3rdショック
受付まで戻るとネコミミさんが船を漕いでいた。マジ可愛い天使か、いえネコミミです。後ろの窓から日が射して縁側じゃないけど猫が寝るのはちょうどよさそうな按配だ。第一次NRSから立ち直っていなかったら紳士にあるまじき行動をしていたかもしれない。
「すいません井戸借りてもいいですか?」
「にゃー」
半分寝てるネコミミさんを横目に半開きになってる裏口から出て行く。賢者タイムでもないのにやけに落ち着いているのは新ボディのせいか? これが地球で現実だったら最初に入った段階で求婚してるレベルなのにな。
井戸のそばにおいてあったいくつかの桶と雑巾のような布を見るにここで洗濯をしているのは間違いなさそうだ。桶の中には紐と洗濯バサミのようなものが入っていてこれをどこかに引っ掛けて干すんだろうな。早速紐を引っ張ってみると釣瓶が上ってきたので小さい桶を借りて水を溜める。
「井戸なんて子供の時以来だな、曾爺さんに感謝だ。」
思い出に浸りながら何度か汲んでいくと十分な量が溜まった。とりあえずズボンの裾から洗ってみよう。水をすくってかけながら泥を落としていくとだいぶ綺麗になったので桶に突っ込んでジャブジャブあらう。上着も同じように洗って水を切るとどうにか綺麗になったようだ。
「洗剤がないのはどうしようもなさそうだな、とりあえずはいいか」
元から縮んだり色が落ちたりするような素材じゃなさそうだしきにしないことにする。”たびびとのふく”みたいだしな、頑丈だろ。ついでに足と顔も洗ってさっぱりする。桶を洗って立てかけると部屋に戻ることにした。
今度は完全に寝ているネコミミさん。防犯的に大丈夫なんだろうか。階段を上っているとにゃーと聞こえてきたので一人和む。日が落ちてきたのか日差しがオレンジ色になってきた、今晩はなんとかなったが明日からどうするべきかな。
部屋に戻りフックに洗濯物を引っ掛けると後ろからピッと電子音がした。振り返るとNDCもどきからのようだ。めくっていくと冒険者たちの項が光っている。それよりもまず自分のステを確認したかったので最後のページを開くと
『optimizing 18% done』
終わってないじゃないですかやだー。ページごとに作業してるのかよ、最後のページはいまだに終わっていないということはこっちのほうが作業量が多かったのか? 本1冊にくらべたらステータス表なんて1ページ分もないような気がするがほかにも何かあるんだろうか。
気になったのでもう1冊の事典のほうはどうなったのか見てみると10%になっていた。もう計算方法がわからないですね。
本を収納してから大体1時間ぐらいたっているとして冒険者たち~は終了してて事典は10%、最後のページは1時間前13%で今18%。均等に処理されていたとして最後のページの進捗が1番遅いということはこれがもっとも作業量が多いデータということになる。
普通の本と事典なら事典のほうが分厚く情報量が多いのはわかるんだが……それより重いステータス表っていったいなんだ。事典と本にしたって収納する前は大体同じ厚みだったはずなのにこんなに違うのはおかしいな。
『今代の冒険者たち』は終わっているからこれから調べてみるか。ページをめくって光っている項目をつつく、すると
今代の冒険者たち / *著
コンダイ ノ ボウケンシャ タチ
第210版改訂
出版地不明 : 出版者不明 , 出版年不明
203p ; 29cm
キンダイ ノ ボウケンシャ タチ
表紙に 常識的な冒険者に送る の表示あり
巻末に折りたたみ式地図あり
* <*************>
すごく見たことがある表示が出てきた、どう見ても目録情報です。上から順にタイトル・著者名、ヨミ仮名、出版情報、形態、読み替えタイトル、注意書き、著者情報……のはずだけど読めないのはなんだ? 不明なら不明と出るはずなんだが。
210版とか初めて見たわ。異世界も単位はセンチなんだなと思いつつ下側に出てきた本のアイコンにタッチ、すると画面が切り替わって本文がでてきた。ケータイ小説とか馬鹿にしてたけどこれは便利だわ、端っこを押すと指一本でページがめくれるとかすごい。
『山を砕き海を割る! そんな時代よりあとに生まれたあなたに送る堅実な新生活読本。特技にあわせて快適なプランを提供するガイドブック、これ1冊で大往生待ったなし!』
うわぁ……うわぁ
なんかもう色々すごいけどこれがチュートリアルなんだろうか? 煽り文句がダイエット本か旅行ガイドみたいですごく不安になる、特に最後。(これを信用しなければ)いかんのか?
「大丈夫まだ冒頭だから内容はまとも……まともに違いない、そうであって欲しい」
読み進んでいくとまず最初の50ページ弱はまた神(的な存在)の愚痴だった。長々と書いてあったが1行でまとめると惑星環境とか天体を整えるのは本当にめんどくさいからお前ら自重しろということらしい。だから俺がやったことじゃないんだから俺に言うなよ、先代先先代の負債がのしかかってくるいやな世代ですねわかります。
続いてイエスとノーで答えていくチャートがあって適正診断してくれるらしい。なになに
あなたの職業は戦闘に適していますか? あるいは戦闘する自信はありますか?
これはノーだな。
腕力に自信はありますか?
平均はあるということになってるんだがどうしたものか、一応ノーだな。
180ページへGO! 2問しかないとか早すぎるだろ……
「連打するのめんどくさいな、まとめてめくる機能はないのか? おっ摘むとまとめて進むのか」
さて180ページはなんだろな。『農家 平和な時代の第1次産業、開拓する場所に注意して進めましょう』 おいィ? 何かおかしくはないですかねぇ。いや農家を馬鹿にしているわけじゃなくて異世界ファンタジーで農家をするのは斬新過ぎるだろう……内政ものならあるかもしれないがそれは貴族に転生したとかそういう系じゃないと普通にお百姓さんだし。
そもそも農家の知識なんてないしな。これはなかったことにして1ページずつ読んでみるか、チャートの次のページはと。
『冒険者 秘境や遺跡を探索して一攫千金!危険度が高いが得るものは大きい!』
おお! ちょっと惹かれるものがあるが危険なのはなあ……何、戦士鉄板スキルガイド? ビルドタイプ別に解説されててわかりやすい! じゃねーよ。何? これ攻略本なの? ある意味わかりやすいけど急にゲームじみてきたな。農家のページまで延々と職業ごとのオススメ編成例がばっちり載っている。
「まてまて司書の項目がなかったが、ああ冒険者じゃないから農家の先に書いてあるのか」
次のページ次のページと。
『引退後の生活について 職業別コネクション活用法』
次のページ次のページと。
『お得狩場・モンスターマップ! 職業別索引つき』
次のページ。
『概略年表』
次のペ……
『最新地図』
次……奥付になった。 司書載ってないじゃん! 現実の不遇職はファンタジーでは存在すらしてないのかよ。いやステ振りの段階で存在してるんだからないとおかしいよな? マイナーすぎて載せるスペースすらないとかそういうことか?
おれはめのまえがまっくらになった。
実際には日が落ちただけだったのだが気がついたら寝てた、こうして新生活1日目は終了した。