表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

俺たちは平和に暮らしていただけなのに、桃太郎が来た

作者: まめの こぶくろ

それを俺たちは「平穏」と呼んでいた。


ここ鬼ヶ島は、本土から遠く離れた南の楽園だ。

常春の温暖な気候に、豊かな海で採れる新鮮な魚介・・・

美酒に酔いしれる、豪華な宴は夜ごと開かれていた。


おそらく天国というものが

あるならこの「鬼ヶ島」のことを言うのだろう。


たまに本土へ出かけて、人間たちの村から

米や酒を「長期レンタル(返却予定なし)」してくることもあったが、

それは異文化交流の一環みたいなものであった。


向こうもキャーキャー言って盛り上がっていたし

――と、俺たちは解釈していた。



その日は突然やってきた。

はるか向こうの一隻の船が見える。


見張りの青鬼が、血相を変えて走ってきた。

「大変です!本土から船が一隻、こっちに向かってきます!」


「船?観光客か?歓迎の準備(威嚇)でもするか」

俺はあくびを噛み殺しながら立ち上がった。


しかし、青鬼の顔色は真っ青だ。……元から青いが、さらに青ざめていた。

「違うんです……旗です!『日本一』って書いてあります!」


日本一?なんだその、自己主張の激しいキャッチコピーは。

海岸に近づいてきた小船を見て、俺は目を疑った。

乗っているのは、ハチマキを巻いた少年一人と、動物が三匹。


犬。


猿。


キジ。


……なんだあれは?移動動物園か?

「おい人間!ここは我々、鬼の聖地だぞ!迷子なら帰んな!」


俺が大声で警告した、その時だった。


「行け、ポチ。噛み砕け」

少年が、冷徹な声でそう命じた瞬間、可愛らしい柴犬だと思っていた生物の目が、

赤く光った……ように見えた。


「グルルルァァッ!!」

犬は矢のような速さで飛び出し、

俺の自慢の虎柄パンツに噛みついた。


「痛っ!痛い痛い!離せ!新品なんだぞ!」


さらに上空から、「キエーッ!」という奇声と共に

キジが急降下し、俺のツノを的確につついてくる。

猿に至っては、背後に回り込んでくすぐり攻撃だ。そしてうんちを投げてきた。



卑怯すぎる。完全に特殊訓練を受けた戦闘部隊だった。

「な、なんだお前らは!話し合いで解決しようじゃないか!」


俺が叫ぶと、少年は懐から何かを取り出した。


丸い団子だ。彼はそれを口に放り込んだ。

次の瞬間、信じられない光景が広がった。


ボコォッ。


バキィッ。


少年の着物が、内側から張り裂けんばかりに盛り上がる。

筋肉が、異様なほど膨れ上がっていた。


「……きび団子チャージ、完了」


「ドーピングだ!審判!これ絶対ダメなやつだろ!」

俺の抗議は虚しく、

少年――桃太郎は、日本刀を抜いた。




その笑顔は、慈愛に満ちているようでいて、

底知れぬ「退治する気満々」の圧を放っていた。


「鬼さん、こんにちは。僕は桃太郎。

(輝く笑顔) 僕、皆さんが貯め込んだ財宝を『回収』しに来たんです。

 抵抗するなら全部斬りますけど、どうします?」


爽やかすぎる脅迫だった。

俺たちは悟った。こいつはヒーローじゃない。

「桃色の災害」だ。



砦の奥から、我らがボス――大将鬼が姿を現した。

身長三メートルの巨漢だ。


「待て待てぇい!私の可愛い部下たちに何をする!」


桃太郎は静かにそしてドスのきいた声で言った。

「あ、ボスだ。ポチ、モン太、キーちゃん、総攻撃」



「ワン!」

「ウキー!」

「ケンッ!」


……三秒だった。

我らが大将が、動物たちとの完璧な連携プレーで簀巻きにされ、

地面に転がるまでにかかった時間は。


桃太郎は大将の頭を踏みつけ、にっこりと笑った。

「で?宝物は、どこですか?」



「あ……あそこの蔵に……全部差し上げますから、命だけは……」

震える声で答える大将に、桃太郎は満足そうに頷いた。


彼らは、俺たちが必死に集めた金銀財宝、珊瑚に錦を、

荷車に積み込んでいった。


「重くない?」と猿がぼやくと、桃太郎はまたきび団子を食べ、

軽々と荷車を持ち上げた。


……化け物だ。


「それじゃ、二度と悪さするなよ!元気でな!」

彼らは嵐のように去っていった。


船が見えなくなるまで、俺たちは誰一人、動けなかった。



夕焼けの浜辺で、ボロボロになった俺と青鬼、

そして大将は、ただ座り込んでいた。




「……なぁ、大将」


「なんだ」


「人間って……怖いっすね」


「……ああ。もう二度と、本土へ行くのはやめよう。

畑仕事でもして、慎ましく生きよう」

鬼たちの頬を、静かに涙がつたう。


こうして、鬼ヶ島に真の平和が訪れたのだった。


俺たちのトラウマとなった「桃太郎」という名は、

その後、恐怖の代名詞として長く語り継がれることになる。


(おしまい)

桃太郎は、はるか昔、吉備の国――

今の岡山に伝わる鬼退治の物語です。


ここでは詳しく語りませんが、

この伝説は、単なる勧善懲悪の物語ではありません。

そこには、桃太郎と鬼の王・温羅との、

切なく、立場の違う物語が残されています。


本作はその伝説をもとに、

「もし鬼の側から見たらどうだったのか」を、

CM一本分、トイレ休憩にさっと読める長さで、

少しだけ新解釈してお届けしました。

楽しんでいただけたなら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ