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第十九話 目視


牙陵(がりょう)どの。実際のところ、このオレを疑ってるのかい」


「いや、本人たちの部屋の香水瓶二本が消えているとなると、死体のそばにあった瓶は本人たちが持ち出したと考えるのが自然だろう。薫鳳(くんぽう)どのがわざわざ瓶を残すとは考えにくい」


「そうか。牙陵どのは常識的な魔道師で助かるぜ」



 並んで移動する訓薫鳳(くんくんぽう)曹牙陵(そうがりょう)が確かめ合う。上司である燕該曜(えんがいよう)が薫鳳を目の敵にしているため、曹牙陵は燕該曜の前では敵対関係になることが多いが、牙陵個人としてはそれほど薫鳳への(わだかま)りはないようである。


 馬丁峡(ばていきょう)の案内で到着した検死室の前室で、長官らしき男が待っていた。(とし)は五十前後で、厳格な目つきをしている。その官服からかなりの上級職と分かる。



「こちら、衛尉(えいい)陸弦紳(りくげんしん)さま。俺の上役(うわやく)にあたる方だ」



 馬丁峡が一同に紹介した陸弦紳は、禁衛府(きんえいふ)にて衛士令(えいしれい)(たば)皇宮(こうきゅう)内の警備を(つかさど)衛尉(えいい)である。九名家(めいけ)(りく)家の人間で、二級魔術師の陸弦翔(りくげんしょう)の父でもある。曹牙陵の背後にいる息子と目が合うと、陸弦紳は小さくうなずきを見せた。陸弦翔はニヤリと不敵に笑う。


 陸弦紳は薫鳳の前に足を進めると、要件を伝える。



此度(こたび)の捜査を馬丁峡と共に担当している、陸弦紳である。訓薫鳳どの、ご足労(そくろう)痛み入る。丁峡からお聞きと思うが、二名の死体のすぐ近くに二本の香水瓶が置かれていたゆえ、調香室と関わりもあるかとお呼びした次第」


「オレは何をすればいい。遺体や香水瓶を調べさせてもらえるのか」


「意見を聞くだけである。検視室には二名の遺体と香水瓶を置いてはいるが、現在精密な検死中ゆえ、床に引かれた線の手前側でのみ目視を認める。そこから先に立ち入るのは遠慮されよ」


「へえ。遺体には近づかせない、瓶には触れさせないってことか。何を考えているんだか」



 薫鳳は陸弦紳の指示を聞き、呆れた息を吐く。玻璃(はり)も陸弦紳と陸弦翔父子の視線のやり取りを見て、何か薫鳳を陥れようとしているような危険性を感じている。


 だが薫鳳は特に何も抗議することなく、馬丁峡に何かこそこそと耳打ちをしただけで、陸弦紳の言いつけを了承した。



 一同は白衣を身につけると、検死室へと足を踏み入れる。中は白を基調とした空間で、四方の壁には棚が備えつけられ多くの器具や薬品瓶が並ぶ。奥では白衣を身につけた衛士らしき者が三人、何やら検査作業をしている。


 中央に二体の遺体が横たわる簡易寝台が並んでいた。どちらも遺体は頭だけが露わになり、首から下は布が掛けられている。検死は裸体で行われると聞くが、布の上からも胸部の膨らみから、どちらの遺体も女性であることが分かる。


 その横の台に遺留品が並べられ、その中に青色と緑色の液体の入った瓶が置かれてある。死体とともに見つかったとされる香水であろう。


 だが、その手前側の床には白線が引かれてあり、そこを超えてはならないという指示である。遺体や瓶には直接触らせない。手を伸ばしても触れることができない距離での目視しかない。


 馬丁峡も曹牙陵も、あまりの仕打ちだと眉を顰める。白線も急遽引かれたようで、通常の規定とも思えない。陸弦紳は嫌がらせというより、薫鳳が香水を持ち逃げしたり破壊したりする危険性を考えていると思われる。


 陸弦翔がニヤニヤした嫌味な笑顔を薫鳳に向ける。



「おい淫乱調香師。言っておくが、警護署(けいごしょ)内での魔術の使用は厳禁だ。俺たちの魔術での協力を期待すんなよ。離れていても、そのお得意のお鼻の芸当で言い当ててくれるんだろ。どちらの女が梨南(りなん)京英(きょうえい)なのかぐらい」


「まあな。以前に会っているのだから、顔を見なくても香りで分かる」


「ふん、強がりを」


「左が梨南で右が京英だ」


「……顔を知ってるから分かるだけだろ」


「ここの角度からだと、顔の形はよく分からないな」


「じゃあ胸の大きさの比較か? 香りで判別できるわけないだろ」


「お前は女の違いが香りで分からないのか。それに二人の違いといえば、強姦(ごうかん)されたのは左の梨南だけだ」


「……!?」



 薫鳳の言葉に、そこにいる全員が驚いて目を見開く。陸弦紳は慌てて手元の捜査資料を確認する。その表情を見て薫鳳の見立てが正しいようだと感じ取った陸弦翔は、薫鳳に指を向けた。



「て……てめえ自身が犯したからそんなことが分かるんだろうが。それに、あの二本の香水。てめえが渡して、もう一度返すようにと後宮から持ち出させたやつなんだろ」


「あの二本の香水を、オレが渡した? なぜ」


「てめえが作った香水だからだよ。惑わしの匂いの香水で女を釣って、犯して捨てる。てめえのやりそうなことだ」


「あそこの香水を、オレが作ったって。玻璃、そうなのか?」



 薫鳳は陸弦翔の追求にも平然とし、横にいる玻璃に話を振る。


 玻璃も冷静の表情で、ぼそっと答えた。



「さあ。薫鳳先生がああいうのを女性に差し上げるのかどうかは私は全く知りません。ただ、あれがお二人の部屋から消えていた二本の香水瓶ではないのは確かです」


「……はぁ?」



 一瞬の静寂の後々、陸弦紳と陸弦翔の父子が同時に声を上げた。馬丁峡と曹牙陵も「どういうことだ」と言わんばかりに刮目する。




(つづく)



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