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ギルド《スカルストラップ》

「少年を帰還させたのは優しき男性プレイヤー、か。俺なんかよりよっぽど英雄ヒーローじゃないか、ザック」


「やめてくれや、背中がかゆくなっちまうぜ」


 現実で大きなニュースとなっていた、LGOの何万人にもおよぶ未帰還者問題。様々な対策がとられる中、ユーザーへの影響が心配され、有効な手段は打てずにいた。

一方で、発売元の企業はあくまでも「不具合」との説明を押し通しているとか。


 そんな中、世間を騒がせたのが一人目の帰還者、都内某所に住んでいる小学生の男の子だった。各種報道機関やマスコミの食いつきはすごく、少年が目を覚ました病院には多くの取材陣が押しかける騒ぎになった。そして、その少年が語ったのが「怖い顔のお兄さんが助けてくれた」とのことだった。プレイヤー名、正確な容姿については言及がされておらず、ゲーム内でプレイヤーが特定されることもなかったが、俺はその本人を知っている。


「それよりユウキ、ちぃっとこれ見てみろや」


 照れ隠しなのか、話題を変えようとでもしているのだろう、ザックから送信されてきたLGNロストグラウンドニュースのトピックには『増える偽鍵詐欺』の見出し。鍵の存在が確かなものになったことで、その偽者物を作って儲けている連中もいるのだ。更には、鍵をゲットしたプレイヤーが襲われる被害も出ているとか。その内容も、もちろん記事になっていた。


「でも、俺でも鍵を手に入れるのはギリギリだったんだ。そんな簡単に実力のあるプレイヤーを襲って勝てるのか?」


 自慢では無いが、おそらく俺はザックや彼のギルドメンバーと比べても明らかに強い。もし、何かのアイテムを狙って襲われたとしても、まずやられることは無いだろう。それは他のプレイヤーにも言えることだ。ましてや俺みたいなソロで鍵を手に入れるなんて無茶をする馬鹿はそうそういないだろう。PT戦ともなれば戦いを挑む方にもリスクが生じる。いくらなんでも、PKをしているプレイヤー側が、そこまで命を賭けるのは納得がいかない。


「その下だよ、下」


 どうやら俺が眺めていた記事の下にヒントがあるらしい。ザックが指を下に向けてジェスチャーをしている。下の記事のタイトルは、『増えるPKの被害』か。PKつまりプレイヤーキルとは、プレイヤーがプレイヤーを意図的に攻撃し、ダメージを与える、または死亡させることだ。PKとだけ言う場合は後者、死亡させた場合が多い。記事には、近頃はPK趣味のプレイヤーが集まり、ギルドなんかも結成されているとか。その記事を見てようやく納得した。PKを行う連中はなにも正々堂々と戦おうなどとは最初から思っていないのだ。数人がかりで1人を、もしくは少数を狩っている、正しくゲームの感覚なのだろう。たが……。


「こ、この世界でPKなんてされたら……」


「あぁ、どんな方法だろうと死ねば蘇生はされねぇ。ゲームを誰かが終わらせるまでな」


 人が人を、意図的にキル、つまりは殺している。むろん、街の中では攻撃はできない。もし剣を誰かに振るっても防御障壁によって弾かれてしまう。ただ、それがフィールドやダンジョンではPT仲間以外なら攻撃ができるのだ。それ故に、PKも横行する。


 警察もいなければ法も無い世界は、徐々に雲行きが怪しくなり始めていた。 





「へへッ、ちょろいちょろい」


 砂漠のジャンナその裏路地を、全く迷う様子もなく少女が1人歩いていた、カネの入った袋をポンポンと空中で躍らせながら。


挿絵(By みてみん)


 その袋のカネはモンスターを倒して手に入れた素材を売ったわけでも、ダンジョンの宝箱から手に入れたわけでもない。奪ったのだ。

 金を持っていそうなソロのプレイヤーに声をかけ、待ち合わせにしようと言ってフィールドに誘い出し、あとは脅すだけだ。こんな簡単な手口にも関わらず、彼女はこれで何度も大量の資金を得ていた。

腰にマウントした超レアの双剣も、そのカネで他のプレイヤーから買い取った物だ。名前は《スコーピオンテイル》サソリの尾のように鋭く、麻痺効果が付与された強力な武器だ。


「戻ったぜー、これ、今日の収穫」


 くもの巣のような路地裏を縫うようにして歩いていき、とある建物の扉を開ける。中にはいかつい男が数人と、露出の激しい服装の女性が2人ほど。服の露出については彼女も人のことは言えた立場ではないのだが。中央のテーブルにカネの入った袋を放り投げ、彼女は空いているソファにボフッ、と腰を下ろした。

部屋の中は窓が全て閉め切られ、薄暗く、酒と煙草の臭いで充満している。換気をまったくしていないだけに、酒場の比ではない。


 そこは薄汚れた砂岩作りの《ギルドハウス》。ギルドの拠点のような場所で、メンバー達の活動拠点であったり、集会所であったり、その用途は様々だ。ただ、彼女が籍を置くギルド《スカルストラップ》はPKから電子ドラッグの売買まで行う汚れギルドだ。こういった裏路地に《ギルドハウス》を構えているほうが、居心地が良かった。


「なんだよレット、ま~たカツアゲかぁ? そろそろプライドなんか捨てて殺しちまえよ? 楽しいぜぇ~? ヒヒッ」


 疲れたように「あぁー」と唸り声上げてソファに体重を預ける彼女を、痩せ顔で隈のあるスキンヘッドの男が笑みを浮かべながら名前を呼び、煽った。彼もまた、このPKギルドの一員であると同時に一方的に彼女、レットのことをいたく気に入っているのだった。

 彼女は汚れギルドに籍を置いていながら、まだPKをしたことは一度も無かった。戦闘の腕に自信がある彼女は、タイマン以外で人を攻撃はしない、そんなプライドがあった。だから毎回武器である双剣は脅しにしか使っていないのだ。


「うっせ、人のやり方に口出しすんじゃねぇよ」


 シッシッ、というように痩せ男を一瞥しソファに寝転がった。もう放っておいてくれ、お前らの相手なんかしたくない。そんな意思表示だったのだが、痩せ男はそれにも構わず露出の多い服装の女性プレイヤーの腰を抱き寄せ、レット、彼女に向かってニヤリと気味の悪い笑顔を向けた。


「つれねぇなぁ、そんなに疲れてるなら一緒にドラッグ決めようぜぇ? 疲れも吹っ飛ぶし、最高に気持ち良いからよぉ」


 電子ドラッグ、それは《調剤スキル》が高いプレイヤーがシステムの抜けを利用して金策目的のために作った、現実で言うところの麻薬のようなもの。精神に特殊な信号を送り、まるで空を飛んでいる、無重力にいるような軽い気持ちになれるという代物だが、その後遺症は男が抱き寄せた女性プレイヤーを見れば分かる通り、虚ろな表情を浮かべ、放心状態に陥ってしまう。


 そんな廃人状態はゴメンだと、彼女は今度こそ男を無視して背を向け、眠りについた。




 それから約数時間後のことだ、彼女が目を覚ましたのは。正確には、起こされたと言った方が正しいか。「おい、レット。楽しい狩りの時間だぜぇ~」とニヤニヤ笑う男の姿が目を覚まして一番に視界に飛び込んできて、彼女は酷く気分を害された。


 ここで言う狩りはレベル上げのためにフィールドに出てモンスターを狩るのとは訳が違う。対象はもちろん人、プレイヤーだ。それもPTだろうが関係無い。もしPTだとしても、数人で追いたて、分散させ、最終的には個別にして撃破する。それがこのPKギルド《スカルストラップ》のやり方、だ。


「ふぁ、あ……まだ全然寝てねぇのに」


 ぶつくさと文句を言いながら外に出ると、砂漠の街の空には綺麗な星空と丸い月が浮かんでいた。


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