言葉にしないとダメなんだ
***BL*** 広い家で一人で住む僕。雨の日に子猫を飼う事になった。 ハッピーエンド
6月、庭に仔猫が遊びに来た。
元気な仔猫。多分親猫も何処にいるんだろう。
*****
仕事が終わった帰り道。
スーパーで買い物をした。
家まで15分。なかなかに暗い夜道。
今にも雨が降りそうで、僕は急足で歩く。
*****
お爺ちゃんが住んでいた平屋の一軒家。隣との距離は少し離れている。僕はその家を父から借りて、一人で住んでいる。
父と母は都会に住んだまま。
「誰も住まないと家が荒れる」そんな話をしていたから
「ぼ、僕が住んでも良いかな?」
思い切って聞いてみた。
「千早が一人で?!」
母さんはびっくりしていた。
「、、、」
父さんは黙ったままで、腕組みをしている。
「好きにしなさい。でも、仕事はちゃんと行くように。人様に迷惑を掛けず、犯罪を犯さなければ後は自己責任だからな」
「お父さん、、、」
母さんは、父さんが反対しないからか、困った顔をした。
「千早、、、一人で大丈夫?」
「わ、分からないけど、、、頑張りたい」
心配そうな顔をしながら
「千早がそう言うなら、、、」
と折れてくれた。
それから僕は、電車で二時間離れた場所に引っ越した。
家具は、お爺ちゃんが住んでいた時の物が残っている。
父さんは一人っ子で、お婆ちゃんは僕が高校生の時に亡くなった。相続権は父だけで、お爺ちゃんの家にある物は好きに使って良いと言われた。
仕事はそのまま続けた、方向が変わるだけで通勤時間は変わらない。
それなのに、家の周りは閑散としていて、僕には丁度良い所だった。
*****
雨が降り出すと同時に家に着いた。
良かった。スーツを濡らすと面倒だったから助かる。
玄関を開けて、家に入る。電気を点けて台所に行き、買った物を冷蔵庫にしまった。
シャワーを浴び、部屋着に着替えて、居間のカーテンを開けた。
いつもと同じ流れ。たまに、毎日同じだから儀式みたいに感じる。
雨、朝には止むと良いんだけど、、、。と、思いながら、明日は土曜日で仕事が休みだと気が付いた。
ん?
郵便受けの下、植え込みの中に白い何かがある。
何だろう、、、。
猫?
僕はよく見えないソレを、ガラスの内側からしきりに確認した。
ダメだ、分からない、、、。
ピカッ!と光った。雷?!
玄関から回り、郵便受けまで行った。
仔猫だ!
僕は急いで仔猫を抱くと、家の中に入った。
雷が鳴っている。
植え込みが雨を防いだのか、そんなに濡れてはいなかった。
僕は取り敢えずお風呂に連れて行き、ぬるま湯で温める。めちゃ、汚い、、、。
偶に光る雷にビクビクした。ゴロゴロと言う音がする度に、肩が上がる。
弱々しい仔猫が逃げる事は無いだろうけど、お風呂場の扉を閉めてからスマートフォンで調べる。
うわっ!シャワーはダメだって書いてある!
悲しそうに、ミィミィ鳴いてる。
ごめんね、、、。
余り疲れさせてもいけないだろう、、、。お風呂場の棚からフェイスタオルを出して、仔猫を包む。
仔猫は疲れ切った様に眠ってしまった。
僕は眠れないまま、出来る事を何でもやった。
でも、小さな命が怖くて、不安な夜を過ごす。
気が付いたら雷は止んでいた。
最寄りの動物病院を調べ、朝一番で連れて行かないと、、、。
段ボールにタオルを敷いて、ペットボトルにぬるま湯を入れる。仔猫の側に置き、朝まで眺めていた。
仔猫のご飯が何か分からず、泣きたくなって来た。
*****
昨日降っていた雨が止み、仔猫を動物病院まで連れて行けると安心した。
僕は、自転車に乗れないし、車の免許も持っていない。だから、いつも歩いて行動している。
「あ、、、」
昨日ポストを見なかった僕は、郵便受けを見に行く。
郵便物なんて来る訳がないのに、チラシとか入れっぱなしになるのが嫌で、いつも確認していた。
「ん?」
家の前をフラフラしている人がいる。門扉の中を覗いたり、小さな庭を見ている。
嫌だな、、、。
知らない人は苦手だ、、、。
気付いていないフリをした。
「あの!仔猫!見ませんでしたかっ?」
「え?、、、」
「白い仔猫!小さいんですっ!」
「あ、、、」
仕方が無い、僕は門扉に近付いて扉越しに話す。
「あ、あの、、、多分、います」
「本当ですか?!」
「きっと、、、」
「よ、良かったぁぁぁ、、、」
彼は門扉に寄り掛かり脱力した。
「あの、、、確認
「良いんですかっ!?」
急に元気になった、、、
「ぃ、今、連れて来ます」
僕は、急いで家に入る。
仔猫の横に置いたペットボトルが冷たい。急いでお湯を沸かした。
中身を3分の1捨てて、お湯を足す。
段ボールを抱えて、玄関を開ける。
彼は僕の手元を見ていた。
仔猫、、、心配なんだな。
「お、、、お、遅くなって、済みません」
僕が段ボールを抱いて近寄ると
「シロ〜!」
と犬みたいな名前を呼んだ、、、。
「あの、、、こ、これから動物病院に、連れて行こうと思っていて、、、」
「あ!それなら、俺の行きつけの病院、連れて行きます!」
この人に全部任せれば、安心かも、、、。
「今、車取って来ますから、待ってて下さい!」
言うなり、彼は走って行ってしまった、、、。
5分程で彼は戻って来た。
段ボールを抱えて車に運んだ。彼は助手席の窓を開けて言う。
「鍵?掛けました?」
「 ? 」
「玄関、鍵忘れてませんか?」
と言いながら、運転席から降りて来た。
僕から段ボールを受け取ると
「待ってるから、鍵、掛けて来て下さい」
「 ??? 」
僕が鍵を掛けて戻って来ると、助手席のドアを開けた。
「シートベルトして下さいね」
え?え?え?、、、僕も行くの?
知らない人の車に乗って、僕は緊張していた。
僕がシートベルトをすると
「はい」
と段ボールを渡す。
あ、段ボール支える人が必要なんだ。
「みぃ、、、」
「急がないと」
彼は扉を閉めて、運転席に回った。
動物病院まで8分程で着いた。
土曜日の開院間際、2組程犬を連れて並んでいる。
「みぃ、、、」
僕が心配していると、彼がそっと段ボールを開いて仔猫を見せてくれた。
「みぃ、、、」
瞼を閉じながら鳴く。
可愛いぃ〜。
*****
受付では、彼が事情を説明してくれた。
直ぐに診察室に呼ばれ、二人で入る。
「春に産まれた仔かな、、、」
と先生が言う。ネームプレートに「浅間」って書いてあった。
「洗ってあげたの?」
「す、すす、済みません」
シャワーはダメだって書いてあった、、、。
「大丈夫。ちょっと処置室で身体を見させて貰うから、待合室で待っててくれるかな?」
僕達は診察室を出た。
初めて来た動物病院は綺麗だった。
床にはペット用のトイレがあったし、飲み水の給水機もある。
暫くして、浅間先生が顔を出して
「押尾」
と呼んだ。
「おう、、、」
と返事をして立ち上がる。振り返って、僕を見た。一緒に入って良いんだ。
診察室に入ると仔猫は段ボールの中で寝ていた。
「生後3ヶ月だね。病気も無いし、元気だよ。ノミ駆除の薬も飲ませた」
3ヶ月なんだ、、、。
「で、この子どうする?押尾は賃貸だからペット駄目だろ?」
「、、、」
「そっちの、、、」
「ゆ、、、ゆ、やま」
「湯山さんは?」
「い、、、いっ、、、一軒家」
「猫、初めて?」
僕は頷いた。
「そっか、、、。里親募集してみる?」
この子、飼いたいな、、、。でも、僕には無理かも、、、。
「取り敢えず、1日飼ってみる?」
僕は浅間先生の顔を見て、コクコクと頷いた。
「もし、飼うならペット保険とかあるから、ちょっと説明するね」
僕は、押尾さんと二人で保険の話しを聞いた。それと、猫を飼うのに必要な物、予算まで教えてくれた。
会計をする時、二人とも財布を持っていなくて慌てていると、浅間先生が
「夕方までに払ってくれれば良いよ」
と言った。二人は知り合いらしく、ちょっと融通してくれたんだ。
一度、僕の家に戻る。シロは夕方まで、段ボールから出さない方が良いと言われた。
ノミがいるから駆除されるまで我慢だって、、、。
僕達は、病院のお金を半分ずつ出し合った。押尾さんはもう一度病院に行き、すぐ支払いをした。
帰りにコンビニで、仔猫用のご飯を買って来ると言っていたから、僕の心配は一つ無くなる。
朝、バタバタしたから、洗濯物も終わっていない。僕は押尾さんが戻って来るまでに、洗濯と掃除をした。
朝ご飯もまだだった。でも、一人で食べるのも気が引けるな、、、。
押尾さんが帰って来た時、シロは丁度起きていた。仔猫用のご飯を買って来た彼は、シロに食べさせようとした。
僕は横からそれを除いた。
「可愛い、、、」
「湯山も上げる?」
「うん!」
「指、出して」
と言われて、人差し指を出した。そこに液状の餌をちょっと載せてくれる。
僕が段ボールの中に指を入れると、シロは僕の指をクンクンと嗅いだ。
ペロッ
「うわっ!」
ふふ、、、と押尾くんが笑った。
*****
「ね、飯食べに行かない?」
「え?で、でも、、、」
僕はシロを見た。
「大丈夫、シロもお腹一杯だから、暫く寝るよ」
「、、、」
どうしよう、、、。
「じゃ、何か買いに行こう」
それなら良いかな、、、。
僕が頷くと、シロの段ボールの蓋をそっと閉めて、二人でスーパーに向かった。
車で5分位。昼過ぎだけど、結構混んでいた。
僕達は買い物籠を持ってフラフラする。
「あ」
さっき、シロに上げたご飯。
他のペットフードも見てみた。押尾くんは、僕の横に立つと高そうな名前のフードを見ていた。
「もし、湯山がシロを飼ったら、大きなペットショップに行こうよ。グッズもいっぱいあるし、おもちゃも売ってるから」
シロにおもちゃ、買って上げたいな。
「、、、うん」
「さ、昼飯買って、早く帰ろう」
*****
家に戻ると、シロはまだ寝ていた。段ボールの蓋をもう一度閉めて、僕達は遅い昼ご飯を食べた。
「湯山は、猫飼った事無いんだよな?」
頷く。
「犬は?」
首を振る。
「そっか、、、」
僕がシロを飼えれば良いんだけどな、、、。
「この家に一人で住んでるの?」
頷く。
「ご両親は、、、えっと、、、」
「と、都内に住んでる」
「兄弟は?」
首を振る。
「天涯孤独って訳じゃ無いんだ。安心した。でも、一人暮らしって寂しく無い?」
僕は首を傾げた。寂しい事は無かった。
カサ、、、
段ボールの中から音がする。起きたのかな?僕達は段ボールに近付くと、そっと蓋を開けた。
「みぃっ!」
可愛!
押尾くんは時計を確認した。
「後、二時間したら出してやれるからな」
シロをそっと触りながら言う。押尾くんは猫が本当に好きなんだ、、、。
夕方4時になってから、シロを出して上げた。
段ボールに敷いてあったタオルには、小さなゴミみたいなのがいっぱい落ちていた。、、、ノミかな?
「本当はさ、アパートの裏で、シロの母親を見た事あるんだ。春先にお腹が大きかったのが、最近仔猫と一緒にいて、、、」
僕がお母さん猫と引き剥がしちゃった、、、?
「さっきの動物病院の先生、近所の知り合いなんだけど、「面倒見られないなら餌をやるな。面倒見るなら家で飼え」って言うタイプで、俺の家は賃貸だし、何も出来なくて。今朝、仔猫がいないから探してたんだ、、、。たまに親子で此処に来ていたのを思い出して、もしかしたらって」
シロは部屋の中を探検している。
「見つかって良かった。昨日は雨も降ってたから心配だったんだ」
シロは仔猫だから、暫く部屋の中を散歩すると、また昼寝をした。
「俺もそろそろ帰るよ。長居してごめんな」
と言って、押尾くんは立ち上がった。
本当だ、、、初対面なのに1日一緒にいた。
玄関まで見送る。靴を履いて、振り向くとお礼を言って扉を開けた。
僕も三和土に降りた。彼は門扉の前で、もう一度振り返る。手を振ると、振り返してから門扉を出て行った。
玄関の鍵を閉めて、僕は寝ているシロを見に行った。
シンと静まり返った部屋が、いつも以上に淋しく感じる。
晩御飯を作り、一人で食べると、何だかご飯も美味しく無かった。シロはまだ寝ている。
僕が台所で食器を洗っていると、シロが起きた。
とてとてと部屋の中を歩く。
僕はホッとした。
それから、スマートフォンで猫の事を色々調べた。
僕に飼えるか不安だ。
仕事でシロを一匹きりにする時間が長い。まだ、仔猫だから心配だった。
でも、シロは可愛い、、、。
僕は昼間買った仔猫用の餌を上げる。
ご飯を食べるのが下手なのか、お皿から溢して食べている。そんな姿も可愛い、、、、
ご飯を食べて少し歩き回ると、さっき寝ていた場所でフミフミして、また寝てしまった。
*****
シロの朝は早かった。
と、言うか、夜中にも走り回って活動していた。
シロを飼うかどうするか、今日返事をしないといけない。どちらにしても、病院には行くんだけど、、、。
昨日、押尾くんに車を出して貰ったんだよね。
シロを置いて行くのも不安だし、病院の場所がイマイチ分からないのも不安。地図を調べれば分かるけど、歩いたらどれ位掛かるかな、、、。
考えながら、シロとご飯を食べる。シロは相変わらず、お皿から溢しながら食べていた。お腹が空いているのか、一所懸命食べる。
家の前に車が停まる音がした。
僕は、カーテンを開けて見てみる。
押尾くんだ。
急いで玄関に回り、外に出る。
彼はすぐに僕に気付き
「お早よう」
と笑った。
爽やかだ、、、。
僕はペコリと小さくお辞儀をする。
門扉の向こうから
「シロの事、気になって」
と恥ずかしそうに言う。
「連絡先交換しなかったから、来ちゃった」
スマートフォンを見せながら振った。
僕も、連絡先を交換すれば良かったと思ったんだ。
門扉を開けて
「シ、、、シロに、会う?」
と聞くと
「良いの?!」
と大きな声で言う。
僕は頷いて、玄関を開ける。
押尾くんは、シロを見ると喜んだ。
「シロ〜、、、!ご飯食べたのか?偉いなぁ」
僕は台所でインスタントコーヒーを入れる。
彼の前に置くと
「ありがとう」
と砂糖もミルクも入れずに飲んだ。大人だ、、、。
僕は砂糖を山盛り一杯とミルクを入れた。
「、、、どうするか決めた?」
僕は
「、、、、、、飼、いたい」
と答えた。
「マジで?!」
うん。首を縦に振る。
「病院行く?!」
コクン。
「やったー!」
押尾くんは万歳をしながら、後ろに倒れた。ちょっと離れた場所にいたシロが、びっくりしていた。
「ね。病院に行ったら、買い出しに行こう。車出すよ」
僕は嬉しくて、口角を上げて返事をした。
押尾くんが、シロの段ボールを綺麗に整える。シロを置いて出掛けるのが怖くて、病院にも連れて行く。
日曜日で、開院から一時間経っている所為か、今日は人が多かった。
浅間先生の指名をして待合室で待つ。
30分程で順番が回って来た。浅間先生は、段ボールを開けてシロを抱き上げる。診察台に載せて体を確認すると、シロは震えながら鳴いた。
「どうするか決めた?」
と聞かれて
「、、、か、、、飼い、ます」
緊張した。
その後、保険の話しをもう一度聞いて、診察券をちゃんと作った。
「名前は湯山シロで良いの?シロはカタカナ?平仮名?漢字が有れば教えて?」
え?
急な質問で困ってしまった。
僕は押尾さんを見た。
「シロって俺が勝手に付けた名前だから、好きなの付けて良いんだよ?」
僕は暫く考えた。でも、何度も呼んでいたから、この子は「シロ」になっていた。「シロ」「しろ」「白」、、、。
「ゆっくり考えて良いよ。その間に保険の書類に記入して貰おうかな」
浅間先生はいつも優しい。
シロの名前の欄だけ空欄にして、他を記入して行く。その間にも、どの文字にしようか考えていた。
押尾くんが隣で何かを書き始めて、僕に見せる。
ゆやま しろ
ゆやま シロ
湯山 しろ
湯山 シロ
湯山 白
「どれが良い?」
僕は平仮名の「しろ」を指差した。押尾くんが
「俺もその字が良い」
と言ってくれた。シロは今日から「しろ」になった。
全ての手続きが終わって
「今からペットショップに行って来るよ」
と押尾さんが言うと、浅間先生が
「それなら、しろちゃん預かるよ」
と言ってくれた。押尾さんは、遠慮無く預けた。
車でペットショップに行き、色々見る。
まずはトイレセット。キャリーケースも必要だし。ご飯と水を入れるお皿。結構な荷物になりそうだった。
「車で来て良かったね」
と言われて、本当にその通りだと思った。
「首輪、、、買う?」
押尾くんが首輪を見ていた。
真っ白い猫に真っ赤な首輪。可愛いな、、、。
僕が触っていると
「赤が良い?」
と聞いてくれた。
僕は頷いた。
「しろ、女の子だから赤が似合うよね」
本当にそう思う。僕が押尾さんを見ると、そっと籠を差し出してくれた。
赤にしよう。赤が可愛い。
*****
何か調子に乗って、色々買ってしまった、、、。
押尾さんの車が有って助かった、、、。
しろを引き取りに行く前に荷物を置きに行く。
キャリーケースとおやつを持って病院に向かった。
しろはずっと寝ていたらしい。浅間先生と少し話しをして、仕事の邪魔にならない様に早々に帰った。
*****
家に着いて、キャリーケースからしろを出すと、押尾さんが
「しろに病院から帰ったから、おやつ上げよう」
と液状のおやつを出した。
「はい」
と渡してくれたから、切り口を裂いてしろに上げる。
その間に、押尾さんは爪研ぎを出して、トイレをセットする。病院で持たせてくれた、しろの尿が付いた猫砂を、新しい猫砂に混ぜる。先生が教えてくれた、トイレの場所を教える方法だった。
しろはおやつを食べ終わると、自分の顔を一所懸命擦っていた。
「湯山、首輪」
と押尾さんが、赤い首輪を渡してくれた。僕は使い方を確認しながら長さを合わせないといけない事に気が付いた。
「これ、一番小さいのかな?、、、あれ?どうやって、、、あ、、、こっちか、、、ん?、、、あ、出来た、、、」
ん?
僕が視線に気付いて、押尾さんを見るとニコニコしていた。
?
「続けて、続けて」
?
首輪がキツいといけないと思って、緩めてからしろの首に合わせてみたら、めちゃくちゃ緩かった。一番小さくて平気なんだ、、、。僕はもう一度元に戻して、しろの首に回した。
しろが嫌がって後ろに下がる。
押尾さんがヒョイッと抱き上げ
「はい」
と言う。
「ごめんね」
嫌がるしろに謝りながら、首輪を付けた。
「指が入るか確認してね」
そうだ、2本入るくらい緩いと良いって書いてあった。
ちゃんと入る。
僕が嬉しくて笑うと、押尾さんはしろを僕の方に差し出した。
「可愛い、、、」
にゃあ、、、と鳴いた。
もう離して上げないと、、、。
押尾さんがそっとしろを離すと、しろはその場で首元を後ろ足で掻いた。
首輪に着いていた鈴がチリンチリンと鳴る。しろは考える様に動きを止めて、もう一度掻いた。
「赤い首輪にして良かったね」
押尾さんに言われて、僕はしろを見ながら
「うん、、、」
と言った。
その後、しろはすぐにトイレの場所を覚えて、心配な事は何も無かった。
*****
月曜日の朝、、、。僕は仕事に行きたく無かった、、、。しろを一匹で置いて行きたく無い、、、。でも、仕事を休む訳には行かないし、、、。
餌を沢山出して、トイレも綺麗にした。エアコンを緩く点けて、戸締りを確認する。全部のドアを閉めて、玄関を出た。
今の会社、辞めようかな、、、。通勤に一時間も掛かるんだもん、、、。もっと家の近くにして、出勤ギリギリまで家にいたいな、、、。
仕事中もしろの事ばかり考えていた。誰かが一緒に住んでいたら安心なのに、、、。そんな事が頭を過ぎり、無理無理と首を振る。
定時で上がり、駅まで走ったり歩いたりした。いつも乗る電車の一本前に乗り、途中で早く着く電車に換えた。
スーパーで一番安いお弁当を買い、店を出ると駐車場で押尾さんに会った。
「今、帰り?」
「あ!あの、、、い、急いでるので!」
「乗ってく?送って行くよ」
「あ、あああ、ありがとうございます」
押尾さんが助手席のドアを開けてくれた。
僕はシートベルトを閉める。
押尾さんはゆっくり車を出した。
「急いで帰って来たの?」
「し、心、心配で、、、」
「安全運転で急ぐね」
僕はコクコクと頷く。
いつもより早く家に着くと、慌てて車を飛び出し、玄関の鍵を開ける。
「しろ!ただいま!」
廊下を走り、居間の襖を開ける。
しろは寝ていたみたいで、僕に気付くと迎えに来てくれた。
「大丈夫だった?」
後ろから押尾さんに声を掛けられた。
「ごめん、勝手に入っちゃった」
僕は首を振った。
「そんなに心配だった?」
うん、と頷く。
「今日大丈夫だったから、明日もきっと大丈夫だよ。しろ、良い子だね」
押尾くんはしろの頭を撫でて、スルッと顎も撫でる。
しろを見る押尾さんの目が優しくて、僕は何だかドキドキした。
*****
いつ押尾さんを好きになったか聞かれたら、やっぱりこの時だったと思う。
押尾さんの優しい顔が頭から離れなかった。
押尾さんはしろに会いに来る為に、金曜日の夜か、僕が忙しい時は土曜日の夕方から遊びに来る。
少なくとも一泊して、日曜日の夕方に帰るんだ。
僕は、押尾さんが好きだから、来てくれるのは嬉しい。
でも、押尾さんはどうかな?
しろと遊ぶと言っても、しろは殆ど寝ている。
押尾さんもしろと一緒に遊ぶか、昼寝をしている。
、、、僕と遊ぶと言うより、僕の家で昼寝をしている感じ、、、。
*****
そして、今日も押尾さんは僕の家で昼寝をしている。
畳の上で寝そべった彼と同じポーズで、しろも寝ている。
えー、、、可愛い。
写真を撮ろうと思って、スマートフォンを手にした。どの位置から撮ったら、一枚の写真に上手く入るか考える。
カシャ
写真を確認する。微妙だった。
カシャ、、、カシャ、、、カシャ、、、
まぁまぁかな、、、?
寝ている押尾さんの、向こう側にいるしろを撮る為に、押尾さんの側に寄る。
チラリと顔を見たら、気持ち良さそうな顔をしていた。
何だか、子供みたいだな、、、。
僕は、押尾さんの寝顔も撮る。
カシャ、、、
「こら、、、勝手に撮るな」
と笑って、僕の腕を引っ張った。うわっ!と思った途端に押尾さんに覆い被さる様に上に乗り
「ごごご、ごめんなさい!」
と起きあがろうとしたら、押尾さんに抱き締められた。
???
僕の心臓はドキドキしている。それなのに、押尾さんは平気な顔をしていた。
抱き締めたまま、彼に頭を撫でられる。
最初は緊張とパニックで、どうしたら良いか分からなかったけど、彼がずっと頭を撫でてくれたから、僕の心臓も落ち着いて来た。
押尾さんの胸が、呼吸する度にゆっくり上下に動く。
僕は何だか、気持ち良くなっていた。
あんまり長く乗ってると、重たいかな?
僕が離れようとしたら、押尾さんは僕をしっかり抱き締めて離さない。
暫く起こさない様にモゾモゾして、腕から抜けようとしたけど、全く意味が無かった。
諦めた僕は、押尾さんの心臓の音を聞きながら、ウトウトする。
彼が寝返りを打って、更に僕を抱き締める。
人に抱き締められるのって、安心するんだな、、、。僕は押尾さんの匂いを深く吸った。
**********
千早の家は静かで落ち着く。
元はお祖父さんが住んでいた。
懐かしい感じがする、平屋の一軒家。
畳が有って、風通しが良い。
千早はテレビを付けない。この家には音が余り無い。少し古い家と家具。それから猫。
彼がしろを飼い始めてから、俺は週末になると遊びに行く様になった。
しろに会いたいのは勿論だけど、千早にも会いたかった。
仕事帰りのスーパーで彼に会ってから、スーパーに寄るのが楽しみになったし、彼に会えないとがっかりする自分がいた。
千早の何処が良いかと言われたら、顔。
初めて会った時、可愛いなって思った。
でも、それだけじゃ無い。
何だか放って置けなかった。緊張しやすいのは直ぐに分かり、俺は出来るだけ彼が焦らない様にした。
ちょっと、動物を相手にしているみたい。
何て言うと、千早に怒られるかな?
*****
千早は分かりやすい様で、分かり辛かった。
彼から話し掛けて来る時、必ず俺の身体に触れる。
チョンチョンと触ったり、クイっと引っ張って来る。最初の一言目が緊張するらしく、なかなか出て来ない。
俺は彼がチラリと視線を動かすと、何と無く何を言いたいのか分かる。
時計を見れば時間を気にしているし、しろの方を見ればしろが何かをしている。
だから、逆に俺に関する気持ちについては分からない。まぁ、一緒にいても険悪な雰囲気になった事が無いから、嫌われてはいないだろうけど、、、。
単なる友達なのかな、、、?
*****
いつも通り千早の家に来ていた。
「あ、、、千早?」
彼を見ると、ほんの少し首を傾げた。
「明日、不動産屋に行くから朝になったら帰るよ」
知り合って2ヶ月。俺は毎週、千早の所に泊まっている。
彼がもう一度首を傾げた。
「アパートの更新があるんだ。家賃も値上げするって言うから、引っ越そうと思って」
「、、、更、、、新?」
「そ、2年に一回契約更新が有って、住み続けるか引っ越すか聞かれるんだ。今の家賃位の所があると良いんだけどね」
と言うと、千早は「そうなんだ」と言う顔をする。
「だから、明日は朝9時45分には出るよ」
うん、と頷く。
千早はしろを抱いて、匂いを嗅いだ。
*****
不動産屋には予約を入れてあった。更新の話しと家賃の話し、新しい物件の相談をしたかった。
時間通りに行くと、早速何軒か物件を見せてくれる。
千早の家から遠くなるな、、、。職場には近くなるけど、反対方向だった。
まぁ、車があるから最悪何とかなるけど、やっぱり千早の家から離れたく無い。
他にも何軒か探してくれた。
家賃の値上げはそれ程高くは無い。、、、けど、チリも積もれば山となる、、、。地味に痛い。
二軒程、現地に見に行ったけど、やっぱり微妙だった。
まぁ、更新はもうちょっと先だったから、一度保留にして今日は帰る事にする。
千早にSNSで連絡。
「今、終わった。飯食った?」
直ぐに既読が付いて
「まだだよ」
と返事があった。、、、ラーメン食いたいな、、、。
「飯、食べに行かない?」
「良いよ」
「迎えに行く。準備してて」
「了解」
俺はスマートフォンを鞄にしまい、車を出した、
千早は家の前で待っていた。可愛いな。
目の前に車を停めると、慣れた彼は助手席に乗った。
「ラーメンとラーメン、どっちが良い?」
と聞いたら、笑って
「どっちも一緒!」
と言った。偶に、こんな風に自然に話す事もある。
「じゃ、ラーメンね」
と言うとクスクス笑う。
ラーメンを食べ終わり、千早の家に送る。
家の前に車を停めると、彼がチラリと俺を見た。
「上がっても良い?」
と聞くと、頷いた。
居間の襖を開けるとしろが迎えに来る。
「今まで寝てたな?」
と抱き上げると嫌がって飛び降りた。
千早は台所から缶ビールを持って来ようとして
「あ、、、」
と言った。今日は車だから飲む訳にいかなかった。
インスタントコーヒーを二人分入れている。
千早が台所に立つ姿を眺めるの、意外と好きだな、、、。
コトリ、、、と音を立ててコーヒーを置いた。
「ありがとう」
俺が言うと、嬉しそうに笑う。
「不動産屋行ったけどさ、、、。なかなか良い物件が無かったよ」
千早は両手でカップを持ち、コーヒーを飲んだ。
「駅の向こう側に、何軒か安い物件が有ったけど、ちょっと遠くなるんだ」
「、、、ど、、、どれ位?」
「車で40分かな?」
「え、、、」
俺を見た。動揺しているのか、瞳が揺れる。
「まだ、決めて無いよ。良い物件が無いんだ」
千早は視線を落とし、考える様にコーヒーを飲んだ。
砂糖とミルクの入った千早のコーヒーは、キャラメルみたいな色をしている。
明らかに落ち込んだ彼に
「淋しい?」
と聞くと、視線を下げたまま頷く。考え事をする様に、暫く視線を泳がし、キュッと口元を締めた。
「良い所、、、見つかると、いいね、、、」
家賃とか建物の状況を見て、一番良いなと思ったのは、千早の家から車で40分も離れていた。
40分かぁ、、、。うー、、、ん。
俺は決められないまま、週末を迎えた。
週末、金曜日、明日も不動産屋に行く。
千早の家の台所。グラスにビールを注ぎ、そのまま取り敢えず一気飲み。
千早が食器棚からグラスを取り出し、ビールをおねだりした。
珍しいな。
俺がグラスに注ぐと、チビチビと飲む。隣に立つ千早は、いつもより距離が近くて、身体が少し当たった。
土曜日も朝から不動産屋に行った。
「え?あの物件、無くなっちゃったんですか?」
「そうなんです。月曜日にいらしたお客さんが直ぐ決められて」
「そうですか、、、何か新しい物件出ましたか?」
「まだ、無いですねぇ。新しい物件が出たらお電話しましょうか?」
「お願いします」
うーん、、、困ったな、、、。
結局、不動産屋から昼過ぎに戻り、千早の家に寄る。
インターホンを鳴らしても出ない。珍しいな。
庭の方に回り、中を見ると千早が畳の上で昼寝をしている。気持ち良さそうだ。
しろはどこだろう、、、。
背中を向けて寝ている千早にくっつく様に丸まっていた。しろも昼寝をしている。
玄関に戻り、インターホンを鳴らした。
カチャリと鍵の開く音がして、扉が開く。
千早が
「お帰り」
と言った。
ああ、、、安心するな。
「昼寝してたでしょ?一度インターホン鳴らしたけど、反応無いから庭に回ったんだ。居間で寝てるのが見えた」
二人で居間に戻る。
俺もついつい寝転んだ。
しろはまだ寝ている。
ホワホワの白い毛を撫でると、とんでもなく気持ちが良い。つい匂いを嗅いだ。
千早が台所に行こうとしたから、俺は
「千早も一緒にゴロゴロしようよ」
と誘った。
千早は俺の横に寝転び、しろを撫でる。
彼の肩が当たった。
*****
千早の淹れたコーヒーを飲みながら
「良いなって思ってた物件、決まったらしくてさ、ダメだった。また、一から探さないと」
と、言うと千早はホッとした顔をした。
「千早、喜んでる?」
ニヤリとして聞いた。目を大きくして、両手を振る。オドオドして
「そ、そんな事無いよ」
「、、、俺は、あんまり遠くに離れたく無い」
「、、、」
千早は両手を膝に乗せ、暫く考えた。
「、、、ぼ、僕も、、、」
と言うと、顔を赤くして、下を向いた。
可愛い、、、。
**********
押尾は近所に住む後輩で、幼馴染だ。俺の実家が動物病院だったからか、単なる性格なのか、小さい頃から動物が好きだった。
近所で捨てられた猫を拾ったのが、一番最初。
泣きながら父の病院に連れて来て、手当して貰った。
押尾が実家に住んでいた時は、猫も犬も飼っていたけど、今は一人で賃貸に住んでいる。
猫を見つけては、外で餌をやろうとしたから、叱ったんだ。
それから、アイツは餌付けを我慢している。
「湯山さん?」
スーパーで彼に会って声を掛けた。
「しろちゃん、元気?大きくなったでしょう」
彼は最初、俺が誰か分からなかったみたいで、困った顔をしたけど、しろちゃんの名前を出したら思い出した様だった。
一瞬で表情が変わる。
彼はコクコクと頷き、スマートフォンを取り出すとしろちゃんの写真を見せてくれた。
「可愛い、、、」
真っ白い子猫が赤い首輪をしている。
スッスッスッと画面をスライドさせて、大きくなってしろちゃんの写真を見せてくれた。
「健康で幸せそうだ。春になったら健康診断においで、何か気になる事があったらいつでも病院に来てね」
「、、、は、い、、、」
にっこり笑う。
何枚かの写真に押尾が写っていた。
「浅間?何やってんの?」
後ろから押尾の声がした。振り向くと、機嫌の悪い彼が立っていた。
「千早とくっつき過ぎ」
と言って、湯山くんの腕を引く。
嫉妬してる?
「しろちゃんの写真見せて貰ったんだよ」
湯山くんが不思議そうな顔をして、押尾を見ている。
ん?まだ、付き合ってる訳じゃ無いのか?
「ね、湯山くん」
と微笑むと、湯山くんも柔らかく笑う。
押尾がムッとした。そんなに顔に出したら、好きってバレるぞ、、、?
「俺達、買い物して千早の家で飯食うんだ。もう行くよ」
と湯山くんの肩を抱いて、逃げる様に歩き出す。
面白い、、、
「俺も行きたいな?」
「ダメッ!」
湯山くんがオロオロしている。
彼を見ながら
「ダメ?」
と聞くと、押尾の顔を見上げて、お伺いを立てている。
湯山くんは、彼の服を引いた。押尾が気付いて視線を合わすと
「し、、、しろに会って、、、
「会わせたいの?」
湯山くんが頷く。
へぇ、、、仲が良いんだ、、、
俺は湯山くんの家にお邪魔する事にした。
**********
スーパーでちょっと目を離した隙に、千早の横に浅間がいた。
二人、肩が触れそうな位距離が近くて、思わずイラッとした。
その上、千早が浅間にしろを見せたいと言う。
千早の家に浅間を上げるのは嫌だけど、仕方が無い。さっさと追い返せば良いかと考えていたのに、浅間は食材をあれこれ買い、アルコールまで沢山買った。
彼がレジで纏めて払っていたから
「後で、金額教えて」
と言うと
「俺が一番年上だし、お邪魔させて貰うから」
涼しい顔で言う。
「いや、割り勘で」
返事をしたら、苦笑いをされた。
「車?」
「歩き、そんなに遠く無いし、健康の為に」
「俺達、車だから」
三人で駐車場に向かう。
**********
車の後ろの席で二人を眺めていると、まるで恋人同士の様だった。もう、付き合ってるのか?どっちだ?
**********
千早の家に着くと、千早は浅間を部屋に案内する。何でそんなに嬉しそうなんだよ、、、。と思いながら、玄関の鍵を閉める。
後から居間に入ると二人はやっぱり仲が良くて、しろを抱いた浅間に、千早が寄り添う様に側にいた。
俺は買った荷物を台所に持って行き、アレコレ冷蔵庫にしまう。買い物袋の中からレシートが出て来た。
俺は酒とグラスをトレーに載せて、居間に運ぶ。
千早?
千早が赤い顔をしていた。
え?何があった?
浅間を見ると、俺の顔を見てニヤニヤしている。気持ち悪い、、、。
テーブルにトレーを置き、財布を取り出す。千早も俺が財布を出したのを見て、自分の鞄を漁る。
「はい、二人分」
と金を払うと、千早がアワアワしていた。
「千早は良いよ」
「それなら、これだけ貰うよ」
と二人で分けた金額だけ持って行った。
「良いの?」
千早は遠慮がちに聞いた。一々可愛いんだよな。
俺は千早の頭を撫でた。
*****
浅間はなかなか帰らず、千早に俺が子供の頃の話を色々聞かせていた。
その内、千早は酔いが回ったのか、瞼が重くなって来た。
「千早、寝るなら先にシャワー浴びな」
居間でウトウトしている千早に、声を掛けた。
「うん、、、」
と返事をして立ち上がと、フラッと身体が揺れた。
「大丈夫?」
と思わず支えると、俺の顔を見てヘラリと笑う。
「大丈夫だよ」
いや、大丈夫じゃないな、、、。
風呂場まで着いて行く。
「バスタオルと着替え持って来るから」
と言って、扉を閉めた。
*****
居間に戻ると、浅間が酒を飲みながらしろを撫でていた。
「しろ、良い子だね。可愛がられてるって分かる」
早く帰れば良いのに、、、そう思いながら、浅間のグラスに酎ハイを注ぐ。
「ありがとう」
彼も俺のグラスに注いでくれた。
「付き合ってるの?」
身体がピクリと反応した。
「まだ?」
何で?何でそんな事を聞くんだ?
俺がチラリと浅間を見ると
「どっちかな?って思って」
やっばり
「千早の事」
狙ってる?
「あ、、、!俺が湯山くんの事好きだと思った?違うよ?俺、結婚したい人いるから」
何だ。ホッとした。
俺はグイッと酎ハイを飲んだ。
「まだ、付き合っていない」
「付き合うの?」
「付き合いたい」
「早く告白すれば良いのに、湯山くん待ってるんじゃない?」
「、、、」
浅間も酎ハイを飲む。
「良い雰囲気だった。もう付き合ってるのかな?って思う位にね」
「そっか、、、」
「迷ってるの?」
「まぁ、、、」
「付き合おうよ」
「、、、」
「どう見ても、嫌いじゃないよね?」
「好きだけど、、、」
「じゃあ、良いじゃない。付き合えば」
「告白するタイミングが分からない」
「、、、のんびりしてると、誰かに取られちゃうよ」
そう、それは分かっているんだ、、、。さっきだって、千早と浅間が親しくしているのを見て、ギクッとした、、、。
**********
シャワーを浴びながら、自分がふわふわしてるのが分かった。
さっき、浅間さんに「押尾の事、好きなの?」って聞かれて、びっくりしちゃった、、、。
恥ずかしいな、、、顔が赤くなってると思う。
でも、どうしてそんな事聞いたんだろう、、、。
急すぎて、僕は返事が出来なかった。
脱衣場でドライヤーを掛けて、少し落ち着いた。
台所で水を飲んでから、居間を見る。
二人は何だか、真剣な話をしているみたいだった。
僕が台所にいる事に気付いていない。話の腰を折らない様に、二人を眺めた。
内容はよく分からない。
たまに「付き合おうよ」とか「のんびりしてると」って聞こえて来たから、告白?
そう言えば、押尾くんと恋話した事無いな、、、。押尾くん、浅間さんが好きかも、、、。
しろが足元に来て、鳴いた。
「ご飯?」
と聞くと、二人の気配が変わった。
「千早、そこにいたんだ」
ちょっと慌ててる。僕には聞かれたく無かったのかな?
「、、、うん」
と言いながら、しろのご飯を準備する。
「じゃ、俺はそろそろ帰るよ。明日は朝から仕事なんだ」
浅間さんはそう言って立ち上がり
「残った酒、飲んでね」
と笑った。
押尾くんは玄関まで見送りして、鍵を掛けてくれた。
しろはご飯を必死に食べる。お腹空いてたんだな。水も新しいのに変えて、台所を片付けた。
「千早も飲む?」
「うん」
押尾さんは居間を少し片付けて、洗い物を持って来た。
グラスを洗い、空き缶を捨て、新しい酎ハイを開ける。綺麗なグラスに注ぎ、僕に手渡してくれた。
あ、、、新しく住む所って、浅間さんと住むのかな?
考え事と、喉が渇いていたから、ゴクゴク飲んでしまった。
押尾くんが、笑いながら酎ハイを注いでくれる。
き、聞いてみようかな?聞いたら変かな?でも、好きな人はいるみたいだし、知りたいな、、、。
色々考えていたら緊張が増して、喉の奥が詰まって来た。僕は緊張を解す様に、お酒を飲む。
押尾さんも、酎ハイを飲みながら、何か考えてるみたいだ。
あれ?でも待って?
もし、押尾さんが告白して、浅間さんと上手くいったら、、、僕達会えなくなっちゃうのかな?
もう、此処には遊びに来てくれないの?
、、、それは淋しい、、、。
僕は押尾さんを見た。ちょっと険しい顔をしている。
ねぇ、押尾さん?今、何を考えてるんですか?
浅間さんの事?
さっき、彼に告白されてましたよね?
押尾さんの好きな人って、浅間さんですか?
グラスの酎ハイが空になってしまった、、、。
「千早?もう飲んだの?大丈夫?」
僕、押尾さんが好きです。
ずっとずっと、このまま一緒にいたいな、、、。
しろと押尾さんと僕じゃダメですか?
僕、誰かに貴方を盗られたく無い。
貴方が僕の前からいなくなるなんて、イヤです、、、。
僕は隣に立つ押尾さんを両手で掴んで、こちらに向かせた。
「 ? どうした?」
彼の胸ぐらを掴んで引き寄せ、キスをする。
「千早っ?!」
イヤだよ。
押尾さんが誰かのモノになるなんて。
僕から離れて行くなんて、、、。
もう一度キスをする。
でもさ、、、本当は分かっているんだ。貴方が浅間さんの事を好きなら、僕はやっばり諦めないといけないって、、、。
押尾さんは僕の肩に手を置いて
「千早?どうした?」
と聞いて来た。
言いたい事が沢山あるのに、言葉が出ない僕は、ボロボロ涙を溢しながら、背伸びをして三度目のキスをしようとした。うー、、、。
「千早、、、」
押尾さんが息を吐く様にため息を漏らした。
僕の頬を両手で包み、顔を寄せる。
彼の瞳を見る。
綺麗な黒目、、、。
「千早、、、」
返事がしたいのに、言葉が詰まる。小さく開いた唇に、押尾さんがキスをしてくれた。
あ、、、
彼のキスは、僕のキスと違った。
僕からのキスは、まるで子供のキスだった。
ただ唇に触れるだけのキス。
勢いに任せて、当てる様にしただけ、、、。
押尾さん、、、僕、こんなキス、知りません、、、やっぱり大人だな、、、。
頭がジンジン痺れる。自分の身体が自分の身体じゃ無い気がして、もっともっとキスして欲しい。
頬に触れていた手が、僕の首筋を撫で、胸に触れ、腰に移動する。
添える様に腰に触れ、引き寄せられた。
彼はいつも大人だった。
僕が緊張して、話しが出来なくても、急かす事無く待ってくれた。
小さな仕草からも、僕の気持ちを理解してくれた。
僕はそれにいつも甘えて、いつも言葉が少なかったけど、、、
「、、、、、、好き、、、」
恥ずかしくて、彼を抱き締めた。言葉と一緒に涙も溢れる。唇を離し、頬を合わせて彼を感じた。
「好きです、、、押尾さんが好き」
「千早、俺も、、、。俺も、千早が好きだよ」
言葉にするって大切なんだ。緊張するし、失敗するのは怖いけど、、、
「、、、あの、、、ぼ、僕の家で、、、一緒に、暮らし、ませんか?」
お願い押尾さん、「うん」って言って、、、。
僕は抱き締めた腕に力を込めた。不安で心臓がドキドキする。
「千早、、、良いの?」
**********
快晴の土曜日、俺は千早の家に引っ越した。距離は短いし、荷物も少ない。
車で何往復かして、何とか自分達で運んだ。
引越し中にしろが逃げてしまうといけないから、浅間の病院で預かって貰い、朝から始めた引越しは、昼過ぎには荷物を運び終えていた。
家具が重複する物は、古い方を売りに行く。
一休みと称して、二人で蕎麦を茹でる。麺つゆは買って来た。葱も海苔も無い、ただの蕎麦も何だか美味かった。
台所で片付けをしながら
「千早?」
と名前を呼ぶと、隣りで俺を見上げる。可愛い瞳が俺を誘っている、、、様な気がする。
キスをしようと顔を寄せると、千早は静かに目を閉じた。腰に手を添える。
千早はゆっくりキスに答えてくれる。まだ数える程しかした事の無いキス。
ぐいっと抱き寄せながら、シャツを少し引き抜く。そこから手を差し入れ、彼の素肌に触れる。
今じゃ無いのは分かっている。
引越しの荷物が散乱している。
もっとちゃんとした雰囲気で千早に触れたい、、、。そう思いながら、指先は彼の滑らかな肌を離さない。
モゾリと千早が動き、唇を離す。
あー、、、俺、何やってるんだろう、、、。
でも、止められない、、、。
視線を合わせない千早の瞳が、恥ずかしそうにしている。
俺は腰を撫でながら、少しずつシャツを抜く。
「んっ、、、」
と言いながら俺に身体を押し付けた。
「キ、、、キス以上も、、、ぃぃょ、、、」
千早は俺にしがみ付き、顔を胸に押し当てながら言った。
耳も頸も真っ赤だ、、、。
「千早、、、こっち見て、、、」
おずおずと俺を見る。
あんな事を言われて、こんな顔をされたら、俺はもう止められない、、、。
「凄く愛してるから、大切にする、、、」
と言いながらキスをすると、千早は俺の身体に腕を回した。
「、、、ぼ、僕だって、、、凄く、凄く、愛してる、、、」
嘘の無い言葉。緊張しながら伝えてくれる千早の愛の言葉は、何よりも信じる事が出来た。
しろちゃん、お預かりだからね、、、もう暫く二人きりです。




