端にへたり込んでしまった。

今までに味わったことのない敗北であった。

そんな僕の元に友人たちが駆けつけ、「大丈夫?」と声をかけてくれたことは幸いであった。今は1人ではない。

「2年がイキってんじゃねぇよ!!」

と、赤を始め他の6人も僕らに唾を吐き捨て去って行った。

「後醍醐、平気か?」

学年2位の秀才で希少価値である黒髪をもつ鈴木は、深緑縁のメガネをグイとあげた。

「後醍醐くん……」

と、心配そうに見てくるのは学年1の俊足をもつ早川。肌が浅黒く、小学校の頃から野球をやっていた。

「大丈夫。2人ともありがとう。」

と、立ち上がりながら学ランの埃を払って作り笑顔で言うと、2人はほっとした表情を浮かべた。

本当は顎のあたりが痛むけど、それを言うと更に心配されそうだったので僕の物置にしまっておいた。

 そのとき何か視線を感じたので周囲をぐるりと見渡したが、この2人以外は誰も居なかった。

何だったのかな?


 そんな疑問を抱えながら放課後になり3人で帰ろうと支度をしていると、僕の隣に座っている黒髪短髪の大川さんが僕のことを引き止めた。

「あ、あの……」

「ん?」

「私、その、話が……」

彼女は人見知りらしく僕と目を合わせようとしなかったけど、話している様子を見た2人は気を使い、「先に帰るよー」と言って帰っていった。

「いいよ。どうしたの?」

「屋上……」

「え?今日は大雨だから、ここでいいよ。」

「えっ……」

「ん?」

僕はとりあえず周りを見渡したが、全員帰ったり部活動のために移動してしまって教室はガランとしている。

「誰も居ないよ。」

「はっ……はい。あの、私……1年の時も……その……」

「あぁ、覚えてる。一緒だったね。」

「……あの、私……ずっと……ずっと……後醍醐くんのことが……好きでした。だからそのっ……付き合って……下さいっ……。」

声を震わせうつむきながら言う大川さんは、紺のブレザーをぎゅっと握っていてとてもかわいらしかった。

去年は全然気にしていなかったけど、スカートが短くないのも希少価値の高い存在だった。

それに……詠飛兄さんの願いもある。


――とにかく女の子を大事にしてくれ。……お願いだ。


 僕はあの時返事が出来なかった分も含めて、

「はい。」

と、返事をした。


――これが悲劇の始まりとも知らずに。


その日の夜…

片桐組 鷹階 シャワー室

黒河 月道



 20室もある脱衣所もある個室のシャワー室はだいたいいつも満室だし、血の臭いで充満しているけど、とある時間に行くと誰も居ないという奇跡の時間帯がある。

そこを狙って俺ときちべえはシャワーを浴びに行く。

そしていつも隣同士で反省会をしたりしている。

「なぁ、るろちゃん。」

「もう10歳を超えたからその呼び方止めて。」

「なぁ、るろちゃん。」

「殺すよ?」

「ごめん。月道。」

「なに?」

「お前さ、何でいつもクロワッサン食ってんの?」

「・・・」

まさか、きんきら騅のくれたクロワッサンのおもちゃを大事にしていることは言えないし、きっかけはただ単に美味しいから、というのも恥ずかしくて何も言えなかったから、シャワーの音で聞こえない振りをした。

「逆に聞くけど、きちべえはどうして拾われたの? 兄貴居るんでしょ?」

「あー家出した。喧嘩してさ。でもいつか戻るよ。」

「戻るってことは抜けるの?」

シャンプーを流しながら言うと、きちべえは急に笑い出した。

「ダブルなんちゃらになる。」

「あっそ。」

きちべえが面白いことを言うと思い込んでいたので、正直拍子抜けした。

「なぁ月道。お前の元兄貴に付きまとってる夏霞ってやつ、どうすんの?」

「どうもしない。」

「はぁ!?」

「片桐さんが勝てない相手なのにどうして俺らが勝てるの?」

「まぁ……そうだけどよ。あ、月道。俺先に終わったから、覗いていいー?」

「殺すよ?」

「ふーん、俺の方が……ふふっ。」

「……最悪。」

リンスを流しながら後ろを見ると、目隠し用のカーテンが揺らめいていた。

忍者だから逃げ足は速い。そこがまたムカつく。

この世界に入ってから伸ばし続けているから、シャワーもうんと時間がかかるから、短髪で切りそろえているきちべえが時々羨ましく感じるけど、切る予定は無い。あいつを殺すまでは。


 部屋に戻るときちべえはやたら下の話をしてきたので、聞き流すことにしていたけど、急に真顔になって話し始めた言葉に俺は引き寄せられてしまった。

「お前の1番上の元兄貴って、子どもいないか?」

その言葉に俺は違和感を感じた。

彼女はこの前亡くなったし、子どももお腹の中に居なかったらしい。

だけど、後醍醐家に居たのは3年間とはいえ引っかかることがあった。

「居るかもしれない。」

「だよな! まぁそれだけだよ。それにしてもお前、背が高い割にアレは――」

と、俺の下半身に目を向け、ニタニタ笑うきちべえ。

その話は世界一嫌いな話だ。俺も実際手足も背も大きいのに、とムッとしている時であったから、尚更頭に血が昇った。

「うるさい!! ……気にしてるから。」

と、ベッドに座りそれを隠すように足を組んで睨みつけると、きちべえは「ひぃっ」とわざとらしく声を上げた。

「ごめんごめんって。そう言えばさ、お前エーススナイパーになるとか言ってなかった?」

「うん。明日から。」

エーススナイパーは鷹階のリーダーであり、一番射撃能力の高い人でないとなれない立場。基本的には18歳くらいの人がやるんだけど、何故か俺に任された。それも昨日いきなり。

「はぁ!? 片桐さんも甘いなぁ~。実は好きだったりして~!」

「ふざけないで。」

「ごめん。が、頑張れよ。」

俺はその言葉を無視して布団にくるまった。

するときちべえは俺の布団に入り込んできて、後ろから抱きしめてきた。

そして、「1人で背負い込むなよ。寂しいから。」と言ってきた時は、思い切り突き飛ばそうかと思ったけど、今日は受け入れることにした。



??? ???

??? ???


「エーススナイパーは黒河ですって!? どうしてですか!! 俺はこの時を待っていたんですよ!」

「お前の努力不足だ。あいつの方が上手い。」

「納得できません!!」

「……そんなに納得できないなら、立場を奪い取れ。」

「……!!」

その男は驚愕の表情の裏に、密かな野望を秘めていた。


―あいつを殺せば、俺がエースになれる。


読了いただきまして、ありがとうございます!

次回投稿日は、5月14日の土曜日です。

お楽しみ♪

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