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王都《シュヴァリエ》

「ここが、王都シュヴァリエか……」


 新たに開放された新エリア、《王都シュヴァリエ》。開放されたばかりということで、やはり人が多い。おそらく、最初のイベントに参加をしていないプレイヤーも普通に混ざっているのだろ。


「すごーい! お兄ちゃん見て、お城!」


「すごいな、こっちの世界に来てから見た建物で一番デカいかもしれないな……」


 ミントが目をキラキラとさせながら指差す先に、街のシンボルともいえる雲をも貫く巨大なお城がそびえていた。街自体はレンガや石で作られた中世的なデザインの建物が多く、始まりの街に近い雰囲気だが、やはりお城の圧倒的存在感が街全体の雰囲気を盛り上げている。


 あのお城には入れるのだろうか、ゲーマーでなくとも、こんなに立派な街やお城を見せられればつい考えてしまう。

 しかし、今回は街の探索は後回しだ、来週に控えたトーナメントイベントの概要を確認しなければならない。


「えーっと、今いるのが転移門広場だから。とりあえずは酒場か?」


 あいにく、俺は情報の入手方法に明るくない。ザックあたりなら情報に強いのだが、今回のイベントは彼もパスらしい。今回も別行動だ。となれば、情報も自分で手に入れないといけないわけなのだが、自分で思いつく情報の入手場所といえば酒場くらいしかなかった。

 思えば今まで、情報というものに無頓着すぎた。ソロで活動していた頃は周りに興味が無かったからでもあるのだが。


「どーせ酒場の他に思いつく場所ねぇんだろ」


「う、うるさいぞ……」


 人の気持ちを言い当てるようにくっくっく、と笑い声をこぼしているレット。確かに彼女の言うとおりなのだからぐうの音も出ない。

 とにかく、他に行くあても無いのだから酒場に向かおう。


 新しい街に興奮気味なモモやミントをなだめつつ、いざ酒場に到着すると俺と同じ様な考えのプレイヤーで溢れ帰り、一際賑やかだった。それでも窮屈に感じないのは、この街の酒場が外見から見る以上に大きいからだろう。地下に1階、地上2階建てで3段になるように作られた酒場は、今までの見てきたどの街の酒場よりも大きかった。


「お、おい、アイツ、宝石柄ジュエリーシリーズのユウキじゃねえか?」


「おいおい冗談だろ、そんなヤツが出てくるんじゃ勝ち上がれねぇじゃねぇかよ……」


 酒場の中に足を踏み入れると、どこからか俺の存在に気が付いたプレイヤーの声が聞こえてくる。その声を聴いたプレイヤーがひとり、またひとりと此方に視線を向けてくる。

 なんというか、いつかこういう扱いをされることを覚悟はしていたが、いざこうして奇異の目を向けられると気分がいいものでは無い。


 少し前までは、俺みたいないちプレイヤーが話題に上がることも少なかったと思うのだが、珊瑚龍イベントで《ダイヤモンド・ウォール》を手にいれた白夜が目立ったせいだろう、俺まで目だって話題に上がるようになってしまった。


「レット、悪いけど掲示板にイベント関連の記事あったら持ってきてくれないか」


「あいよ、大変だねぇ有名人さんはよ」


 酒場の隅にある席に腰掛け、あまり酒場の中を動き回りたくないので、レットに掲示板の確認を頼むと、俺のことを茶化しながらも素直に引き受けてくれた。「わたしも一緒に行ってくるッ」とミントも一緒になって掲示板へと向かっていった。


「ユウキくん、大丈夫……?」


「あ、あぁ……あまり目立つのに慣れてないだけだから」


 此方の顔を心配そうに覗き込んでくるモモと不意に視線が合ってしまい、思わず顔が紅潮する。レットとも、ミントとは普通に話していられるのだが、どうしてかモモだけは、ずっと女の子として意識してしまう。

 なんとか笑顔を作り、手を振って大丈夫とアピールするも、彼女の不安そうな表情は消えないままだ。


「戻ったぜ、って何してんだお前ら?」


 程なくして戻ってきたレット達、その手元には掲示板に書いてあった記事がコピーされている。どうやら酒場で正解だったようだ。ホッと一息をつくと、先ほどの俺の姿でも見ていたのだろうか、今日もミントが頬をぷくーっと膨らませている。だから俺は何もしてないじゃないか、いったい何に腹を立てているんだ我が妹よ。


「ええと、トーナメント戦は来週、王都コロシアムにて開催。参加希望者は受付時間内に登録を済ませること、か」


 レットが持ってきてくれた記事には運営からのメッセージよりも詳細に内容が書かれていた。まずは日時、場所、それから参加方法。とりあえず、注意事項を忘れないように、記事のコピーをとり、ウィンドウを閉じた。

 このトーナメントで優勝をすれば、現実に還れるかもしれない。そして何より、ゲームの中で死亡して今も仮死状態で捕らわれているプレイヤー達も解放することができる。

 絶対に優勝をしてみせよう、俺は先行組にも負けないレベルのはずだ。そして何より、このブレイブターコイズがあるのだから。 


「だぁぁぁぁあああッ!!」


 鎧を纏った黒いガイコツ、《ハイスケルトンソルジャー》の剣による切り下ろしを体を回転させ、回避する。背中のすぐ後ろで空を切る剣。攻撃直後で隙が生まれたガイコツへ、叩き込むようにして素早く剣の突きを何発も食らわせた。

 後方に飛ばされ、そのまま地面を転がり光の粒となって弾けて消えていった。


「これで10匹くらいか、少し効率はいまいちかな……」


 宿を出て数時間後、俺は王都シュヴァリエの外にあるフィールドでレベル上げを行っていた。ちなみに、モモ達は街を見てくるらしい。

 俺はといえば、ストイックにレベル上げだ。街を出てすぐのフィールドにガイコツのモンスターがいたため、戦ってみたのだが、あまり効率は良くなかった。


 ふぅ、と小さく息を吐いて剣を背中の鞘にしまい、減った体力を補完するためにアイテムイベントリから《回復薬》を取り出し、栓を開けて口をつけた。


「優勝、できるのかな……俺に」


 つい、そんな弱音が開いた口からこぼれた。


 もちろん、自信が無いわけじゃない、けれど、同じ宝石柄ジュエリーシリーズを持つ白夜も参戦するのだ。いくら宝石柄が強力な武器とはいえ、同じ宝石柄同士の勝負なんて経験したことは無い。いくら敵を倒しても、レベルを上げても、その不安は消えなかった。


「できるよ、ユウキくんなら」


「モモ……?」


 俺の独り言に対しての返事に振り向くと、そこには街に出たはずのモモの姿。


「もちろん、私も優勝狙うけどね!」


 にひひ、と笑うモモの姿と、独り言を聞かれた恥かしさで俺の顔は数時間前と同じ様に赤く染まった。照れ隠しに頭をかく俺の横までやってくると、少し間を置いて彼女は再び口を開いた。


「ユウキくんは、なんで優勝したいの? 何がほしいの?」


「それは……」


 思わず黙ってしまい言葉が続かなかった。問いかけられたことで、再び意識してしまったのだ、俺をかばって目の前で死んでしまったアリーシャのことを。

 そんな俺に気を遣ったのか、彼女が先に口を開いた。


「私はね、お母さんを探してるの。この世界にいるはずなんだけど……見つからなくって」


 そう、困ったように苦笑いを浮かべるモモ。


 お母さん、ということはつまり、彼女は母と親子でゲームにログインをしていたのだろうか。そして、当日の騒ぎの中ではぐれてしまった、というところだろうか。


「フレンド登録とか、してなかったのか……?」


「うーん……」


 困ったように苦笑いを浮かべたまま、頬をポリポリとかく姿を見ると、どうやらしていないようだ。ただ、何万人とプレイヤーがいるLGOの世界で、フレンド登録をしていない、特定の人物を探し出すのは困難だろう。それこそ、今回のようなイベントで探し出すしか無いのかもしれない。


「はい、次はユウキくんの番」


 自分は話した、というように急かしてくるモモ。


 優勝して、悪いことを考えているわけではないのだから、別に話しても構わないのだが、やはり自分をかばったアリーシャのことを話すのには少し抵抗があった。もしかしたら、目の前で女の子を見殺しにしたと思われるかもしれない。


 ただ、この状況では誤魔化すのも、下手にウソをつくのもできそうにない。モモの前では正直に話そう。そう決意をして、俺はゆっくりと口を開いた。






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