表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/34

「明かされし真実」

愛しき麗華を亡くした詠飛、守れる筈の命を守れなかった月道、そして依頼達成を心から喜ぶ3人。

騅は5年生になり、詠飛の悩みや態度も理解できるようになってきていた。

※若干の偏見注意報。

2005年11月中旬頃

白河小学校 5年2組

後醍醐 騅



 僕は5年生になって何ヶ月も経っていた。

詠飛兄さんはあの日以来僕と口を利いてくれなくなってしまった。

というよりも、仕事人間になってしまった気がする。

傑兄さんは相変わらず上級生に喧嘩を売ってて、純司兄さんは完全犯罪を無くす為の研究をしている。詠美姉さんは野球にぞっこんだし、両親のことはよくわからない。それよりも、明が元気かが心配だけど。


 あぁそうだった。学校でのイジメは以前よりも酷くなってさ。

机に落書き、机を廊下に出されるなんてものは日常茶飯事で、僕が行くところ全部に居る人物もいた。多分、監視役とかじゃないかな。

 しかも今日はとんでもない、知られたくなかったモノをクラス全員に晒すことになってしまうのだ。


 僕はいつも通り教室に無言で入る。

ドアを開けたその瞬間にぐい、と紐が引っ張られる感覚がして、素早くバックステップをした。

すると落ちるべき主を失った黒板消しは虚しく床に落ち、大量のカラフルな粉をそこに広げた。

クラスの反応は最悪。落ちて笑う準備をしていた同級生たちは無表情になり、僕を冷ややかな目で睨みつけた。

そしてイジメの主犯格であり、クラスで1番背が低くブサ面な某有名有限会社社長息子は、僕を睨んだ後にガタッとわざと音をたてて立ち上がり、儚く腹を見せて転がった黒板消しと汚れた床を指さし、

「雑巾で綺麗に拭けよ? そこ、みんな通るだろ? お前が汚したんだからな!! 1時間目は家庭科だし……おい、みんな! 移動しようぜ! ……後ろのドアからな。だって、こいつが勝手に汚したんだぜ? みんなは汚れたくないもんなぁ!?」

と、隣のクラスにまで響くくらいの大きなキイキイ声で言うと、全員は返事もせずに立ち上がり、めいめいの友人たちと移動を始めた。

社長息子は、立ちつくす俺の背中に雑巾を投げつけ笑いながら階段を降りていった。


 僕は黙って雑巾を拾いあげた。

そこには、「ぼー子、反対! 死ね! 消えろ!」と、1番太い黒い油性マジックで書かれていた。ため息が自然と唇の隙間から漏れた。

ここで泣き出すのを期待していたのだろうが、そうではない。

”帽子”さえも書けないのか。僕はまずそう考えた。

続けて、これでは”ぼー子”という人物をイジメているようだ、と1人で薄ら笑いを浮かべた。

――こんな発想ができるのも、入学当時から相談にのってくれていた傑兄さんのおかげだ。



数年前…


「相手は所詮そこらへんの学力の小学生だ。英才教育を受けたお前なら、漢字のおぼつかない奴等をどう思う?」

と、散弾銃を肩にあてながら言う傑兄さんは、熱血教師のようだった。

「……こんなのも書けないの?」

「そうだ! 上出来だ、騅。多少見下すくらいはしろ。ただし、名前に傷がつくから口には出すな……いいな?」

そう言い終えると傑兄さんは銃口をこちらに向けてきたので、

「は、はい!」

と、大きな返事をしてしまった。

「全く。後醍醐家で2人目のイジメ被害がお前とは。おこちゃまはわからねぇもんだな。」



現在に戻る



 傑兄さんが居なかったら多分、涙のひとつは流していただろう。

僕はあのことを思い出しながら雑巾を蛇口のところまで持って行き、秋の終わりの冷たい水にそっと浸した。

その時に頭によぎるのは、光明寺家の暗黒の歴史。

だがそんなことを思い出している暇はない。僕は急いで床を拭き、黒板消しも綺麗に並べ直してから小走りで家庭科室を目指した。



白河小学校 家庭科室

後醍醐 騅



 家庭科室に入った瞬間全員の耳に響き渡ったのは、始業の合図であるチャイム。

三つ編みと尖った赤縁メガネの似合う家庭科室の先生とクラスメートは僕の方を見て、思わず目を見張っていた。


「ぴ、ぴったりかよ。お、面白くねぇな!」

主犯格の社長息子はやはり面白くなかったようで、机を2度も舌打ちが出来ない代わりに叩いた。多分、舌が発達していないんだと思う。

そんな社長息子以外のクラスメートの多くは感心していたようで、あの冷たい目では見てこなかった。むしろ、

「すげぇな……!」

「俺なら無理だよ……」

「私も……」

と言った言葉が溢れ、どよめきへと変わってきた頃に先生は手を2回叩き、

「はーい、授業を始めまーす! ほら、しーずーかーにっ!」

と、ツンと響くような大声で生徒たちを静めた。


 僕は先生に指定された席に座った。

そこは幸いにも社長息子と同じ4人掛けテーブルではなかったが、社長息子にぴったりくっついている右腕と、秘書のように僕のスケジュールを把握している男まで一緒なので正直嫌な予感がしていた。


 今日は、まつり縫いというものを習っている。

そんなものは、詠美姉さんに小さい頃から裁縫を教えてもらっていたから出来るのだが、やっている途中で目の前の席に座っていた筈の右腕がいないことに僕は違和感を感じていた。

だが、ぐるっと周囲を見回してみても見当たらなかったので、トイレにでも行ったのか、とそれ以降は気に留めなかった。

 しかし、授業が進むにつれて秘書がそわそわし始めた。

おそらく社長息子が何かをやれ、とでも唆しているのかもしれない。

でもあの人たちがやることとしたら、わざとぶつかって針を指に刺させるくらいしか思いつかなかったし、それなら別に構わない、と余裕の表情を浮かべていた。

 授業も終わってチャイムが鳴り先生も出て行ったところで、クラスメートも帰り支度を始めていた頃。僕も帰り支度を済ませ、思い切り身体を伸ばしていた時。

所謂、緊張感から解き放たれていた時のことであった。


「あ~らよっ!」

という嫌悪感のする右腕の声が近くでしたのと、髪の毛と帽子が擦れる音がしたのはほぼ同時だった。

あの時居なくなっていた筈の右腕は、僕の不意をついて後ろからひょいっと帽子を取り上げたのだった……。

社長息子はクラスがどんな反応をするか、と必要以上に唇を歪めて見渡し始めているが、クラスメートは風に揺らめきながら顕になった僕の長いウェーブのかかった金髪に目を輝かせていた。

「綺麗……!!」

「光ってる!!」

「地毛なのか……あれ?」

「すっげー!!」

気がつけばクラスメートは僕の周りに集まっていて、帽子を取り上げた右腕ですら目を輝かせ、「さらっさら!」と言いながら勝手に指を通していた。

ふと社長息子を見やると、唇を噛み締めて僕のことを睨んでいた。

なんだ、そんなことしか出来ないのか。期待外れ。


 2時間目以降は打って変わって、社長息子以外全員が僕の味方になってくれていた。まぁ、しつこく僕の担任になり続ける夏霞先生の前以外だけど。

あと、あの人は相変わらず授業をしない。だからここ5年間、先生が変わる家庭科、音楽以外は自習しかしていない。

そんな学校生活もあと1年ほど。早く終わらないかな、と思いながら秘書が仕切る帰りの会の終わりを待った。



後醍醐家本棟 傑兄さんの部屋前

後醍醐 騅



 別棟へ帰ってすぐに迎えてくれたメイドにランドセルを投げ渡し、僕は本棟へと来ていた。というのも、最近体に異常が出始めていたからだ。

こういう異常は純司兄さんでもなく、仕事人間と化した詠飛兄さんでも満足のできる答えは得られないと思った。

だって、“男”のことだから。

というのも、傑兄さんは小学生の頃から女の子との……その……色んな事を経験している人だし、何かと女の子にすぐ手を出すタイプ。もちろん、暴力じゃなくてね。

だからこういう相談をするためにちょこちょこ部屋に行っていた。

そう思いながらノックをすると、「いいよー」と言う傑兄さんの声が返ってきた。


 中に入ると相変わらず何もない部屋だけど、床に模様が入った気がする。

いつ工事をしたのだろうか?

「騅、どうした?」

傑兄さんは唇に張り付いた前髪を勢い良く払い、帽子を外したまま帰ってきた僕の頭を軽く撫でた。

「傑兄さんにしか相談できないことです」

と、うつむきながら言うと、傑兄さんは鼻でフンと笑って、

「性的お悩み?」

と、僕の顔を覗き込んで言った。

「はい。最近、トイレで出すと白いのが出るのと朝起きると下の方が硬くなってたりするんです」

僕は正直言ってこんなことを言うのは恥ずかしかったが、相談しないことには何も始まらないし、ここ最近不安だったのだ。

「もうそんな時期か~」

と、何故か嬉しそうに笑う傑兄さん。そして思い立ったように部屋を歩きまわり、散弾銃で模様の部分を撃つと、そこから何と真っ黒な3段の収納ケースが床から出てきた。

そこから何冊か本を出すと僕の前にドサッと置いた。

「大人の階段は、とことん上らねぇとな」

と、ニタ~としたいやらしい笑顔で言って。

その本はどれも水着の女の人が表紙のもので、今まで読んでいた児童文学とは正反対の世界がそこには広がっていた。

ふと下腹部に目をやると、若干ではあるが硬くなり始めていた。

「俺が後白河の男好きみたいな兄貴だったら、お前のことをどうこうしてやってもよかったけど、生憎女以外に興味は無い。俺ら兄弟も自分でやってきた。わかるな?」

そう言われてもわからなかった。何となく保健の授業で当たり障りなくそのことを知っただけの僕には、どうしたらよいのかわからなかった。

「えっと……どうやってやったらいいのですか?」

「はぁ……思った以上に純粋だった。だから――」

傑兄さんは明らかに苛立った表情で一通り口頭で説明してくれたけど、あまりに動物的なことまで言われたので、不安で不安でついには膝が震えて始めてしまった。

「傑兄さん……」

僕が救いを求めるような目線を送ると、傑兄さんはギリっと眉をひそめた。

「俺にやれ、と言うんじゃねぇだろうな?」

「いえ、そんな! ……ごめんなさい」

「いいよ。まぁ本ならいくらでも貸すから。ただ、俺ら兄弟は男同士とか女同士とかが無理な集まりだから」

傑兄さんは、僕に黒い布で包んだ何冊かの本を手渡しウィンクをした。

「あ、ありがとうございます……」

僕がそれから別棟に帰って何をしたかは聞かないでほしいな。



片桐組 烏階入り口

黒河 月道



 片桐組烏階に初の女子が入ったとかで、冷めた人の多い鷹階すら大騒ぎになっていた。

俺はきちべえに連れられて烏階に来た訳だけど、同じことを考えている殺し屋のたまごたちで混んでいて、とても顔が見える感じではなかったので、夜遅くに行ってみるとガラガラに空いていたどころか、誰も歩いていなかった。

俺が扉をノックすると、女子の声で返事があった。


 その女子の部屋は思ったよりも合理的な部屋で、要らない物は置かない人だという感じがした。

「どーぞー。あ、私は(れん)。8歳。あんたたちは~?」

恋は120cm程で少し太め。顔は笑うとピンクのメガネの縁に頬肉が当たるほど丸い。鼻は平均的で唇は薄い。上下黒でゆったりとした無地のジャージは彼女の体型を少しだけ細く見せていた。

「俺は黒河月道。9歳でスナイパー」

「佐藤永吉。同い年の忍者だ」

「るろちゃんとえいきっちゃん。2人は相棒なの?」

「そうだよ~。恋は誰かと組んでる?」

「まだよ。というよりも、片桐さんによると情報系は基本1人らしいし」

「よかったら俺らと組む?」

「何言ってるの、きちべえ」

「そうね。残念だけど、私は1人ね。内線番号交換しとく?」

恋は重い腰を持ち上げ、内線番号と携帯番号の書かれた無地の白い紙を渡してきた。

「携帯もいいのー?」

「いいよ。2人のも教えてくれる?」

俺はこの当時は恋のことなんてどうも思っていなかった。

正直タイプじゃなかったし。

だけど、一応きちべえがノリノリで教えてたから教えただけ。

 そう言えば、男尊女卑の片桐さんがよく許したな。俺はそのことしか頭に無かった。

それから鷹階の部屋に戻るとすぐに俺はきちべえのベッドで寝てたし、きちべえは俺のベッドで寝てて、夜中に無理に起きるのはもうよそうと思った。

所詮俺らはまだ小3の年なんだ、とこのことで気付かされてしまった。



 この出会いがこの先大きな波乱を生むとは知らずに。

読了いただきまして、ありがとうございます!

次回投稿日は、5月2日の月曜日です。

お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ