ある日の前日
読み飛ばしても何も問題はない話です
俺の名前は地頭鶴夫、どこにでもいる無職だ。前職の名前は司書(非常勤)。
ごく普通の彼は、ごく普通の進学(Fランク大学)をし、ごく普通(氷河期を越えた不景気)の就職をしました。ただひとつ違っていたのは前年の4月から無職だったのです。
現状を100字程度でまとめたところ以上のように表される悲壮感や絶望を端的に表すにはいささか単純すぎるようにも思えるが他人の不幸を完全に理解できるわけでもなし、そういうものだと規定するのが楽なのだ。無職になってからしたことといえば失業保険・年金の納付猶予手続きと就職活動を2ヶ月。履歴書と職務経歴書を書き綴ること30回を越えたあたりから
無理(確信)
となるありさま。(そもそも地方の小さい企業ばかりなのに面接までたどり着けたのが2社しかないとかおかしいだろ 募集2名なのに面接会場には40人ぐらい来てたし)
ハローワークの別窓口に案内され職業訓練(Webプログラミング)を受講→修了で6ヶ月経過し資格試験を受けつつ就活4ヶ月。
「そして現在に至る、と」
年度を変えたカレンダーを見ながら一人ごちる。失業保険はとうに切れているし、貯金も今月の家賃を払えば小銭しか残らない現状はどう見ても詰みなのだがあきらめない精神で目覚めては見たものの時刻は10:00を回ったあたり、ハロワには昼から出向こうと布団をたたみ窓を開ける。
うららかな陽気と春休みなのか子供のはしゃぎ声が平和な風景を描いている中。
俺は死んだ。無職(笑)
「え……えっ?」
気がつけば俺は浮いていた、気分がとか立場がとかではなく幽霊的な意味で宙に浮かんでいる。おまけに体が半透明と来ればどう見ても幽霊です本当にありがとうございました。見下ろすと間借りしている家の屋根に大きな穴とそこから細い煙が立ち上ってくるのが見える、隕石でも落ちたのかピンポイントに俺の部屋を直撃したらしい。天災だか人災だか知らないがあっという間の出来事過ぎて何がなんだかわからない。
死んだら天国とか地獄とかに行くものだとばかり思ってたのになぜ浮かんでいるのかと問いかけたい。が、三途の川の船頭や天使もいないので聞くに聞けない。俺の人生は不良品だったかもしれないが死んだあとまで不良品とか冗談じゃないぞ。このままだと地縛霊な余生を過ごす羽目になる、いやもう死んでるから余死になるのか。
ともあれ俺の体を確認して合体すれば元に戻れるんじゃね? と思いつき下方向にクロールしてみたところ少しずつ屋根に近づいていった。幽霊らしく体が屋根を貫通した時はビビったが穴から入る光で埃だらけの天井裏まではっきりと見えた。
穴が開いてなかったら見えなかったのか? と幽霊の視界について思索する前に部屋に到達。煙が立ち込めているが幽霊には関係ない。
「Oh……」
窓側一帯に広がっているそれは白とピンクと赤の塊でグロ注意とか赤文字で警告されるレベルの物体だった、具体的に言うと頭から上半身にかけてバラバラになった俺。
「これはもうだめってレベルじゃねーな……幽体離脱はギャグだからこそ許されることがよくわかったよ。 そもそも俺は双子じゃなかったしな」
床にも穴が開いてめり込んでいるのは隕石なのだろうか、金属色で丸っこい塊がブスブスと煙を上げている。天井の穴と比べて見るとペットボトルの蓋ぐらいの大きさしかないが高度の力ってすげー。
それからはあっという間だった。被害の少ない廊下側の机の上に浮かんでいたところ警察と消防が来たかと思ったらなぜか迷彩服と白衣を着た科学者らしき人物が現れて警官を追い出した。
隕石と俺の死体を回収した後に追加で現れた白いガスマスクつきスーツの集団が部屋をひっぺがえして無事だった壁なんかも全部なくなった。外を見ると青いビニールで囲まれて外から見えないようになっている。
映画に出てくる宇宙人対策組織を思い浮かべてもらえると大体理解ができると思う、文句をつけようにも叫んだり触ったりしてみたところすり抜けて話しにならない。ポルターガイストでも起こせればいいんだろうが幽霊初日の俺にそんな技能があるわけもなく、マスクマンの区別もつかないのでどうでもよくなった。
そうして2日ほどボーっとしていたら突然俺は消えた。