彼女をチームに誘う
「…あの娘、何?」
「え…。あ…知らない」
駅を歩いていた沢は、帰宅途中のOL達の話を聞き、そちらに目を向ける。
すると10代後半くらいの少女が、ロータリーに座っていて、目立つのだった。
顔は美人な方だが、着ている服が秋なのに、半袖姿だった。
沢は気になり、改札を通ると、少女の元に向かう。
その前に、酔っぱらったサラリーマンが、少女に絡む。
「ーお姉ちゃん、俺と遊ぶ?」
「いいけど、高いよ」
普通に喋っているようなのだが、沢にはか細く聞こえた。
しかもサラリーマンを相手にしようとしているので、沢は放っておけなかった。
「ーおい、おっさん。それ、俺の彼女」
胸を張り、攻撃的に言うと、サラリーマンは睨んでくる。
「何だ、お前。邪魔だ」
「邪魔なのはおっさんなんだよ」
沢はキックを繰り出すと、サラリーマンが痛がって、うさぎのように跳ねる。
沢としては、これから仲間と遊ぼうとしていたところで、出鼻をくじかれた気分だった。
「くっそー!! 覚えていろよ!!」
「覚えているか、バーカ」
逃げるサラリーマンに、バイバイと手を振り、沢は少女に近づく。
少女はふふと笑うと、艶かしく言ってくる。
「私と遊ぶ?」
「遊ぶわけがねーだろ」
そう言うと、沢は少女の頬を引っ張る。
かなり怒っていた。
「自分を大事にしろ。変な大人のいいなりになるな」
「そんなこと言われても…」
「何? うち、どこ?」
「ない。帰る場所なんかない」
その言葉だけははっきり聞こえ、沢は自分と同じ匂いをかぐ。
「親と仲が悪いのか?」
「親…? そんなもの…いたかしら?」
また不思議なことに、ふふと笑うが、沢は怒って髪を引っ張る。
「痛っ!!」
「ほら、痛いだろう? 無視して平気なふりをするな」
「…ごめんなさい」
そう言った彼女は、幼子に見えて、沢はますます放っておけなくなった。
別に正義感が強いとか、そういうのじゃなくて、何となく彼女を放っておいたら、まずい気がしたのだ。
その通り、彼女はふいと顔をそらすと、独りごちる。
「ー私なんか、どうでもいいんだ」
「…」
その台詞だけは、沢も痛いほどよく分かった。
自分も複雑な家庭で、自分だけ兄弟の中で愛されていなかった。
問い詰めることはしないが、無視している状態で、金だけは、いつも用意してあるので、夜、ふらふらと歩くのだった。
「俺が嫌だって言ったら?」
「え…?」
少女はとても驚いたらしく、沢の顔をようやく見てくる。
母親似の狐顔というか、見ようによっては、美男なのだが、母親の愛情を知らないので、似た顔が沢は嫌いだった。
どうせなら、男らしい顔のほうがいいと思っていた。
「俺が嫌なんだよ。その…自分で自分を傷つけるのが」
「…。変わっているのね」
「お前に言われたくない」
沢ははっきり言うと、彼女の服を素早く見る。
綺麗に見えるが、所々、汚れているらしい。
お風呂に入っているのかも、分からなかった。
「ー俺のところに来るか?」
「え…? あなたのところって…」
「俺のチーム。俺はヤンキーなの。しかもリーダーをやらせてもらっているんだよ。これでも信用と信頼はあるんだよ」
「ヤンキー。…なるほど」
少女は呟くと、沢の手を取る。
沢は白い手にびっくりしたが、儚げな彼女には、似合っていた。
「私、生きている?」
「…。生きているに決まっているだろう?」
子どもをあやすように、ぽんぽんと頭を撫でてやると、少女は初めて年相応の顔を見せてくれる。
「決めた。あなたのところへ行く」
「よし。じゃあ、約束だ。2度と私なんかって言うな。あと、自分を傷つけないこと。分かったか?」
「はい。よろしくお願いします」
少女は軽く頭を下げると、ゆっくりと立ち上がる。
女としては長身ほうで、綺麗にすれば、美人の部類だった。
ー俺の女になったりして。
ふと思ったが、先は見えない。
とりあえず徳を積んでおこうと、彼女を助けることにしたのだった。
「よし行くぞ。ほら」
手を差し出すと、少女は可愛く首を傾げる。
「何…?」
「何って、手を繋ぐんだよ。その、一応、逃げられないために」
そう言うと、少女がおかしそうに、くすくす笑う。
沢も自分で何を言っているんだと、1人で突っ込み、仏頂面になる。
「いいから、ほら」
「はい」
少女は素直に手を差し出すと、ぎゅっと握りしめてくる。
「放さないからな。分かったか?」
「はい、分かっています」
言葉に力が入ってき、瞳が輝くようになってきたので、生気を取り戻したかと、沢は一安心する。
「名前、何て呼べばいい?」
「名前…? …じゃあ華で」
「華な。これから俺のメンバーと会わせるから、もう暗いことを言うなよ。皆、それぞれ傷を背負っているんだから。いいな?」
「はい。誓います」
「よし。じゃあ行くぞ」
沢はぐいぐいと少女ー華をリードしていくと、秋の乾いた風が吹く中、足音を高くして進むのだった。




