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ある村に幼女がいました。

作者: ブレ茶

ある村に幼女がいました。

幼女はドジっ娘属性持ちで、よくころんだりして、頻繁に怪我をしていました。


「いたたっ…、またこけちゃった…、

あ! 大変!

ころんだ拍子にお隣さんから頂いたいちごジャム入りのガラス瓶が割れて、あたり一面が紅に染まっちゃった!

どーしよー…」


さらに幼女はリアルラックがとても低く、ことあるごとに不幸や災難に見舞われていました。


「なんでいつもこうなるんだろう…、私が何かしようとするといつも失敗ばかり。

そんな私がいても迷惑をかけるだけだし、私なんていないほうがいいのかなぁ?

いっそ海にでも沈んで、お魚さんたちのエサにでもなったほうが世の中のためになるんじゃ…」


そして幼女はうつ病患者気味でした。



ある雪の日のこと、

幼女がこたつに入りながら日課の格ゲーのオンライン対戦で日頃の鬱憤を晴らしていたところ、


「幼女ちゃーん! あーそーぼー!」


「あぁー、はいはい、今行くねー。」


幼女の友達の童女が遊びにきました。

幼女と童女は幼い頃からとても仲が良く、基本テンションの低い幼女も、童女の前ではテンション二割増しになるのです。



「なにしてあそぶー?幼女ちゃーん?」


「んー、なんでもいいーよー」


「じゃあかくれんぼしよっか!」


「んー、いいよー」


「きまり!じゃあ私が鬼やるから、幼女ちゃんは隠れてね!」


「んー、わかったー」


幼女はパッシブスキル気配遮断A++を所有しているので、隠れるのはお手の物。

幼女は近くの山の傾斜面にある針葉樹林に身を潜めることにしました。


「もういいかーい?」


「んー、いいよー」


「それじゃあいっくよー!」


童女はそれから懸命に幼女を探し回りましたが、気配遮断A++持ちの幼女を中々見つけることができません。


「うぅー、今日は寒いなぁ。はやく見つかってお家に帰りたい…。」


幼女が隠れてからしばらく後、

ついに童女が幼女の近くまでやってきました。


「幼女はどこかなー?よーじょー!よーじょー!」


(あ、やっと童女ちゃんがきた!

よし、体も冷えてきたし、わざと見つかってはやく帰ろーっと)


そう思った幼女は、隠れていた全長60メートルのヒマラヤスギからとび降りました。


と、その時です、

幼女がとび降りる時に勢いよく木を蹴り過ぎたせいで木が折れてしまい、

折れた部分がなんと童女の方へと飛んでいってしまいました!

折れた部分の長さは約20メートル、質量にして500キログラム、

こんなものが勢いよくぶつかってきたらひとたまりもありません!


幼女は自分がドジっ娘属性持ちだということをこの時忘れてしまっていたのです。


「大変! 童女ちゃん危ない!逃げて!」


「え?」


童女が振り向いた次の瞬間、


ズドォォォン!!!


ヒマラヤスギの破片が大きな音をたてて地面に衝突しました。


「童女ちゃん!!」


無我夢中で幼女が駆けつけると、童女がヒマラヤスギの側で横たわっていました。

童女は運よくヒマラヤスギの下敷きにならずにすんだのです。


「童女ちゃん! 大丈夫!?」


「あ…、幼女ちゃん…みっけ。 うん…大丈夫……だよ……。」


「よ、よかったー。……あれ?

なんだろうこの雪? 色が紅くて、まるでいちごジャムをこぼしたような…」


すぐさま幼女は気付きました、それがいちごジャムではなく、童女の血だということに。


「枝が…フトモモに刺さってる?!

た、大変! すぐに手当しないと!」


幼女は身につけていたコートの内ポケットから、メス、ハーモニック、メッツェン、鑷子、スタビライザー、その他諸々を取り出すと、すぐさま童女のオペに取り掛かりました。


実は幼女のお父さんはお医者さんで、日頃よく怪我をする幼女のことを自ら手で治療しているのですが、いつからか幼女は父の医療技術を見よう見まねで習得するようになり、

ある程度の怪我なら自分で治療するようになっていました。


けれど直径2センチメートルの枝を取り除く手術など、幼女は経験したことありませんでした。


「ごめんね童女ちゃん、私のせいでこんなことになって…、すっごく痛いよね、ヒマラヤスギ、私も刺さったことあるからわかるんだ…。

まってて、いま取り除くから!」


取り除く手術の経験はない幼女でしたが、手術された経験はありました。

その時の記憶、そしてその時の痛みを思い出しながら幼女は全身全霊で手術し、

そして…、


「や、やった! 手術は成功だよ!童女ちゃん!」


「…うん、ありがとう!幼女ちゃん!

局部麻酔のおかげで痛みもないし、本当によかった!」


「うん!本当によかった……ほん、とーに…よかっ……ふぇぇ…ぐすっ…ふぇぇぇん…」


「もー、幼女ちゃん、助かったんだから泣かなくてもいいじゃん…」



そして二人が下山して、帰り道の途中、幼女がふと呟やきました、


「私さぁ、歩けばこけるし、瓶を持てば割るし、ヒマラヤスギにのぼれば折るし、友達と遊べば傷つけちゃうし、

ホント辛いことや嫌なことばっかり…、こんなことが沢山あっても、なんの役にも立たないのにね…。」


「ううん、それは違うよ幼女ちゃん。

辛いことや嫌なことを沢山経験したってことは、それだけ痛みを知ってるってこと、

痛みを知ってることは、人の痛みがわかるってこと。

人っていうのはね、痛みをわかってくれる人がいる、それだけで救われるものなんだよ。

その点幼女ちゃんはいっぱい傷ついたんだから、いっぱいの人を救えるよ!

なんて言ったって、ヒマラヤスギの枝がフトモモに刺さった痛みを知ってるぐらいなんだから!」


「…そっか、うん…、そうだね!

ありがとう童女ちゃん!

なんだか自分の価値観が一新されて、カタルシスを感じるよ!」



それから数年後、

幼女は成長し、優しくて腕の立つと評判の弁護士になりましたとさ。


めでたしめでたし。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! 気配遮断A++はつい吹いちゃいましたよ(笑) 急展開も良かったです、巨大化した所とかは特に! [一言] 短い文章で、良い感じの物語が出来ていると思いました。 良かったで…
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