夢現
俺の手が血にまみれている。
小船に乗ってどこかをさまよっているようだが回りは霧に包まれ何も見えない。
水底から蘇る亡者の群れ、止まらない亡者達がゾッとするような冷たい手で怨嗟の声と共に引き摺り込もうと俺の脚を掴む。
やりたくてやったんじゃない、仕方ないじゃないか。
亡者に向けて銃を取るも弾が出ない、何でこんなときに弾切れなんだよ。蹴りだしても何度でも乗り上がってくる。
そんな時空から縄が落ちてきた、助かった。早速登ろうとするが銃が手から離れない、解除と念じても消えない。
なんで? なんで? 片手で縋り付いているがとても登れない、そうこうしていると縄が切れて俺は落ちた。
亡者に掴まれ沈んでいく、俺もまた亡者になるんだろうか。ゴボゴボと空気を吐き出しながらそんなことを思った。
――そんな夢で目が覚める、あれからもう何年経っただろうか……いまだに手に残った感触は消えない。
戦闘に参加してから1人では眠れなくなった。旨くもない酒を飲み女を抱いて寝る、そうしないと眠れないから。
いったいどうしてこうなってしまったんだろう、割り切れたはずなのに。いや割り切れなかったからこうなったのかな。
俺には人殺しなんて無理だったんだ。
なんてことはなかったぜ、ここは旗艦ヒガシヤマダの俺の部屋、時間は戦闘が終わって何時間か経ったぐらいかな。警備隊が歩哨をしてくれているのでとりあえず安全だ、魔力()の回復に努めるとか言っておいたから誰も入ってこなかったようだ。ぶっちゃけ昼寝してました。
いやあ人殺しに苦悩するラノベ主人公の気持ちが多少分かったけど理解はできないな、流石に民間人を虐殺とかなら欝になるかもしれないが敵の軍人殺したぐらいじゃ凹まないわ。そういう仕事でしょう? 俺も相手も。命の危険がある仕事をするのがいやなら街の中にいたらいいんじゃないかな、程度問題かもしれないが。
ゲーム脳のせいだけじゃなくて俺の性質なのかもしれないが個人差があります、あるいは専門家を招いた委員会で調査してください。ほらこんなもん。
部屋から出ると早速将軍室に来るようにと言われた、艦長室じゃないんですね分かります。頼もしい護衛に守られて進んでいく、いやあ前衛最高や、ぼっちとは大違いなんや。今回のことでそれがよく分かったよ、>>警備隊感謝。
ノックをして入室、紳士として忘れてはならない(戒め)。中にはシェリーさんとネコミミノフ? ネコミミスキーだっけ、となぜか正座しているイヤミさ……イヤミさんじゃないか! サンズ・リバーをお渡りになったのではなかったのですね、顔色は悪いが実に惜しい。あとなんで首が左に傾いているんですかねえ。
宝石サークレットがなかったら即死だったというか鬼なる、実に惜しい。大事な事なので2回言いました。
死んだらええねんはギャグじゃなかったんだよな、今回ばかりは……いややめておこう。そんな事はどうでもいいんだ。 重要なことじゃない。
そんなわけで会議が始まった、といっても起こったことの確認だけのようだ。寝てましたサーセン。
まずシェリーさんは突撃した後砦を制圧、雑兵を氷漬けにして指揮官を捕獲したところで爆発音を聞いて船まで戻ってきたそうな、もう少し早かったら俺が戦争に参加しなくて済んだのにな。
砦の中には近隣の村から捕らえられた村人がいてひどい扱いを受けていたようだ、ヒャッハーの世界ですね分かります。やはりサルト騎士団に慈悲は必要なかった。
ファンタジーで中世ならそれが普通でも聞いてて胸糞が悪くなる、魔法使いの怒りが有頂天になった。これは義憤なので嫉妬とは無関係。無理やりとか犯罪だろ。
続いてこちらの魔法隊の被害状況について、矢と火の玉で重軽傷者多数、隊長のイヤミさんも負傷で首が曲がっている状態だ。ざまあ、いや部下の人は災難でしたね。
なんでもシェリーさんがいない間の防衛責任者だったらしく持ち場を離れた上わざわざ全員引き連れ俺のところに来たせいで奇襲を許したとか何とか。最悪だな。
シェリーさんのは精霊()のおかげで見分けにくいらしいが敵船が使っていたのは陽炎の魔法で魔法使いが見ればすぐ分かるんだとか。人災じゃねーか。
そんなわけで反省の意味を込めてSEIZAしているらしい。この国では割と一般的だってさ。首が傾いているせいで間抜けにしか見えないが矢が首を支点に捻ったせいか戻らないそうな、そういえば派手に倒れてましたね。いやよく生きてるな。
そう考えるとドラゴンマントさんは弾くだけじゃなくて衝撃も緩和してくれるのか、優秀すぎるだろう……惚れてしまいますわ。
「陸戦隊が引き続き調査を行っていますが今のところ相手の意図は掴めていません、指揮官の尋問次第ですね」
()なるほどな、というか鬼なる。猫缶を奢ってやろう。
あとはこちらからの報告になるがありのまま話した、イヤミさんがやってきて倒れたと思ったら攻撃されて危なかったこと。近づかれたので迎撃したこと、最後はなぜか突然爆発したって事にしておいた。
「なるほど、つまりこの馬鹿のせいね」
驚くほど平坦な声だがいやジョインジョインシェリィさんにも責任の一端はあるんじゃないですかねぇ。と思っていたらネコミミスキーさんが補足してくれた、シェリーさん突撃は公式な作戦として組み込まれているので留守番中は防衛をするだけの簡単なお仕事だそうな、敵が多数いたなら話は違うがこっちよりも小さな船に奇襲を許した上甲板小破、人的被害多数とあっては弁解のしようが無いとの事。アワレにもイヤミさんは骨になる。
あもりにもかわいそうだったので一応助け舟を出しておこう。
「隊長さんは俺を心配してきてくれたんじゃないでしょうか? えーと、一働きどうかな、なんて事を教えてくれました」
「へえ、この男が? ずいぶんと気が利いてるじゃない。もう少し詳しくお願いできるかしら」
「いやいやそんなにたいしたことは無かったですよ、なんでも自分は名家の出身ですごい魔法使いだと。あとは古狐が戦功議事でなんとかって」
――空気が変わる、さながら極地の雪原か。刺す様な冷気はブリザードの様って戦闘が終わってからなんてこんな空気になるんですかねぇ。理解不能状態。
そこにはダークパワーに加えてアイスパワーがオーラになって見えるかのようなシェリーさんとSEIZAからDOGEZAに移行したイヤミさんの姿が、どこから突っ込んだらいいんだ。
「そう、とりあえず負傷者と甲板を何とかしましょうか。自爆されたのは仕方が無いわ、もう一隻の方に期待ね」
笑顔が怖すぎる。逃げたい、逃げ出したい!
「まずは尋問から始めましょう、伯爵も一緒に来なさい」
立ち上がってイヤミさん改め伯爵を引き摺りながら部屋を出て行くシェリーさん、土下座の体勢から足を持つとかハイレベルですね、うつ伏せで引き摺られて痛そうだ。
これはついげきのハイスラになってしまったかも分からんね、俺に擁護のセンスは無いって事がよくわかったよ。>>伯爵犠牲者。イヤミェ……
残されてしまったがやっぱり自分勝手すぎるでしょう。ネコミミスキーさんが解散と言う事でと言ってくれた、空気読める人流石だよな。
「しかしお1人でよく持たせましたね。優秀な方だ」
「いえそれほどでもないです」
謙虚なナイトはそれほどでもないと言う時もある、謙虚だなー憧れちゃうなー。実際にはほとんど皆殺しにしましたとは言えないしな。
やはり突よりやはり砂だよな、今回のでそれがよく分かったよ。いやこれこそ程度問題だったな。
「ところで伯爵はひどいことになるんでしょうか?」
一応聞いておく。
「ひどい、ですか? 死者は出ていませんが旗艦に泥を塗られたも同じです、極刑は無いでしょうが転封といったところでしょうか。判断なされる陛下次第ですが」
そういえば王政でしたね。
「どちらにしろ返り咲く可能性は無いでしょう、魔法隊長の任を返上して隠居する、あたりでしょうか」
魔法隊長ってけっこう偉いんじゃなかったっけ? まあもう会う事も無いだろうからどうでもいいや。
「しかし参謀もお人が悪い、もう少し早く教えていただければ配慮いたしましたのに」
「えっ?」
「いえ、たいしたことではございません。では自分も尋問に参加しますのでこれで」
そう言うと敬礼して去っていった、また変なイベントが進行してる悪寒。どこでフラグ管理を間違ったんだろう、こんな寒い部屋にいられるか! 俺は部屋に帰らせてくらふぁい。
長い一日だった、事が終わってからの方が疲れるとかおかしいだろ。まだ日は落ちていないが寝てしまおう。
案の定夜中に起こされてシャーベット作りをやらされました、知らなかったのか? シェリーさんからは逃げられない。




