2 歯車の乱れ
歯車が噛み合う音が工房に響く。「ゴン、ゴン」一定のリズムで回転している。
奥で、誰かがハンマーを叩く音。「カン、カン」と金属が振動する。
時折、蒸気が勢いよく吹き出す。「シューッ」と、機械が息を吐くように音を立てる。
グリは職場の工房にきていた
工具を手に取り、歯車のかみ合わせを入念に確認する。
指先で金属をなぞる、少しざらついた感触だ。
潤滑油を静かに差し込むと、ギアは滑らかに動き始める。
巡回機械のパネルを開き、中の機構を覗き込む。
歯車が回転する音を聞きながら、異常がないか注意深くチェックする。
いつも通りの慣れた状況だった。だけど。
仲間たちの空気が、どこか重い。
作業の手は問題なく動いている。工具の音も変わらない。
でも、会話は短く、どこか余裕がない様子だ。
グリには心当たりがあった。
遠征のことだろう。
工具を持ったままのグリに近づき、だれかが軽く肩を叩く。
グリは一瞬工具を握る手を止めた。
ヴェン: 「昨日は飲みすぎたみたいだな。」
グリ: 「……まあ、大丈夫。」
ヴェンは隣の機械に寄りかかり、しばらく黙る。
そのまま工房の音を聞きながら、視線をグリに向ている。
ヴェン: 「で?どう思ってる?」
グリ: 「決まったことだろ。仕方がないのさ。」
工具を握る手が少し強くなる。
油を差しながら、無意識に歯車をじっと見つめる。
グリの横顔を見ながら、ヴェンはわずかに笑った。
ヴェン: 「真面目だな、お前は。」
グリはそれに返事をしない。
ただ黙って、歯車に油を差す。
決まったことだから。仕方ない。それがルールだ。