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ユウキ VS 白夜

「でやぁぁぁぁああッ!!」


『決まりましたー! 決勝戦進出はユウキ選手!!』


 モモが白夜に敗北した後、俺は無我夢中で戦い続け、気が付けば決勝戦への進出を決めていた。まったく苦戦をしなかったわけではない、スピードで上回る敵に翻弄された試合もあれば、一撃で体力の9割を持っていかれるようなパワーを持つプレイヤーとも戦ってきた。それでも、俺は勝ち続けてきた。


 そして、既に決勝戦への進出を決めているもう1人のプレイヤーが、そう白夜だった。苦戦をする試合もいくつかあった俺と違い、苦戦らしい苦戦もなく彼は余裕の戦績で決勝まで上り詰めていた。


 その対照的な戦績から、観客の間で行われている勝利者予想で俺のオッズはかなりの数字だ。要するに、観客のほとんどは俺が『負ける』と思っているようだ。


 でも、確かに差は圧倒的かもしれない。確かに俺も攻撃の無力化スキル《護りの緑》を持ってはいるが、使用する度に再使用までに時間がかかる。一方で、白夜は攻撃無力化のスキルがデフォルトで備わっているのだ、俺が人のことを言うのもアレだが、規格外すぎる。


 それでも、俺は勝たなくちゃいけない。白夜アイツを勝たせちゃいけないんだ。モモのため、そしてこのゲームを終わらせるために。


『さあ、それでは決勝戦に参りましょう! 《ダイヤモンドウォール》の白夜VS、《ブレイブターコイズ》のユウキ!!』


 実況担当の声と共に、テレポートで俺の向かいに白夜が姿を表した。


「流石はボクと同じ宝石柄の持ち主だね、決勝まで上がってくるなんてね。でも、君の力ではボクには遠く及ばない。愛するモモちゃんのため、君には負けてもらうよ」


(渡せないんだよ、お前なんかに……モモは!)


 相変わらずの余裕の笑み、自分が負けることは絶対に無いと信じて疑わない自信に満ち溢れた表情。対照的に、俺は先ほどの準決勝の戦いもあって余裕などない。それでも、当然負ける気なんか微塵も無い。腰を落し、剣を構えて、戦闘の準備を整えた。


「だぁぁぁぁあああッ!!」


 カーンッ! と、試合の開始を告げるベルが鳴ると同時に、俺は最高のスピードで白夜へ向かって飛び掛った。攻撃が無効化されるなら、盾で防がれる前に攻撃を入れるしかない。ヤツの盾は《大盾》の部類で、重量がそれなりにあるため、取り回しに少し時間がかかるのが弱点だ。


(抜けた……!)


 剣の先端が白夜の肩をかすめ、そのHPバーをわずかだが削った。その一撃しか今の攻撃で与えることはできなかったが、それでも此方の方がスピードで勝っている。時間はかかるかもしれないが、勝機が見えた。


「おっと、流石だねユウキくん、ノーダメージでの完全優勝を狙ってたんだけど、食らってしまったか」


 守りを突破されたにも関わらず、白夜は余裕の表情を崩さない。ふふっ、と笑みまで溢している。レベルでは俺のほうが高い、同じ宝石柄の持ち主といっても此処まで余裕を持っている様子を見るに、まだ何か彼には手があるのだろう。それでも、俺のやることはひとつだけだ。


(コイツが余裕をかましているうちに一撃でも多く攻撃を入れる!)


 何度か攻撃を食らっていれば、そのうち余裕も無くなり、焦りが生まれる。その焦りを突こう。


 体勢を立て直した白夜に反撃を食らわぬよう、素早く後方にステップをして距離を開け、剣を構え直した。


「お前にモモは渡さないからな、俺がお前を倒す!」


 もちろん、宝石柄でのステータス上昇効果もあるが、片手剣1本で盾を持っていない俺はスピードではかなり自信がある。武器性能として、一番スピードが発揮されるのはレットが持っている双剣の類だが、それにも負けないくらいの速度は出せるはずだ。


 再び地面を強く蹴って駆け出す、一撃を入れたら下がる。ヒットアンドアウェイだ。


「うーん、強気に出た割に攻撃は消極的なんだねえ、ユウキくんは」


「お前を倒せるならなんだっていい!」



 再び後方にステップ、剣を構え直して突撃。すると、さっきまで盾を構えて攻撃をしのいでいた白夜が盾を構えず、此方に向かって手をかざした。


「すまないが、ボクは暑苦しいのがキライでね。《ダイヤモンドダスト》!!」


 白夜のかざした手が光り、凍えるような冷たい風と共に発生した鋭い塊に体の各所をえぐられた。勢い良く突撃をかけたため、急な回避はできない。まともに魔法を受けてしまい、体力の3割ほどを削られた。


「ぐッ……!」


 攻撃を食らってしまった以上に、その攻撃が《氷属性》だったことがマズイ。氷属性は移動速度の半減がバッドステータスとして付与されることがあるのだが、見事に当たってしまった。距離を詰められなければ魔法主体で戦う白夜の独壇場だ、なんとかバッドステータスが消滅するまで耐え切るしかない。


「さて、君がどこまで耐えられるか、試してあげようじゃないか」


 後方にステップをし、距離をとった白夜が手をかざすと、その手から数発の光線が放たれる。まともにアレの直撃を受けるわけにはいかない。なるべく温存はしておきたかった《護りの緑》だが、今はそんなことは言ってられない。


「《護りの緑》!!」


 スキル名を叫び、発動させると、俺の周囲に淡い緑色に光る障壁が出現し、白夜の光線をかき消した。


「へぇ、君も攻撃無力化のスキルを持っていたとはね。やはり宝石柄の性能は素晴らしい」


「でも、さっきそのスキルを使わなかったということは、乱用はできない。違うかな?」


 白夜の読みは当たっている。このスキルは使用したら次の使用までに時間がかかる。彼の問いに、俺は無言で平静を装うものの、それは肯定、イエスの返事にも等しかった。


「それじゃあ、君の負けだユウキくん。モモちゃんはボクが可愛がってあげるよ、たっぷりとね」


 目の前で舌なめずりをする白夜、その手を頭上にかざすと、周囲の空気が渦を巻いて集まっていき、そこに巨大な氷の塊が生成されていく。上級の氷魔法だ、詠唱に時間がかかる上級魔法だが、相手からの攻撃の心配が無いのなら安心して唱えることができる。


「クソッ……! 届かない……!!」


 一気に距離を詰めることのできるスキル、《月下一閃》はあるが、バッドスタータスのせいで移動距離が半減してしまい、届かない。鉄の塊のように重い足を前に進めながら、手を必至に伸ばすものの、既に俺の敗北は決まったに等しかった。


(ちくしょう……ッ! モモ、ごめん、ごめん……!)


「なにも嘆くことはない、ボクにこのトーナメントで唯一ダメージを与えたプレイヤーなんだからね。さようなら、ユウキくん。《ブリザードスケルツァンド》!!」


 巨大な氷の塊から放出されるいくつもの鋭い氷柱に腕や肩、横腹を切り裂かれ、HPバーがどんどんと減っていく。そして、最後にその巨大な氷の塊の直撃を受け、吹き飛ばされた俺のHPゲージは空中で1になった。


 あぁ、負けた。圧倒的だ。少しも見せ場も無く、一方的にやられてしまった。このゲームを終わらせるどころか、俺のせいで、モモまで……。


 無様に地面にうつぶせで倒れながら、俺は土を力いっぱいに握り締め、体を震わせながら泣いていた。


『すばらしい! さすがはダイヤモンドの持ち主だ。それで、君は何を望む?』


 ステージの中央では、表彰式にも似た、賞品の授与が行われていた。空中に現れたスクリーンの中で、バトルプランナーの男が満足そうに手を叩いている。


「プレイヤーID:******「モモ」の行動権利全てをいただこう。ボクは彼女が欲しい」



 こうして、モモは一切の行動を白夜によって制限され、文字通り彼の人形のようになってしまった。俺は、その事実を受け入れられないまま、いつまでも土を握り締め、涙をこぼしていた。






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