過去⑦
部屋に残されたヒロは、碧から聞いた事を考えていた。
(碧はいつも一人だったんだ。一人でいるのが当たり前になって・・・他人を必要としなくなったんだ。だから、あいつが言ったように誰にも心を開かなくなったんだ。でも、僕は碧といたい・・・今まで一人でいた碧の支えになりたい)
ヒロは上着を着ると碧を探しに部屋を出た。
(碧にしてあげられる事・・・)
ヒロはホテル近くの海に向かいながら考えてみた。
(碧は一人じゃない。僕がいるんだ・・・僕をもっと必要として欲しい・・・)
砂浜を歩きながら碧を探していたヒロは、波打ち際に人影を見つけた。
(碧・・・)
碧に近づきながらヒロはある決断をした。海を眺める碧の隣に立つと、ヒロも海を眺めた。
ヒロ「落ち着いた?」
碧「・・・うん」
ヒロ「僕も」
しばらく二人で海を眺めた。
ヒロ「碧・・・一緒に暮らそう」
碧「・・・え?」
碧はヒロを見た。
ヒロ「僕と一緒に暮らそう」
しばらく波の音だけの沈黙が続いた。
碧「・・・あの、暮らすって、その」
ヒロ「あ! ちなみに暮らさない? って聞いてないから」
碧「えーっと、よく意味が分からないんだけど・・・」
ヒロ「何が? 何で? 簡単だよ? 一緒に住むの! いい考えでしょ?」
碧「そう? なの・・・かな?」
ヒロ「だって、さっき、ずっと碧のそばにいるって約束したでしょ?」
碧「・・・・・・」
ヒロ「とにかく! 部屋に戻ろう。寒いよ」
ヒロ「今日はゆっくり話そう」
碧「うん・・・あの・・・」
ヒロ「何?」
碧「ヒロがさっき言ってた・・・一緒に住むって・・・」
ヒロ「あぁ、あれ・・・決定だから」
碧「でも・・・」
ヒロ「僕の事嫌い?」
碧「・・・ううん」
ヒロ「だったら一緒にいようよ」
碧「・・・・・・」
ヒロ「絶対に碧が嫌がる事はしないし、何があっても碧を守るよ!」
碧「・・・ヒロは、私の事を知られても大丈夫なの?」
ヒロ「事務所はもう知ってるから」
碧「・・・私の事・・・マスコミとか面白おかしく騒ぐよ・・・それに・・・ファンとか・・・」
ヒロ「大丈夫! 僕の、僕達のファンは分かってくれる。マスコミはそれが仕事だし、すぐに他の話題に飛びつくよ」
碧「・・・・・・」
ヒロ「碧が話してくれた事は、碧が悪いわけでも、碧が望んだわけでもない。だから、二人の事が分かった時、しばらくは大変だろうけど、僕が碧を守るから」
碧「・・・・・・」
碧は不安はまだもちろんあったが、ヒロの気持ちが嬉しかった。
碧「・・・いいの?」
碧は自分の事なら、頑張れる自信があった。ただ、それよりもヒロの立場が気になった。
碧「ヒロはそれでいいの?」
ヒロ「碧といたいから。最初に碧に会った日から、碧とずっと一緒にいたいって思ってたから」
碧「私も・・・ヒロと一緒にいたい。でも」
ヒロ「分かってるよ。急がなくていい。碧は必ず僕を好きになるよ」
ヒロは碧にこれからの計画を話した。
ヒロ「とりあえず、碧が僕の部屋においでよ」
碧「うん」
ヒロ「来るのは、明日ね」
碧「明日?」
あまりにも急なので碧は驚いた。
ヒロ「うん、碧の気が変わらないうちにね」
碧「・・・・・・」
ヒロ「家具は入らないから、いる物だけ持って来て。あとは倉庫借りよう」
碧「・・・・・・」
ヒロ「新しい部屋に引っ越したら家具を運ぼう・・・って、碧? 聞いてる?」
碧「・・・ん? 聞いてるよ・・・でも、明日って」
ヒロ「まだ言ってる。今日はここで泊まって、明日は碧の部屋で荷作りだよ」
どんどん話を進めるヒロに碧は呆れてしまった。
(ヒロは言い出したら訊かないから・・・)
初めて会った日に、コウが言っていたのを思い出した。ヒロの話を聞きながら、碧は眠くなってきた。
ヒロ「そろそろ寝る?」
ヒロにもたれて眠そうにしていた碧は黙って頷いた。
ヒロ「碧はベッドで寝な」
碧「ヒロはどうするの?」
ヒロ「僕はここで寝るよ」
碧「こんな所で寝たら風邪ひくよ?」
ヒロ「大丈夫だよ」
ヒロの仕事を考えると、体調を崩したからと言って簡単には休めない。ヒロが自分の事を考えてくれているのは分かるが、碧はどうしようか悩んだ。
(ベッドは一つだし、私がソファで寝るのはダメって言うだろうし・・・)
碧「・・・いいよ?一緒で」
ヒロ「えっ?」
碧「・・・ヒロもベッドで寝よ?」
ヒロ「碧?」
碧「あ、でも、その・・・」
ヒロ「分かってるよ。ありがとう」
碧「・・・・・・」
ヒロ「でも、手を繋ぐのはいい?」
碧「うん」