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とある無題の物語

 とある世界のとある町、ひとりの女の子がいました。


 サラサラの金髪に可愛らしい笑顔、女の子はいつも元気一杯、笑顔を振りまいていました。


 しかし、町の人達は元気がありません。みんな暗い顔をしています。泣き出してしまう人もいます。


 女の子は町の人達に問いかけました。


「どうしてそんなに悲しい顔をしているの?」


 すると町の人は答えました。


「こんな酷い世界は嫌だ、もっと素敵な世界がいい」


 町の人達はみんな同じことを言います。でも、女の子には分かりませんでした。女の子はそうは思いませんでした。


「青い空に綺麗な草原、吹きぬける風もとっても気持ち良い! こんなに素敵な世界なのに、どうしてみんなは嫌がるの?」


 女の子は、やっぱり分かりませんでした。



 するとある日、女の子はひとりの占い師に出会います。その占い師は女の子に言いました。


「みんなが悲しんでいるのは、わがままな王様がみんなの大切なものを奪ってしまったからなんだ」


 大切なものを奪われた、それで悲しい気持ちになってしまうのは女の子にもよくわかりました。大切なものが無くなってしまったら、きっと凄く悲しい。そして、女の子は決めました。


「私が王様に、みんなの大切なものを返してくれるようにお願いしてきます!」


 みんなを笑顔にするために、女の子は王様に会いに行く旅に出ることになりました。




「お嬢さんお嬢さん、こんな森の中で何をしているんだい?」


 旅の途中、女の子は2匹のオオカミに出会いました。オオカミは女の子に問いかけてきました。


「王様のお城に行って、お願いをしてこなくちゃいけないの!」


「そうかそうか、王様のお城か。それなら僕たちが案内してあげよう」


 王様のお城へ行きたいという女の子に、オオカミはニコニコと優しい笑みを浮かべて歩き出しました。


「ほんとう? ありがとう!」


 王様のお城への行き方がわからなかった女の子は喜びました。2匹のオオカミについて、森の中を進んでいきます。


 しかし、いくら歩いてもお城は見えてきません。どんどん森の奥へ進んでいきます。


「オオカミさん、王様はこんなところに住んでいるの?」


 女の子が問いかけると、2匹のオオカミは、あっはっはっは! と笑い声を上げました。


「王様がこんなところにいるわけ無いじゃないか! ボク達はお前を食べるためにここまで連れてきたんだよ」


 牙をむき、2匹のオオカミは女の子の前後の道を塞いでしまいました。どうしよう、このままじゃオオカミさんに食べられてしまう。女の子は怖くなって今にも泣き出してしまいそうでした。


 しかし、ここぞとばかりに女の子に助けが現れます。


「オオカミ達よ、その女の子から離れるんだ!」


 森の中に声が響きます、男の人の声です。背後を振り返ると、鎧にマント姿の騎士が剣を持ち、その剣をオオカミ達に向けながら立っていました。その姿に、オオカミ達は怯えて逃げだしていきました。


「お嬢さん、大丈夫かい?」


 剣をしまった騎士が、女の子に話しかけました。


「わたしは大丈夫です! ありがとう騎士様!」


 女の子は、助けてくれた騎士に笑顔でお礼を言いました。騎士はニッコリと微笑み、


「近くの町まで送ろう、森の中を女の子がひとりでは危険だ」


 そう言って、近くの町まで騎士が一緒に来てくれることになりました。



「わぁ! とっても綺麗!」


 森を抜けると、そこには一面のお花畑が広がっていました。青に赤、黄色に白、様々な色の花々が美しい絨毯のようでした。


 女の子は思わず駆け出しました。


「ええ、本当に綺麗ですね」


 女の子の後ろから聞こえてくる騎士の声、しかしその声は女の子のような元気な声ではありません。騎士はどこか寂しそうです。


「騎士様は、なんで悲しそうな顔をしているんですか?」


 女の子には騎士が悲しそうにしているのがわかりました。どうして悲しそうな顔をしているのかと聞くと、騎士は少し驚いたようにして言いました。


「そう見えましたか? そう、ですね。私も大切なものを無くしてしまったからかもしれません」


 騎士は苦笑いを浮かべながら頬をかきます。どうやら、騎士も町の人達と同じ様に、大切なものを王様に奪われてしまっているようです。


 女の子は思いました、自分を助けてくれた騎士様のためにも王様を説得して、みんなの大切なものを取り戻してみせると。

 

「騎士様、私、王様に会ってみんなの大切なものを返してくれるようにお願いしてこようと思ってるんです! だから、騎士様の大切なものもきっと戻ってきます!」


 女の子の自信満々な姿に、騎士の顔からも笑みがこぼれます。


「貴女なら、王様を説得できるかもしれません。そうですね……私が貴女を王様のところまで連れて行ってあげましょう」


 こうして、女の子は騎士の案内で王様のいるお城へと向かうことになりました。



 そして、ついに女の子は王様に会うことができました。女の子はお願いをしました。


「王様、お願いです! みんなから奪った大切なものを返してあげてください!」


 しかし、女の子の言葉に王様は頷きません。


「私には大切な娘がいる。可愛いひとり娘だ。その娘のために私は民から奪った物を色々とあたえた、それでも娘は笑ってくれない、暗い顔ばかりしている。いったい何をあげれば娘が喜んでくれるのか、それがわからないと奪ったものは返せない。もし、お前が娘を笑顔にさせてくれたら、みんなから奪ったものを返してやろう」


 王様はそう言って、娘である王女様のお部屋を教えてくれました。女の子は王女様の部屋に向かいます。


「王女様王女様、どうしてそんなに暗い顔をしているのですか?」


 女の子が問いかけても、王女様はため息をするばかりで何も答えてくれません。


 うーん、と女の子は悩みます。どうすれば王女様を笑顔にすることができるのだろう。王女様の好きな物のお話をすれば、笑ってくれるかもしれない。そう考えた女の子は、王女様の部屋を見回しました。

 部屋の中にあるのは、小さい頃の王女様の絵画と花瓶にいけられた豪華な花束でした。


 絵画、お姫様はもしかしたら絵を描くのが好きなのだろうか。でも絵画の中のお姫様はやっぱり暗い顔です。


 だとしたら、お花が好きなのだろうか。


「王女様は、お花はお好きですか?」


 女の子のその言葉に、王女が少しだけ顔を上げて、ようやく女の子の方へと視線を向けてくれました。今がチャンス、女の子はお花の話を続けます


「その花瓶のお花、とても大きくて立派なお花ですね。すごく綺麗だと思います!」


 女の子は花瓶の花を褒めました。しかし、王女様は小さくため息をついて再びうつむいてしまいます。作戦はしっぱい、王女様は笑ってはくれませんでした。


 もしかしたら絵なのかな? 女の子は再び絵画を見て、そして気が付きました。小さい頃の王女様が描かれている絵画に一緒に描かれている花瓶の花が同じ花だということに。


(もしかしたら……)


 女の子は王女様の手を握って駆け出しました。


「王女様! 一緒に来てください!」


 お城の中を抜け街中を抜け、女の子は王女様を連れて駆け出しました。


「いったい何事だ!」


 お城を抜け出してしまったお姫様にお城の中は大騒ぎ、兵隊さん、王様までも一緒になって王女様のことを追いかけてきます。


「ほら、見てください王女様!」


 草原を駆け抜け、女の子は辿りつきました。あのお花畑です。真っ青な空に白い雲、太陽の光に照らされたお花たちはとても生き生きしています。


「王女を連れ出すとは何事だ! お前に王女を頼んだのが間違いだった!」


 王様はカンカンです、顔を真っ赤にして女の子を怒りました。しかし、


「綺麗……。ずっと、ずっとお花畑の中に来たかったの!」


 王女様は笑いました。周りを取り囲むお花たちの中で負けないくらいの笑顔を浮かべました。


「王女様は花瓶のお花じゃなくて、自然の中のお花が見たかったんですよ! だって、ずっと同じお花しか見てなかったんですから!」


 お花に囲まれて嬉しそうな王女様に、王様も嬉しそうです。さっきまで怒っていたのに、笑顔になってしまいました。


「そうか、王女が花が好きだと聞いてとびきり豪華な花ばかり贈っていたが、もっと色々な花が見たかったのだな……。ありがとう、約束通り、民から奪った物はちゃんと返すとしよう」


「やったぁ! ありがとうございます!」


 こうして、王女様を笑顔にした女の子は、みんなの大切なものも取り戻すことができました。女の子の小さな冒険は、こうして幕を閉じたのでした。


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