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魔王と結婚した勇者ですが、いつまで経っても平穏が訪れません!  作者: 丹羽坂飛鳥


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13/20

本番

 煌びやかな大豪邸が、夜の闇に浮かんでいる。


 オルディアの空間移動で到着した会場内には、多種多様な魔族が集まっていた。

 魔王城のダンスホールはどこよりも大きかったけど、シャルルエリ邸も同じくらい大きい。

 着飾った魔族の多さにも改めて驚いていると、青い髪の青年が来て、魔王に頭を下げた。


「魔王様、お待ちしておりました」


「ユミス・シャルルエリ。

 今宵の招待に感謝する。妻も踊れる日を楽しみにしていた」


 仕立てのいいタキシードを纏った、高貴な佇まいの青年が顔を上げる。

 ツノや尻尾もないし、悪魔貴族かと思うくらい、見た目に龍っぽさはない。

 でも、周囲の誰もが敬う青年……彼こそが当主のユミスだ。


「ご夫妻をお招きできたこと、光栄に感じております。

 ……魔王妃となられまして以来ですね、フルル様。

 お越しいただきましたこと、感謝申し上げます」


 私もオルディアの腕にエスコートしてもらいながら、ドレスの裾を軽く持ってご挨拶した。

 顔を上げると紫の瞳と見合ったけど……直感のスキルでは、なんとなく良くない感情を感じる。


 やっぱりタイクーンドラゴンの件が尾を引いてる……のかな?


 結婚式の時は魔王にお祝いの言葉をかけていたし、私も簡単に挨拶しただけだった。

 でも改めて対峙すると……わずかな敵意に体が反応する。

 ユミスも私が警戒してるのに気づいているから、淡く微笑んだ。


「舞踏会に緊張なさっているのでしょうか。

 ご安心ください、あなたは魔界に来られてから日も浅いはず。

 我も今宵はご無理召されぬよう、踊れる曲を用意する予定です」


「……ありがとう、お手柔らかにお願いします。

 実は魔族のダンスも少しだけ覚えてきたんだ。普通の曲でも、オルディアとなら踊れると思う」


「素晴らしい。勇者としての才覚がなせるわざでしょうか。

 いえ……まさか元々魔族ということはありませんよね。

 我が望んでいた通り、聖剣は身につけていないようですから」


 きた。

 疑う目元が、鋭く細められる。

 ユミスの前に出たオルディアが、私の指に触れた。


「伝えておいた通り、ドレスに合わないから僕が外させたんだ。

 城から持ってきても同じことなのに、持たせ続ける必要もないからな」


 剣を受け取るため手を差し出すと、慣れた重みが戻ってくる。

 もちろん、私が焼かれることはない。

 でも……紫の瞳を揺らしたユミスは、鈍色の輝きだけを見ている。


「……聖剣……」


「うん。聖剣の神から授かったものだけど、私は神の光には焼かれないよ。

 他に何か、勇者である証拠は必要?」


 ユミスが紫の瞳を細める。

 ……一瞬歯を噛み締めたのを、私は見逃さなかった。


「……いえ……これは確かに、聖剣です。

 受け取れるあなたが、やはり今代の勇者で相違ないのでしょう」


 確かめるだけなら、もう目を離してるはず。

 なのに、言葉の後にも沈黙がある。


 ……揺らぐ瞳は、何かを隠している。

 細かな装飾まで確かめてようやく顔を上げた彼は、オルディアに向かい合った。


「疑うような真似をして失礼いたしました。

 懸念はもはやありません。

 ……魔王様もご到着。宴を始めましょう」


 オルディアに聖剣を戻してもらうと、ユミスの指示に従って楽隊の音楽が変わった。


 会場中を注目させての当主の挨拶が、ダンスホールに響き渡る。

 続いて主賓のオルディアが挨拶して、開催の宣言が為された。


 今は舞踏会の一曲目の演奏が始まったけど……魔族のダンスは曲の一回目が、踊れる人を集めるための見せ曲だ。

 二回目が本番で、魔法陣を描きながら音に乗る。

 カトリーンから座学で聞いた通りだって実感しながら、知る音楽を聴いていた。


「これ、三曲目に覚えたやつだよね」


「そうだ。フルルも踊れるな。

 ……では、魔王妃」


 目の前に立つ魔王が、黒の手袋に包まれた手を差し出す。


「僕と踊っていただけますか」


 ダンスホールの全てを、魔王が背景にする。

 私だけを見つめる深緑の瞳に、魅入られそう。

 銀の髪が明かりにキラキラ光るのを見ながら……高鳴る音を、ドレスの上から押さえた。


「……うん、お願いしますっ」


 背の高い夫に手を差し出すと、賑わう魔族と一緒に移動して……再び同じ曲が始まるのを見計らって、踊り始めた。


 覚えたてのステップを披露してるから「魔王様が」「魔王妃も」なんて騒がれる内容を、聞く余裕もない。

 オルディアが手を繋いで、腰を支えてくれる。

 私も肩を掴んで、一緒に踊る。

 魔王に遠慮して近づく者もいないから、自由に動けて……綺麗に微笑むオルディアに、目が合ってようやく気づいた。


「フルルは上手くなったな。見違えるくらい余裕がある」


「えっ、今も失敗しないように必死だよ。

 いつもと違って踵の高い靴だし、注目度すごいもん……」


「可愛い花が踊っているからな。

 『魔王妃は魔界にほとんどいなかったと聞いていた、なのにもう覚えたのか』と驚かれてばかりだ」


 皮肉混じりの言葉だったから、ちょっと笑っちゃう。

 でも余計な力が抜けると、あんなに緊張していたダンスなのに自然と体が動く。


 オルディアが誘導するのに合わせて、ターン。

 引き戻してもらって腕の中に入ると、見上げた先では優しく深緑の瞳が細められてる。


「ふふっ、やっぱりオルディアと踊るの楽しいね。安心して体を任せられる感じ」


「僕も楽しい。

 ……気を抜くと、薔薇の花に目を奪われそうだ……フルルが綺麗すぎて、見惚れてしまう」


「そっそんなの、私だってそうだよ。

 だから意識しないようにしてるけど……オルディア、すっごくかっこいい。

 えへへ、踊れるようになって良かったな……っ連れてきてくれてありがとう、オルディア!」


 合間に交わされる言葉も、照れくさい空気も何もかも、二人だけの特別な時間。

 音楽に合わせて、体を動かす。

 一体感とか、お互いのことを思い遣ったりとか、心地いい時間が続いて……あっという間に初めての曲が終わっちゃった。

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