第4記 -見習い-
「私をここで働かせてほしい。」
無意識だった。
口から出たそんな嘆願の言葉はしかし次の一言で否定される。
「何を言っているんだい?君はそもそも客だ。働くことなど出来やしない。
そもそもここで働いたとしてもその記憶は全て消えるぞ?」
「それでもやらせて欲しい。私はこんな小説を書いてみたい。どうか……どうかお願いだ。」
きっと見苦しかった。
見ていて一笑に尽かされる、そういう類の願いなのだろう。
これまでに誰もこんな願いをした事は無かったのではないだろうか。
しかし遠鳴司書は大きなため息を一つ吐くに留め、こう問いかける。
「わかった。つまり君はこの後に記憶をなくすことになっても、ここでの行為が全て無駄に終わったとしても、私の……私達のような人生を書く者に成りたいと。成ってみたいと。
……そう言っているんだな?」
はい、と強く、強く意志を込めて首肯する。
遠鳴司書は私の目をしばらく見つめ……
「……ならいっか。
君は正規の作家じゃないからどう足掻いても見習いという立場になるけれども、どうしてもって言うなら、無理に止めるのは悪手というものなのだろう。
元来ここは迷いを晴らすための場所だ。
そうしたいって言うならやらせるべきなのだろう。
……許諾しよう。私、遠鳴日暦はたった今この時より君、東透を記憶書庫の見習い作家に任命する。」
それは思ったよりもあっさりとしたものだった。
もっと色々と規約やらなんやらといった事があるだろう思っていたが、そうでも無かったらしい。
思えば、小説を書いていた。
そこには自分の空想や理想を詰め込んで、時には疾しいものも書いたりしたけれども、それが残る事に満足していた。
理系の大学生にしては、上々の話を作れていたと思う。
だけど。
私はあくまで趣味として、自分の為にしか作品を作らなかった。
それでも
うっすらとしかし着実に有名に成りたいという、自己顕示欲が心の奥底で顔を覗かせていた。
なのに私は何もしなかった。チャンスは確実にあった。
産んで、それを残すという行為に手を染める事が、できなかった。
ずっとずっと弱かった。
だからこそだろう。
一念発起して、人の物語を書こうと思ったのは。
確かに私はもう死んでしまった、だがしかし今はどうだ?
目の前にチャンスが転がっている。
この瞬間を逃せば、もう二度と手に入らない執筆への最後の道。
そうだ最後なのだ。
だからせめて……
何かを書いて、今度こそ綺麗に死のう。
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ところで早速だが、君には私の完璧かつ完全な働きを見て貰おう。見ろ。
そろそろこの高慢な物言いにも慣れてきてしまった。
新しさに欠けている。
「まあまあ失礼だな。そんなに人を小馬鹿にして楽しいか?アア?」
もはやヤクザだ。チンピラだ。
と言うか馬鹿にはしていない。被害妄想の押し付けをそうもいけしゃあしゃあとやらないで貰いたい。
「そうか。すまない」
心読まれると空気が苦しい。居た堪れない。
溜め息が聞こえる。
「まあいいや。君が気持ち良く死ねる様にせめて私は、応援させてもらうとしよう……」
まず、私たちの仕事は取材と同類だ。
ただし、心を読めると言う特典がついている。
ここで重要なのが記憶を読めると言う訳ではないと言うこと。あくまで私達に許されているのは心を読むと言うこと、ただその一点のみだ。
故に文才は自分次第。脚色も自分次第。
省く所も、誇張する所も全て自身の匙加減だ。
更に生憎、君は心を読むと言う事が出来ない。つまり君は初のジャーナリズムで人の人生を特典なしで書かなければならない。
一応私も確認するから不足部分は安心して欲しいものではある。
まあ君も文を書いた事があるのなら上手い具合に出来るだろう。
頑張ってくれ。
今更気づきました。こういうのって次の文に行く時はスペースを開けた方が良いのでしょうか?




