第二幕 第一場 記憶喪失
〈彼女〉は片手を壁に当てながら、暗い一本道を歩いていた。
〈彼女〉の進む先に光はなく、ただ瞼を閉じたような闇が広がっていた。
〈彼女〉は一歩一歩と恐る恐るすり足で前へ踏み出し、右側の足を壁沿いに移動させる。
手と足から伝わる感覚が〈彼女〉の命綱だった。
目の前の暗闇により、眼は先を見通すことも遠近感を把握することもできず、辺りには静寂が広がり、耳は自身が発する音だけを拾う。長い間、太陽の光を浴びていないために、カビの匂いが虚空に満ちており、〈彼女〉の鼻は利かなかった。
手のゴツゴツとした石の感触とカツカツと感じる足裏の硬い感覚が唯一彼女に空間を感じさせる。
そして、一度それらの感覚を失うと彼女は二度と太陽を拝むことはできないだろう。
〈彼女〉は自分の背中に冷や汗が流れ落ちるのを感じながら、静かに一歩一歩と先へと進む。
時々、自分の心臓や呼吸の音が周囲に響いてはいないかと思い、立ち止まり耳を澄ませる。
そして、静まりかえると、よし、誰も来ていない。と心の中で安堵する。
〈彼女〉は立ち止まる度に、〈彼〉の顔を無意識に頭の中に描いていた。
〈彼〉がいてくれたなら、今もこんなにも不安になることはなかっただろうに。
〈彼女〉は心の中で待ち合わせ場所に現れなかった〈彼〉をなじった。
そして、それと同時に決意した。再び、『学園』に戻ってくることを。
〈彼〉と友人を助けるために。
思い返せば、始まりは《『学園』の七不思議》から始まったのだ。
『学園』に昔からある、全部で七つの怖くておもしろいただの噂。
彼女は軽い気持ちで噂の一つを調査し始めた。
だが、彼女の当初の気持ちに反して、噂は『学園』の隠された《真実》へと続く。
その内容に一度触れてしまえば、今までの生活に戻ることは許されない。
彼女は一線を越えてしまった。あとは、進むか、消えるか、だ。
彼女は進むことを選び、そして今に至る。
彼女は自分が立ち去る『学園』の方へと言葉を残す。
「彼らは知らない。自分たちが《彼ら》の手のひらで踊る人形であることを」
目が覚めると、白い天井と明るい照明が目に入った。
自分はどうしてここにいるのだろうか、と頭の中で考えながら左右に確認する。
自分の寝ているベッドの周りには淡い色のカーテンがひかれてあり、窓から射す朝日がカーテン越しでも眩しい。隙間から見える部屋の様子から、彼女は自分が〈保健室〉にいることに気がついた。
『学園』の校舎には様々な教室が存在している。
だが、その中でも一般的に生徒が使用する教室は限られている。
一つ目は生徒たちが自学自習を行う〈教室〉。各学年に一つずつ与えられ、生徒一人ずつにデスクトップ型のパソコンが設置されてある。
そして、二つ目がここ、〈保健室〉だ。毎月、月初めに定期検診が行われる会場で、敷地内で唯一大人が居る場所として『学園』内で知られている。
定期健診の際に、血液や細胞を本格的に検査するために大人が必要なのだ。血液や細胞の採取を子供に任せるわけにはいかず、医療免許を持つ大人を外部から呼び寄せている。
「おや、もう目が覚めたかい?」
カーテンに映る影が声をかけてきた。彼女は反射的にそちらを向いた。
「はい。おかげさまで」
「そうかい。それはよかった」
影はそう言うと、カーテンを横に滑らせて、姿を現した。
短いボサボサの髪によれよれの白衣、少し傾いた黒縁メガネに無精髭が目立つ中年の男だった。
彼女は男が姿を現すと、体を起こす。
「うっ」
すると、視界が暗くなり、意識がぼんやりと遠くなる。彼女は慌ててベッドの端を掴んで体を支えた。
「駄目だよ。いきなり身体を動かしちゃ。君は意識不明で暫く寝てたんだから。突然動くと脳へ酸素がいかず、最悪また意識を失うよ」
ベッドを掴んだ反対の手で頭を押さえる彼女を見ながら、男はやんわりと注意をした。
「わたし、は意識不明だったのですか?」
「そうさ。今日の朝、登校した生徒が〈教室〉で君を発見して、〈保健室〉に連絡をくれたんだよ。後でお礼を言うと良い。学籍番号を教えてあげるから」
男はふわりと笑顔をつくると近くのテーブルにメモ帳を置き、さらさらと書くと彼女に差し出した。
「どうも、ありがとうございます」
彼女が手渡されたメモを一瞥する。線が踊っているような文字で書かれてあり、上下左右がわからない。これでは学生を特定できない。
彼女が男の顔を困った顔で見返すと、男はそのまま話を続けようとした。
「それで、君は——」
「あの、すみませんけど・・・」
「何かな? どこか具合でも悪いのかい?」
男は不思議そうに彼女の顔を見つめてきた。彼女はその時に初めて男の顔をまじまじと見た。
男は爽やかな顔つきをしていた——無精髭さえなければ。無精髭が男の印象を不潔なものへと変えていた。そして、淡い緑色のレンズの入ったメガネが男に怪しい雰囲気を作っていた。総合すると、胡散臭い印象を与える。どこか信用すべきじゃない、と初対面の相手に思わせるような、そんな容姿だった。
彼女は男の姿に狼狽えながら、言葉を続けた。
「少し、眩暈がして、メモを読むことができないのですが、よかったら口頭で教えてもらえませんか?」
彼女なりに気を使った結果だった。
「ああ。いいよ。それに、眩暈がするのなら、横になるといい」
男は軽く頷くと彼女に横になるように促した。
彼女が横になると、男はベッド脇にある椅子に腰かけて、先ほどの言葉に続けて言った。
「学籍番号は『B‐015』だ。それと、さっきの会話の続きだけれど、君は〈教室〉で意識を失っていたみたいなんだが、何があったか思い出せるかい?」
男は先ほど言葉を遮られたことを気にも留めずに話を再開した。
「昨日の夜ですよね。えー・・・と、あれ? すみません。思い出せません。わたしは〈教室〉で倒れていたのですか?」
「ああ、そうだよ。もしかしたら、精神的ショックが大きすぎて記憶障害を起こしているのかもしれない。無理に思い出そうとしなくていいから、今後何か思い出すことがあったら、〈保健室〉においで。いいね」
「わかり、ました。あの・・・他に異常はないのでしょうか?」
「異常ね。そうだな・・・」
男は顎に手を当てて、考える素振りをする。目元は光を受けてメガネが反射しており、彼女からは窺うことができない。
「なにか、あるんですか?」
「そうだな。胸が若干小さいことくらい・・・だな」
「はぁ?」
彼女は気の抜けた返事を返した。自分の聞き間違いだと思っていたのだ。
「いや、だから、俺の理想の体型よりも若干胸が小さいんだよ。君が」
男は繰り返して告げた。
「自分が何を言っているのかわかっていますか?」
「わかっているよ。自分のことだからね。いや、俺さ、『学園』に恋人探しに来ているから、そこ重要なんだよ。いやぁ、惜しい。あと十数センチなんだけどなぁ」
男は発言すると、椅子の背もたれに寄り掛かり、ギシギシと音を立てる。
彼女はその言葉で男の印象をガラリと変えた。
「いや、ね。それくらいの旨味がないと『学園』の医師なんてやっ、でぇ——」
彼女は無意識に起き上がり、拳を握って、しゃべりかけの男の顔面を殴っていた。
男は彼女の見事な右ストレートを顔に受け、椅子ごと後ろに倒れた。
「あら、ごめんなさい。思わず殴ってしまったわ。おほほほほ」
口元に手を当てるとわざとらしく上品に笑ってみせる。
「いや、それだけ元気なら、俺としても安心できるね・・・ホントに」
男は立ち上がり、倒れた椅子を元に戻しながら答えた。そして、また椅子に座ると彼女に向き合って、手を差し出しながら言った。
「自己紹介がまだだった。俺は『学園』唯一の大人の『センセイ』だ。よろしく」
彼女は差し出された手を一瞥し、「センセイ」の顔を見て、もう一度手を見かえした。
そして、差し出された手を握らずに、言葉を返した。
「わたしは一年の『黒猫』です。もう二度とお世話になりたくありません」
できるだけ冷たい眼差しを意識して「センセイ」の顔を見つめた。
「『猫』かぁ、いいね。合ってるよ、『猫』。そのツンケンしているところとか『猫』らしいもの。それと、その胸がっ——」
彼女は「センセイ」に次の言葉を言わせなかった。右の次は左と言わんばかりに、左のストレートが相手の右頬にクリーンヒットした。
「センセイ」は今回は近くのテーブルに必死にしがみつくことで、身体を支えることができ、倒れることはなかった。
その様子を見ながら鼻息を出すと、一睨みして吐き捨てた。
「もう少し、デリカシーをもたないと恋人はできませんよ。大体、あなた、いくつですか?」
「いや、歳の問題じゃないよ。要は身体つきの問題だ」
「そういう言葉が、デリカシーがないというのです」
「別に、君に求愛しているわけじゃないからね。・・・もしかして、求愛されたいの?」
「もう一発、殴りましょうか?」
彼女は両手でファイティングポーズをつくってみせる。
それを見て、「センセイ」はヒラヒラと手を振ると苦笑を浮かべて言った。
「遠慮しておくよ。既に熱いパトスを十分に受けたからね。もう胸がいっぱいになりすぎて、これ以上もらうと吐きそうだよ。」
「そう、わかりました」
彼女は拳を下すと、ベッドから抜け出そうと床に足を下す。
その様子を見て、「センセイ」は椅子から立ち上がって、忠告する。
「おいおい、大丈夫かい? 無理をするんじゃないよ。身体に異常はないけれど、病み上がりみたいなものなんだから。退室の許可は出すけれど、今日一日は安静に部屋で休むこと。いいね?」
「センセイ」はスリープ状態だったデスクにあるパソコンを起動すると、なにやらキーを打ちつけ始めた。そして、彼女がブレザーを着て退室の準備ができると、口元を歪めながらこちらに手を振っていた。
だが、メガネのレンズが部屋の照明を浴びて輝き、彼の表情はわからない。。
彼女は「センセイ」に不思議な感覚を覚えた。初対面であるはずなのに、なぜか気軽に話すことができたのだ。それどころか懐かしくさえ感じた。彼女は「センセイ」に対する評価を保留にした。
彼女が〈保健室〉のドアに手をかけると、「センセイ」はにこやかに告げた。
「半月後の定期検査でまた会おう」
彼女はその言葉を聞くと時間が止まったように固まり、そしてぎこちなく振りかえるながら尋ねた。
「『センセイ』は女子生徒も担当なされるのですか?」
「センセイ」は嬉しそうに自分の座る椅子をギシギシと軋ませて言った。
「だって、『ここ』には俺しかいないもの。だから言ったろ? 俺はここに恋人を探しに来たんだって」
「センセイ」の得意そうな顔を殴りたくなるのを抑えながら彼女は勢いよくドアを開け、そして大声で言った。
「失礼しました」
彼女の大声は廊下を反響して遠くを歩く生徒を驚かせた。
彼女が寮の部屋に戻ると、「ニコ」と「影」がソファに座って待っていた。
外はまだ明るく、二人が寮にいるには時間が早かった。
彼女が部屋の扉を開けると、二人は振り返り、眉を寄せながらも口を緩ませて言った。
「『おかえり』」
「ただいま」
彼女は脱力した声で返事を返して、ソファに寄り掛かると、普段よりもダラけた様子で二人に尋ねた。
「二人とも授業はどうしたのよ。まさか、今日もサボったの?」
彼女たち、生徒の言う「授業」とは自学自習の時間のことである。各生徒がどの科目をどれくらいやったのかパソコンのデータに記録するために、目安として授業時間が設けられている。生徒たちはどの時間にどの科目を勉強するのかを自分たちで予め決めて自習する。
そのため、授業時間をサボるとデータに残り、月一のテストの成績が悪いと理事から「補習」を強要させられる。今までに「補習」をさせられた生徒はおらず、どのような内容かは知られていない。
だから、「ニコ」はともかく、転校したばかりの「影」が授業をサボることを彼女はよく思わなかった。
「違うわよ。今、大変なことになっているの」
「ニコ」は珍しく疲れた顔で彼女の言葉を否定した。
「今、『影』くんが上級生だけじゃなく、新入生からも目の敵にされているのよ」
「どういうこと?どうして新入生が目の敵にするのよ。もしかして、昨日の転校生排斥運動の続きかしら。まさか、まだやっているの?」
彼女は昨日の光景を思いだして嫌気がさした。
「そうでもないの。なんでも昨日話した集団失踪事件が『影』くんのせいじゃないか、って噂が流れているのよ。『金色の薔薇と影』みたいに『影』が消したんじゃないかって、皆騒いでいるわ」
「何よそれ。事件が起きたのは『影』が来る前でしょう? 物語に感化されすぎじゃないの」
彼女は呆れた声で返事した。
「そうなのよ。いくら言っても聞いてくれないし・・・それでまた部屋に籠ることにしたわけ」
「ニコ」は苦笑すると、手のひらを上に見せてお手上げの恰好をした。
その隣では「影」が両手で頭を抱えて、床を見ている。
「僕のせいで・・・僕が『影』と名乗ったから、「ニコ」さんに迷惑を・・・」
「影」が自己嫌悪で鬱々として呟く。
「ニコ」の口ぶりと「影」の態度から、彼女はどうやら「ニコ」が「影」に付き添って面倒を見てあげていたことが分かった。「ニコ」の面倒見の良さに感心しながら、彼女は「影」に声をかけた。
「別に、あなたのせいではないわ。ただ周囲が噂に踊らされているだけでしょ? 時間が経てば事態は収まるでしょうから、そんなに塞ぎ込まないの。そのほうが面倒みている『ニコ』が迷惑するわよ」
彼女は自分が年長者のようにふるまい、そして優しい声で「影」を慰めた。
「えっ。す、すみません。『ニコ』さん」
「影」は彼女の言葉を受けて、申し訳そうに「ニコ」に謝る。
それを見て、「ニコ」は再び苦笑して、返事を返す。
「別に、いいわよ。気にしてないわ。それよりも、『猫』ちゃん。あなた、今までどこ行っていたのよ? 昨日、夕食に豚の角煮を作ってくれる約束をしていたわよね。詳しく説明してもらうわよ」
「ニコ」は普段あまり見せない真面目な顔を作ると、目くじらを立てて彼女に言った。
「そ、それが・・・教室で横になっていたらしくて・・・」
「教室で、横? 何していたのよ、あなた。昨日、部屋を出て行ってからの行動を教えなさい」
「それが詳しく説明したいのはやまやまなのだけれど、できないのよ」
「何でよ? 何かやましいことでもしていたの?」
「実は・・・気を失ってて、記憶が曖昧なの、よ」
彼女は徐々に声量を下げながら「ニコ」に言い訳をした。本当は《風紀委員》として活動していたことは覚えていたが、この際、記憶喪失の範囲に入れてしまおうという魂胆だった。
彼女の話を聞いて、「ニコ」と「影」は目を見開くと声を揃えて叫んだ。
「『記憶喪失』」
二人の声があまりにも大きくて、彼女は自分の耳を両手で覆うと顔をしかめながら言った。
「声が大きいわよ」
「ごめんなさい」
「すみません」
二人は口元を手で覆いながらも、眼は開かれたままだった。
「どうして、記憶喪失なんて。一体、どこまで覚えているの? わたしのこと、覚えている?」
「ニコ」は慌てながら自分を指さして、彼女に尋ねた。
「当然よ。無くなった記憶は部屋を出た後からだもの。あなたのことも、それから『影』のことも覚えているわ」
彼女は『記憶喪失』と聞いてからオドオドとした態度を取り続ける「影」に言葉をかける。
「それでも、どうして記憶喪失なんて・・・。何処も怪我していないのでしょう?」
「それが精神的なショックが大きかったのだろうって『センセイ』が言っていたわ」
「『センセイ』? 『センセイ』って〈保健室〉の大人の?」
「そうよ。さっきまで〈保健室〉で横になっていたのよ」
「何かされなかった? 〈保健室〉の大人について、良い噂聞かないのよ」
「ニコ」は心配そうな声で尋ねる。だが、顔は輝いていた。噂の人物に会った感想を聞きたいようだった。
彼女はそんな「ニコ」の態度に呆れながら、感想を言った。
「ろくでもないわね、あの男。セクハラの塊よ。〈保健室〉にいる間、セクハラのオンパレードだったのよ。定期検査が憂鬱になるわ」
彼女は少し誇張表現して「センセイ」の評価を落としてやろうと考えていた。
「ニコ」は「やっぱりね」と小声で呟きながら、ポケットから手帳を取り出すとサラサラと書き始める。
彼女はそんな「ニコ」の様子を微笑みながら眺めると、自分のパソコンの電源を入れた。
今日は今まで〈保健室〉にいたため、メールボックスを確認していなかったのだ。
パスワードを入力し、目当てのモノを開く。
すると「先輩」からのメールを見て、昨日の夜に「先輩」から呼び出されていたことを思い出した。彼女は恐る恐る、だが気づかれないように平然としたフリをして二人に質問した。
「今日、『先輩』に会わなかった?」
「? いや、僕は会ってないけれど」
「わたしは見かけたわよ。どうして?」
「ニコ」はニコニコと笑顔で答えた。だが、その笑顔は何か勘ぐっているように見えた。
「いや、『先輩』に、頼まれごとしていたのだけれど、昨日、すっぽかしちゃった、みたいなのよ。『先輩』機嫌悪かったかな、と思って・・・」
彼女はしどろもどろしながら、誤魔化した。
「ニコ」は疑いの眼差しでしばらく彼女を見つめていたが、ふぅとため息を吐くと「先輩」の様子を教えた。
「別に。変わったところはなかったわよ。その頼まれごと、大した用事だったの?」
「いや、そういうわけじゃ、ないけれど・・・」
「なら、たぶんあの様子じゃ、気にしていないわよ。よかったわね」
「えぇ・・・」
彼女は「先輩」が自分を呼び出してすっぽかされたことを気にしていないと聞いて、微妙な心持ちだった。昨日メールを見たときには告白されるかもと浮かれていたが、先輩が気にしていないということはそんなことはなかったのか、と今は落ち込んでいる。そして、約束をやぶったことを「先輩」が気にした様子がないことを聞いて安堵していた。
複雑な乙女心を抱きながら、彼女は頭にチクリと痛みを感じた。
だが、一瞬の痛みだったため気にすることなく、彼女は画面に集中する。
画面には『新着メール二件』と表示されている。
一件目の内容は昨日、調査報告を怠っていることに対する「お叱り」だった。
彼女は仕方がなかったのになぁと思いながらメールの内容をすべて読んだ。
そして、二件目は彼女の鬱塞を吹き飛ばすような内容だった。
『 件名:《風紀委員》会
《風紀委員》全員に通達する。
本日、○月○日、午後七時に《風紀委員》会を開く。
各自指定の場所からアクセスし、参加すること。
内容は、集団失踪事件について。
以上。
《委員長》』
彼女はメールを見ると時計を確認する。
現在、午後六時。
彼女は画面を消すと、普段通りを装いながら二人に声をかける。
「少しだけ出かけてくるわ」
彼女はそう告げて部屋の扉に手をかける。その感覚にデジャヴを感じて一瞬動きを止めたが、すぐに取っ手を回して開いた。背後から「ニコ」が「豚の角煮は?」と尋ねているのを聞き流しながら、校舎へと向かった。