表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/44

掴まないし膝に矢を受けてもいない

 今日も笑顔で手招きしてくるシェリーさん、やはり陰謀だったのか。このままでは俺が滅亡する!!

 過去を聞きまわった俺を消そうとしているに違いない、簡単に情報提供者が見つかったと思ったらそれすらシェリーさんの手の上だったなんて……朝見た串刺しオレンジは警告だったのかもしれない。他の人たちは深刻な顔をしてこちらを見ているがどうしてこうなった。


 とりあえず逃げよう、振り向いて走り出そうとするとなんということでしょう、ウェスタンドアが凍って一枚扉に変化している件について。匠ってレベルじゃねーぞ。もう一度振り返ると変わらず手招きしている、どうやらいきなり消されるわけではなさそうだ。観念して受付まで行ってみる。

 シェリーさんがカウンターに取り出したのはオレンジだ、またかよと思ったがとりあえず作業を開始する。パシらされれば乗じて逃げられたかもしれなかったが準備がよすぎるでしょう、昨日と今日を逆にしてくだしあ。人数分を作り終えたのでこれでオサラバってわけにはいきませんかね。


 早速食べ終わったシェリーさんが俺の分を食べている、何を言ってるかわからねーと思うがまた超スピードで空っぽの器と入れ替わった。仕方が無いので氷水を作って器に注ぎオレンジ風味水を飲む、これはむなしい。


「よろしいですかな」


 口を開いたのはマルタスさんだ、いい人だと思っていたのにやはり人付き合いは年季が大事だったのかもしれない。


「まず私から、ジトウ様、流石にこのような物をいただくわけには参りません。」


 取り出したのは龍石、英語で言うとドラゴンストーンを入れて渡した袋だ。綺麗だからお土産に良いかと思ったがそんなことはなかったぜ。


「次はわしじゃな、宿舎で開けたら驚いたわい。理由もなく貰うわけにはいかん」


 今度は布包みだ、中には船の中で考案したドラゴンゲートボールで使う龍の骨、いわゆるドラゴンボーンと先っぽに嵌って取れなくなった龍石のセットだ。置物になるかと思ったが邪魔だったらしい。あるいは年寄り扱いされたくない年代なんですね分かります。


「まったく、お主は何を考えておるんじゃ。龍を倒したと言いおったがワシは迷宮に出るトカゲのことだと思っとったぞ。マルタスと話してびっくりしたわい」

「私も驚きました。量が量でしたが現物で分け合ったか買い取った物だとばかり、まさかお1人であれだけ仕留められるとは」

「私もてっきり迷宮の奥までいけるパーティを組んでたと思ってました、お金持ち過ぎます」

「もうひとつ食べたいわ」


 おや? 考えていたような雰囲気じゃないですね。これは勘違いだったのかもしれない。いやあ、人間疑い深くなるといかんなあ。

 まとめると迷宮の外の龍を倒してぼっちだけに独り占めして金貨もざっくざくだから怒られてるのか。あと最後の人はいったい何を言ってるんだ? ともあれ助かった、抹殺されるフラグはなかったんや。


「置物にいいかと思いまして、あと魔法使いには便利な物なんでしょう? お世話になりましたしどうか使ってください」


 シェリーさんを残して立ち上がり奥で話し始める3人、そのシェリーさんはまだ食べてる。ミーコさんのを奪い取ったらしい。3人が戻ってきた。


「ジトウ様、大変ありがたいのですが龍石の価値をご存知でしょうか?」


 そういやベテランの先輩たちは欲しがってたよな、いい値で売れるんだろうか。レアドロップにしては7割ぐらい落ちてたからそうでもないか、レア物とでかいのを除けば安いんじゃね?


「実はよく知りません」


 無知の知という名言を知っている謙虚さで正直に答える。この辺の心配りが人気の秘訣。


「物にもよるが大体金貨数枚の価値がある、珍しい物なら天井知らずじゃろ。そもそもお前さんなら自分で使えばいいじゃろうに」


 おおっと意外とレアだった件。使おうとしたんですよ船の中は暇だったんで。でも握ってアイスとか試したけど特に変化はなかった、杖の時みたいにメソッドが実装されてないから無理なんですね分かります。


「いや自分用のはちゃんとありますよ。他にもたくさんありますからお気遣いなく」

「たくさんですか?」

「10個ぐらいですね」


 また奥に行って話し出した。しかしこんな小さいのが金貨10枚とは驚きだ、宝石だと考えればどこもおかしくはないがビー球扱いしてすいませんでした。そうするともう一生分稼げたといっても過言ではないような気がするな、引き篭もり待ったなし! いやそういうわけにもいかないか、はからずしも十分な資金が手に入ったからずっと考えていた計画が実行できるかもしれない。


「しかし高価すぎます。おいそれと頂戴できません」

「わしもじゃ、ありがたいが額が額じゃからな」


 恥を知っている商人と魔法使いがいた、これは謙虚。


「でしたらお願いしたいことがあります、私は本が好きな物で。どんな本でも構いませんから何か1冊頂戴できませんか? それと交換ということでいかがでしょうか。あるいは何日か貸していただけるだけでもありがたいのですが」


 取り込んだ本を読みつくして暇になったのと情報収集がいっぺんに出来るすばらしいプランだすばらしい。最初は身近なところらから始めてみよう、折を見てこの支部に依頼として出せば活気が出るかと思っていたがそれはおいおいでもいいしな。シェリーさん餌付け作戦もその一環だった、受け取りを夜にして同席してもらえば偽物の本を持ってくる依頼者もいないだろう、昨日今日で身にしみて確信した。

 欲を言うなら魔本さんのプラグインなる物だとありがたいんだが見分けがつかないから数を集めるしかない。俺が納本制度だを決め台詞にするぐらい集めたい物だ。

 それならとどうやら納得してくれた様子。そういや本も高いって設定だったよな、まさか金貨数枚以上するんじゃなかろうな。どんなのでもいいと強調しておいたから大丈夫だと思うが。


 2人はそれぞれ帰っていった。残っているのはいまだに食べ続けているシェリーさんと獲物を狙う目でこっちを見ているミーコさん、そして俺だ。早く部屋に帰るべきそうするべき、すっかり湯冷めしてしまったし早いとこ寝てしまおう。おやすみなさいと言って足早に2階へ上がる。


 部屋にたどり着くと鎮座している串刺しオレンジが出迎えてくれた。ぜんぜん溶けてないのはそれだけすごい魔法なんだろうか。一方でコンロに置いていた氷蔵庫は大分水浸しになっていた。再度凍らせてみるが一晩ぐらいなら大丈夫かな。鍋の蓋を開けてみると小鍋の牛乳が変化していた、例えて言うならとんこつスープが冷えて油が固まってる状態だ。上側にバターみたいになっている層が出来ていてその下は水ではないが半透明の液体に分離している。これは成功したかも分からんね。

 早速上の層を銅コップに一塊入れてアイスドリルでかき混ぜる、しばらくすると膨れてきた。早速舐めてみるとアイス……じゃないな、生クリームに似た物が出来た。すごく重たい味わいでこんなのがケーキの上に乗ってたら全部食べ切れるか怪しいレベル。濃すぎたんだろうか? いやもっと空気が増えてふわふわになれば滑らかになるはずだ。

 もっと細かい刃のドリルでやってみよう。おお、すごく膨れてきた。これだよこういうのでいいんだよ、味も生クリームだ。これでアイスが……アイスになるのか? ソフトクリームならできそうな気もするがまた冷やせばアイスになるんだろうか。


 まったく検索できないとちょっとしたことが分からなくて困る、ネット環境がないならまともな百科辞典を常備して下さいますか創生神さん。

 なんだかんだでとりあえず成功したから良いか。洗って歯磨きして寝よう。


 危機一髪かと思ったらそんなことはない一日で本当に良かったと思いながら就寝。いやあ陰謀論なんてなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ