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何の変哲もない一日

 楽しい引き篭もり生活に慣れてきたところで溜まった経験値を振ってみた、マジックユーザーⅤをてにいれたぞ!

 今回使えるようになったのはヘルメットだ。何を言ってるか分からないとは思うが俺にはなんだかわかった、これは多目的支援機能とかそういうやつですね、ハイテク! ゴーグル部分に表示が色々出ていて分析もしてくれるようだ、おまけにモードの切り替えで壁越しの熱源を表示してくれるので超便利。探知魔法いらんかったんやになりそうだがあれはあれで使える時があるはず、きっと、多分。いやレーダー魔法は壁や壁の向こうがポリゴン表示になるから微妙に別魔法だったな、視界外を警戒するソナー魔法は十分使えるし適材適所で使っていこう。

 しばらくいじって遊んでいるとなにやら違う表示が出てきた、真ん中に○が現れて上下左右に英語のバーが並んでいる。どこかで見たことがある画面だがはてどこだったかな、俺はただの通りすがりの古代からいるFPSゲーマーなんだがそうだこれは大昔のボイチャが無い時代のラジオチャットだな、定型文で報告や意思確認が出来る奴だ。せっかくだから俺はこの敵発見という意味のENEMY SPOTTEDを選ぶぜ! そんなわけで連射してみる、これは様式美であって凸厨とは無関係。視線で操作できるようで便利だな。


「エネエネミースポエネミーエネエエネミースポッテドオーヴァー」


 口に出さなくてもいいがこれはやっておくべきそうすべき。


『NEGATIVE』


 こいつ……喋るぞ、耳元で応答された件について。引き篭もりレベルが上がって幻聴が聞こえるようになったんじゃなければ確かに喋った。気になったので項目を一つずつ試して見たがどれを押してもネガティブとしか反応が無い、部屋の中で敵発見や前進なんてやってもそりゃ否定されて当たり前だが声の調子に何の変化もないから人間ではなさそうだ、コンピュータさんお疲れ様です。外で試してみるか、実際にやってみたシリーズなら別の反応もあるだろう。しかし何で今になってこの魔法が使えるようになったんだろうか? 普通デフォで付いてる機能じゃね? あもりにも1人きりだからとかか、なんでや!ぼっちレベル関係ないやろ、嫌がらせかよ。それになんでいまどきラジオチャットだけなんだよ、微妙に古いのはいつものことだけど中途半端に古いのは……いつものことだな。もう気にしたら負けだ、喋れたところで仲間なんていないし必要なかったと悟ろう。AIと魔本さんだけが友達でいいさ。

 つけっぱなしだと魔力なるものが減るのか疲れてきたのでヘルメットは解除してからフル装備でウサギ狩りに出発だ、これは魔物退治というごく一般的な冒険者活動であって動物虐待とは無関係。


 受付に下りるとミーコさんからぎょっとした目つきをされたがそこまで引き篭もっていましたかねぇ、このままでは俺の精神状態がストレスでマッハになるので軽く手をふりギルドから出る。引き篭もりの息子が何ヶ月かぶりに部屋から出てきた時の映像が目に浮かんだがそこまでひどくないぞ、ちゃんと散歩や飯のときは外に出てるからな。にぎやかな通りを西に向かう、立ち飲みラリーで一杯ジュースを飲んでから行こう。


「こんにちわ」

「おおぅ、なんだ兄ちゃんか。真昼間からそんな格好でどうしたんだ?」


 獅子はウサギを狩るにも全力を尽くすという名セリフを知らないのかよ、すいませんビビリなんでウサギでもフル装備なんです。


「ちょっと街の外まで出ようかと思いまして、安全のために」

「それならいいがせめてフードは外しておけよ、暗殺屋か強盗かと思ったぞ」


 1ヶ月の間に多少ぼろくなったフードつきマントはそんなに怪しく見えるのか、背中を見れば宣伝つきだが前から見ると怪しいのかもしれない。フードを取っておく。


「一杯いただけますか、ヒガシスペシャルで」

「あいよ、ちょっと待ってな」


 ナシとブドウのミックス、いわゆる東山さんスペシャルを頼んだ、酸味と甘味のバランスがすばらしい一品だ。自然本来の甘味とか天然の味なんて胡散臭い物だとばかり思っていたが実際に口にするととてもいいものだと分かったな。ただし現実のバカ高い無農薬天然果汁、テメーはダメだ。もう少しお求め安い価格にしてくらはい。


 一杯飲み干してから店を出て南に向かう、目指すは森と草原の間だ。前回とは違ってチェインシャツに皮鎧だから遅れを取るはずが無い、南門の警備をしていたトム君に挨拶して街を出る。早速ウサギを探そう。


 森に沿って右に進むと岩山だったから今回は逆に向かう、さてウサギはどこだろうな。遠視の魔法で見渡すと発見、UAVを使わずに済んだ。ヘルメットを装備して敵発見っと。


『NEGATIVE』


 またかよというか鬼なる、見事な仕事だと関心はしないしどこもおかしいだろ。もう少し近づいてみるか、照準が甘かったのかもしれない。少し距離を詰めるとそこにいたのは普通のウサギだ、魔物じゃなくて動物じゃないですかやだー。そのせいで反応がなかったのか? 危険な動物だったらどうするんだと問いたい、本当に創生神クオリティは穴がありすぎるでしょう。いや試す前から決め付けるのはよくないから熊でも出た時に一応試しておこう、どこで出るかは知らないが。

 そんなことを考えながら歩いていくと海岸に着いた、北に歩けば港に着くな。岸壁にウサギを発見、今度こそ角付きで魔物だ。敵発見っと。


『ROGER THAT』


 ラジャーザット、日本語で言うと了解だ。ってそれだけかよ! 一人戦争ごっこってレベルじゃねーか。これは無駄機能というかはずれ魔法なのかも分からんね、もうサーマルゴーグルとして使えばいいんじゃないかな。この魔法は早くも終了ですね、もはや魔法とはいったいなんだったのか。さあ帰って引き篭もろうそれが一番だ。


『Artillery support standing by』


 おや声の感じが変わったな、なにやらサポートしてくるらしいがArtilleryとはなんだったか。 アーティレリー? アーチェリー? ほらこんなもん。ファンタジーらしく矢でも飛んでくるんだろうか、巻き添えはごめんだから離れてから試してみよう。街の側に移動して距離をとる、これくらい離れれば大丈夫かな。ところでどうやったら発射してくれるんだろう? こういうときこそお約束だ、何でもやってみるもんさ。


「エネミースポッテドリクエスティングアティレリィーオーヴァー」

『Copy. Bombard them』


 やれば出来るってこういうことを言うんだろうな、最初のリロードのときとなんら変わらないノリで出来てしまう辺りに気安さを感じるがいつもながらファンタジーがゲシュタルト崩壊するあるさま。それはそれとしてボンバーとかヤバイんじゃね?

 大量にMPが減ったのか久々にくらりと来て膝を付いてしまった、いったい何が始まるって言うんです? MPがどれくらい増えたかはわからないが最初より大分多くはなっているはずだ、それなのにこんな状態になるっていったい……キーンと甲高い音が聞こえたかと思ったらウサギがいたであろうところが爆発した、催眠術じゃないが超スピードで。


 今になって思い出したがArtilleryって昔の戦争映画で聞いたことがある、大砲だか砲兵だか、とにかく砲撃のことでした。これからは気をつけようと思いました。


 じゃねーよ! 待望の範囲攻撃かと思ったら砲撃だった件について。ある意味では間違いないんだがあまりにも物騒すぎるでしょう。天井があるところだったらどうなるのか激しく気になるな。前々から思っていたが戦争ゲーム、特にFPSやTPSって攻撃とか攻撃的防衛の割合が高すぎる。それを参考にしてるもんだからそりゃ攻撃一辺倒になるのは確定的に明らか。

 火は出ていないのかすぐに煙が晴れると海岸線が少し手前に来ている、直径5メートルぐらいかな。端が海につながって水が流れ込んでいる。そもそもどこから飛んできたのか問い詰めたいが魔法クオリティは本当にやらかしてくれますよね、引き金を引いた俺が言うのもなんだがちょっとこれはなかったことにできない物か。とりあえずもっと水を撒いとけば誤魔化せるかな、誤魔化せると信じたい。水を溜めて回転させると泥水になった、あとは波が何とかしてくれるだろうそうに違いない。

 ウサギは犠牲になったのだ……ウサギェ!


 岸壁が崩れて形が変わるというのは稀によくあることなのでこれは自然現象ですよね、いやあ爆撃なんてなかった。さあ帰ろう。そのまま港を経由して東門から入るとすぐ冒険者ギルドで楽だった、何事もない一日だったなあ。

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