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プロローグ 日常


 少年は午前5時に起きると寝癖で可愛らしくはねた髪の毛を手櫛で適当にあしらい、洗面所に行き、顔を洗い、歯を磨く。まるで、プログラムされた人形のように素早く、無表情で行っている。

 一通り、自分を清潔にすると少年が通っている学校である、紅花大学附属高等学校の制服を自分の寝室のハンガーに、皺一つないと表現出来るくらい、ぴっちりと綺麗に掛かっていた制服に腕を通す。胸元にはオレンジで『紅花高 深江』と記されていた。


 少年の名前は深江(ふかえ) (せい)

 紅花大学附属高等学校1年生で成績優秀であり、受験でも1位を取った成績を持つ。

 性格は寡黙で謎多き少年である、物事も時の流れに任せておりとても淡白である。


 セイはリビングで忘れ物がないか、鞄の中身をチェックすると自分の好きな小説を鞄の中に入れる。

 ソファーに腰をかけて、静かな一軒家の一室を見る。

 薄い茶色の絨毯は使っている最初はフワフワと軟らかかったのだろうが、今は人間が歩く場所はフワフワとはしておらず、潰れている。

 絨毯の真ん中には、白黒の小さな正方形のテーブルがあり、その四方を二人が座れる程度のソファーが設置されていた。


 時刻は午前6時、セイはたった一言「朝ごはん、食べなきゃ」と静かな空間の中呟き、ソファーから腰を浮かせ、キッチンへ向かった。


 15分ほど経った時、セイが一枚の白い皿に焼いた食パンにマーガリンを塗ったものと牛乳の入ったコップを持ってきた。

 「いたただきます」と「ごちそうさま」以外の言語を発さず、もくもくと食べる少年をみると、精密に作られた人形が食パンを口にしていると錯覚を覚える。

 リビングの窓からは、白く澄んだ光が差し込み、セイの姿をより幻想的に見せた。

 白く澄んだ肌、漆黒の髪の毛は光に反射している、目は少し緑かかった黒で部屋全体が瞳に鮮明にうつるほどガラス球のようだ。

 一言で述べるならば、深江 青という人物は「美しい」という言葉がこのセイのために作られたようなほど、美しかった。


 機械的な音色が部屋に響き渡る。

 セイも最初は何事かと思ったが、ついこの間購入したスマートフォンの音だと気が付くとすぐに鞄から取り出し、電話に出る。



「……もしもし?」

『やあやあ、私だよ。私。』

「…姉さん、それあんまりやらないでね、いつか『オレオレ詐欺』として警察に通報されそうだから」

『あんたはもう少し、感情を出してこようよ。姉は猛烈に弟の将来性を心配しているという悲しい出来事』

 電話の相手はセイの姉である、(こう)である。

 セイとは違い、コウはお調子者で人をからかうのが得意であり、セイとコウは姉弟にして反対である。


「…余計なことはいいです、それで?僕に何か用があるんじゃ、なかったんですか?」

『あー、そうそう。今日ね、あいつがやってくるから、私が夕飯支度するから』

「……………わかりました。」

 セイは長い沈黙のあと、了承をしてそのまま電話を終了する。


 長い長い変哲のない一日、それが『日常』というものだ。

 セイはプログラムされた日常を同じように毎日毎日繰り返す。

 このあとのプログラムは部活の朝練である、セイは運動部で籠球部、つまり、バスケットボール部に所属している。

 紅花大学附属高等学校は運動部だけではなく、文化部もそれなりに賞などを貰っている、世間一般でいう『部活が強い学校』である。

 セイの所属しているバスケットボール部も例外なく強豪校であり、そのなかでセイは一年生ということ関係なく、レギュラーとして昇格していた。

 練習はきついらしく、自分以外の1年生でレギュラーの人はばてて、休憩中は壁に寄りかかって疲労を回復している。セイは特に疲れていることもなく、涼しい顔で部活を行っている。


 午前6時45分、少年は自分の家を出る。外は少し肌寒く、まだ人も少ない。家の門の表札には『文塚(ふみづか)』と書かれた。

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