人に歴史あり、黒歴史かもしれないが
まだ朝なのに眠気が覚めた。人間を動かすのは恐怖心なんだなと思ったがこれはホラー過ぎる、冷静に考えよう、冷製にされる前に。
そもそも種族問題とはなんだろうか、地球の常識で言うところの人種問題は猿から進化した人間の中で地域や文化が違うから起こるんだ。このファンタジー世界では進化元が複数あるからさらにややこしくなっているんだろう。そう考えれば多様な風習が混在していてもそうおかしくはない……のか? 鍵のかかった部屋に侵入して氷像を飾っていく習慣だってないとは言い切れない。良い方に考えればだが。
「これは調査の必要があるな」
それとなく聞いてみるか、まずは本人以外で。着替えて寝心地の悪かった金貨袋を取りだし部屋を後にする、まずは貯金だな。1階に降りる、受付にいるのは少しは顔色がよくなったミーコさんだ。
「おはようございます、ギルド長からの伝言で『今晩もここに来るように』とのことです」
ロックオンされている件について、調査の結果次第では逃亡した方がいいかもしれない。
「はあ。わかりました、ところでいくつかお伺いしたいんですけど」
「なんでしょうか?」
「シェリーさんは怒りっぽかったりしますか? あとこの辺りで夜中に氷像を作る習慣ってあります?」
「ええっと、まず支部長はめったに怒ったりしませんよ。よっぽど無礼なことをされない限りはですけど。氷像は聞いたことが無いです」
「ちなみにどんなことが無礼に当たるんでしょうか、エルフの習慣には疎い物で」
「一般的には森を荒らしたりすると怒るそうですね。ただ支部長は変わった方ですからあまりそういうのはないみたいです、街に住んでいるぐらいですから」
なるほど、エルフってそういうイメージだな。ダークエルフも同じなのか。
「そうですかありがとう。あとこれの貯金をお願いします」
袋をカウンターに置く。金って重い、お札のありがたみがよく分かった。
「カードをこちらにお願いします」
取り出されたのは例の水晶玉だ、両替の時も使っていたのだが個室じゃないのは人がいないからですね分かります。あの時は自動販売機みたいなのに入れると下から金貨になって出てくる仕様だったが水晶さんは何でもできるんですね。カードを上に乗せると吸い込まれた。
「ただいま確認いたしますので少々お待ちください」
金貨を数えていくミーコさん、溝つきのコインケースとか作れば売れそうな気がしてならない。いや結局は水晶玉なんだろうから人力で一枚ずつ確認したほうがいいのか、聞いてみると贋金防止のためだとか何とか。あと入れた枚数でもめることもあったらしい。
「全部で金貨60枚ですね、お間違いありませんか?」
「間違いありません」
「では転送します」
トレーを横に置き水晶を突っつくとなんと言うことでしょう、横向きに金貨が飛んでいくではありませんか。重力仕事しろよ。全部入るとカードが出てきた。
「お返しします、ご確認ください」
「ありがとうございました。確かに入っています」
経験点の下に預金 60Gと追加されているからこれのことなんだろうな、ゴールドだからGか。ポケットにしまって一安心だ、これで盗まれる心配もない。
「ジトウさんが出発してから本当に大変だったんですよ……」
シャーベットを気に入ったシェリーさんに毎日パシられてたらしい。それだけであんなにやつれるわけないだろうと思っていたがガチガチに凍ったオレンジを食べる仕事もさせられていたそうな。繊維質豊富で冷たいのを食べてたらそりゃお腹壊すわ。それが1ヶ月ほぼ毎日だったらしくもう1週間帰るのが遅れたら危なかったかもしれない。ある程度予想は出来ていたが当人を目の前にすると罪悪感がひどくなってきた、しかしこれは俺が悪いんだろうか……お腹によさそうな物でも差し入れしよう。
そもそも猫って柑橘類ダメなんじゃなかったっけ? まあ猫族とは別物なのかもしれないな。挨拶をしてからギルドを出た、腹ごなしをしてから調査を再開しよう。
露天を梯子して色々と聞いてみたがどの種族でもダメな食べ物はないらしい、個人の好き嫌いはともかく食べて死ぬなんてことはないそうだ。ただあまり刺激の強い物は鼻がいい種族には辛いらしいと言うことも分かった。エルフについてはミーコさんと同じ情報しか手に入らなかった、もっと詳しそうな人に聞くか。
部屋に戻ってサンタ袋を引っ張り出してくる、向かう先はマルタス商店だ。ドラゴンアーマーとかいかにも強そうなのが出来そうな素材だが岩龍さんに比べるとしょぼいドラゴンだからな、実際にはどれくらいの価値になるんだろうか。それに攻撃を食らったことが無いからいまいち強度の違いが分からない、鉛弾なら何でも撃ちぬけたせいもあるな。到着した。
「いらっしゃいませ」
「すいませんマルタスさんいますか」
店番をしているのは人間のおじさんだ、パーティのときに見た顔だな。
「店主でございますか、少々お待ちください」
奥に引っ込んでいった。商品を見ながら待っているとドタドタと音がする、出てきたのはマルタスさんだ。前もこんな感じだったな。
「これはジトウ様、この度は手前どもの不手際、重ね重ね申し訳ございません」
土下座しかねない勢いで低姿勢が加速しているがいったいなんなんですかねぇ。
「妹婿ですが医者にかかったところ気鬱の病だとか、郷里に戻し療養させております」
ああ、そんなのあったね。新種族:羊族じゃなかったんだ。現代病かと思ったらファンタジーでも存在していることに驚きを隠せない。
「いえいえ、病気なら仕方ありませんよ。早くよくなるといいですね」
ようやく頭を上げてくれた、とりあえず用事を済ませよう。
「これお土産です、こっちはローウィちゃんにどうぞ」
渡したのは綺麗な小袋に入れた龍石と貝細工だ、レアな奴じゃなくて茶色い奴1つだけだけどな。
「あとこれを査定して欲しくって、お願いします」
サンタ袋から龍石と細長い包み以外を取り出してカウンターに乗っける。
「これは……地龍ですか? いやはやこれだけの量となるとなかなかお目にかかれません、詳しく調べますと少々お時間がかかりますが」
「いつでも構いませんよ、これで鎧を作ったらどれくらいのが出来ますか?」
「龍鎧ですか? 確かに軽く強い素材です、特に熱に強い。そこらの魔物なら相手になりますまい。ただ魔法使いの方では珍しいかと思います」
「そうですか、じゃあローブとか」
「そちらの方がよろしいでしょう。龍皮でも十分な強度がありますし軽いですからな、補強に鱗を使えば申し分ないものが出来るでしょう」
意外と高評価だな、流石にドラゴンといったところか。比べる対象が悪かっただけかもしれない。グランドドラゴン=地龍か、地属性なんだろうな。
「龍の鱗はそんなに頑丈なんですか? ほら、サソリだと割れて駄目になるって話ですけど」
「そうですな。よほどの達人か名剣でないと傷つきません、魔法に対してもかなり耐えます。素材としては理想的です、ただ種類によっては弱点も持ちます」
逆鱗とかアキレスとかそういうやつかな?
「地龍の場合は頑丈さに加えて炎や毒に対して抵抗を持つ物が多いです、逆に水や氷に対してはそれほど強くありません。といっても生半可な魔法では貫くことは出来ませんが」
亜種さんが凍ってたのはそういう理由だったのか。爬虫類だからかと思ってた。
「水龍の場合はその逆になります、ある程度の耐久を持ちますが頑丈とは言えません。まあどんな素材も使い方や組み合わせ次第ですな」
「なるほど、勉強になります」
属性攻撃は必要不可欠ってことか。それにしては鉛弾(物理)の威力が……あれはストーンボウと言う魔法であって物理とは無関係と言うことにしておこう。鉱石が飛んでいくという意味では間違いない。
それから少し話をしてから店を出る、シェリーさんの情報も手に入ったし来て良かった。明日には鑑定が終わるそうなのでまた明日来よう。サンタ袋も軽くなって足取りも軽い、露天でいくつか持ち帰りにしてもらって南門に到着だ。
ちょうど詰め所の中に入ろうとしていたマロークさんがいた、逢えてよかった。
「こんにちは」
「おお、あの時の若いのか。大事無いか?」
「マローク先生のご指導のおかげでこのとおり無事に帰ってまいりました、お時間がよろしければ昼食でもご一緒にいかがでしょうか」
「堅ッ苦しい喋り方をしおって、ちょうど休憩じゃからそこらの店にでも入るか」
「露天で軽い物を買ってまいりました、あとこれお土産です」
「ほう、持ち歩くのも面倒じゃな、中で食べるか。茶ぐらい出すぞい」
詰め所の中に入る、手渡した土産を壁に立てかけお茶を入れ始めるマロークさん。軽く食べながら冒険の日々を語ったところやっぱり呆れられた、早く仲間を作れだそうな。すいませんぼっちなんです。小さいドラゴンを倒したといったら生暖かい目でほめられたがそのあとに
「魔法使いは本当に脆いということが分かっておらんのか? 信頼できる前衛がいないことにはすぐ死んでしまうんじゃぞ?」
と説教されるありさま。そうは言うが町人Aさんや子供を盾にするわけにもいかないよな、扉さんと防壁さんが友達でいいや。ベテランの先輩は街中の高級宿や一軒家住まいなのか会う機会もなく接点はゼロだし。そもそも話しかけられません。長々と説教されたが今後の課題ということで前向きに検討しつつ善処していこう。そのあとは街の歴史や種族のこと、特にシェリーさんの伝説について聞いてみたところ結構な情報が得られた、流石ベテラン魔法使いだ。
曰く出身地不明の謎のダークエルフ冒険者で魔物と見ると皆殺しにして哄笑をあげてたらしい。得意技は氷漬けにしたあと砕くこと、これは怖い。東山さんに出会ったあとは落ち着いたらしく理性的になったとかなんとか。休日には仲睦まじく散策される東山さんとシェリーさんの姿が、ん? 今の王様って猫耳付きなんじゃなかったっけ?
エルフは子供が出来にくいらしく東山さんとの子を授かることはなかったそうな、そして死別、悲恋やな。一方で東山さんは冒険者仲間の初代ミーコ妃さんと子供が出来て今の王様はその子孫だとさ。これはひどい、いや王政なら嫁さんが何人いても普通か。
それ以来ずっと冒険者ギルド王都支部に勤めて現在に至ると。今でも東山さんを馬鹿にされる事と年のことを言われると切れるのを除けば立派な支部長らしい。
……現代ミーコさんが切れる条件を教えてくれなかったのは自分にも当てはまるからだろうか、年の事じゃない方で。
うーん、話半分に聞いておくか。マロークさんも親の世代からの聞きかじりらしいし。マルタスさんに聞いたのともちょっと違うしな、街の顔役で優れた魔法使いって話だった。軽いヤンデレだと思えばどこもおかしくはない……か? いや王妃様なんじゃねーの?
「ああ、爵位こそないが南の聖領を委ねられておる。1代限りとなっておるがはてあと何百年……いやわしは何も言っておらんぞ」
そういえば聖領モリヤマ村って書いてあったっけ。江戸時代で言うところの天領みたいな物かと思ってた、王妃直轄と考えればそういうものかもしれないな。
「そんなにすごい人なのになんであの支部に? こういってはなんですがあそこは誰も来ないしそもそも働く必要はないんじゃ」
「さてな、若いのは嫁はおらんのか?」
「あいにくと縁がなかったもので」
話が変わったな、3次元とかダメなんでと職場でいうと6人中3人が引いて2人が心配してくれる、残りの1人は馬鹿にしてくる。これ豆知識な、俺の場合だけど。
「そうか、ならまだ分からんじゃろうな。愛するということは本当に難しいことじゃ」
いやそういう哲学を言われてもな、というか魔法使い(童貞)にそんなこと言われても答えようが無いだろう常識ィ。
「年を取ればおのずと分かるじゃろ、なんぼじゃったかの?」
「先日30になりました」
「……そのうちわかるようになるじゃろう」
その間はなんなんですかねぇ。しばらく話を続けたが串刺しオレンジのことは結局分からなかったのが残念。休憩時間が終わりになったのでお礼を言ってから別れた。さて、大体の用事は済んだな。あとは夜になったらミミーちゃんに会いに行くのとシェリーさんに呼び出されているだけだ。それまで何してようか、通りをぶらついていると肉屋を発見した。看板が肉だから実に分かりやすい、コロッケでも売ってないかと思ったがあるわけがなかった。立ち去ろうとすると金属製の大きな容器を運び込んでいるのが見える、どこかで見たことがあるような気もするがどこで見たんだったか……乳牛のドキュメンタリーだ。確かあんな感じの容器で移動させてたような気がする。木の箱に入れられて口だけ覗いているようになったが小売しているんだろうか? 聞いてみよう。
「すいません牛乳売ってますか?」
「いらっしゃいませ、今届いたところですよ」
どうやらあっていたようだ。これはアイスクリームフラグが立った、間違いない。しかし何で肉屋なんだ、牛つながりではあるが。
「どれにしましょうか」
並んでいるのは大きさの違う瓶だ、入れてくれるらしい。
「大きい瓶だとおいくらですか」
「銅貨で30枚になります」
1.5リットルぐらいの瓶で30枚か、中瓶と小瓶がそれぞれ20枚と10枚だそうな。安いのか高いのか分からないがとりあえず一本買ってみるか。せっかくだから俺はこの大きい瓶を選ぶぜ!
「少々お待ちくださいな、空き瓶はお持ちいただけると銅貨5枚で交換しますんで」
実にエコだった。これでねんがんの アイスクリームをてにいれるぞ! 冷やして固めれば出来るはず、砂糖と卵もいるんだったかな? 色々やってみよう。うきうきしながらギルドに戻る、ついでに大鍋小鍋と銅製のコップも買ってきた。
早速やってみよう、の前に一応消毒しておこう。読んでてよかった料理漫画。たしか低温でも何十分かかけるとおいしいまま殺菌できるとか言ってたから魔法のお湯でなんとかなるだろう。確か60度ぐらいだったかな。正確な温度が分からない系の不具合があったけど熱過ぎる風呂ぐらいの温度でお湯を作って大鍋に入れ瓶を漬けて30分ほど放置する。さてここからが問題だ。肝心の作り方の回は読んでいなかったんだよな。とりあえずペロッ、これは牛乳。大分濃い味だがこれはうまい。
とにかく冷やしてかき混ぜよう。シャーベットはそれで出来たしな。銅のコップに注いでアイスドリルでかき回す、よーし固まってきた。けどなんだか水っぽいな、どうみてもアイスじゃなくてシャーベットだ。滑らかさが足りないし味も牛乳そのものだ、さらにかき回すがダメだやっぱり水っぽい。プロジェクトは早くも暗礁に乗り上げてしまった感。簡単だと思っていたが意外と難しい。失敗作をシャリシャリと食べていると寒くなってきた、おまけにどこまでいっても牛乳味だ、そういやバニラアイスにはバニラビーンズとかバニラエッセンスが入っているよな。いったいどこで取れる豆なんだろう。
ペットボトルに入れて振り回すとバターになる理論は役に立ちそうもないしどうしたものか……こういうときは煮詰めてみよう、水気が飛べば濃いのが出来るに違いない。魔法で煉瓦を作ってコンロ代わりにしてみたが部屋内で火を使うのは危ないな、燃料もないから火を出し続けないといけないのは面倒だ。かといって外でやると怪しまれそうだな……この案は没で。逆に冷やしてみるか、油が固まって濃くなるかもしれない。大鍋にかち割り氷を詰め込んで小鍋に移した牛乳を埋め込む、これでしばらくほっとけばいい。蓋もしておこう、ついでに瓶の方も腐らないように氷の箱に詰める。溶けると水浸しになりそうだからコンロの上に乗っけてればいいか。
夢中になって作業をしていたせいかもう夕方になってしまった。ちょっと早いがミミーちゃんに会いに行くか、いやああいう店は日が落ちてからだろうか。通りに出てブラブラして時間を潰す、買い食いしながらさりげなく西側の通りまで移動していると日も落ちてきてちょうどいい具合だ。別に未婚だからこういう店に行くのはどこもおかしくはないはずだけど1人で行くのはどうにも気恥ずかしいものがある。いや魔法使いとはかくあるべきかもしれないな。
相変わらず派手な店に入る、ママも覚えてくれたのかミミーちゃんが出てきた。いやあ俺はロリコンじゃないけどやっぱり可愛いな俺はロリコンじゃないけど。お土産の貝細工を渡すと喜んでくれた、これは万能かもわからん。テーブルに座って料理を頼む、待っている間撫でていると前にあげた櫛を渡された、せっかくなので梳いているとゴロゴロと鳴き出してこれはネコネコでカワイイ。料理が着たので一通り食べたりあげたりしていると癒し効果最高や、まったく何てことだ。食事のあとはデザートにシャーベットを作ってあげた、膝に乗せて食べさせ撫でていると眠ってしまったので名残惜しいが今日はここまでだな。ママに渡して帰るとしよう、銀貨2枚なり。
会計しながら考えていたがまたもや貨幣価値が分からなくなってきた。新米兵士が月給銀貨5枚っていってたよな、それが大ゴブリンさん1回分だ。モリヤマ村では銅貨単位の買い物しかなかったし王都についてからはたまに銀貨を使うが大体銅貨で買える物の方が多い。これはぼられているんだろうか、いや普通のゴブリンが銅貨数枚だからそういう意味では大ゴブリンさんは腐ってもボスということかもしれないな。もうわかんなくなってきた、比較する材料が少なすぎる。そんな狩り方ばっかりしてたからですね分かります、金貨が手に入ってるからどうでもいいことかもしれないしな。
帰りしなにようやく銭湯に入れた。大きい風呂はいいな。魔法でお湯を出しても集中してないとすぐに飛び散ってしまう、空中に少量浮かばせてその中に腕やら足を突っ込んで洗ってるわけだけどこの開放感は味わえない。たらいに入れると楽だけど片付けるときなんだかむなしくなるしな。そんなわけで足を伸ばせて入れる風呂は贅沢だ。
長風呂を楽しんで湯上りに牛乳をと思ったが部屋にまだたっぷり残ってた、ジュースにしておこう。ヒガシスペシャルを飲みにいくのを忘れていた件、また明日だな。
浴衣にサンダルでギルドまで戻ってきたがもう大分寒くなってきている、防寒着……備えよう。中に入るとそこにはミーコさんにシェリーさん、はいいとしてなぜかマルタスさんとマロークさんが居た。




