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お妃様がんばる



 「さて、お茶会が開かれることになりましたのでご説明をさせていただきますね」


 祇琅と微妙な別れ方をした数日後、聞かせれていた通りにお茶会が開かれることになったとの説明を受けた。ただ、お茶会の話題になるとあの夜の祇琅の態度がどうも思い出されてしまって、雛子としては引っかかる。


 だというのも、あれ以降陛下が部屋に来ない。気まずい雰囲気になった翌日から来ないなんて意外に繊細なの? とも思ったが、陛下に限ってそんなことある訳ないかとも思う。

 だいたい、部屋に来るのも自分勝手な都合でこっちはいつ来るか分からない。もしかしたらと思って毎日何かしら話すことを考えているというのにだ。

 それもなんだか釈然としない。


 大事なことは教えてはくれないし、仲良くなれたかと思った直ぐあとには距離を感じる。本当に、何を考えてるのか分からない。国を治めるような偉い人というのはそういうものなのだろうか。


 「それでですね、お茶会の開催まで雛子様には先生をお付けしたいと思います」


 上の空で聞いていた話だが、説明してくれていた侍女の台詞に引き戻される。


 「先生?」

 「はい、礼儀作法の先生です」

 「え、礼儀作法?」

 「そうです。雛子様は長く異国にいらっしゃったので、この国の作法をあまりご存知ないだろうと圭絽様に手配を頼まれました」

 「圭絽さんが……」


 まぁ、確かに。ある意味ここは外国だし、独自の文化やルールはまだまだ知らないことだらけだ。婚儀の時だって付け焼き刃の知識で大変な思いをした訳だから、この機会に学んでおくのも良いかもしれない。


 「わかりました。いつ頃ですか」

 「早ければ明日の朝にでもご到着なされるかと思いますので、講義は明後日頃から始められると思います」


 そばにいた侍女頭の采英(さいえい)が「雛子様、頑張りましょうね」と微笑んだ。









 「雛子様! 良いところにいらっしゃいました!」


 のんびりゆったり散歩を楽しんでいるところに、何人かのお妃様が駆け寄ってきた。


 「どうかされたんですか?」


 見てるぶんには花のように麗しいお姫様方も、接するのは極力遠慮したい。いかんせん面倒なのだ。不本意にも後宮二大勢力に名乗りを上げることとなってしまったので、雛子の知らない内に各お妃様たちによる派閥争いが起きているらしい。「やっぱり祥蘭様方は許せませんよね!」と事後報告されるのもそろそろうんざりだ。

 ここでは話せないだなんて言われたので、しぶしぶ来た道を引き返して自室へと戻る。雛子についてきたお妃様方数人を連絡なしに迎えたのに、部屋にいた侍女たちはテキパキと椅子やお茶やお菓子やらと用意していく。


 「それで、何があったんですか?」

 「聞いてくださいませ、あちら側の方々ったら揃いも揃って祥蘭様のことを褒め称えるだけじゃ飽き足らず私たちや雛子様のこと果てはお家のことまでを乏しめるような発言を……」

 「ちょ、ちょっと待ってください! 落ち着いてゆっくり話してください。ほら、お茶でも一口飲んで……」


 かなりお怒りの様子に内心焦りながらも、お茶を差し出して彼女たちが一息つくのを待った。普段お淑やかな彼女たちがこうも腹を立てるのは、決まって祥蘭(あちら)側と揉めた時だ。


 「取り乱してすみません……。ですが、雛子様にどうしてもお話したくって」


 切り出した一人が周りに目配せをし、みんなして頷いたあと雛子に向き直った。

 彼女が言うには、初めはいつもと同じで単なる舌戦であったらしい。それがどんどんと過熱して、相手側が祥蘭を過剰に褒め称え、雛子と周家を乏しめるような発言をしたということだ。


 「反論したのです。そしたら何と言ったと思います? 祥蘭様はご自身のみならずお家も素晴らしいのだと。各々が祥蘭様に頂いたと言って宝飾品を見せびらかしてきたのです」


 なんてはしたない真似をするのかしら、と右前に座る妃が口元を袖で覆う。あんな方たちが同じ妃だなんて耐えられないと呟くこえも聞こえた。


 「白家は貿易で成り上がっただけの元は商人の出ではありませんか。その癖図々しくも後宮に上がり込んで、他の妃を物で釣って味方にしようだなんて……」


 嫌味を含む言い方に押し黙るしかない。自分はこの国のお家事情に詳しくは無いし、うっかり何か言おうもんなら今度は雛子自身が、それも周家自体の評判を下げかねない。


 (でも、そこまで言わなくたって……)


 良い子ちゃんぶるつもりは無いが、彼女たちの遠慮ない物言いには賛同しかねる。

 だったら声に出して「そんな言い方をする貴女たちも大差ない」と言えば良いけれど、結局は理由をつけて黙ったままの情けない自分に打ち勝てないでいる。


 (こんなところ陛下に見られたら何て言われるんだろう……)


 他とは違う、という点で受け入れられてるだけなのに、こんな風に自分の意志さえ伝えられないことを知れば彼は呆れるだろうか。


 「雛子様、私たちは何か下さいだなんて言いませんが、周家ともなれば白家を黙らせるぐらい容易でしょう? どうかよろしくお願いします」


 (売られた喧嘩を買うって宣言したのに、こんなとこで怯えてどうすんのよ)


 膝の上においていた手をぐっと握る。大丈夫。


 「雛子様? いかがなされましたの?」

 「……私には出来ません。貶されて怒ってくださったことはありがたいですが……。悪口言われたぐらいで泣きついては、良くしてくれる周家の方に申し訳ないですし」

 「それは、そうかもしれませんが……」

 「酷くなるようだったら対策を考えます。これ以上対立して後宮が荒れるのは防ぎたいですから」


 あからさまに困惑した表情を浮かべた彼女たちはじっと雛子を見ている。納得いかないと思ってるだろうことは想像出来た。


 「皆さんは素敵な方ばかりだし、言いがかりならば言わせておけば良いんです。……もっと楽しいことに時間を使いませんか?」


 彼女たちの要求はのまない、だけど敵にもしない。

 対立の激化を防ぐことを約束したのだから、微妙なバランスを今崩す訳にはいかない。更に言うなら、周家の敵を増やして圭絽や祇琅に迷惑をかけなくない。


 「そうですわね……。雛子様の仰るとおり、相手のところまで自分を落とす必要はないですもの」

 「えぇ、そうね。私たちが適度に相手して差し上げてるぐらいが丁度良いのよ」


 都合よく脳内補完されたらしい雛子の言葉に賛同した妃たちが、徐々に笑顔を見せ始める。


 「やっぱり相談して正解でした。雛子様、ありがとうございました」


 次々にお礼を言って退室する姿を見送り、雛子は椅子に座り込んだ。


 (うまくいった……のかな?)


 一歩間違えれば自分に悪意を向けたであろう状況にどっと冷や汗が出る。

 よく頑張った自分。誰か褒めて励ましてくれても良いくらいだ。


 「雛子様、良い対応だったと思いますよ」

 「ありがとうございます……。あれで良かったのか自信ないですけど……」

 「何を仰いますか。周家のお嬢様として充分な対応をなさっておりました」


 多少のお世辞を含んでいるだろうが、采英の言葉に安心する。


 (とりあえず、玉麗には聞いてほしいかも……)


 お妃同士の暴走を笑い飛ばしながら、頑張ったと褒めてくれそうな玉麗が思い浮かび、雛子は午後の予定を決めた。




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