勇者の仲間たち
腰に聖剣を穿いて身支度を整えた私は、魔王城の食堂に移動して大喰らいを始めた。
解決方法を探すため動くにしても、まずは腹ごしらえだ。
魔王妃になってもいつも通り接してくれる厨房のみんなが、ご飯を山盛りよそってくれる。
美味しいおかずと一緒に噛み締めながら味わってると、冒険者服の男と、魔法使いの服を着た小さな女の子が現れた。
「おーっす。おはよー、フルル。後で剣の鍛錬に付き合ってくれよな」
口がいっぱいだから頷くしか出来ない私に笑った幼馴染の剣士ティーカーも、用意された料理に早速舌鼓を打ち始める。
隣に座った六歳の女の子も、私の仲間だ。
聖女ルネは私の口が空くのを待ってから、笑顔で手を振ってくれた。
「ねーね、おぁよー、ごじゃます」
「うんっ。おはよう、ルネ。
今日も果物が美味しいよー。ティアレ農園の完熟みかんとか、最高に甘いから食べてみてっ」
長い白髪を背中側でまとめたルネは、あまり朝ごはんを食べない。
でも私がおすすめしたみかんだから剥いて、食べ始めてくれた。
……果汁を味わった丸っこい赤の瞳が、キラキラ輝くのが見える。
美味しそうな表情に私まで頬が緩むのを感じてると、小さな手がティーカーにも一房差し出した。
「にーに。こぇ、おいちぃよ」
「おっ、分けてくれるのか。
じゃあいただきまーす……うん、甘いっ。ありがとな、ルネ。大当たりだったぜ」
悪魔貴族の両親から声を嫌厭されて、ルネは何も話せないように育てられた。
でも仲間内ではようやく話してくれるようになったから、ルネが『にーに』相手に一生懸命話そうとするのを見るだけでもほのぼのしちゃう。
私もルネみたいに、自分に出来ることをやらなくちゃ。
改めて決意すると、パンを口にしながら考えた。
……問題は『どうすれば私の呪いが解けるのか』まだわかってないことなんだよね。
ただ単に『敵を倒せ』って言われれば得意なんだけど……魔神が作り上げた強固な呪いは、神の力も持つ魔王にだって解けなくされてる。
同盟を崩すために、私には神側の協力者が必要かもしれない。
「……」
忙しくて少食な魔王は、もうこの場にはいなくなっている。
聖神に協力を要請するため動いてくれてるけど……昨日の神の様子だと難しそうだった。
一日でもときめかなかったら魂ごと破壊される。
つまり『何があっても復活させないぞ』ってことだ。
死の危険なんて冒険中に何度もあったけど……魂までは手をつけられなかった。
これは……もしかして、今までで一番危機的な状況かもしれない。
対策できるようになるまで、時間稼ぎも必要だ。
毎日オルディアにときめく必要があるみたいだけど……そもそも『トキメキ』って何?
「……むー……もぐもぐ……」
恋なんて世界各国で見てきたはずだけど、何も思いつかずに過去を回想ばかりしてる。
延命するにしても、明日の分さえ何をしていいのかわからない。
世界中を渡り歩く間に出会った人たちの姿からとっかかりを探してると、ルネが今度はぶどうを手にしてティーカーに差し出した。
「にーに、こぇも、おいちぃ」
「へへ、ルネは世話焼きだな。自分で食べていいんだぞ?」
「うーぅ。にーにといっしょ、食べたぃ……」
お願いされたティーカーは、遠慮して手を引っ込めるか迷ったルネに笑って、差し出された実を口にした。
お兄ちゃんと一緒がいいなんて可愛い光景にほっこりしたけど……そもそもルネはティーカーの元恋人の魂を宿してるんだ。
「あ」
つまり、恋愛に関してはティーカーの方が先輩なんだ!
ルネの白髪を撫でて可愛がる男にこそ聞くべきだって気づいた私は、早速声をかけた。
「ねえティーカー。リアネさんと恋人だったってことは、お互いにときめく瞬間もあったってことだよね?
どうすればときめけるの? リアネさんもティーカー相手にグッときた瞬間があるはずだよねっ」
「げ。聞かれると思ったけど今かよ!?
鍛錬に誘っただろ……その時に話そうぜ」
「え、なんで聞かれると思ってたの?」
「呪いのことなら、俺も聖剣の守護者として呼ばれたから知ってる。
でも……悪いけど俺の話聞いたって、フルルには何一つとして当てはまらないと思うぜ」
「えっ、お願い、恥ずかしがらずに答えてよ。
人間同士で感覚一緒だし、当てはまらないわけないと思うんだ。
村で一緒に過ごしてきた幼馴染として、ティーカーならオルディアと通じる部分もあるはずだし……っ」
「だから……リアネが俺のどの部分にときめいてたのか、俺もわかってないんだって……女心とか聞かれても困る」
苦手な話題に赤くなってため息吐いてるティーカーに、そっと両手を合わせてごめんなさいした。言いづらいこと言わせてごめん。
ルネはやりとりを見て不思議そうに首を傾げてるから、ティーカーが明るく笑いかけた。
「なんでもないぜ。
ほら、ルネもご飯食べような。俺ばっかり構わなくていいからさ。目の前のご飯に集中、集中っ」
元恋人の魂が宿ってても、ルネに前世の記憶はない。
だからルネらしい人生を見守るって決めたティーカーが、見つめる女の子に苦笑いを映してる。
「にーに……」
リアネさんの話をすると少しだけ青の瞳を翳らせるのを、ルネも一緒に旅をしてきたから知ってる。
小さな聖女は何を思ったのか、自分の首にかけてる輪っかを取り出して、ティーカーの袖を引いた。
「にーに、こぇ」
「ん?」
そのまま輪っかを指に当てて、青の目を丸くした男を見上げた。
「ちかーます」
私の結婚式の様子を再現して、恥ずかしそうにはにかんだ。
……ティーカーは元恋人としてなんて、ルネのことを見ていない。
でもルネは、よく遊んでくれるお兄ちゃんのことが大好きなんだ。
何も知らなくたって、ルネは大好きなお兄ちゃん相手に「えへへ」って照れくさそうに笑って元気付けようとする。
初めて作ってもらった木の輪っかを今も大事にしてるルネを見たら、ティーカーが寂しそうに目を細めて、笑って……頭を改めて撫でてあげてた。
「ルネが大人になった時、大好きだって思ってる人にしてやれよな。
俺は元気付けたい気持ちだけ受け取っておくからさっ……ありがとうな、ルネ!」
本当は、魂だって惹かれてる。
そのくせティーカーは、生まれ直した恋人を守りたい気持ちで身を引いちゃうんだ。
……私の幼馴染だって、いつか幸せになってくれればいいのにな……。
こればかりはままならない気持ちで、運ばれてきた焼きたてパンを口にした。




