過去④
ヒロは部屋の前で深呼吸をし、インターホンを鳴らした。すぐにドアが開く。
ヒロ「ごめん・・・ちょっと電話があって遅くなった・・・」
碧「ううん」
ヒロ「行こっか」
ヒロは碧の先輩に言われた言葉が気になったが、何となく碧に聞きにくかった。何事もなかように、碧の荷物を車に運んだ。
ヒロ「お腹空かない? まずご飯行こうよ」
碧「うん、そうだね」
ヒロ「これからご飯食べて、T県のSって所に行くよ。穴場らしいんだ。星を見るのに。で、そのまま温泉行こうかなって思ってるけど・・・どうかな?」
碧「いいですね」
ヒロ「でしょ?」
途中で通りがかったお店で簡単に食事を済ませ、星空の穴場と言われる場所へ向かった。
ヒロ「着いたよ」
車から降りると、ちょっとしたプラネタリウムのようだった。
碧「・・・スゴイ」
ヒロは真上を見上げたままの碧に、後ろから毛布を掛けた。
ヒロ「温かいでしょ?」
碧「ありがとう」
ヒロ「首・・・疲れるよ?」
ヒロは自分も毛布にくるまり芝生に座った。
ヒロ「おいで・・・」
碧を前に座らせると、自分にもたれさせるように後ろから腕を回した。
ヒロ「この方がラクでしょ?」
碧「うん・・・」
しばらく黙ったまま星空を見上げた。
ヒロ「碧って、海もだけど、スゲー真剣に見てるよね」
碧「・・・何かね」
ヒロ「うん」
碧「どんな気持ちの時でも、見てると落ち着いてきて、同化したような気持ちになれるんだ・・・」
ヒロ「同化?」
碧「・・・うん・・・このまま消えちゃえたらいいのになって・・・」
呟くように話す碧に、ヒロは何と言っていいのか分からなかった。無言で星空を見つめる碧を抱き締めながら、ヒロの頭の中に碧の先輩に言われた言葉が浮かんだ。
(あいつは誰も好きにならない。誰にも心を開かない・・・)
(碧に何があるんだろう・・・)
ヒロは腕の中にいる碧の心に触れてみたくなった。
ヒロ「碧・・・」
碧「・・・ん?」
ヒロ「好きだよ」
碧「・・・ありがとう」
ヒロ「碧は?」
碧「・・・分からない・・・でも・・・」
ヒロ「でも?」
碧「ヒロトさんに会いたいって思った・・・」
ヒロは碧を強く抱き締めた。
碧「・・・ヒロトさんにこうされるのは嫌じゃない・・・だけど・・・よく分からない・・・」
ヒロ「碧・・・いいよ、無理に考えなくて。碧が好きになるまで待つから」
周りにチラホラと何組かのカップルが星を見に来始めた。
ヒロ「そろそろ車に戻ろうか・・・ルーフから見えるよ」
碧「うん」
車に入りルーフを開けた。
ヒロ「ちょっと視界が狭くなるけど・・・」
碧「そんなことないよ」
ヒロ「朝になったら温泉に行こうか。午前中にチェックイン出来て、お昼食べれる所があるんだ」
碧「うん」
ヒロ「それまで少し寝ようか」
ヒロは碧に毛布を掛けた。
碧「ありがとう。ヒロトさんて・・・」
ヒロ「何?」
碧「優しいね」
ヒロ「イキナリ何?」
碧「だって・・・そう思ったから」
ヒロ「碧、ヒロでいいよ」
碧「え?」
ヒロ「名前、ヒロでいい」
碧「・・・ヒロ」
ヒロ「そう。おやすみ」
碧「おやすみなさい」