第2話 ユウヤの過去
その時、カズマのスマホが震えた。フタバだ。
--「今日遅くなるってユウヤに伝えて」
カズマ「直接言いなよ」
フタバ「・・ごめん、お願い!」
カズマ「わかったよ、遅くなりすぎないようにな」
フタバ「ありがとう」
--リビングに戻り、皆に伝えるカズマ。
「フタバ、遅くなるって」
--・・フタバ、なんで俺に連絡しないんだよ
ユウヤ「え・・なんでですか?」
カズマ「わからないけど、遅くなるみたい」
さみしさと怒りが交ざったような表情のユウヤ。
誰かが「大丈夫だよ」と優しくユウヤの肩をたたく。
「で、プリンの話しに戻るけど・・」
と、カズマがいいかけたところで
ユウヤが背中を向けた。
--全員がユウヤを見る。
冷蔵庫には4個のプリン。
--ユウヤの過去--
ユウヤは施設で育った。
「みんな、ごはんだよ~。ももちゃん、げんきないね?ぼくのからあげ1個たべる?」
周りをよく見ているユウヤは、よく気が利いた。
気が利くというより、嫌われない様に必死だった。
『--「もう!いい加減にしなさいよ!なんでいつもそんな事するの?!」
ユウヤの母はいつも怒っていた。夫と別れ、ユウヤと2人で暮らしていた。
--おかあさん、よろこんでくれるかな?
見よう見まねでホットケーキを作った。
「ユウヤが作ったの?ありがとう。」
--おかあさん、わらってないな。けど、「ありがとう」っていってくれた。なんかうれしい。
--初めて感じた感情だった。』
施設に預けられて1ヶ月後、
僕は親戚の家に行く事になった。子どもが出来なかった親戚夫婦らしい。
「ユウヤくん、これからよろしくね」叔母さんは満面の笑みで迎えてくれた。
叔父さんは「よろしくな」と大きな手で頭を撫でてくれた。
でも僕は素直に喜べなかった。怒っている母がずっと心の中にいるからだ。
だから
嫌われないように、両親の言う事を聞いて、気が利くふりをした。
--ここを失ったら、もう行き場がない。
高校2年の春。
進路について話していた時の事。
「公務員はどうだ?」両親は公務員を勧めてきた。
--昔、母にホットケーキを作った時の「ありがとう」が忘れられない。
「俺、料理人になりたいんだ」
--初めて自分の口から本音が出た。
「料理人なんてダメだ。公務員になれ」
--父は理由も聞かず、自分の気持ちを押し付けてくる。
「俺、施設にいた頃、皆のごはん作った事があって、ありがとうって言ってもらえたのがすごく嬉しかったんだ」
--母に作ったホットケーキ、だとは言わずごまかした。
でも、父は俺の話を聞こうともしなかった。
--夜、父と母が、リビングで話しているのが聞こえた。
「あいつ、いつから反抗するようになったんだ?育ててもらっている事、忘れたのか?」
--血の気がサーッと引いていくのがわかった。
--なんで・・今まで優しかった両親がなんでそんな事・・
急に涙が溢れた。
--俺は優しくされてきたはず・・なんで・・
--違う、なんでも言うことを聞くから、優しくされていただけだったんだ。
悲しさと虚しさでその場から動けなくなった。
--あの日に、
--母と暮らしていたあの日に、戻った・・。
その日から、家の中にいるのがしんどくなった。
--俺は大切に扱われてきた。だけどそれは、わがままを言わない俺。
--言うことを聞かない俺なんて、いらないんだ・・
そんな時にフタバと出会った。
「あはは、ユウヤ君おもしろい事言うね!それでそれで、その後どうなったの?」
--俺の話しを楽そうに聞いてくれるフタバ。
かたく閉じていた心がゆっくりと柔らかくなっていくのを感じた。
フタバの家族はあたたかかった。
笑い声がして、気づくと俺の分までごはんを用意してくれている。
「泊まっていけば?」
そのひとことで、涙が出そうになった。
--ここにいたい。
--ここなら、捨てられない。
いつの間にか、帰らなくなった。
帰る場所が、ここになった。
--ちゃんと愛されたい。
だからユウヤは、必死だった。
嫌われないように。
疑われないように。
愛を失わないように。
--フタバだけは、手放したくない。
--捨てられるなんて、耐えられない。
だから、必死だった。
フタバが帰ってこない夜、
胸がざわつく。
--また、俺はいらなくなるのか?
--他に、居場所ができた?
焦りと不安が押し寄せる。
--なんとかしなきゃ・・
プリンを作ったのは、
仲直りのためじゃない。
フタバに信じてほしい。
「ありがとう、おいしいよ」って言ってほしい。
ただそれだけだった。
プリンが減った事なんか、どうでもよかった。
--続く




