表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

儚く舞うは古の誓い

作者: anko

此処は西の国。火之神が災いを退け、民を幸福へと導くという火神教が信仰される地。


今年は奉納の祭りを盛大に執り行う祈年祭の当たり年。王都は活気付き、人々は準備に明け暮れていた。



伽羅(きゃら)様!」



かく言う此処は、祭りの催しでも最も注目される奉納の舞、炎舞 -エンブ- を執り行う巫女たちの詰所。響き渡るは女の声。



亞鶴(あづる)、聞こえているわ」



応えた声はとても弱々しく、いまにも消え入りそうにか細い。



「伽羅様、ひどい顔色ですわ。とにかく此方にお座りになって!!」



亞鶴と呼ばれた女はぎょっとした顔で隅の椅子へと伽羅を導いた。



「さぁ、これをゆっくり飲んでくださいまし。随分と身体も冷えておいでです。大丈夫ですか?」



あたたかい湯呑みを手渡し、気遣わし気に声をかける。それほどまでに、伽羅は存在そのものが消えてしまいそうなほど儚く、動揺がにじみ出ていた。



「ありがとう、少し楽になったわ」



「無理もありませんわ、とても大きな舞台ですもの。」



伽羅は、祈年祭の奉納の舞、炎舞を執り行う巫女の中でも総代に選ばれ、最も注目される中心で他の巫女を従え舞うのである。



祭りを取り仕切る王の宰相、緑庵(りょくあん)からの勅命ではあったが、自分にそんな大役が務まるのか、甚だ疑問が残る伽羅は、不安とプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。



「亞鶴…どうして私だったのかしら…」



ぼーっと窓の外、舞台となる神台を見つめて、伽羅はぽそりと呟いた。



「伽羅様、御自身では役不足、と?」



亞鶴は神妙な面持ちで問いかける。



「わたしは知っております。伽羅様の舞には迷いがないことを。民の心を、思いを、火之神へ捧ぐ力があると。お忘れですか?貴女様は、火之神の愛娘として神託をお受けであることを。」



伽羅の左眼には火之神の象徴、火の鳥の紋章が刻まれている。普段は意識しても見ることは叶わぬが、ひと度舞い始めると、左眼の紋章が舞の力に呼応するように淡く存在を主張し、伽羅は淡い炎に包まれるのだ。まるで、火之神をその身に宿しているかのように神々しいその姿から、気が付けば民から神の愛娘と呼ばれるようになっていた。



伽羅は、1度目を閉じ、深く息を吸い込んでからまっすぐに亞鶴の目を見つめ返した。



「…‥いかなる理由があったとしても、勅命を、仰せつかったのですもの。わたしはわたしの精一杯で舞うだけよ」



一切の迷いのなくなった目を見つめ、亞鶴は首肯した。



「お心が、お決まりですね」



ひとつ頷くと、伽羅は立ち上がる。

古の誓いを、火之神に捧ぐ舞を、奉納するために。



松明が煌々と揺らめく夕闇の中、祭りの演舞は幕を上げる。

神台に上がるは選ばれし巫女。炎を模した紅い飾りを思い思いに身に付け、粛々と清らかなる時が流れる。


列がぱっくりと割れ、その人の間から歩み出づるは淡い炎を纏った伽羅だった。



「おぉ…」


「伽羅様ー」


「神の愛娘様…」



民の声が上がる中、巫女達は舞続ける。



《出づるは西国 火之神の元 我等の神よ 尊き神よ 厄を退け 幸と栄を 敬愛したる 我らの神よ 祝詞に交え 此処に願う》



一歩一歩、歩を進め、手の形を変えながら祝詞を唱え舞う巫女達。伽羅を纏っていた淡い炎は次第に形を変え、巫女達を、そして一緒に祝詞を口にする民達を包むように大きく、大きく広がっていった。




今年も西の国は、火之神の加護の元、平和で幸福な国として新たな年を迎えたのだ。




「火之神様…願いを聞き入れてくださってありがとうございました。‥‥わたし、まだまだがんばりますから。」



祭りを終えた静寂の中、闇夜を仰ぎ見ながらふと独り言ちた伽羅であった。





END.

2015/3/7

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負


拙く書きなぐってしまいましたが読んでいただけて嬉しいです。よければ感想お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ