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「内密」

後白河家に勝った後醍醐家。

その後、家は取り壊され、存在も無きものとされた。

完全滅亡を迎えたのだった。


そして、決戦後初めての日曜日。

騅は何を思うのか?

2000年4月30日 日曜日

後醍醐家別棟 騅の部屋

後醍醐 騅



 「暇だなぁ…。」

僕の日曜日はいつもこうだ。お母さんに「本棟には行くな」と言われているし、詠美姉さんのところに行く前にいつもお母さんと鉢合わせになってしまう。でも本棟に行けない日こそ、詠美姉さんに聞きたいことを聞かないといけない。今日の僕は、決意に満ちていた。


 早速部屋を出ると、忍者みたいに忍び足で歩いた。

よしよし、詠美姉さんの部屋まであと少し……!

「騅様。いかがなさいましたか?」

と、メイドに話しかけられた時は、突然尻尾をぎゅっとされた猫みたいに飛び上がってしまった。

いつの間に目の前に来ていたのか。

「あ、あ、えっと……お母さんには言わないで?」

「かしこまりました。」

メイドは一礼するとすぐに、何事も無かったかのように立ち去って行った。

僕は一息ついて落ち着かせてから、詠美姉さんの部屋へと入った。



後醍醐家別棟 詠美姉さんの部屋

後醍醐 騅



 詠美姉さんの部屋は、僕の部屋よりもかなり広い。

家具は僕の背よりも高い明るいピンクの洋服ダンスに、同じ感じのドレッサー、3人くらいは寝られそうな同じ色のベッド、黒い電話、本当にこのくらいしかない。あと、窓は掃き出しでカーテンも同じ色。

詠美姉さんは、白地に中心にはオレンジと黒の文字で《GIANTS》と書かれたユニフォームを着ており、番号は「7」と書かれていた。

「詠美姉さん……あの……」

「ん~?あ、これ?皆には内緒だけど、野球の大ファンで!巨人って、知ってる?」

「あ! 巨人……たしか、後白河信風が好きだったような。」

「そうそう! あの野球少年ね。あの子は、4番が好きなのよ~。」

と、詠美姉さんはバッターの真似をしていた。何だか特徴のある振り方だなぁ。

「そ、そうだったんですか。あの、後白河と戦う前の日に、詠美姉さん……その……」

と、僕が言葉をつまらせていると、詠美姉さんの表情はパッと明るくなり、舌をペロッと出した。

「バレちゃった? 信風からチケットが送られてきて、本物だってわかった時に泣いちゃってさ! 本当に嬉しかったんだからね!」

「へ、へぇ。」

「反応薄くない!? 7番、すっごくカッコ良かったんだから! ……えっと、騅? このことはお母さんにも、本棟の皆にも内緒だよ?」

「は、はぁ……。」

「そうだ、騅! 今日はね、本棟の皆は出払ってるの。勿論執事は居るけどね。そーこーで、お姉ちゃんからのプレゼントとして、本棟探検の許可を出すっ! これで納得っ?」

と、歯を見せて笑う詠美姉さんの笑顔には、人を頷かせる能力か何かありそうなくらいつられて笑って頷いてしまうものがある。

「よし! いってこーい!」

と、満面の笑みで手を振る詠美姉さん。

僕はこうして、ドキドキの本棟の探検をするのであった――



後醍醐家本棟 詠飛兄さんの部屋

後醍醐 騅



 まずは、詠飛兄さんの部屋かな。

1階だからっていうのもあるけど、色んなのを隠してそうだから。

部屋に入るとすぐに僕はデスクを探した。

すると何百冊もの日記が入っていた。

「す、すごい…‥! 詠飛兄さんの日記になら、後白河の戦いの後のことも書いてあるかな?」

僕はパラパラとページをめくって探し、後白河の戦いのところを見つけた。


『4月17日 月曜日 PM8:02


 後白河との戦いの事後処理も収束した上、政府への報告も済んだ。まさか、政府から「賞金首制度」の報酬以外にも助成金が出るとは思わなかった。それに後白河殲滅の賞金はかなり高額だ。大切に使うとしよう。ただし気がかりなのは、騅の恋愛観が歪むことだ。俺としてはあいつなら平気だと信じたい。俺が紳稲からの一方的な愛情から逃れられた今なら、恋愛を騅なりに正しく理解できよう。(中略)

 二強になったことを後鳥羽に報告しに行くと、長男の智輝はもう既に予知していたようで、花束を手渡してきた。そして、ご苦労様の一言。それと政略結婚の話も出たが、俺にはどうも“結婚”というものが、身近に感じられない。勿論子孫は残さねばならぬのだが……。(中略)

 後鳥羽にこの上なく寵愛されているのなら、数百年の繁栄は約束されたも同然。このまま誰も問題を起こさねば良いのだが。……』

僕はそこまでで日記を閉じた。

半分くらい内容はわからなかったけど、僕は紳稲と違って詠飛兄さんたちに対して特別な感情を持ったことはないよ。

あれが恋愛なら僕は嫌だったけど、間違っていたんだね。よかった。

僕はほっとした気持ちのまま部屋を後にした。だってどの日記を見ても、難しい言葉で埋まっていたから。でも、詠飛兄さんの字は先生よりも上手だった。



後醍醐家本棟 純司兄さんの部屋

後醍醐 騅



 2階にあがってすぐは明の部屋だったけど、今は誰も居ない部屋。

その隣に純司兄さんの部屋がある。ノックもせずに入ると、初めて来た時と同じ薬品と難しい計算式の数々が出迎えてきた。

もう定番になっている机の中を調べると、やはり日記があった。

『4月18日

 あ~、最近よくわかんないなぁ。だって、明が。本当に噂だよね? あの子が片桐さんに拾われたとか。あの人、すごく後醍醐を嫌ってたのに。明、大丈夫かなぁ? クロワッサン、与えてもらってるかなぁ~? ……養子だったのに気になるなんて、まだまだ子どもだね。明日も学校頑張るー!』

詠飛兄さんと比べたら、大分短い日記だった。よくわからないけど、明は無事に生きているみたい。本当によかった。

今度会いに行ってみようかな?


 僕って、本当に何も知らない。詠飛兄さんが後鳥羽家に行ってたことも、純司兄さんが明のことを知ってたことも。どうしてみんな、僕に内緒にするのかな……?


 それでも僕はまた、ほっとした気持ちで部屋を出た。

最後は傑兄さんの部屋。たしか、何もなかった記憶しか無いのだけど……。



後醍醐家本棟 傑兄さんの部屋

後醍醐 騅



 ドアを開けると、あの時とは違って窓は開いてなかった。

でもそれ以外には机も置いていし、他の家具も無かった。

それでも傑兄さんの部屋に居ると入学式の前日を思い出すし、何だか安心できる。それに、あんなに細かいアドバイスをもらえた。

傑兄さんが僕くらいだった頃、相当苦労したんだろうな、と考えこんじゃったんだもの。

 そう言えば、傑兄さんの誤爆事件のせいで、どこかの社長さんを怒らせて、その社長さんには殺された息子さんの他に僕と同い年の息子さんが居るとか居ないとか……言ってたっけ?


 その時、僕の背中に冷たい筒状の物が当てられた。

何も気が付かなかった……。敵が来てもおかしくなかったんだよね。

僕は溢れる冷や汗を止められなくて、多分すごい量の汗をかいていると思う。

そんな緊張の糸が張り詰めた無言の時間を切り裂いたのは、銃を構えている本人だった。

「動くな、騅。動いたら、日曜なのに本棟に居ること、詠飛 (にい)に言うぞ!」

……ん?

この声は、もしかして?

「傑兄さん……?」

と、恐る恐る言葉を口に出すと、銃を構える男は耳にツンとくる程の声で笑った。

「おう、そうだ。ま、どうせ姉ちゃんに何か言われたんだろ? 詠飛兄に内緒にしてやるから、早く別棟に帰れよ。」

と、傑兄さんは銃口でツンと僕の背中を押した。その反動で、

「は、はい!!」

と、返事しつつ僕は慌てて駆け出していた。いつ本棟の皆が帰ってきたのかも聞かずに――


 駆けて出て行く時に玄関前で詠飛兄さんの姿が一瞬だけ見えた。

でも偶然僕の方を見ていなくて、そのまま別棟の自分の部屋に無事に帰ることができた。



後醍醐家別棟 騅の部屋

後醍醐 騅



 「はぁ~!楽しかった!」

僕は部屋に入ってすぐにそう口に出していた。

日曜日がこんなに楽しかったことは今まで無かったから、心臓が飛び出そうなくらいハラハラしたし、傑兄さんに銃を突きつけられた時は本当にドキドキした。

僕にもこんな感情が……!

詠美姉さんは、僕にこれを教えたくてこんな許可を……!

明日にでもお礼を言わなきゃ!


「内緒だよ。」

この一言だけで、笑い合ってしまうし、2人だけしか知らないってだけで胸がドキドキする。

本棟の皆はいつも僕に対して、こんなに楽しい感情を持って、お話してるのかな?

ちょっとズルいけど、大人になるって、こういうことなのかな?

読了いただきまして、ありがとうございます!

引き続き、ご意見・ご感想をお待ちしております。

次回投稿日は、4月9日(土)です。

※学校開始にあたりまして、毎週土曜日とさせていただきます。

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