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「純司の誕生日会と、養子当主の闇(後編)」

純司兄さんの誕生日パーティーで初めて後白河家の人たちと出会った騅。

だが、その過程で知り合った後鳥羽家七男から聞かされたのは、養子当主のとてつもない闇の話。

想像を絶するようなショックを受けた騅は、その場に倒れてしまう……


中編の数分前

後醍醐家本棟 大ホール

後醍醐 詠飛



 俺は後鳥羽の問題児と話す騅の様子をじっと見ていた。

男児の好きな紳稲に腕をくすぐられようと、騅からは断じて目を離さなかった。

なのに俺はあいつを、養子がもたらす破滅という危険に……話だけとは言え直面させてしまった。

そして倒れゆく騅に、手も差し伸べてやれなかった。

立ち去る後鳥羽に、慄く後白河、何もできない後醍醐。

あの時とまるで一緒ではないか……



後醍醐家本棟 大ホール

後醍醐 騅



 僕は何度も涙声で呼びかける詠飛兄さんの声に応え、ゆっくりと重い瞼を震えながら持ち上げた。

「……詠飛、兄、さん……?」

と、まだ白む視界の中の黒髪短髪、倒れている僕の両肩を包み込む大きな手の持ち主の唇が嬉しそうに歪んだ。

「あぁ! 騅! 本当によかった。」

「弟さん、大丈夫ですか?」

と、詠飛兄さんとは対照的に明らかに棒読みな雰囲気の紳稲。

「大丈夫だ。よかった……本当に、よかった。もうじき純司が入場する。さぁ手紙を、詠美と共に読んでやってくれ。」

と、くっきりとしてきた視界の中、初めて見た詠飛兄さんの本当の笑顔は僕にとって一生の宝物になりそうなくらい、キラキラしていた。

 それに差し伸べてくる大きな手は、どこか王子様みたいだった。

どうしてかわからないけど、その時だけは武士じゃなかった。

そんな手を僕は力いっぱい握り、自分でも驚くほど早く立ち上がることができた。

「騅、もう俺から離れるな。初めて会う人が来たら、必ず挨拶もしないと、な。」

「はーい。ねぇ詠飛兄さん?」

「ん? 後鳥羽の話で聞きたいことがあるなら、パーティーの後にしなさい。」

すごい。そう思った瞬間、心のなかの背筋がピンと伸びる感覚がした。

「それも聞きたかったけど、違うことも聞きたい! えっと……詠美姉さんは、どこにいるの?」

「あぁ…………居た。一緒に行こう。そこでもずっと側に居るから。」

「はーい。」

と、左手を脇がツンとなるくらい高くあげると、詠飛兄さんは、その手を優しく握って引いてくれた。


 そして姉さんと明の居るところに行くと、明は何故かその場に居なかった。

すると、詠美姉さんは僕の表情を見て、何故かフフッと微笑んだ。

「騅の表情でわかるよ。明ちゃんはまだ3歳だもの。おねむちゃんよ。」

と、詠美姉さんは、両手を左頬の下あたりに当て、眠るジェスチャーをやった。

「なるほど。寝る子は育つからな。詠美、騅と手紙を読むこと、よろしく頼む。」

「はーい、おっけー。任せておいて。」

と、話している間に急に会場が暗くなった。


 そして大分大音量で外国の女の人が歌う、ハッピーバースデーの歌が流れてきた。

僕が1人で周りを見回したりして戸惑っていると、詠飛兄さんは微笑みを僕に向けた。

 純司兄さんが出てくるらしい。

すると兄さんは、大ホールの入り口から普通に入ってきた……と、思いきや、御三家からの盛大な拍手と、スポットライトで気がついたらしく、何度もペコペコと頭を下げていた。

その姿に出席者の皆は思わず笑みをこぼしていた。


 そしてまた数分経つと、突然音楽が止んだ。

出席者たちの誰もが何事か、と周りを見回していた時、僕の丁度隣に真っ白なスポットライトがあたった。

その人物は、詠飛兄さん。しかもマイクなんていつの間に。

「純司、誕生日おめでとう。お前ももう、7つになるのだな。だが、騅と明という、まだ幼き弟たちも居る。だからお前がこれからも、しっかり支えていってほしいと俺は心から願っている。俺からは、以上です。」

と、一礼しマイクを詠美姉さんに渡す、詠飛兄さん。

 いよいよ、僕達の番だ。

スポットライトも、僕と詠美姉さんに移っていた。

「じゅーんじっ! 誕生日おめでとう! 今日はね、私と騅から手紙のプレゼントがありまーす! まずは私からね。《純司へ。誕生日おめでとう。7年前から見てきているけど、物心ついた時から科学に興味を持って毎日研究しているよね。この前なんて騅の金髪を研究させてほしい、だなんて流石にあれは冗談よね? でも最近の純司ったら、のうのうと罪から逃げゆく犯罪者を捕まえたい、だなんて急にどうしたの? まぁ自分で決めたのなら、しっかりやりなさいよね。今日という1日を、そしてこの1年、純司にとって幸せに過ごせますように♪ 詠美》」

詠美姉さんが手紙を読み終えると、出席者からは拍手が起こり、純司兄さんは満面の笑みで何度も頷いた。

 その様子を目に溢れそうなくらい涙を溜め、顔を真赤にして見ている詠美姉さんからマイクをそっと預かった僕は、震える声で手紙を読み始めた。

「《純司兄さん、お誕生日おめでとう! 僕の大好きな理科の先生、虫博士、そして、お兄ちゃんです。初めて会った時から、僕に優しくしてくれた純司兄さんは、僕の宝物の1つです! 僕の髪の毛、研究に使っていいよ。でも将来絶対何かの研究に役立ててね! 騅より。》」

と、僕が読み終えると、拍手と笑顔が大ホールに溢れていた。

 純司兄さんの方を見ると笑顔で手を振ってくれていたので、両手をぐんと伸ばして振り返した。

それから後鳥羽からの誕生日プレゼントと、後白河からの誕生日プレゼント渡しが行われて、とても盛り上がっていた。


 その後僕と詠飛兄さんは、他の後鳥羽家の方々にやっと挨拶をすることができた。

後鳥羽家って、9人兄妹なんだね。

兄妹喧嘩したらどうなるんだろう……?

僕は個性の強そうな9人を何度も見比べながら、そんなことばかりを考えていた。



22:10

後醍醐家本棟 大ホール

後醍醐 騅



 5時間にも及ぶパーティーは、22時をもって解散となった。

それで今は、お片付けを後醍醐家でやっているところなのだけどね。

 20歳以上の人たちはお酒っていうのを飲むから、飲みこぼしていたり、食べこぼしもあるんだよね。

僕たち後醍醐家は、誰も食べていなかったのに。

「全く。お酒ってやつを飲んだっていいけど、気分よく飲みこぼしてるとか、ストレス溜まるなぁ。」

と、思わず大きな独り言を言う傑兄さん。

 たしかに、後鳥羽家の人たちはすごくお酒を飲んでいたし、ちょっと太めの、えっと……たしか、瀧汰(りょうた)さんにものすごく金髪をからかわれたからなぁ。

「騅、手が止まっている。あと執事らにこれを渡してくれるか?」

と、詠飛兄さんから渡されたのは、お盆に乗った空の細いグラスたち。

とりあえず、「はーい」と言って受け取ると意外と重かった。

 それから執事に渡すまでに本数を数えてみたり、綺麗に並び替えたりしていたら、その途中で執事に持って行かれちゃった。

でも僕が両手で持っても少しアンバランスになっていたから、20本くらいかな?

筋肉トレーニングだっけな、それが出来そうなくらいだったよ。

そんなことよりも、詠飛兄さんに聞きたいことがあったのに、詠飛兄さんは1番忙しそうに右へ行ったり左へ行ったりをしていたから、聞くのをすっかり諦めてしまった。



後醍醐家別棟 騅の部屋

後醍醐 騅



「今日も日記に書かなきゃ!」

と、意気込んで書き込むも、どうしても書きたくないことがあった。

「養子当主と破滅……これを明がもし、知ってしまったら? 言わない方がいいのかな、それとも、早く言って、詠飛兄さんに何とかしてもらうことは? いいや、そんなことは明日考えよう! ……もう寝てる。何も知らない顔で。あか、る…………むにゃむにゃ……」


 翌日詠美姉さんに聞いたのだけど、僕は昨日日記を書きながら寝ていたせいか、字が酷かったそうだ。朝食を食べ終わり部屋に帰って見てみると、

「な、なんだこりゃ~!!」

と、叫びたくなる程ぐちゃぐちゃなミミズがノート全体に這いつくばっていた。

今日の僕は、最高にツイてない。

引き続き、ご意見・ご感想をお待ちしております!


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