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買い物の続きと

 店の外に出ると日差しが真上に来ていた。もう昼か。噴水から水滴がきらきらと舞って綺麗だな。


「この通りは冒険者通りと呼ばれていましてな、初代様ご存命の時代はそれはもう大変な賑わいだったと父から聞いております」


 周りを見回すと確かにそれらしい看板がたくさん並んでいる。が人通りはあまりないな。現実の滅亡した商店街ほどではないが寂れた感じはする。


「初代様は何時ごろお亡くなりに?」

「もう70年ほどになりますな。東にあった迷宮がなくなり多くの冒険者は北のメイキュウマエに移りました、武器や防具、鍛冶屋の若い世代も同じくです。頑固者ばかりが残ってしまいましたがその分腕は確かですのでご安心を」


 ますますシャッター商店街だな。頑固職人なら大丈夫だ問題ないと信じよう。

 荷車の袋を持っていくべきかな?


「この殻も持っていったほうがいいでしょうか」

「試着するなら後でも構わないでしょう、一からとなるとそれなりに時間もかかりますし。うちの倉庫に保管しておきます」

「そうですね。蠍以外の材料が気に入るかもしれません」


 マルタスさんが誰かを呼んでいる、店から出てきた子供に預けて出発だ。なるほどたまに閉まっている店はつぶれたか移転した店なんだろうな。


「珍しい素材が出ればこの辺りに運ばれて解体・加工されるんですよ。最近は船便も増えましたしメイキュウマエまでそう時間もかかりませんかな」

「職人さんはまだまだ現役なんですね」

「ドワーフの一族ですからな。後100年は現役だと皆いきましております。メイキュウマエに行った世代はまだまだハナタレだと」

「ドワーフですか、すいませんこの国には着たばかりで。どれくらいの種族が暮らしているんでしょう。猫族と犬族と狐族、ギルドのシェリーさんは知っているんですが」

「どのような種族でも受け入れる国ですからな。猫族と犬族が多いですが続いて人間族が大部分です。後は狐族や兎族が少しとドワーフが幾人か、エルフ族はシェリー様お1人です。」

「俺のいたところは人間ばかりだったんですがすごいですね。皆幸せそうです」


 丁稚や商人が歩いているが殺伐とはしていない。たまに子供の騒ぎ声も聞こえてくる。中世は封建制で農民がひどいですね、終わったかと思ったよというイメージがあったがここは普通の街だし農村も普通に見えた。


「……この国ではどんな種族や混血であろうとも偏見や差別をされることはありません。本当によい国です」


 マルタスさんが半泣きになってる、どこか思うところでもあったんだろうか。しばし歩いていくとガチンガチンと音がする区画に着いた。


「ここがマルカの防具屋です、甥っ子がやっておりますので融通が利くんですよ。さて参りましょう」


 引き戸を開けるとベルが鳴った。いかにも防具屋だ、壁には盾や兜がかかっていて鎧を着たマネキンもある。カウンターにあるのはバングルや首飾りかな。

 だが店主が出てこない。呼んできますとマルタスさんは奥に入っていった。品物は身につけてもいいそうだ。とりあえず兜をかぶってみるか。

 見えにくいし重い、蒸れるしこれはだめだ。鉄兜のようだがこれを全身に着るとなると歩くのも無理なんじゃなかろうか。魔法使いが軽装な理由がよく分かったよ。

 奥から恩人だの婿だの聞こえてくるが聞かなかったことにして盾を持ってみる。これも鉄製か、持ち上げられなくはないが持ち続けるとちょっと無理だな。


 鉄製品終了のお知らせになった件について。謙虚なナイトはタフネスが豊かで最強に見えることがよく分かった、魔法使いはおとなしく布装備にしよう。

 そんなことを考えているとマルタスさんとマルカさん? が出てきた。


「お待たせしましたジトウ様、店主のマルカでございます」

「こんにちは、軽い防具を見せてもらえますか。鉄兜はちょっと無理でした」

「最高のものをお出ししなさい。分かってるな」

「叔父さんはいつもいえなんでもないですわかってます」


 力関係がよくわかるな、身長はだいぶ違うが目元はそっくりだ。マル一族は人間で嫁さんが狐族なんだな。


「まずこちらのチェインシャツはいかがでしょう。幾分と軽くなっております」


 ジャラジャラとした鎖の塊が出てきた、胴体を守るやつか。早速着てみると案外軽いんだな、冬のスーツにコートをあわせたぐらいの重さだ。


「ミスリルと鋼の合金です。魔法にもいくらか強いですが1点を突かれると網目が広がることがありますのでご注意を、衝撃にも強くはありません。あわせてこちらの皮鎧をどうぞ」


 ごつごつしているが重ね着してみる、これくらいなら問題なく動けそうだ。肩が回し難いということもない。


「岩熊の皮で出来ています。頑丈さは保障しますが重くありませんか? ちょっと動いてみてください」


 しゃがんだり歩いたりしてみるが大丈夫だな。


「大丈夫です。メイキュウマエでも使っていけますか?」

「深いところになるとなんとも言いづらいですが低層なら問題ないでしょう、ただパーティやご自身のお使いになる魔法しだいというのもありますが」

「後ろから攻撃する魔法使いになろうと思ってます」

「でしたら問題なさそうです。前衛が優秀ならさらに言うことはありませんね」


 パーティというか仲間がそう簡単に見つかるんだろうか。酒場でたむろしてるとかギルドで紹介してもらえるとかだといいんだが。


「ところでこれっておいくらぐらいでしょうか?」


 ミスリルとか相当高いんじゃね? RPGだったら後半の装備な気がする。店に入って話しかけると一覧が出る仕様じゃないのが悔やまれるな。


「そうですね、軽く頑丈な素材ですのでそれなりのお値段になります。従兄弟の恩人様ですから勉強させていただいて」

「お前ちょっと来い」


 叔父に引きずられていくマルカさん。脱いで待ってしばらくすると戻ってきたが目が死んでるようにしか見えない。


「たいおんあるおんじんさまからおだいをいただくことはできません、ぶーつとこてもおなじそざいのものがありますのでどうぞ」

「いやそういうわけにも、手持ちは銀貨がごれだけあるんですけど足りませんか?」


 蠍から出てきた銀貨は30枚ぐらいだったかな、それなりの額だとは思うが。


「甥の気持ちを汲んでやってください。商人は多少の損があっても恩には報いるようになれば一人前なのです」


 どうみても言わされてる用にしか見えないのは気のせいなんですかねぇ。


「どうしてもと言うことでしたら屋号でも染めさせていただくと言うのはどうでしょうか。宣伝になりますもので」


 法被みたいなものか。戦う広告塔ですね分かります。


「はあ、それでよければ」

「マルタ、外套もお付けして染物屋に」

「はいおじさんわかりました」


 見事な連携だと関心はするがどこもおかし……おかしいな。AGI500ぐらいあるのかもしれない。あっという間に出かけていったマルタさんだが残された身としてはもう帰ってもいいんだろうか。


「他にご入用のものはありませんか? このサークレットなどよくお似合いになるかと思いますが」

「いやこれ以上は甘えられませんよ。あ、杖があるなら見てみたいのですが鍛冶屋さんは開いてるでしょうか」

「鍛冶屋ですか? 開いてはいるでしょうが杖ですと武器屋ですな」

「金属製で軽いものがあるといいんですが」


 昨日見たマローク爺さんの杖は節くれだった木製だった。普通の魔法使いならあんなのなんだろうがすぐ折れそうだったから頑丈なやつが良いし考えもある。


「金属なのは石突ぐらいですな。補強ではなく全部が金属ですか? とりあえず行ってみましょう」


 店の奥に声をかけてから外に出る。武器屋は目の前なのですぐだ、マルタスさんが聞いてくれているが並んでいるのは全部木製だな。


「金属製のメイスならあるようですが杖はこれぐらいです」


 奥から運ばれてきたのは1メートル少々の棒で石突と右半分に鉄かな? 補強が入っている、もち手はT字型だ。

 俺が考えていたのは銃っぽいフレームがあればもっと集中できるんじゃないかという案だ。マローク爺さんの行っていた『杖を持つと集中できて威力が上がる』が本当なら持たない手はない。見えない銃だとスコープを使わないとどこ狙ってるかさっぱり分からないのもあるがましになるかな、とりあえず試してみたい。

 持ってみると腹の上辺りぐらいの高さで持ちやすい、重さもそうでもないからよさそうだ。


「おいくらでしょう」

「銀貨2枚に負けさせました。すぐお持ちになりますか?」


 もう少し下にグリップがないと安定しないな、ストックはT字だからこのままでもよさそうだ。とりあえず使ってみるか。


「ええ、お願いします」


 財布から銀貨2枚を取り出すと店主に渡す。手入れ用の布もつけてくれたようだが使い方がわからないな。

 油とかで拭くんだったか? まあ貰えるなら貰っておこう。

 雑貨屋に戻るとまだ酒瓶を選んでるおっさん、いわゆるリールさんがいる。


「勤務中買い食いしない新兵に対して酒を選ぶのに熱中する隊長は大丈夫なんだろうか」

「飲むようなら止めますが買うぐらいは黙認されております。その辺りは守っておるようですな」

「おう、戻ったか。こいつとこいつを頼むわ」


 1升位の瓶を両手に良い笑顔だ、本当に生き生きとしてるな。ただし勤務中です。

 会計するのを見ていると1本銀貨2枚もするらしい。金銭感覚がおかしくなってくると思ったがそもそもの貨幣価値がいまだに分かってなかった。葉書50円とか初任給12万円とかそういうのがないから余計に分からないな。

 聞いてみると新米兵士が月銀貨5枚で隊長は10枚だそうな。寮と食事は付いていて装備も支給品らしいのでたまに飲む以外減らないらしい。

 貯金と言う概念はないのかと思ったらギルドで預かりサービスもしているそうだ。貯金しておこう(戒め)。


 南門まで戻ってマローク爺さんに魔法の講義をしてもらう。最初はいやな顔をしていたがサンダーレインすごいですねをしてみると機嫌がよくなった、チョロイ。

 基本魔法にアローやウェーブなんかをくっつけると変化する系の仕様だった。メガとかギガとかじゃなかったのかと思ったらそれも使えるらしい。


 ファイア + ボール + メガ ででかい火の玉が飛んでいく魔法となるようだ。順番が違ってもおなじ魔法が発動するみたい。堀に向かって練習してみたところ同じだった。

 加えてあの長い詠唱をすると威力が増すとか言うのもあったがあまりに恥ずかしいのでなかった事にした。普通にファイアボールって言えばでたし。

 迷宮だと威力が高すぎると部屋ごと巻き込んだりして危なかったりそんな悠長な暇はないそうで冒険者は詠唱なしが普通だとか。

 ただ普通の魔法と違ってシステムなるものが備わってない俺には杖を持っても威力が上がるというのは適用されないようだ。マジカル☆銃を使う時だけ使おう。

 調子にのってギガアイスとか叫んでいると堀が詰まって怒られた。あと気が付いたら夜だった、何を言ってるか分からないと思うがMPが切れたらしい。50連装ファイアアローは無理だったか……。


 そんなこんなで警備隊の交代にあわせて酒場に行くことになった。リールさんが持ち込んだ酒で乾杯するが辛すぎる。酒は飲める体のようだが味覚は変わっていないようだ。

 果汁で割ってちびちびと飲んでいると辺りはだいぶ出来上がっているようで大騒ぎだ。2時間ほどたった頃何人か酔いつぶれたのでお開きになる。

 しかしビールのようなものがジョッキで銅貨5枚なのにあの酒は一升瓶1本分ぐらいで銀貨2枚とかすごいな。均等割りなら蠍の儲け分がなくなってるんじゃないかと思うが気前の悪い上司には誰も好んで従わないとはいえ隊長は大変だ。


 隊員を帰した後街の西側へと連れ出された。西門の近くで大通りの北側、通りを一つ超えると街灯の他にけばけばしい光で眩しい一角、本当に行く気だったのか。


「確認なんですけどここはいかがわしい店が並んでいる通りですよね?」

「ああ、癒しと夢を運んでくれる楽園だな」

「大変よくわかりました。明日も早いので私はこれで失礼しますね」

「まてまて、まだ寝るには早い時間だぜ、それにこれは人助けでもある」

「何がどうなって人助けになるんですか」

「誰も好き好んでこんなところで働きたがる女がいると思うか? 皆事情があるのさ。親の借金を返すためだったり、な」


 聞くだけ聞いてみるか。


「大半がクソッタレな話さ、聞いて面白いもんじゃない。でも大抵が借金さえ返せば自由になれるし身請けされればなんとでもなるからな。もっとひどい話もあるが」


 言葉を切るリールさん


「お前が前にこの国は良い国だって言ってくれた時嬉しかったんだぜ。ただどこにでも汚い部分はあるってことさ。でも俺が通えば1人か2人ぐらいは早く出て行けるだろう? 付き合ってくれよ」


 酒瓶を選んでいたときとは違って泣きそうな笑顔だ。


「話をするだけですよ」

「ん?」

「結婚前にそういうことはしない主義なんです。飲んで喋っておしまいなら付き合います」

「はは、そいつは結構なことだ。よし王子様、出発だ」


 けばけばしい光の中を進んでいく。さっきとは違って少しだけ寂しさが混じっているのだろうか。

 夜の蝶はなぜ舞うのか、陽の下では逢えない寂しさのせいなのかも知れない、そんなことを感じたのだった。









































 とそれらしく終わってれば良い話なんですが娼館に入ったところでこの猫男は猫なのに豹変した。


「イェーイ! ミーナちゃんいるー? リールちゃん参上」

「いらっしゃいませ隊長さん、ミーナちゃんご氏名よー」


 バーのような作りの店だ。左側にカウンター、右側にテーブルが幾つか並んでいて2階に続く階段がある。カーテンで区切られているが奥にも部屋があるようだ。

 カウンターにいるのは恰幅のいいご婦人だ。奥から出てきたのは猫率の高い女の人でリールさんと並ぶとお似合いだ、種族的な意味で。いきなり抱きついて頬擦りしてる。


「リールちゃん久しぶり。ミーナ嬉しいわ、飲む? それともベットに行く?」

「ベットで飲んでそのまま行こうぜ。今夜は寝かさないぞ」

「リールちゃん大胆ー、新しいお酒開けても良い?」

「開けろ開けろ、今日は臨時収入があってな、昨日の夜蠍を狩ったんで小金が入ったんだ」

「キャー素敵、リールちゃん強いもんね。ミーナもし蠍が入ってきたらと思うと震えちゃうわ」

「俺が守っているうちは兎一匹街には入らないさ……安心しな」


 ドヤ顔で決める猫男、ひどい茶番を見た気がするがこれは普通なんだろうか。そんなことを考えていくと2人は2階へ上がっていく。


「あ、ママ。そいつ俺の連れね。カワイイ子紹介してやってよ。ボッタクリ禁止ね」

「うちはいつでもカワイイ子揃いよ。ボッタクリも乱暴な奴以外にはしないから任せておいて」

「なら安心だ。そいつは紳士だからな。じゃ、がんばれなー」


 いちゃつきながら奥へと消える2人。取り残されたのも2人。


「さてお客さんうちはイイ子が揃っているわよ。どんな子がお好み?」


 ママがベルを鳴らすと奥からぞろぞろとたくさん出てきた。ネコミミ、イヌミミ、ウサギミミとバリエーション豊かだ。薄く胸元が開いているドレスを着ている。下も短かったりスリットが入っていて太ももがよく見えた。

 問題なのは皆濃い化粧で人間の比率が少ないところだな。比率はともかく全体的に苦手な部類に入る。もっと清純な子は こんなところにいるわけが無いな。


「まあまあじっくりとお選びになって、ミミーちゃんお酒をお出しして」

「お待たせしましたにゃ、こちらをどうぞにゃ」


 カウンター横は厨房なのかそこから出てきたのはネコミミメイド服の天使だった。

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