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閑話〜お茶会にて〜

※お茶会(お互いに敬語をやめたあと)



 「ねぇ、ちょっと待って。お見合いが嫌で後宮に来たの?」

 「えぇ、そうよ。だってまだ結婚なんてしたくないし」


 玉麗があっけけらんと言い放った台詞は、雛子を混乱させるには十分だった。


 「えっと、結婚したくないんだよね……?」

 「ん? あー、そっか! 雛子は違う国から来たんだよね。ふふ、だからその反応なのね」


 納得したように笑って玉麗は茶器に口をつけた。つられて雛子も一口お茶を含む。彼女の侍女が淹れてくれたお茶は、玉麗の故郷でよく飲まれるものらしい。特産品の茶葉なのだと説明してくれた。


 「ほら、この国の陛下ってあんな感じじゃない?」

 「あんな感じ……?」

 「そう! 淡々と執務をこなす他人に厳しい冷酷な皇帝陛下!」


 随分と言われてるなぁ、そんな感想しか出てこない。どうにもピンとこないのだ。確かに婚儀の時は怖かったが、接している時間がそうではない時の方が多かったからだと思う。


 「そんな陛下は後宮に興味ないみたいなのよ。世継ぎ問題とかもまだみたいだし、私が入宮する前から有名の話だったから。陛下は一度も妃を抱かないって」


 あー、確かに。昨日も本人から同じようなことを聞いた。


 「そんなに有名な話なの?」

 「そうよ。浮ついた話も一切無いし、陛下って女性そのものに興味ないんじゃないかーって言う人もいるらしいわ。信じる信じないは別にして、命知らずよね」


 ( へ、陛下……! 何だか好き勝手に言われてるみたいですけど……!?)


 「いや、そんなことはないと思うよ。陛下もほら、男の人だし流石にそれは……」

 「何でそこで雛子が必死になるのよ」


 陛下の名誉に関わる……! そう思いフォローを入れてみたけど、雛子って面白いわね、との評価を頂いただけに終わってしまった。


 (今日の成果として、陛下は女性に興味ないって噂があります! とは言えない……。もっと他の情報を探さなきゃ……!)


 「後宮の妃は陛下にとって、ただのお飾り程度じゃないかしら。だからお勤め感覚で入宮する子もたくさんいるの。あら、からっぽじゃない。もう一杯いかが?」


 お願いしようかな、とお言葉に甘えて空の器に先程と同じお茶を淹れてもらった。甘い香りが立ち込める。


 「……良い香り」

 「気に入った? お裾分けするわよ。良かったら持って帰ってね」

 「やった! ありがとう」


 淹れたてでまだ熱いお茶を冷ましていると、玉麗が話を続けた。


 「何年かお勤めをしたら、さっさと後宮を出て結婚する人も少なくないわね。箔がつくってやつかしら?」


 あの日確かに、彼は自分の寵愛を欲しいと思う奴などいないと言った。そもそも与える素振りすら見せてないのなら、誰もそれが叶うとは思わないし、欲しがりはしないだろう。

 はなから希望を持たせないのであれば、何故、彼女は陛下の寵愛を望んでる? おまけにわざわざ、面と向かって手に入れると宣言してきた。冷酷だなんて噂も気にしない程に、諦めさせない何かがあるってこと?


 (私はただの部下だしなぁ)


 寵妃になりたい訳でもないし、まして世継ぎを産んで皇后になりたい訳でもない。寵愛が欲しいなら勝手にやっててくれて構わないのだけど……。


 考え出したらキリがない。


 「……雛子? 黙り込んじゃってどうかした? 大丈夫?」


 心配した玉麗の言葉に我に返る。声をかけられたことに少し驚いてしまって、反動で茶器の中のお茶が揺れる。


 「何でもないよ、大丈夫。ありがとう。……ちょっと考え事をしちゃって」

 「白祥蘭のこと?」

 「うん、まぁ、そうかな……」


 見事に当てられては濁しようがない。誤魔化すようにお茶を飲む。


 「あれはね、面白くないだけよ。きっとね」

 「面白くないってどういうこと?」

 「あのお嬢様、雛子が来るまでは後宮で一番の権力者だったのよ。白家って最近勢いに乗ってるし、白祥蘭が何事にも一番っていうのは当たり前みたいな感じだったの」

 「そこに私……、周家が来たから……」

 「そ。これからは雛子が一番ね。なんて言ったって周家だもの」


 第三者から話を聞くと、いかに周家という家柄が良いものなのかよくわかる。これはますます、評判を落とさないように気をつけなければ……。


 「そういうことだから、あんまり気にしないでフツーに生活してれば良いのよ。ね?」

 「普通に、ね。元気出てきた」


 もう一度お礼を言うと、玉麗は嬉しそうに笑った。話を変えましょ、との提案で、玉麗の故郷について教えてもらうことになり、それからは特に思い悩むこともなく楽しく過ごせた。



 結局、これといった情報が集まらないので、その晩は陛下に「女性に興味ないんですか?」と聞きそうになるのを必死に堪えることになった。我慢した自分を褒めたいと本気で思った雛子だった。

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