正当防衛と殺人罪
一方的な虐殺の描写があります
苦手な方は読み飛ばしてください
火の玉が着弾したかと思ったら魔法隊がいた辺りが火の海になっていてヤバイ、右舷監視何をやっていたか! ふざけてる場合じゃない死ぬsinでしまう。う……うろたえるんじゃあないッ! 転生者はうろたえないッ! 俺には警備隊とドラゴンマントというメイン盾があるじゃないか、さっき矢は弾いたし大丈夫だ。火がこっちに来たヤバイこっちくんな。
右舷からの弾幕が濃いよ、味方はなにやってんの? 迎撃しないの? 馬鹿なの? 死ぬの? と思ったがイヤミさんを筆頭にわりと全滅気味ですね、軍事学的に考えて。
まさに地位と権力にしがみついた結果がこれ一足早く言うべきだったな? お前調子ぶっこき過ぎてた結果だよ? というか鬼なる。一足早く言いに来て狙撃されてるからちょっと違うか。
魔法部隊がダメなら大砲とか弩はないんですかねぇ。
そんなことを考えていたが警備隊の人が引き摺ってくれているおかげで物陰にカバー! することができた。助かった、終わったかと思ったよ。
まずは落ち着くべきそうすべき。
転生者と言っても突発的自体には対応できないことがよく分かった。下手したら死んでたし現在進行形で危険が危ない状況だ。俺がラノベ的主人公なら勇敢に立ち向かって撃退する王道展開があるんだろうけどそんなことはなかったぜ。転生しても30を超えると第一に身の安全、第二に財産の保全。最後に知り合いの安否ぐらいの優先順位になるがこれがリアルだからな、かっこよく撃退するとかもっと若い奴にやらせてください。
俺に出来るのは芋砂と地雷敷設にラジコンの操縦ぐらいだ、あと砲撃もあるな。なんだ、結構何とかなりそうじゃね?
そうなるとどういう行動を取るべきか、まずは……ここから離れよう(提案)。これは最適距離への転進であって逃亡とは無関係。
「トム君トム君、船足が止まっているみたいだけど動かした方がいいんじゃないかな」
「さっきので魔法隊がやられました、予備は中にいるはずですがこの状況では……しばらくは風任せになります」
なんてことだ……なんてことだ。このままでは一方的に殴られて痛さと怖さで寿命がマッハ、早く動いてくださいますか。このままにしろ接舷攻撃されるにしろろくな事にはならない予感、幸いといっていいかは分からないがこの距離なら砲撃に巻き込まれることはなさそうだ、まずはヘルメットを装備する。
様子を伺っている兵隊さんに代わってもらって顔を出す、敵発見を選んですぐさま引っ込んだ。砲兵さんお願いします。
『ROGER THAT』
きた、メイン応答きた。これで勝つる! と大歓迎状態になった。敵艦はアワレにも海の藻屑になるに違いない。ほう、経験が生きましたね。
『Artillery support is out of range.』
つまり……どういうことなん……だと? どう聞いても射程外です、本当にありがとうございません。がーんだな……経験が生きてないじゃないですかやだー。どこから飛んでくるか分からないのに射程とかあるのかよ、沖合い何キロまでが射程内なのかと問いたい問い詰めたい、切り抜けられたら小1時間問い詰めたい、実験は何度かしておかないとダメだなって事がよくわかったよ。
矢と魔法はもう飛んでこなくなってきた、困った時のトム君に尋ねてみたところこっちに乗り込んでくるべく攻撃魔法から風魔法に切り替えて接近して来るんだとか何とか。なるほど、同時には使えないのか。あるいはそういう風に訓練を受けてるのか知らないがこれはチャンスかも分からんね。
船尾デッキに移動して狙撃することにした、矢が届くなら弾が届かないはずが無い。波があるけど真っ直ぐ向かってくるからこれは案外当てやすそうだ、おまけに魔法使いらしき集団が固まっているのでよりやり易い。警備の人は魔法で攻撃すると言うと最初は反対していたけどどうにか協力してくれるようになった、乗り移られて乱戦よりはましって事なんだろうか。
一応盾は構えていてもらい俺はスナイパーライフルを装備。転がっていた木箱にバイポッドを立てて狙撃体勢に入る、伏せ撃ちが出来ればよかったが欄干が邪魔だった。
まず狙うのは指揮官だ、イヤミさんでそれがよく分かったよ。スコープに見えるのは鎧にローブ姿、後は水兵かな、英語で言うとセーラーマン。セーラー服じゃなくてよかった、むさいおっさんは着てるとそれが正式仕様でもストレスがたまるので。
1人だけ派手な杖を持っているのがいるからこいつだろうな、思えばイヤミさんも派手なサークレットをつけてたから狙われたんじゃなかろうか。ホワイト・フェザーさんという名人を知らないのかよ。これは撃つ方の人だった。
風向や移動速度が分からないがとにかく撃つしかない、幸い相手は風を送るのに夢中になっているのかこっちを見ている奴はいない。遠視の魔法は重要じゃなかったんですかねぇ……派手な奴に狙いをつける。
ところで何でこんなに好戦的になっているかというと死に掛けたからだよ、言わせんな恥ずかしい。
命懸け、そう命懸けなんだよな。俺は今までテキトーに生きてきたけど命に関わるほどの危機はなかった。もしこのまま何もせずにいたら追い詰められた挙句殺されるかもしれない、飛び降りても鎧を着て泳げる自信はないし小船で逃げても撃たれそうだ。シェリーさんが助けに来てくれる? それが一番ありがたいが今のところ戻ってくる様子はない。
人を撃つなんて僕には出来ないよ! なんてことはなかったぜ、撃たれたら撃ち返す、相手は軍人で、俺も一応は軍人だから、理由付けとしては十分すぎる。ほんとはもう部屋の中で引き篭もりたいんだ、だって人を殺すなんてそんな怖いことしたくない。魔物はすぐ消えて死体が残らないし血の滲み位だからあまり真剣に考えた事はなかった、普通のウサギを撃ってしまった時は申し訳ない気持ちでいっぱいになったけど生活のためだと割り切った。
なら人間だって撃てる、なぜなら相手が撃って来て、俺は死に掛けたから。殺さないと殺される、正当防衛だろ? そう思わないと手が震えてきてしまう。
覚悟はいいか? 俺はようやく出来たよ。
恨むならお前が軍人で、俺を攻撃してきたことを恨むんだな、俺は悪くない。
頭を狙いたかったが揺れが激しくなってきたので胴狙いに変更、狙撃を布装備で防げるとでも思った浅はかさは愚かしい。いやドラゴン皮なら矢ぐらいは防げるか、大口径弾は無理だった事実が頼もしい限り。相手はやや下方、進路は真っ直ぐなので胸の辺りに向けて発射、命中。
イヤミさんと違うのは回転せず顔面から落ちたところと胸骨の辺りがずいぶんとスリムになったところだ。なるほど、頭を撃ち抜かれたら死ぬに加えて胴体が弾けても死ぬということがよく分かった。
続けて固まっている連中に向けて連射する、6発打ち込んでリロード、リロード、リロード、リロード。Tango down、いやMike downか。One shot, Three killぐらいでよいペースだ。整列してる的だな、あるいはボーリングのピンのようだ。
魔法使いを排除できたのか帆が膨らまなくなって船足が落ちたようだ、続けて兵隊を排除する。生き残りを助けに来た連中を撃つ、釣り狩りだ。しばらく続けているが手足だろうと当たったらかなりの割合で即死しているようだ。エサが少なくなってきたので隠れている連中めがけて撃ちこんで見る。知らなかったのか? ヘルメットさんからは逃げられない、今のところ体温がある限りな。これもゲーム仕様なのか死ぬと一瞬で黒く表示されるから取り逃がしはない。
木箱や樽なんかは簡単に貫通した。マストを盾にしている奴らがいたが流石に頑丈だ、しかし何発か打ち込むと加重がかかったのかマストが折れて丸見えになる、ご愁傷様。
完全に漂流し始めたのでもう大丈夫だろうか、念のため動いている物めがけて撃ち続ける。甲板は汚くも綺麗になった。前者が血と肉で後者が制圧的な意味で。ヘルメットさんのおかげで内部までよく分かるが流石に木造船でも何枚も板が重なっているせいか中までは貫通出来ないようだ、どうしたものか。
『Airstrike standing by』
うん……ちょうど良いというべきか遅すぎるというべきか、ヘルメットさんの中の人が仕事をしてくれたようだ。これはもう字のまんまの効果なんだろうな。
「Enemy spotted,Requesting airstrike,over!」
『Copy. Danger close』
またもや眩暈がする、砲撃の時よりひどい……無事に発動したようだが今回はどういう方向で来るんだろうか。狙撃銃をしまって備えよう。これから起こるのは敵の自爆であって俺の魔法とは無関係、そういうことにしておこう。
数秒ほど待っていると空を裂く音が響くと共にまたもや爆発した。前兆に多少変化が見られたが結果的に変わって無いな、これは手抜きかも分からんね。それでも威力はたいした物で甲板が砕けて火を噴いている、榴弾だったようだ。と思ったらさらに音が聞こえて爆発が起こる、それが3回ほど続いたら船体がバラバラに引き裂かれて海の藻屑と消えた。
強い(確信)
Airstrike、日本語で言うと空爆ですねわかります。
ほんまもんのステルスなのはいつものことだが砲撃と同じレベルの魔法とは思えないんですが……ファジー入力がすごすぎるでしょう。もう気合があれば何でも出来るんじゃないかな。
これぐらいなら中二病じゃないと信じたい、天空がなんたらの呪文よりは数段マシだしな。
いやあ……サルト騎士団は強敵でしたね、さあ部屋に帰って寝よう。魔法の使いすぎとかそういう理由ならどこもおかしくはない。
その前に燃えている所に水を掛けてからかな、警備隊に声をかけて立ち上がる。
とこんなわけで俺の初めての戦争童貞は戦果:船1隻分な結果に終わったのでした。慈悲なんてなかった、サツバツ!




