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第二十五話 報告


 (りく)家の屋敷での捕物劇(とりものげき)の翌日の昼頃。


 衛士令(えいしれい)馬丁峡(ばていきょう)は再び、昨日の当事者の訓薫鳳(くんくんぽう)紅玻璃(こうはり)、そして曹牙陵(そうがりょう)を内廷護衛署に呼び出して、一夜かけての取り調べで判明した内容を報告する。


 丁峡(ていきょう)の話に、牙陵(がりょう)は真剣に備忘録を筆で書き込んでいるが、薫鳳(くんぽう)玻璃(はり)はほぼ興味皆無(かいむ)(うわ)(そら)である。薫鳳は精魂尽きて眠そうに机の上にぐったりとしており、玻璃は目元はスッキリ、肌はツヤツヤ、気力充分でいち早く本業に戻りたいとそわそわしている。



「あの……。薫鳳どの、玻璃どの。一応俺は臨時責任者として一晩取り調べをがんばったんで、聞いてもらいたいんだけど……」


「いいよそんなの。どうせ氷山の一角なんだからよ」



 薫鳳はフワァァとあくびをしながら、馬丁峡の話を手であしらう。



「気になってると思ったのに……。でもお二人、どうしたんだよ。昨夜から何かあったのか」


「聞くな」



 薫鳳は大きく溜め息をついて机に伏せた。玻璃は何か良い意匠(いしょう)が思いついたのか、鼻歌混じりに宙に指で何かをなぞっている。対称的な二人の様子に首を傾げながら、馬丁峡は取り調べで得た真相の説明を再開する。



 連行された二級魔術師の陸弦翔(りくげんしょう)は、簡単に自白した。


 訓薫鳳の存在を嫌悪していた陸弦翔は、薫鳳を陥れることを画策。先日園庭で目にした薫鳳の両脇の女官、秋梨南(しゅうりなん)車京英(しゃきょうえい)を利用することにした。


 陸家と繋がりのある宦官(かんがん)莫卓岩(ばくたくがん)を通じて、二人が薫鳳制作の香水を皇太后から下賜(かし)されていることをつかむと、莫卓岩を使って調香室の薫鳳からの呼び出しを装った。二人は喜んで香水を持ち、莫卓岩の許可を得て後宮から出る。待ち受けた陸弦翔が城外の森林にて両者の殺害に及んだ。


 城門を出るには門番の出入城検査があるが、間もなく一級魔道士の昇格試験に臨む陸弦翔には、自身と女性二人を<瞬移(しゅんい)>の魔術で城外へ一瞬で運ぶのは容易いことだった。


 そして、二人の女官のうち梨南(りなん)は自分の好みの顔の女だった。だから京英(きょうえい)を先に殺害した後に、梨南を犯してから討ち棄てた。


 捜査の混乱のために、二人が持ち出してきた香水瓶を現場に置き去ろうとする。しかし二本の瓶は噂に違わぬ美しさで、開けて嗅いでみると弦翔はその高尚な香りに魅了された。捨てるのはもったいない。露草(つゆくさ)香茅(こうぼう)のお気に入りの香水だと生前の彼女たちから聞いたので、<複製>の魔術で見た目の似た模造品を創成し、代わりに捨てて本物の香水瓶は懐に入れた。


 その森林を選んだ理由は、同日の巡回にあった。魔術府所属の魔術師たちは定期的に城外へ出る。帝都防衛のための魔物(まもの)討伐という名目だが、実のところは各々の魔水晶(ますいしょう)への魔力の補充である。まだまだ城外には様々な魔物が多く潜み、暗くなると徘徊を始めるので、魔術師たちは魔術で討滅しながらその魔力を手に入れるのである。


 その日の夕刻の森林の巡回が、陸弦翔の担当であった。魔物らに二人の死体や香水を荒らされれば、調香室を陥れる策が台無しになる。自分が同行の者と第一発見者になることが一番手っ取り早いと考えた。


 巡回は二人一組が原則で、いつものように後輩魔術師と組むはずが、この日は一級魔道師の昇格試験が近いということで、上司の曹牙陵が親切に同行を申し出た。生真面目(きまじめ)な牙陵であればなおさら同じ第一発見者として好都合と思ったが、まさか後に屋敷で証拠隠滅の魔術を封じられることになるとは弦翔には予想できなかっただろう。


 陸弦翔は強姦致死傷罪の容疑で禁衛府に逮捕された。衛尉(えいい)陸弦紳(りくげんしん)は身内の事件に切り替わったため捜査から外れ、衛士令の馬丁峡が捜査責任者に繰り上がった。まだ余罪ありと見られて取り調べは続いているという。




「だから、そういうのは氷山の一角。片鱗に過ぎないっての」



 丁峡の全力の説明を、薫鳳は溜め息で流す。丁峡は眉をひそめて()く。



「まだ解決してないってのか、薫鳳どの」


「オレを陥れたいというだけで、わざわざそんな単独犯をやるような度胸が、陸弦翔ごときにあると思うか? それに牙陵どの、若い女魔術師も何人か死んでるって話、解決していってるのか」



 薫鳳は同席している曹牙陵に尋ねる。



「いや、ほぼ進展していない」


「だろ。魔術府の中だけでやらずに、ちゃんと禁衛府(きんえいふ)と連携を取って捜査しなけりゃダメだぜ。今回の陸弦翔の事件にも関係してるんじゃないか? どうせ陸弦翔は蜥蜴(とかげ)尻尾(しっぽ)のように切り捨てられてるだけだ。もっと大きな黒幕がいると思うぞ」



 薫鳳が忠告のように推測を語った。馬丁峡と曹牙陵は目を合わせてうなずき合う。同い年の二人は皇宮勤務が同年の仲だそうで、息が合っている。


 ふと窓外の青空に流れる白い雲に目をやり、薫鳳はつぶやく。



「それにしても、梨南と京英は気の毒だったな。オレに()れて関わったために目をつけられたのならば、オレにも責任の一端はある。はぁ……、女からは心を惚れられ、男からは才能を妬まれ、オレほどの罪深き男はいないよなあ……」



 薫鳳は溜め息を吐いて、頬杖(ほおづえ)をついた。


 重そうなまぶたで雲を見つめる薫鳳の横で、玻璃は気力豊かな上機嫌の表情。


 馬丁峡は昨日とあまりに違う二人の様子を交互に見比べて、つい尋ねる。



「お二人、昨晩何かあっただろ?」


「あ、それ()きます?」



 玻璃はツヤツヤに(うるお)った肌でニコッと微笑(ほほえ)む。馬丁峡が詳しく聞こうと玻璃の前に椅子を移動して腰を下ろした。いつの間にか曹牙陵も近づいてきて、帳面に筆を立てて聞き耳を立てる。


「言うなぁぁ」と(うめ)きながら止めようと伸ばしてきた薫鳳の手をはたき落としながら、玻璃はにこやかに昨晩の事件の後のことを話し始めた。




(つづく)





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