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ピラミッド 最上フロア

「ようやく、ここまで来た……か」


 第1フロアでガイコツの兵士を倒し、その後順調に階を登ってきて、ようやく最上階と思われる部屋へと到着をした。


 ピラミッド第10フロア。ひと際大きなホールになった部屋に、壁には惜しみも無く金や宝石で装飾が施されており、松明の光を反射して部屋の中を鮮やかに彩っていた。

 そして、今までの途中の階層なら、次のフロアへと続く通路がある位置に、装飾を施された祭壇。その中央には宝箱がひとつ置かれていた。


 おそらく、あの宝箱の中にこのピラミッドの中の最重要アイテムが眠っているのだろう。

 ピラミッドを登ってくる道中、トラップや罠の類に相当するような仕掛けは無かった、ここは素直に敵と戦い、力試しをするダンジョンなのだろう。それ故に、宝箱の存在は俺の心臓をドクンッと高鳴らせた。


 しかし、最上階の第10フロアということもあり、待ち構えるボスは巨大だった。3メートルはあろうかという金色の巨体を二本足で支え、腕は4本もある。いつかのヘビを思い出すようなキレ長の目はまっすぐにこちらを見つめている。アイコンの横に表示された名前は《秘宝の守護竜》。


 なんでだろうな、こんな巨大なドラゴン相手に、全然負ける気がしないな。それにちっとも怖くない。


 背中の鞘から剣を抜き、一歩一歩、ドラゴンへと近づいていく。俺とドラゴン、お互いの距離が近づいても、ドラゴンは微動だにしなかった。ただ、静かに息を吐き出しているだけだ。ほこりっぽい部屋の中、その吐息が空中の砂埃を散らしていく。


「うぉぉぉぉぉおおおおッ!!」


 先に動いたのは俺だった。剣を握り締め、ドラゴンへを緩いカーブを描いて突進。その胴体に切りかかる直前に《連撃の影》のスキルを発動させ、最高のスピードで何回も何回も繰り返し切りつけた。


(駄目だッ……! 全然浅い!)


 実に、合計30回近い攻撃も、ドラゴンの体に傷を造るだけで、その頭上のHPバーは10分の1も減っていなかった。


「グルルルッ……。グァァァァアアアッ!!」


 微動だにせず、俺の攻撃を受けていたドラゴンだったが、俺の攻撃に隙が生まれると、まるで話しにならないとでも言うように片手で俺の体をなぎ払った。


「あがッ! ……ッ、くそッ!!」


 ドラゴンの手によって弾き飛ばされ、壁に強く叩きつけられた俺は、気のせいか視界が歪んでいるような気がした。しかし、それよりも数メートル先で息を深く吸い込むドラゴンの姿に、俺は夢中になって叫んだ。


「《護りの緑》!!」


 スキルが発動するのとほぼ同時に、ドラゴンが少しだけ体を仰け反らせたかと思うと巨大な火球を吐き出した。まるでプロの投げる野球ボールのように飛んでくるその火球は、《護りの緑》の防御障壁に直撃して、大爆発を起こした。

 もし、これが直撃していたら、今頃俺はやられていたのだろう。俺を覆うドーム状の障壁の周りの壁や床は、火球の爆発により大きく削られていた。


 さて、どうしたものか。また同じような展開にでもなったりしたら、今度は火球を防ぐ手段は無い。直撃すれば、まず生きてはいられないだろう、しかし、ソロな俺には力押し以外に道は無い。

 力押しといっても賢くいこう。まずは防御重視で戦いを続け、なるべくドラゴンの様々な場所に攻撃を当てる。その中で最もダメージの大きい部位に連撃を集中させて一気に押し切る。


「でやぁぁぁぁあああッ!!」


 胴体は先ほども攻撃したが駄目だ、攻撃がほとんど通らない。一気に振り下ろされる腕を後方へジャンプして避け、その手に剣を突き刺すようにして飛び乗ったが、ここもダメージはあまり入っていないようだ。


「うわッ!? うわぁぁぁあ!?」


 ドラゴンの目がギョロッと、腕に飛び乗った俺のことを捉え、次の瞬間には俺が乗ったままの腕を軽々と振り上げ、俺の体は空中へとなげ出された。


(ヤバイッ! 空中じゃ、攻撃が避けられない……!!)


 空中に放り出され、満足に回避ができない俺をめがけて、ドラゴンの口が迫ってくる。火球もそうだが、あの強靱そうな顎に噛み砕かれたら、どう考えても生きてはいれなさそうだ。


(そうだ、口の中なら……!)


 それは一瞬の思いつき。攻撃をしようと口を開くドラゴン、その口の中は明らかに柔らかそうだった。ここなら攻撃が入るかもしれない。俺はドラゴンの口の中へ向けて武器を構え、スキルを発動させた。


「くらえ……!! 《月下一閃》!!」


 何度も使ってきた、使い慣れた技のひとつ、《月下一閃》。雲の隙間から月の光が射すように、一直線に素早く切り抜ける技だ。俺を捉え、閉じようとしていた口の間を一瞬で駆け抜け、そして床に着地。


「グギャァァァァァアアアアアッ!?!?」


 やはり、効果はあったようだ。口の中を切り裂かれ、ドラゴンは苦しみに暴れまわっている。「やった!」ようやく掴んだ手ごたえに、思わずそう叫んだ時だった。

 口の中を切り裂かれたドラゴンの、怒りを含んだ瞳が俺を捕捉し、その体を回転させたドラゴンの尻尾が、俺の体を吹き飛ばす。


「しまっ……!?」


 ゴロゴロを床の上を何回も転がり、身を起こすとドラゴンは既に体を仰け反らせ、火球は吐き出す直前だった。回避は、間に合わない。防御スキルのチャージもまだ終わっていない!


(避けられない……!)


 直撃を覚悟し、瞳を固く閉じて両腕を前にしていると……。


「せーのッ……でーりゃぁぁぁああッ!!」


「ギャァァァァアアアアアッ!?」


 聞こえてきたのは、なんだか聞き覚えのある声、そしてバゴォォォンッ!という爆発音と、ドラゴンの悲鳴だった。


 爆発? 少なくとも俺には当たっていない、外したのか? だとしたらドラゴンの悲鳴は……?


 恐る恐る目を開くと、目の前にはハンマーでドラゴンの頭を叩き潰しているモモの姿。おそらく、ドラゴンは怒りに我を忘れて周りが見えていなかったのだろう。全開に開いた顎と、火球を頭ごと叩き潰され、火球は口の中で爆発。


 悲惨にも、頭がハンマーの形に陥没したドラゴンは目も爆発で潰され、苦しみもがいている。


「ユウキ君! 今がチャンスだよー!!」


 爆発で吹き飛ばされたモモも、直撃ではなかったため大したダメージではなさそうだ。ピョンッと起き上がってドラゴンのほうを指差しながら此方に向かって声を上げている。


「助かったよ……! サンキュー!!」


 剣を片手に、ドラゴンへと突進する、あの苦しみ様、きっと頭が弱点なのだろう。這い蹲り、苦しみもがいている今が絶好のチャンスだ。


「《連撃の影》!! はぁぁぁぁああああッ!!」


 スキル、連撃の影で分身を作り、視界が元に戻っていないドラゴンの頭に斬りかかった。一撃、また一撃と攻撃をする毎に、「グギャァァァアアッ!?」とドラゴンが叫び、怯む。そこを無心になって剣を振るい続けること約40連撃。金色のドラゴンは短い悲鳴を上げ、光の粒となって弾けとんだ。


「終わった……」


 ドラゴンが消えた広間の中心で、俺はペタンと尻餅をついた。一気に体の力が抜け、とても立てそうにはなかった、一瞬だが、死だって覚悟したのだ。


「ユウキ君の馬鹿! ひとりで行っちゃうなんて信じらんないよッ!!」


 爆発に吹き飛ばされたモモは結局大丈夫なのだろうか、生きていることは確認できたが。そう、モモを探すように視線を泳がせると、いた。

 いつの間にか真後ろに。しかも彼女愛用のハンマー《アイアンスタンプ》を高々と振り上げている。

 待って待って! それドラゴンの頭を陥没させるような武器なんですよ! 人に向かって使っちゃ駄目だって!


「ご、ごめんなさい……」


 俺は謝ったそれも凄く丁寧にだ。正座をして、両手を膝の前でそろえ、頭を下げる。素直に謝っておかないと、命にかかわってくる。


「もう……。じゃあ、さっそくお宝の確認しよッ!」


 モモは、未だに体の力が入らない俺の腕を掴み、無理矢理立ち上がらせると、祭壇に置いてある宝箱へと歩いていった。パワー極振りな彼女からしてみれば、優男の1人を支えるくらい、なんてことはないのだろう。


「ほら、ユウキ君! 開けてみて!」


 モモに急かされるまま、ダンジョンやフィールドで見かける木製の宝箱とは違った、金色の宝箱にそっと手をかけ、蓋を開けた。宝箱の中には、錆びた鍵がひとつ。


 鍵、それはこのゲームに閉じ込められた日、責任者を名乗る女性から提示された、現実へ還るためのヒント。もし、この鍵がそうなら、数ヶ月に渡って俺たちを閉じ込めていた世界は、今日で終わることになる。


 思わず震える手で、宝箱の中の鍵を拾い上げ、アイテムの説明ウィンドウを開いた。


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