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第2記-男の名は東透-

嗚呼、何故執筆とはかようにも難しいものなのか。

男は小説家であった。


男は日本国に生まれ、

つまらない幼少期を過ごし、

ごく一般的な思春期を過ごし、

ありふれた青年期を経た。


唯一、他と違う特異性を持つものをあげるというのならば、男は小説家であった。

その一点のみに尽きる。


四季折々、日々の節々に自身の生活、感情,境遇をひたすらに書き連ねる行為が好きだった。


しかしそれだけ。

あまりにも平凡。

どこにでもいる社会人。

故に男を表す言葉は陳腐にして平坦な文章にならざるを得ない。


享年は22。不慮の交通事故により死亡。


それがこの男の名。

東透(アズマトオル)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ハハッ、自分を卑下してはならない。東氏よ。

---それでは自分が報われない余りにも可哀想な人間みたい。

と言うか可哀想になってくる。


そんな心意気じゃあ君は早死にしてしまうかもしれない。

……まぁ事実、君は死んだのだが」


目の前の机の上に汚く座った女はおちゃらけた態度で、全くもって可哀想と言う思いを感じられない笑みを浮かべながら私に死の宣告を下した。


「成程。どうやら私は死んだようですね。

ではなぜ未だ私が私としての意識を保っているのでしょうか。

答えいただけると恐縮です。」


可能な限り冷静に対処する。


ーー何があった。

私は今の今まで意識を喪失していた。

眠っていたのだろうが眠るまでの記憶が全く無い。


目の前の女は死んだなどと戯言を吐いている。

しかしそんな良くある量産型転生系ライトノベルかのような死んだのに意識があると言った事象を私は信じていない。


脳が止まれば、心臓が機能不全に陥れば、何があろうと意識の根源たるこの体は死ぬ。

ごくごく当然の話だ。

そして仮に,万が一にもーーそんな出来の悪いフィクションが現実にあったとして、だ。

このようなところに来るのは王道的テンプレに反している。


……こんな雑多というか、乱雑に組み上げられた本の数々を見て神域と思う奴はそれはあれだ。

頭が本で支配された奴か、単純に頭がおかしいかのどちらかだ。



どちらも同じような意味かもしれないが。


更にだ。

汗牛充棟という言葉がこれ以上ないほどよく似合うこの部屋に付け加え、霊感というものを何一つとしてわからない私から見ても、目の前の神聖というモノを欠片も持ち合わせていないこの女が、なにか?女神であるとでも?


ハハッ。タチの悪い冗談だ。


そんな事を考えるよりも入手すべき情報は別にある。

先ほどの発言(私が死んだと言う戯言)の真意を探る必要性は無いとまでは言わないが、優先順位的に見れば下級。

まず覚醒するまで一体どれほど時間が経ったのか。ここはどこであるのか。


ーー5W+1Hを知る事こそが今出来る最善策だろう。


本来は身の安全の確保を最優先に動くべきなのだろうが、そんなことを言ってられない状況と判断した方が良さそうだ。

大概他人から信用されない人間を自負するこの私よりも、彼女は圧倒的に胡散臭い。


……どちらにせよ。

結局はそれら情報をこのいかにも事情を知っています。と言うふうな目の前の女から聞き出す。

そう話は帰着する。せざるを得ない。


「ーー酷いなぁ。信頼の欠片も感じられないよ。

そんな怖い目を女子に向けちゃあモテないし、なんなら友達すら出来ないよ?

……互いに寄り添って、相手の心情を考えながら接しなきゃ。」


愉快痛快と言った雰囲気でこちらの事を見透かすかのように話したのち、ニチャッという効果音がつきそうな微笑みを浮かべながら、こう続けた。


「ーーちなみに今は君の死後、4分。

場所(ここ)記憶書庫(アカシク・レコード)

我々(作者)の目的は人生の保全。

迷える魂に安心して輪廻の輪に還ってもらう。それが目的。

手段は執筆……そして」


女はゆらりと立ち上がる。

瞬間。纏う雰囲気が一変した。


瞳に堂々たる誇りを宿し洗練された、長年同じ事を繰り返したのだろうと。

そう思わせる程に、思ってしまう程に流麗な立ち居振る舞いを披露し、告げる。



「私の名前は-遠鳴日暦(トオナリヒヨミ)-


この記憶書庫の司書長代理にして、君の作家だ。」

もっと良い表現があるよーって方は、感想欄で。

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