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砂漠での遭遇


「よぉ~レットじゃねぇか、ヒヒッ。新しいヒモでも見つけたのか? あぁん?」


 それは俺とモモ、レットでフィールドに狩りに出ている時だった。砂漠の街に隣接するフィールド、《大砂丘》。灼熱の太陽が照りつけ、何重にも砂の山が連なる巨大な砂漠が。そこで、偶然にもレットのことを知る《スカルストラップ》のメンバー一団と出くわしたのだ。彼らは砂漠の街を拠点にしているというから、遭遇したことに何も不思議なことはない。


「ヒモなんかじゃねぇよ、もうギルドには戻らない。団長ヘッドに伝いといてくれよ」


 強気に言い返すレットの言葉に、汚れギルドの面々は「はぁ?」と納得がいかない様子だ。


「てめぇなぁ、はいそうですか、とでもいくと思ってんのか? てめえだって今までギルドのカネ使って生きてきたんだろうが」


「それは……」


 そこで彼女の言葉は途切れた。今まで、ギルドで生活し、そこの資金も使っていただけに後ろめたい気持ちもあるのだろう。ただ、だからといって彼女をこのままギルドに戻すわけにはいかない。俺は彼女と男達の間に割って入り、彼女を庇った。


「彼女はもう俺らの仲間なんだ、やめてくれ」


「ユウキ……」


俺の介入にレットは驚いたような表情で此方へ視線をむけた。


 彼女の前に出たことで、汚れギルドの男達の機嫌を損ねてしまったらしい、「邪魔するんじゃねえ」といった形相で睨みをきかせてくるが、この程度怯むこともない。俺は彼女の前に位置したまま、一歩も動かずに表情を強張らせた。


「このガキ、英雄気取りのつもりか? 俺達ゃPKの常習者よ、ガキ1人くらいなんてことはねぇんだぜ?」


 威圧をしているつもりなのだろう、PKされたくなければしゃしゃり出てくるなと。しかし、この程度のプレイヤー達に負ける気は全くしなかった。装備を見た限りでは中堅プレイヤーといっても良さそうだが、これといって特出して何かがあるわけでも無い。


「英雄気取りかどうか、試してみるか?」


「んだと、このガキ……」


 頭の沸点が低いのはゲームの不良も現実の不良も同じなのか、剣を鞘から抜いて威嚇する俺を前に、汚れギルドの4人も武器を手にとった。構成は、小型のハンマーのような《メイス》が1人、《片手剣》が1人、あとの2人は《ナイフ》か。これならなんとかなりそうだ。


「モモ、レット。下がってて、コイツらは俺がやるよ」


 「お、おい!」と俺を止めようとするレットの手をモモが掴んで制止した、モモは俺がこんな奴らに負けないということを分かってくれているようだ。レットの手を掴んだモモが現場から離れるように数歩、駆けていった。背後から「ユウキ君やっちゃえー!」とモモの声援が聞こえてくる。


「馬鹿かコイツ、ひとり……で?」


 1人の男がこちらを馬鹿にするように口を開く。が、その言葉が終わる前に俺はメイス持ちのプレイヤーを《月下一閃》にて一気に距離を詰めて吹き飛ばした。もちろん手加減はしている、男のHPバーは一気に1/4が削られ真っ赤に変化したが死んではいない。最初から殺すつもりだってもちろん無い、PKプレイヤーの仲間入りはゴメンだ。


「はぁぁあッ!!」


「ぐぁッ!?」


 続いて片手剣の男、なんというか構えが弱々しい。なんで今まで生き残ってこれたのか不思議に感じてしまう。力を込めた一撃で剣を弾き飛ばし、空中でクルッと体を一回点させ、男の体を蹴り飛ばした。


 ザザーッと男の体は地面を滑り、同時に減っていくHPゲージは男の体が止まると同時に赤エリアで停止した。さて次はどちらにするか、ナイフ持ちの男2人へ視線を向けると「ひぃッ!?」という情けない声が聞こえてきた。


「なんだ、降参か?」


 俺は残ったナイフ持ちの2人にも剣を向けて戦闘の意志を示した、しかし。


「あ、あぁ。その女はもうどうでもいい、だから見逃してくれ!」


 はぁ、とため息をついて俺は剣を背中の鞘に戻す。どうでもいいなら最初から絡まないでほしかったのだが、本当に不良のこういうところは面倒だ。

 ともあれ、これで終わってくれたのはありがたかった、悪あがきをされて、PKしちゃいましたなんてことになるのも嫌だ。


「おまたせ、レットのことはもういいってさ」


 仲間を助けに駆け寄る男達を背に、待たせていた2人の元に駆け寄る。なんだかカッコ付けてみせたような気がして恥かしかったが、笑顔のモモに、レットも驚いてはいるが嬉しそうだった。ふたりのこんな顔が見られたのだ、英雄気取りも悪くはないかもしれない。


「ユウキ、お前つえーんだな! 見直したよ!」


「あははは……良い武器を使ってるってだけだよ」


 目をキラキラさせているレット。本当はレベルもあの男達より10以上は差があったと思うが、俺は照れ隠しに武器のおかげと笑ってみせた。モモも心配はしていかった様子だが、嬉しそうだ。

 さて、チンピラは片付いたし、目当てのモンスターである《砂漠のモコモコ(デザート ウール)》を狩りに戻ろうとした時だった。


「この……クソガキがぁぁあああッ!!」


 いつの間にか、俺の背後に最初に倒したメイス持ちの男が迫っていた。それもメイスをこれでもかと振り上げている。ターゲーットは、もちろん俺のようだ。ハンマーほどではないとはいえ、メイスの破壊力もあなどれない。もし頭に直撃を受けたら防御パラメータが中途半端な俺では……。


 ヒヤリとしたその瞬間、間近まで迫っていた男の体がドサッと地面に崩れ落ちた。その体は光の粒となり空中へと消えていく。やったのは俺、ではない。俺は剣さえ抜けていないのだから。

 いったいだれが、と男がいた少し先を見つめると、先ほどまで俺の隣にいたレットが双剣を手に立っていた。双剣は全ての武器の中でも攻撃速度が段違いに速い、彼女がやったというなら説明もつくが。


「れ、レット! なんてことを!」


「はぁー……。どのみちアタシは汚れギルドの一員だったんだ。今更PKのひとつやふたつ、なんてこたぁねえよ」


 そう苦笑いを浮かべる彼女の顔は、なんだかとても悲しそうだった。それもそうだろう、俺の質問にもPKについては怒りを露にして否定していたのだ。それを、彼女はついに犯してしまった。


「て、てめぇレット、やりやがったな……! 団長ヘッドに報告してやる!」


 現状では勝ち目が無いことを彼らはしっかりと分かっているらしい、現状唯一の負傷者である片手剣の仲間を回復させると、いそいそとその場から退散していった。

 しかし、現状彼女はまだ《スカルストラップ》の一員なのだ。仲間殺しの汚れプレイヤーとして手配されてもおかしくはない、その相手がたとえPTの仲間を襲おうとしていたとしても。


「いいんだ、いいキッカケになったさ。これでひと思いにギルドを抜けられる」


「れ、レットちゃんは悪くないよ! 悪いのはあの卑怯な人達なんだから!」


 PKはしないと誓っていただけに、彼女は人を手にかけたことに動揺を隠せないようだ。そんな彼女に俺よりも早く反応したのはモモだった。レットの手を強く握り、まっすぐな目で彼女を見つめながら元気付けている。


「あぁ、レットは悪くない。それに、このゲームが終われがアイツだって現実に還れるんだ、それまで眠っててもらおうじゃないか」


 レットの手をわずらわせてしまった自分を情けなく思いながらも、俺は彼女のため、笑顔で彼女の肩をポンッと叩いた。そうだ、現実に戻ればいいだけの話なのだから、やってみせよう。俺のために手を汚してしまった彼女への、俺ができる精一杯のお礼なのだから。

 


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