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まさかの事態に驚きを隠せません

 それからの雛子は記憶が曖昧だ。祇琅が出て行った後、雛子の元へ侍女が押し寄せてきた。彼女らを置いてきてしまったにも関わらず、それについての言及はない。敢えて聞かないようにしていたのか、それこそ圭絽によって詮索するなとの命令が出ていたのかは分からない。


 婚儀の衣装を剥ぎ取られて新しい服を着せられる。お似合いですよなんていう社交辞令に言葉を返す気力もない雛子は、首を縦にふるぐらいしか意思表示が出来ない。

 座らされて目の前にずらりと食事が並べられた。口の中に入れてはみるものの、味わうなどは到底出来なかった。


 ――初夜って言っても、私は陛下の部下なんだし……。


 落ち着け。さっきみたいに話をするだけかもしれない。いくらなんでも、そこだけ本当に妃の真似事をすることもないだろう。


 (よくわからないことだらけで疲れてきた……)


 作法も何もかも抜け落ちているが、食事に関して特に注意を受けることもなかった。そこまで気にする余裕は無かったのでありがたい。


 食事が済めば風呂場に連れていかれた。

 流石に身体を洗われることには抵抗して、何とか一人で入らせてもらえることになった。各部屋にお風呂がついてるのは嬉しい限りだ。

 想像してた以上に広い浴室で驚いたが、慣れてしまえば伸び伸びと出来て良いと思いつつ、急かされるまま湯に足をいれる。


 何もかもが元の世界とは違う。独自の文化が築かれているけど、なんというか、窮屈だ。女性はこうあるべき、とまではいかないけれど散々求められた女性像は大人しくて受け身なお姫様だった。

 ふわりと揺れる裾も重たい宝石も、自由に動き回るのを制されてるように感じて居心地が悪い。


 顎下まで湯に浸かっているのに、不満や疲労が膨れ上がった。お風呂に入ってるのにリラックスできないなんてと嫌気がさして目を閉じた。





 ▼





 「雛子様!」


 名前を呼ばれた気がして目を開けた。慌てたような侍女たちが立っていて、皆が焦ったように此方を見ている。


 「……風呂で眠るなど洒落にならんぞ」


 ごく近くに陛下の顔。視線を顔から下ろしていけば、妙に体も近い。


 (……密着している?)


 み、密着っていうか、抱き抱えられてる……!?


 「陛下……?」


 ここ、お風呂場ですよ? っていうかなんでここに居るんです? じゃなくて私、今の格好……!


 「悲鳴はやめろ」


 叫びかかったところを陛下の台詞で塞がれて声は出なかった。ぐるりと周りを見渡せば、お水を差し出してくる侍女やバスタオルのようなそれを体に掛けてくる侍女、それ以外にもてんやわんやで軽くパニック状態だ。


 「頭が、痛いかも……」

 「……薬も用意しろ」


 呆れたように雛子を見た祇琅は短く侍女に指示を出すと、無理矢理雛子を抱き上げて浴室を出た。


 「陛下、あの……」

 「浴室で眠るのはやめておけ」


 乱雑に部屋のベッドへおろされた。それだけ言って背を向けた陛下が遠ざかって行く。反して、どっと侍女たちが流れ込んできた。


 「雛子様、ご気分はどうです?」

 「頭の他に痛むところはございませんか?」

 「あぁ、そんなことよりまずはお召し物を……!」


 口々にかけられる言葉で何となく想像がついた。確かに疲れてはいた。目も閉じた。でもそれはほんの一瞬、気持ちよくてそうしただけで。


 まさか、湯につかりながら寝るなんて。


 身支度を整えられてる間に教えられたことに、自分のことながら呆れてしまう。


 予定より早く部屋にきた陛下の到着を知らせたにも関わらず雛子から返事がない。それを不信に思った陛下が侍女が止めるのを無視して浴室の扉を開けて、湯から引き上げたのだ。

 そこで先程の場面となる。そりゃ陛下も呆れるだろう。


 綺麗な寝間着に着替えたところで、祇琅がもう一度近付いてきた。着替えの最中は寝室から出ていたようだ。本当に色んな意味で、部屋が広くて良かった。明日じっくりと部屋を見てみようと心に決めて陛下に向かい合った。 

 

 「いい、寝てろ」


 有無を言わさない語気を孕んでいて、もう一度横なる。空気を読んだのか、侍女たちは扉をしめて寝室から出ていった。


 「いくら疲れているとは言え、風呂で眠りこけるなんぞ有り得んだろう」

 「いえ、ありえてます……。現に私がそうでしたし……」

 「本当にお前は予想の斜め上を行く」


 まさか自分もこんなことを仕出かすとは思っても見なかったし、助けてもらった手前、居たたまれなくて乾いた笑いで誤魔化した。


 「……助けてもらっといて言うのも何なんですけど、私、裸でしたよね……?」

 「……あぁ」

 「……見ました?」

 「不可抗力だろう」 

 「そうですけど……。ってことは見たんですね?」

 「……侍女が用意していた大きめの拭き布を直ぐに被せた。必要以上は見ていない」


 流石に助けられてこれ以上の言及は失礼だと思い、お礼を言う。


 「ありがとうございました」

 「……あぁ」

 「それと、粗末なもの見せてすみません……」

 「粗末……?」

 「もっとこう、見られて恥ずかしくない体型だったら……、と」

 「……お前はやはり、予想の斜め上どころか予想だにしなかったことを言うな」

 「えっと、すみません……?」

 「いや、謝るな。退屈しないのもこれはこれで良い」


 良くないです。裸見られたなんてお嫁に行けなくなる……、っていうかもうお嫁に入ってた。なんていうボケをかましそうになった自分へツッコみをいれた。


 ただ、不可抗力とは言え裸を見たと罰が悪そうに視線を雛子から外した陛下は、やっぱり冷酷無比とは思えなかった。

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