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嵐の後のエキセントリック・ロマンス

「えっと……とりあえず、何してるの?」

 ここはくるみと梨花(りんか)ちゃんの部屋。辺りには布団やら服やらが散乱しており、下着姿のくるみは窓際で仁王立ち、同じく下着姿の梨花(りんか)ちゃんは右手で胸を、左手で胸よりもっと下の部位を隠したまま、枕の山に半分埋もれて倒れている。

 私達は今、京都へ旅行中だ。一組限定の民宿「嵯峨野館」では私と舞香(まいか)ちゃん、くるみと梨花(りんか)ちゃんがそれぞれ2人部屋。チェックインを済ませ、それぞれの部屋で一息ついた後、私と舞香(まいか)ちゃんが明日の予定でも決めようとくるみ達の部屋に入ると斯く斯くの光景が広がっていた。

「何って、旅行に来たらやるでしょ。枕投げ」

 何言ってんの、とでも言いたげな表情のくるみ。多分私も同じ顔をしてるんだろう。

「なんで枕投げで布団と服が散乱してるの」

「布団はバリケードだし」

「バリケード!?」

「服はお泊まりだから脱ぐでしょ」

「ちょ、ちょっと待って」

 ダメだ。ツッコミが追いつかない。まずたった二人で部屋に入ってすぐ防壁を構築するレベルの高度な枕投げを展開していた事にも驚きだが、お泊まりというものは通常服を脱ぐものなのか、そこについての認識にそもそもズレが生じている気がする。

「……梨花(りんか)ちゃんも普通に脱いだ?」

「いや、剥いた」

「剥いた!!?」

 なるほど、これでいくぶん分かった。恐らくこの部屋に入ったくるみは自分の中の常識に従って下着姿になり、当然梨花(りんか)ちゃんも下着姿になるものだとして服を脱がせたのだろう。そしてその状態で恥ずかしがって動かない梨花(りんか)ちゃんに一方的に枕投げをけしかけ、このような惨状が出来上がったに違いない。だとすれば今必要なのは梨花(りんか)ちゃんの心のケアだろう。

 私は梨花(りんか)ちゃんを横から覗き込みながら声をかける。

「大丈夫? 生きてる?」

「うぅ……もうお嫁に行けない……」

 あ、これ重傷だわ。

 私の反応が過剰だと思っているらしく、不服そうな顔をしている自由人のくるみ。ちょっと部屋から出ていかせるか。

「ん? 何? えっ?」

 目で合図を送ると、舞香(まいか)ちゃんがくるみの袖を引っ張って部屋から出ていく。こんなことを言うと舞香(まいか)ちゃんに悪いけど、実は小動物好きのくるみが舞香(まいか)ちゃんに抵抗できない事はハナから分かっていたのだ。

 私はうつぶせに倒れている梨花(りんか)ちゃんの肩を抱え上げて仰向けにし、毛布を掛けてあげる。仰向けになった梨花(りんか)ちゃんの顔は、あ。ダメだ。完全にダメ人間モードになってる。

 普段人一倍きっちりとしている人というのはその分、一度それが崩れると落差が大きくなりがちだ。梨花(りんか)ちゃんもその例には漏れないらしい。普段からは考えられないようなだらしない顔でぐすぐすとしている。

 仕方ない。梨花(りんか)ちゃんにはいつも世話になってるんだ。今日は私からいたわるべきだろう。

 梨花(りんか)ちゃんの肩を抱き上げ、膝に上半身を乗せて胸に頭を抱える。ほっぺに手を当ててこちらを向かせる。私と目が合うと、梨花(りんか)ちゃんは驚いたのか泣くのをやめる。

 やばい。ここからどうすればいいんだ? 涙目の梨花(りんか)ちゃんの破壊力もさることながら、あまりこういう経験のない私には人の慰め方というのが今ひとつ分からない。私が梨花(りんか)ちゃんの目を見たままどうしようかと逡巡していると、梨花(りんか)ちゃんは……ん? 何を思ったか目を瞑って遠慮がちに口を尖らせる…………って、えっ?

 それってどう見てもキスを受ける体勢だよね。いや、まあ普通に抱き寄せて目を見つめたらキスするよね。でも女の子同士だよ?

 さっき舞香(まいか)ちゃんにキスさせてたくせにとか言わないでほしい。あれは、ほら、ちょっとしたおふざけじゃんか。でもこのシチュエーションはマジ過ぎるでしょ? こんな局面でキスなんてしたら、その後付き合う事になった挙げ句同性結婚とかに発展したりしない?

 でも今の梨花(りんか)ちゃんに「やっぱりナシで」なんて言って再起不能になってもらっても困るし、何よりこのポーズのまま梨花(りんか)ちゃんを1分も2分も放っておく訳にもいかない。ええぃ、もうどうなっても知らん。

 私は梨花(りんか)ちゃんの頭を自分の顔の近くまで引き寄せ、目を瞑って覚悟を決める。そしてーー

 うーん、いくらほとんど女子高といったって、国の安全を担う魔法高の生徒が女子高生全開ってのも、どうなんだろうか。まぁいいよね? キスくらい。

 梨花(りんか)ちゃんと唇をあわせる。あ、これって梨花(りんか)ちゃんが落ち着いたら離すパターンだよね。どのくらいキスしてれば良いんだろう。


 結局、梨花(りんか)ちゃんの方から唇を離してくれるまで、かれこれ2分弱もフレンチキスを交わしていた私達は、その後あったかいお茶を飲んで落ち着くまでゆったりと過ごしていた。正気に戻った梨花(りんか)ちゃんはすごく申し訳なさそうに「ごめんね、ごめんね」と繰り返していたが、私はむしろ役得だったような気もする。「お礼に何でもするから」という梨花(りんか)ちゃんに、私は「じゃぁ明日鶴屋寿まで案内してね」とだけ言うと、くるみに小一時間説教をしてやるため部屋を出たのだった。

とりあえず今出来上がっている1話を。またしばらく時間開きます。

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