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先行体験者

「へへッ、ラッキーだよなあケン。まさかLGOのベータテストに当選するなんてさ」


「そりゃアルク、俺達の日ごろの行いの成果だろ。ま、今はこうして学校フケてるけど」


 現実の世界では学生なのだろうか、学校という単語を含んだ会話、あはははと笑みをこぼしながらケンとアルクと呼び合う男子が二人、草原を歩いていた。


 突き抜けるような青い空と流れる雲、草原の草木を揺らす風までもが現実と何ひとつ遜色の無い世界。長い時間この世界に身を置くと、ここが電子世界の仮想空間であることを忘れてしまいそうだ。そのくらい電子空間ここにはリアルな世界が広がっている。


 この、地球よりも遥かに広い世界を舞台にしたのが、今話題の新作大型VRMMORPG、『The Lost Ground Online』、通称『LGO』だ。

 『最高のリアリテイ』と『最高の自由』をうたった広告の見出しは、各種雑誌やCM、TV番組でも取り上げられ、今までの体験優先で行動範囲の限られたVR系統のゲームとは違った、一周りも二周りも大きな世界は人々から多くの期待を集めた。


 その期待を集める役割に一役買っているのが、一般的にはベータテスター、ここでは『先行体験組』と呼ばれる人達だった。『先行体験組』と呼ばれる訳は、彼らは一般での口コミによる広告効果を狙った抜擢だからだとか。情報の漏洩を防ぐため、従来のようなベータテストは開発企業グループの関係者が行ったらしい。


「ぉ、モンスター発見。それじゃやりますか!」


 そんな開発の裏話はゲームを遊びたくてウズウズしている彼らにはどうでもいい小話だろう。よほどのコアなファンでなければ漫画で作者の後書きを読まないのと同じだ。


 今の彼らは目の前に現れたモンスター、玩具のような鎧の兵士を倒すことに意識が向いている。

 

 戦闘自体は既存のVRMMOで体験しているのだろうか、モンスターを見つけ剣を手に取った細身の少年、アルクの動きに初々しさは無かった。一方で少し小太りな少年、ケンの方はコマンドに手こずっているようだ、モンスターとの戦闘態勢に入ったにも関わらず未だに剣すら握れていない。


「ほら、なにやってんだよ。最初はここのコマンドで武器を出して……」


 ゲーム慣れしている細身のアルクがコマンドの開き方を教えている最中、玩具の兵士が槍を突き立て、アルクへと猛スピードで突進をしてきた。


「しまっ……!!」


 しまった、そう言おうとした途中で言葉は途切れ、表情と一緒に動きまで固まってしまった。

 ザクッ、という生々しい音と共に槍は少年の胸に突き刺さり、貫いていた。驚きの表情のままで固まる少年の額には、生々しく汗が浮かびあがる。

 

「大丈夫か、アルク……アルク?」


 攻撃を受けた仲間を心配すると同時に、自分がVRMMO初心者なことをいいことに、オドロかせようとでも思っているのかと、仲間のリアクションに疑惑を抱き。


「そんな演技いいからよ! 早く教えてくれって!!」


 そう言って、アルクの肩を叩くと、その体はドサッと音を立てて地面に崩れ落ちた。それと同時に仲間への疑いは無くなり、逆に今の状況に強く危機感を抱くことになった。


「お、おい、一撃って、嘘だろ……」


 まさか一撃でやられるなんて、いつのまにかそんなに強いモンスターのいるエリアに入りこんでしまったのだろうか?いや、それよりも今は自分の心配をしたほうがいいのかもしれない。少年の胸から槍を引き抜いた玩具の兵士は、次のターゲットを自分の方へと変更し、兜の奥の瞳を不気味に光らせた。


「HP0って、普通のRPGなら死んだら町に転送とか……!」


 ひとり、倒れた仲間の体を支えながら、その頭上に表示されたHP、真っ赤になったヒットポイントのゲージと「0」の文字に慌てる少年。今まで遊んできたRPGのセオリーを思い出しながら仲間の蘇生方法について考えを巡らせるが、その答えが出るまで待っていてくれるほどモンスターは慈悲深くはなかった。次の獲物へターゲットを変更し、一歩、また一歩と槍を手に少年へ近づいてくる玩具の兵士。


「ひ、ひぃぃぃぃぃいいいい!!」


 ゲームの世界とはいえこのままでは自分も訳が分からないまま殺されてしまう、その恐怖から仲間へ背を向け、前のめりになりながら全力で駆け出し、逃げた。その背後、モンスターの槍で胸を貫かれた少年の体は、爪先から光る硝子の砂のように変化していき、風によって空中へと舞い上げられ、消えていった。



ずっと描きたかったVRMMOモノの小説を書いてみました。

小説とした形で文章を書くのはこれがほぼ初めてなので、至らぬ点などあると思いますがご容赦ください。

また、感想やご意見などありましたら、是非コメントいただけると嬉しい限りです!

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