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喬木まことの短編

踊る転生悪役王女と災いの妖精ドゥッキー・ドット

作者: 喬木まこと

続編的な連載【モラル爆発モンスターヒロインと災の妖精ドゥッキー・ドット】を公開中です。

昭和の少女漫画「フェアリープリンセス・リリィ」を知っているだろうか?ちなみにだが「・」の部分は実際はハートが記されている。令和どころか、平成になる前に絶版されてしまったので、知ってる人などいないだろう。


時は平成末期、令和へと移り変わる寸前であった。とある女性が伯母宅の本棚の隅で、その単行本を発見。表紙にはキラキラと輝く瞳の少女。ザ・昔の少女漫画と言った雰囲気を出す、その漫画を読んでみた。


「ねぇ、おばさん。この主人公、とんでもない子だねー」

「え、どこが?」


驚いた様子の伯母に女性は説明した。


この「フェアリープリンセス・リリィ」は精霊や妖精の存在するフェアリン王国が舞台である。主人公リリィは意思が強く、天真爛漫で、ちょっぴりお転婆な美少女とある。


「出だしからやらかしてるし」


フェアリン王国は16歳が成人であるが、毎年、ダンスの上手い娘を城に集め「精霊の舞」と呼ばれる舞を舞踏会にて精霊に捧げるのだ。


その「精霊の舞」は衣装やポーズを見るにバレエのようなダンスらしい。


精霊の舞は、プリンシパルのようなポジションの精霊姫を中心とし、後ろで小妖精と呼ばれる50人の娘が躍るのだ。小妖精はバレエで言うところのコールドだ。群舞とも言う。


フェアリン王国は階級社会らしく、精霊姫は毎年、16歳になる最高位の娘が務める。物語と中では王女エレクトラが務めることになっていた。リリィも平民でありながら、舞の名手と言われており、領主の伯爵の推薦により、小妖精として舞踏会に参加する。


ところが本番、彼女はとんでもないことをやらかした。


煌びやかな宮殿、輝くシャンデリア、素晴らしいオーケストラ、美しい衣装。そんな中で舞を踊っていたリリィは、ついつい楽しくなり過ぎて、小妖精でありながら、中心へと躍り出て精霊姫の舞を踊ってしまう。いや「つい」じゃない。本番で主役のポジション奪うダンサーなんぞ、ありえない。


しかし、皆、リリィのあまりの美しい舞に目を奪われるのだ。当然、精霊姫のエレクトラ王女は面白くない。無礼だと、バチコーンとリリィを引っ叩く。暴力はいけないけどさ。不敬罪で無礼打ちが許されてる世界観だから優しい処罰かもしれないよ。


そんなエレクトラは、父である国王に聖なる舞の舞台を汚したとして幽閉される。そもそもの原因はリリィであるにも関わらずだ。アンタ、娘の晴れ舞台潰されてんだぞ。


「それはね、リリィが祝福を得た特別な娘だからよ」

「祝福?」

「ほら、踊ってるシーンでリリィが光ってるでしょ」


伯母、曰く。素晴らしい舞を披露したリリィに妖精が祝福を与えたらしいのだ。それは彼らに愛されてる証だと言う。


「何かご利益があるの?」

「祝福を与えてくれた精霊や妖精の力を借りる事ができるのよ」

「へー」


なるほど、リリィをぶん殴ったエレクトラが断罪される訳だ。妖精の手を借りて、王家に仕返しされたら困るだろう。流し読みはいかんな。


その後、リリィはその舞の素晴らしさを認められて、行儀見習いの侍女として城に上がる。ようは精霊の祝福を得たリリィを王家が囲い込もうとしてる訳だ。


当のリリィはというと、エレクトラの兄のエリック王子に一目惚れして、熱烈アプローチ。エリックも満更でもない。精霊の祝福狙いの王子は分かるとしても、エレクトラが片思いしていた公爵令息ジョルジュもリリィに惚れてしまう。「不思議な子だ。目が離せない」とか言って。マジかよ、公子、目ん玉腐ってるな。


王子と公子にモテモテのリリィは貴族の娘達に意地悪をされたような描写があるが、割と彼女達は真っ当な事を言っている。いくら頑張って作ったからって王子に焦げたクッキーを食わすなよ。だが王子は食うのだ。そして腹を壊す。為政者になる自覚あんのか。いくら精霊の祝福狙いだとしても、少し考えて行動しろ。


要するに貴族令嬢は礼儀作法も知らない奔放なリリィに反発してるのだ。いくら精霊の祝福を得ているとしても、こんな娘が王妃にでもなったら、国はメチャクチャになると。


本当にリリィは天真爛漫が過ぎる。一時、王子を諦めて故郷の田舎に帰るが、やっぱりエリックが好きだと言って、幼馴染の騎士のジミーに王都に連れて行ってくれと頼む。いや、ジミーは仕事あるからね。ジミーもリリィに惚れているらしく。リリィの願いを断り、諦めるよう説得しようとする。しかしリリィは「もういいわ!」と言って、ジミーを振り切り、ジミーの愛馬で王都へと向かう。泥棒やで。


一巻のラストは盗んだ馬で走り出し「あの方の元へ……!」と言う、リリィの独白で終わっている。


「ツッコミが追い付かないよ、伯母さん。続きはどこにあるの?気になり過ぎる」

「1巻だけしかないの」

「何で?買ってないの?」


叔母は気まずそうに答えた。


「打ち切りになったのよ」


あんまり人気が出なかったらしい。昭和の少女達もリリィの破天荒さに付いて行けなかったんだろう。


と言ったら伯母はキレた。


「ごめんねっ。つまんない漫画で!」


なんとフェアリープリンセス・リリィの作者は伯母であった。


「嘘!だってペンネームちがうよ!」


伯母はBL同人作家で中々有名なのだ、ペンネームは男性っぽい名前だ。ちなみにフェアリープリンセス・リリィの作者は「西園寺メロディ」となっている。


「どーせ、どーせ、つまんない漫画家ですよぉ」

「うそうそ。リリィちゃん可愛いなぁ。メロディ先生、続き描かないの?」

「あたしは男同士の恋愛描いてる方が向いてるのよ。それとメロディ先生言うのやめて」


伯母は元々少女漫画でデビューしていたが、ヒット作に恵まれなかったそうだ。そんなメロディ先生のために、担当さんが当時の売れそうな要素をとにかく盛り込みましょうと言って捻り出したのがリリィだったらしい。しかし、残念ながらリリィは第二の飴玉ちゃんにはなれなかったのだ。


どんまい西園寺メロディ先生。


しかし人が一生懸命に描いた漫画を酷評してしまった罰があたったのかもしれない。0を1にする。創造の苦しみを侮った私が悪かった。


「わたくし」は()非常に後悔している。


何故って、まさか、自分がフェアリープリンセス・リリィの悪役王女エレクトラに生まれ変わってしまうなんて思わないじゃないか。


ビンタ一発退場の王女エレクトラだ。


それに気が付いたのは、ふと鏡を見た時。

気の強そうな美少女が映っていた。


ああ、エレクトラに似てるなと、将来はエレクトラみたいな女性になりそうだなと思って、いや、わたくしはエレクトラだけど。アレ?アレ?と、唐突に気が付いたのだ。


だから、思わず白目をむいた。

驚くと白目になるよね。そういう世界だよね。

しかし、周囲の反応は違っていた。


「キャーー!姫様があーー!」


侍女達はいきなり白目を剥いた王女に驚き、奇声をあげる。


「何でもないの、ちょっと驚いただけ」


医師を呼ばれそうになったので慌てて止めた。

白目むかないんだ、みんな。


「やっぱりエレクトラだ」


一人にして欲しいと言って、侍女達に部屋から出てもらい、記憶を整理する。思い起こせばエレクトラとしての思い出もしっかりある。ただし、それはもの心ついて数年分しかない。今、エレクトラとしての生は5年だ。前世、女性だった記憶があるが、名前は思い出せない。西園寺メロディ先生の事は覚えているのに。


いや、むしろ彼女はこの世界の生みの親だから、女神なのかもしれない。女神・西園寺。何故貴女は姪である私を、16歳で幽閉されるエレクトラに定めたもうたのですか?


フリルとレースに囲まれた乙女チック満載の部屋でのたうち回る。だがエレクトラはまだ5歳、幽閉まで11年もの時間がある。


そもそも、精霊の舞で、現れるリリィに一発かましてやらなきゃ良いんじゃないかと気付いた。


「なーんだ、楽勝楽勝」


だが、女神・西園寺がどのような試練を与えてくるか予測が付かない。リスクヘッジは可能な限りするべきだろう。


万が一、リリィに難癖付けられて幽閉となっては、たまらない。それまでに味方を……いや、信じられるのは、自分だけだ。己の運命を他人任せにしてはいけない。


エレクトラは己を磨き、鍛え抜く事を誓った。全ては幽閉を免れるために。


5歳のエレクトラは少女漫画世界にありがちな我儘で勉強嫌いの典型的な困ったちゃんだった。白目を剥いて3時間後、エレクトラはこれまでの行いを改めた。


まずは子供にとって必要なこと。早寝早起き、朝ごはんである。嫌いだったニンジンもピーマンも食べるようになった。


新しいドレスが欲しい、靴が欲しい、玩具が欲しい、ぬいぐるみが欲しいと言わなくなった。その代わりに教養科目を学ぶための時間を増やして欲しいと願った。フェアリン王国の才女と言われるようになったら、父王も幽閉は躊躇するのではという下心だ。周辺諸国の情勢、言語、文化を学び、最悪、亡命しよう。亡命となった場合に備えて、乗馬と護身術も学ぶ。


また、何よりも、舞のレッスンに力を入れた。頼む精霊様、16歳で幽閉は嫌です。初めは媚びた心で一杯だったが、エレクトラはこの舞にハマった。そう言えば、前世の幼い頃に母にバレエを習ってみたいと強請ったことがあったが「アンタ、すぐ、やめるって言うでしょう」とため息交じりで反対されたのだった。


エレクトラは王女特権を使用し、王国最高峰の舞の教育者を招き、毎日レッスンを重ねた。午前中は2〜3時間の自主練習、午後2時間は教育者からの指導を受ける。余裕があればもっと練習したいが、王女としての学習もあるので、それが精一杯だった。


勉強と舞のレッスンを熱心に続けるエレクトラは、ばあやのマーサに「ご立派になられて、マーサは嬉しゅうございます」と300回は泣かれている。


そんなある日、8歳になったエレクトラは兄のエリック王子に呼び出される。


兄の部屋に入ると、エレクトラと同じキンキラな金髪の男の子は言った。


「何を企んでいる?」


は?と言わなかった8歳児を褒めて欲しい。


「近頃、勉強や舞のレッスンに力を入れているそうだが、私は騙されないぞ。貴様はそんな娘ではないだろう」


心を入れ替えて3年経過してますけど。気が付くの遅くないですか、お兄様。


確かに前世を思い出して、白目を剥く前は我儘三昧だったけども、エレクトラは貴方よりも7歳も年下の子供だよ。子供に何言ってるの?


「わたくしは、王女として、相応しい振る舞いを心掛けているだけですわ」

「黙れ!」


なんだとー!


エレクトラは体年齢は8歳児であるが、中身は中年女性である。15歳の小僧に怒鳴られてもへっちゃらだ。


「今すぐ、舞のレッスンも、勉強もやめろ。命令だ」


アンタに言われる筋合いはないからね。

エレクトラはエリックを敵と見なした。


()()殿()()のご意向は理解致しました」

「うむ。下がれ」


これまで、エレクトラは奴を「お兄様」と呼んでいたが、今後そう呼ぶ事はないと決めた。


フェアリン王国の王子エリックには、我儘でどうしようもない妹がいた。興味があるのは、ドレスや菓子、勉強嫌いで、自分と学友である公爵令息ジョルジュの剣術訓練中に見学と言って現れては、キャーキャー騒いで邪魔をする。終いにはジョルジュと結婚したいと喚く。頭の悪い愚かな娘だ。


自分が王位を継いだ際も独身なら、有益な国に嫁がせてフェアリンから追い出そう。相手は老人でも醜男でも構わない。自分の治世に役に立てるなら本望であろう。


来年は成人となる年を迎えるが、人脈づくりの交友関係に身を入れ過ぎたせいか、少々、座学に遅れをとってしまい、教育者達から苦言を呈される。


「ご友人との語らいも大切ですが、このペースでは成人までに必要な範囲が終わりません。このままではエレクトラ様に追いつかれてしまいますよ」


何を馬鹿なことを言っているのかと思ったが、妹はいつからか神童と呼ばれるまでになっていた。まだ8歳にも関わらず、エリックが13歳の時の教育内容まで進んでいるという。何かの間違いではないかと確認したが、王族に嘘を吐く理由もない。


これほど優秀な自分でさえ神童という評価は得ていない。妹がエリックよりも高い名声を得るのは、自分の治世にとって有益ではない。


エリックは妹を呼び出し叱責した。実際に少し賢くなったようでエレクトラは素直に従った。


その夜の晩餐にて、さっそくエレクトラは父である国王に我儘を言い始めた。


「お父様、お願いが御座います」


よし、それでいい。


「ふむ、久しぶりだな。エレクトラのお願いは、良いぞ申してみるがいい」


以前はエレクトラの我儘を呆れつつ受け入れていた父であったが、様子が違っていた。何故か機嫌が良い。


「これまで通り、舞のレッスンと勉強を続けさせて欲しいのです」


何を言い出すのか、この愚妹は!怒鳴り付けてやろうと席を立ち掛けるが、その前に父は笑いながらこたえた。


「はっはっは!何だ、そんな事か。エレクトラよ、我が自慢の娘よ。好きなだけ続けると良い。誰もお前の努力を妨げる者はおらぬよ」


なんて事だ、父は受け入れてしまった。女に学など必要ないと言うのに。


この晩餐には、侍従長や家政婦長、王宮の全てを采配している家令も控えている。彼らは父の発言に背くことはしない。エリック専属の侍従も父王の言葉を聞いている。これでは父に気付かれずに、妹の教育を止めることは不可能だ。


なんて悪知恵の働く娘なのだ、エレクトラ!


エレクトラは素知らぬ顔で食事を続けていた。未来の国王陛下は腹芸も出来ぬお方とはね。こうしてエレクトラは国王の了解を得て、舞と学問に邁進する。


エリックはエレクトラの学びと舞を止めさせることが不可能になると、妹の評判を下げるべく周囲に色々と話しているらしい。


「我儘で他人に迷惑をかけても気にもしない」とか「自分やジョルジュの剣術の稽古の邪魔を頻繁にしてくる」とか。


しかしエリックの努力も虚しく、父王が御前会議で「久しぶりにエレクトラが我儘を言ったかと思ったら“舞のレッスンと勉強をこれまで通り続けさせて欲しい”などと申すではないか。わっはっは!」などと得意げに話していた。エリックとのやり取りを知らない国王は「お父様、エレクトラはこれからも、舞とお勉強を頑張りますので、応援して下さいませ」と解釈したようだ。臣下達も「御立派な我儘で御座いますね」などと答え、我儘姫キャンペーンは終了した。


また、臣下の息子たちの前で、エレクトラにどれほどの邪魔をされたか、迷惑をかけられたかを話し、その場にいた公子ジョルジュにも同意をえようとしたが「そう言えば、お小さい頃は、よく稽古場にいらしていましたが、ここ数年はいらしてませんね」などと返答され、現在進行形でないことがバレる。


まったく妹の評判落として何がしたいのか。


当のエレクトラは舞や学問の講義だけでなく、貴族の子女達との勉強会に勤しんだり、フェアリンに訪れた外交官から異国の文化を学んだりと忙しい。


10歳になる頃、エレクトラが熱心に舞に取り組んでいると聞きつけた神官に、精霊王を祀る神殿で舞を捧げてはどうかと打診を受けた。


毎週、太陽の日に、神殿では精霊や妖精達を統べる精霊王に祈りを捧げる儀式があり、巫女達が舞を踊るのだ。エレクトラは喜んで参加した。


恐縮する巫女達であったが、我儘を言わず、皆と同じ練習をし、真摯に舞に向き合うエレクトラに良い印象を持ってくれたようで、すぐに親しくなれた。


毎週、巫女達と共に精霊王に舞を捧げる事がエレクトラの日課になる。神殿に通うようになったエレクトラは神殿にあるハーブ農園に興味を持った。


「神殿ではハーブも育てているのですね」

「ハーブは食事やお茶にして飲んだりもしますが、併設している救護院でドライフラワーにして香り袋(サシェ)を作っています」


巫女に尋ねると、そのサシェは太陽の日に行われる神殿のバザーで販売し、神殿の運営資金や救護院に住む孤児や、生活に困り、身を寄せている女性達の生活費に充てているという。


「では私も購入させて頂こうかしら」

「まあ、ありがとうございます!」


侍女やメイドにも配ったら喜ばれると思い、沢山購入した。


「でも、バザーで販売する数が足りなくなるかしら」

「いいえ、お気になさらないで下さい」


実を言うと、と前置きして巫女が言うには、サシェの売れ行きは良くないという。確かに、ハーブが入れられた袋はグレーがかった白地の布で、何と言うか地味なのだ。


ただ非常に香りは良い。


「ハーブなどの香りは災いを避けるのですが……」


巫女は少し残念そうに言った。


災い。正確には良い香りを災いの妖精が嫌っており、服に香りを付けたり、サシェを持ち歩いていると災いの妖精が寄ってこないと言われている。


災いの妖精は災害を起こしたり、生き物を殺したりなどはしないけれど、人間が困ったり驚いたりする様子が面白いと悪戯をするのだ。しかも、赤ん坊と豚を取り替えたり、人に馬が恋人に見える暗示をかけたり、スープを腐らせ病人を出したりと、人間からすると洒落にならない悪さをするのだ。


名をドゥッキー・ドットという。


ただ、ドゥッキー・ドットは自分が注目される事が大好きで、ビックリしたり、大騒ぎすると余計に事件が大きくなる。なのでフェアリンでは、名前すら呼ばす「災い」と言われている。


エレクトラは神殿で購入したサシェの香りがとても気に入った。


「本当に良い香り」


くんすか匂いを嗅ぎながらも、巫女達の残念そうな顔が忘れられない。


「そうだわ」


久しぶりに前世のことを思い出した。前世の母の趣味は手芸だった。手芸洋品店で安い端切れを大量に買込み、パッチワークの大作を作っていた。


「ばあや!ばあや!ばあやはいる?」


エレクトラは困った事があれば、ばあやに相談していた。王妃である産みの母は公務で忙しいため、今世の母は、ばあやのマーサだ。長生きして欲しい。


「それは、良い考えだと思いますよ」


ばあやの賛同を得られたので、再び神殿を訪れた。大量の荷物を伴って。


「まあ、これは!」

「なんて美しいの!」


巫女や救護院の女性達は驚いた。エレクトラが持ち込んだのは王宮の衣装室で製作されたドレスの端切れである。


「サシェの袋であれば、端切れでも作れると思ったの。全て同じ布ではなく、違った布で作っても素敵ではないかしら」

「こんなに沢山、ありがとうございます」


エレクトラが持ち込んだのは平民どころか、下級貴族でも手が出ないほどの高級な布地ばかり。絹やレース、美しい織物、リボンなどもあり、それらを使用したサシェはバザーで売れに売れた。


しかも、同じ香りのサシェを王女が愛用していると言うではないか。下級貴族だけではなく、高位貴族も購入するようになる。


また、エレクトラが端切れを神殿に寄付した事を聞きつけ、仕立屋の中には同じように神殿に端切れを寄付してくれる店も出てきた。


それを知ってエレクトラも「私はまだ夜会には出られないから、外出用のドレスをお願いしたいの」と、それらの仕立屋に注文するなどして礼をした。


その仕立屋は老舗ではなく、若いデザイナーが多かった。彼らは斬新なドレスを作成してくれ、そのドレスを着て貴族の子女達との茶会に出れば話題となった。


それから、エレクトラが様々な仕立屋でドレスを注文するようになったことを知って、エリックが「妹の我儘が始まった!」と大喜びで吹聴していたが、貴族達はエリックと違い情報が早い。皆、ことの発端を把握しているのでエレクトラはノーダメージだ。


しかも空気は吸うものでしかないという認識の公子ジョルジュが、他の令息達のいる前で、エレクトラが神殿への端切れの寄付をし、同様に神殿に寄付をした仕立屋に礼を兼ねてドレスを注文している事を丁寧に説明したため、エリックは恥をかいたようだ。


そして、さらに数年後。

エレクトラは16歳の誕生日を迎えた。


「キャーー!姫様があーー!」


今世、二度目の白目である。今年の妖精の舞の練習が始まるとなった時、思い出したのだ。というか忘れていた。ビンタ一発退場の日が近付いているということを。どうして、こんな重要な事を忘れていたのか。


あまりのことに、エレクトラは白目になった。

侍女達もびっくり仰天カーニバルだ。


「大丈夫よ、少し、自分に驚いただけ」


言い訳になっていない、言い訳をして、誤魔化した。


エレクトラは恐怖した。

とうとう彼女がやってくる。破天荒ヒロイン・リリィ!


どうするエレクトラ。なんの計画も立ててないよ、亡命先のピックアップも忘れていた。しかも11年もフェアリン王国で王女として生きてきたために、とてつもない愛国心が育ってきている。フェアリンの民のために生きて生きたい。


「なんてこったい……!」


こうなったら、リリィが現れようが、リリィが祝福されようが、精霊の舞を成功させるしかない。


もう今年の精霊姫はエレクトラと決まっているので、会ったこともないリリィと、今更交代などは現実的ではない。やはり本番一発勝負だ。


リリィと一緒に横並びで精霊姫を踊ることも考えたが、リリィが抜けた小妖精のポジションを埋めなければフォーメーションが崩れ、精霊の舞は成立しなくなるだろう。


ならばリリィが前に出てきたら、エレクトラが小妖精に加わろう。小妖精はホールを大きく回転するように踊る。そこにさりげなく交ざる。


そう決めてから、エレクトラは「念のためよ」と言いつつ小妖精の振り付けも練習した。恐らくは途中までは精霊姫を踊る。どちらも最高の出来に持っていく!


「過剰な装飾はいらないわ」


また、小妖精に交ざることも考慮して、精霊姫の衣装も控えめにした。純白のドレスに控えめな刺繍が施してある。ギリギリ主役もできるかなと言った程度だ。


来るがいい、リリィ!


そして本番の日迎えた。


「まあ、大変!」

「一体、誰がこんな事を」


なんとまあ、エレクトラの衣装がビリビリ破られていたのである。ベタベタな展開過ぎて、逆に驚くわ。


慌てる侍女達を落ち着けるようにエレクトラは言った。


「大丈夫よ、確か、小妖精の衣装は予備が準備されているでしょう。それを使いましょう」


小妖精の衣装は王家が準備しており、予備も何着か製作されている。


「いけません!王女であるエレクトラ様が小妖精の予備の衣装だなんて!」

「すぐに陛下に報告致しましょう!」

「ダメよ、舞踏会が台無しになるわ」

「ですが!」

「私のために怒ってくれて、ありがとう。でも、精霊王様に捧げるのは衣装ではないわ」


侍女達を宥めて、予備の衣装を持って来させ、急ぎサイズを合わせる。


「無理を言って悪いわね」

「とんでもないことでございます!」


衣装室の侍女達は、エレクトラの衣装が破かれた事を知り、絶対に夜会までに予備を手直しします!と断言してくれた。


「まあ、こんな短時間でここまでしてくれるなんて。ありがとう」


そして、わずか数時間で、エレクトラのサイズに合わせ、胸元に美しい刺繍まで施してくれた。凄すぎる。プロの技とスピード。


「いった!」


しかし、本番直前、舞用のシューズを履こうとしたら、指先に痛みが走った。なんと、シューズにマチ針が仕込まれていた。この世界に画鋲はないからマチ針と言うことか。


「なんて事!」

「やはり陛下にご報告を」


王女の衣装に針が仕込まれるなど大事件だ。しかし幸い、深く刺さることはなく、指先を擦っただけだ。


「大したことはないわ。簡単に手当をして頂戴」

「こんなに血が出て」

「我儘を言ってごめんなさいね」


エレクトラは犯人の目星は付いている。


「エレクトラ様を我儘なんて言う者はおりませんっ」

「ふふ、ありがとう。では、もう一つお願いよ。この事は夜会が終わるまで内密にね」

「……分かりました」

「皆んなもよ」


侍女達は渋々ながらも頷いてくれた。


あ、い、つ、めー!


あの男、エリックだ。

お前、そういう役所じゃないだろう。

ヒーローじゃないんかい!


舞踏会が近付くにつれて、小声で「きっと、恥をかくだろう」とか「辞退するなら今のうちだ」とか意味のわからない嫌味を言ってきたと思ってたら、こんなことしたのか。王族のくせに神事を台無しにするようなことをするなんて。アホか。


しかし、おかげで、エレクトラに昭和少女漫画のスイッチが入った。


嫌がらせになんて負けない。

逆行だろうが挫けない。

燃えるのだエレクトラ。


やってやるよ!

首を洗って待ってやがれ!

昭和の漫画は、心ではなく、その瞳に炎を燃やすのだ!


そして夜会が始まった。


フェアリンの夜会シーズンは、この王家主催の春の夜と呼ばれる夜会を皮切りに始まる。春の夜にデビュタントの娘達が精霊王に捧げる舞を踊り、フェアリンの発展を祈り、豊穣に感謝するのだ。


玉座には国王、そしてその隣には王妃と王子エリックがおりホールを見渡していた。ホールには精霊姫役のエレクトラと王女を囲む小妖精がいる。彼女達は深いカーテシーをしたまま、音楽が始まるのを待つ。


周辺では貴族達が見守っていた。しかし目敏い物は精霊姫の衣装が小妖精と殆ど同じであると気付いていた。皆、戸惑いを見せる。


その様子を見てエリックはほくそ笑んだ。大舞台で恥をかけばいい、愚かな妹よ。


だが音楽がホールを包んだ瞬間から、その戸惑いは消える。


ホールの中央で舞う少女は小妖精と同様の衣装に身を包んでいる。これまでの精霊姫達はその役に相応しく、豪華で華やかな衣装を身に纏っていた。それらに比べるとあまりに慎ましい。まして、あれが王女なのか。しかし、その舞は間違いなく精霊姫と呼ぶべき見事さであった。


繊細な表現力。

高く軽やかなジャンプ。

一瞬一瞬が全て美しい。

全てが完璧だ。


フェアリンでは舞は精霊に捧げる神聖なものであるため、神殿関係者以外、ほとんど目にすることはない。神官と巫女、そしてエレクトラの周辺の者以外、王女の舞を見た者はいなかった。彼ら以外でエレクトラが舞手としてフェアリンの頂点に立っていることを誰も知る者はいなかった。


それは王女が11年の年月をかけて費やした時間と努力がなせるものであった。


精霊の舞を見守る者達は瞬きすら忘れていた。彼らは皆、その舞手が王女であることを忘れ、ただただ舞に呑み込まれてゆく。それは精霊に幻想を見せられているかの如く。


そして舞の中盤に差し掛かる時、精霊姫は高く跳躍した。その時、エレクトラの身体は光に包まれる。金の星屑が舞い降りたような輝きは、間違いなく精霊の祝福。


「なんと……!」


夜会に招かれていた、大神官長は胸を押さえた。あの金色の輝きは、まさしく精霊王の祝福。幼い頃より神殿に通い、舞を捧げ続けた王女殿下を精霊王は見守って下さっていたのだ。


だが光の粒を纏いながらエレクトラが回転を始めた時。何故か横に一人の少女が現れた。


「なんだ?」

「だ、誰だ?」

「どういうこと?」


人々はエレクトラに釘付けになっていたため、小妖精の中から一人の少女が躍り出たことに気が付いていなかったのだ。一体何者だ。皆が戸惑っている中、少女も精霊姫の振り付けを踊り出す。そこそこ上手い。確かに上手い。だが、それだけだ。エレクトラの舞に比べると圧倒的に見劣りがした。しかし当の本人は非常に楽しげに舞っている。


エレクトラはというと、その少女と少しの間、横に並んで踊っていたが、複雑なステップとジャンプを交えつつ、移動し小妖精の輪に加わった。少女が抜け、崩れかけた小妖精のフォーメーションはエレクトラが入った事で持ち直した。


エレクトラの輝きは失われていない。少女達の輪に入ったことで、あたかも本物の精霊姫が小妖精と戯れているかのように感じられる。


「美しい」


誰かが呟いた。

まさしくエレクトラは精霊姫だ。


中央では、先ほどの少女がそこそこ上手い精霊姫を演じている。本当にお前はなんなのだ。何故、そんなにも得意げな顔で踊れるのだ。


そして舞が終了すると、再び、全員が首を垂れる。

この後は王の言葉を受け、皆、顔を上げるのだ。王は言った。


()()()()よ、面を挙げよ」


小妖精の輪に入っているエレクトラは他の少女達と共に顔を上げた。無事に舞をやり遂げたことに安堵する。だが疑問だ。何故、リリィではなく自分に祝福が降りたのか。舞っている最中はどこか、別の世界に連れて行かれたような錯覚があり、自分の身体が輝いていることに気付いていなかった。しかし、今も体には光の粒が残っている。


「今宵は素晴らしき夜となった。()()()の乙女達の舞が精霊王に捧げられ、我が娘エレクトラに祝福が降りた。この奇跡のような夜に()()が訪れぬよう、皆には相応しい振る舞いを求めたい」


父王の言葉に意図が含まれていることにエレクトラは気が付いた。舞を踊ったのは、精霊姫は1人、小妖精は50人、本来なら51名の乙女である。しかし父王は50名と言った。何より、顔を上げさせたのはエレクトラを含む小妖精の少女達のみ。精霊姫の立ち位置にいるリリィは、王に許されていないので、顔を下げたままだ。


そしてフェアリンで「災い」と言えば、ドゥッキー・ドット。舞の最中に、突然躍り出たリリィをドゥッキー・ドットの悪さだと王は皆に宣言したのだ。だから、これ以上の災いが起きないよう、彼女のことは無視しろと言っているのだ。


王の言葉は絶対だ。

リリィは嫌われ者の妖精ドゥッキー・ドットの悪事として貴族社会から追放された。


エレクトラは少し複雑な気分になる。本来なら彼女が祝福を受けるはずだった。


王に続き、王妃も言った。


「今宵、素晴らしき舞を披露した少女達には、私の庭より薔薇を届けさせましょう」


王妃の庭は、国王とて無断で入ることが許されない場所だ。そこに咲く薔薇を与えられることは大変な名誉である。良かったねとエレクトラは思う。小妖精達は身分が低く、婚約者も決まっていない女の子もいるから、王妃から薔薇を賜ったとあれば、引く手あまただろう。


「エレクトラ王女」

「はい」


久しぶりに母親に話しかけられて、少し驚く、実の娘。


「貴女には、母として、成人の祝いをしたいと思います。何か望む物はありますか?」

「では、私への名誉(薔薇)は、私の側仕えと、衣装室の侍女達に。彼女達の献身なくして、今夜の私は御座いませんでした」

「それが貴女の願い?」

「はい」


びっくりしたけど、エレクトラは頭を働かせた。王妃は母子として関わる事は少なかったが、王族女性として尊敬している。大らかな気質の王を支えている彼女は理知的で冷静な人だ。この言葉だけで、夜会の前、エレクトラの衣装やシューズに起きた事を把握し、犯人を突き止めるだろう。王族の一人として、自分勝手な愚か者を放置してはいられない。


「では、余も娘に祝いをやらねばな」


父王はそわそわとしながら、エレクトラに声をかける。そう言えば、誕生日とかでも、特に物をねだることもなくなっていたと思い出した。前世を思い出してから、すっかり可愛げがなくなってしまっただろう。少し申し訳なく感じる。


「では今宵のファーストダンスをお父様にお願いしとうございます」

「そうか!うむ!」


宝石かドレスか頼んだ方が良かったかと心配したが、父王が非常に喜んでいるので正解だったようだ。


「お父様、もう一つお願いがあるのですが」


エレクトラはダンスの最中に頼み込んだ。


「何だ?申してみよ」

「今宵は私の成人の儀でもあります。どうか、厳しい判断はなさらないでください」


これで伝わるだろう。リリィにこれ以上は重い罰を与えないでねとお願いした。


「そうかそうか、良かろう。父に任せておけ」


父王は何やらご機嫌なので、処刑などにはならないだろう。リリィはというと、気が付いたら、王宮の侍女と騎士に回収され、ホールから出て行った。


こうして波乱の舞踏会は終了した。


それから聞いたところによると、リリィは家族全員で領地を出て行き、今後、王都へは立ち入らないという事で、リリィ個人へ罰は免れたという。リリィに訳を聞いたら「故郷では、いつも精霊姫を踊っていたから」だそうだ。王家や王女に悪意はなかったと判断されたのだ。


彼女の両親は巻き込まれて可哀想だけど、それくらいで済んで良かったと思う。目立たずに生きていけば国内に留まる事も許された。


「どこかで、幸せになってくれるといいなあ」

「それは、むずかしーかも!」


答えたのは光を纏った小鳥だ。ヒヨコにしか見えないが空中に浮いている。彼は精霊王が遣わした妖精だ。いつの間にやら現れて、一緒に過ごすようになった。


彼が言うには精霊王や水、火、風、土の四大精霊は、リリィに祝福を与えようとしていた者はおらず、彼女の側にいた妖精は精霊界の外れ者と呼ばれる存在だったとの事。夜会の日に精霊王が現れた事でリリィに祝福を与える前に逃げてしまったらしい。


「あんにゃろう、根性がねじ曲がってるからね。あいつが気に入る人間はせいかくが悪いよ!」


そうか、リリィ、性格悪かったんだ。前世の印象は間違ってなかったのだ。それにしても、外れ者妖精に気に入られるヒロインを主役にしたフェアリープリンセス・リリィって……そりゃ、打ち切りになるよね。


「ところで、外れ者妖精って、思い浮かぶのは、あの妖精しかいないのだけど」

「そいつの名前を言っちゃダメだよ、エレクトラ」


ヒヨコ君が言うには、その妖精は名前を呼んだだけで現れて、周囲に迷惑をかけて去って行くので、絶対に名前を呼んじゃダメ!だそうだ。


それからエリックだが、エレクトラの衣装を破き、シューズにマチ針を仕込んでいた事がバレた。


なんとまあ、臣下や使用人達が協力を拒否したので、自ら衣装部屋に忍び込んだという。警備の騎士には「妹に秘密のプレゼントをする」と言って入り込んだらしい。しかしエリックは手ぶらだった。衣装室にあったハサミとマチ針を使用したということだ。


何故、それでバレないと思ってるんだ。臣下や使用人達を馬鹿にし過ぎだ。不審に思った騎士が上官に報告していたし、エリックから協力を頼まれた侍従やメイド達の証言もあり、言い逃れは出来ない状況となった。


王妃はさらに調査を進めると、エレクトラが幼い頃よりエリックが妹を貶めようとする発言を繰り返していた事を知る。


それらの調査結果は国王にも報告され、エリックは24歳にもなって、父と母から、めちゃめちゃ怒られた。しかしエリックはエレクトラが悪いと譲らない。父王はエレクトラのどこが悪いのだと、ストレートに聞いた。


エリックは、エレクトラは生意気で、私利私欲に走る愚か者である。兄を敬う事をしない。妹ならば、自分の役に立つよう率先して動くべきところを、女子供に必要のない学問を納め、称賛を集め、神殿で慈善事業の真似事をして話題をさらう。今回では舞で貴族連中の注目を浴び、自分を日影者に追い込んだ。エレクトラはエリックの治世にとって害悪でしかない。全てはフェアリンの未来のためにした事だと必死に説明した。


それを聞いた父王は言った。


「お前はいつ立太子したのだ?エリックよ、お前に王位継承権はあるが、後継者と決まった訳ではないぞ」

「なんて事を言うのです、父上!私は貴方の息子ですよ!」

「前国王陛下は余の従兄であったぞ。忘れたか?必ずしも王の息子が王位継承する訳ではない」

「そ、そんな、馬鹿な……」


今回のことでエリックが国王になる未来は遠のいた。むしろ、国王と王妃、そして二人の側近達はエリックの適性を疑問視するようになったそうだ。


「エリック」


それから王妃たる母は言う。


「貴方のエレクトラへの要求は的外れです」

「ですが、母上」

「貴方はエレクトラの手を借りねば何も出来ないのですか?妹に下らぬ嫉妬をしている暇があるなら、自身を高め、フェアリンへ貢献なさい」

「違います、私は嫉妬など!」

「エレクトラがどうであれ、貴方の評価とは関係ありません」


そんなエリックはやはり王家主催の神事である精霊の舞を独りよがりな理由で台無しにしようとしたことは問題だとされ、罰として辺境に3年赴任することになった。それが厳しいか軽いかはわからない。


「辺境伯様に迷惑をかけなければいいのだけど」

「分かった!ぼくに、まかせてー」


そう言ってヒヨコ君は飛んでいってしまう。彼は飛ぶ時ピヨピヨピヨピヨ鳴きながら飛ぶのだが、それがまた可愛すぎてエレクトラは祝福を得られて幸せだと思う。


翌朝、ヒヨコ君は戻ってきており、エレクトラの枕元でピヨピヨと眠っていた。だから可愛過ぎるっての。


そしてエリックの頭には花が生えた。


しかも花びらの中心に顔がある。エレクトラは前世の踊る花の玩具を思い出した。その花はエリックの感情を読み取るらしく、エリックが道を外さぬよう導いてくれるらしいが、笑える。キンキラ王子の頭に踊る花の玩具が生えていると思って欲しい。


「これで悪いことできないよ!」


ヒヨコ君はピョコピョコ跳ねる。


ちなみにだが、その花も妖精の一種らしい。無理に引き抜いたら、この世の物とは思えない恐ろしい絶叫をして、エリックは酷い体調不良に襲われる。そして翌日、鼻の穴から生える。もはや寄生虫では?


ヒヨコ君は前日、直接エリックの元に訪れ「精霊王様がお礼をすると言ってるぞ」と伝えたらしい。それは神事を邪魔しようとしたお礼ということだが、何故かエリックは褒美を貰えるとワクワクして眠った。


「なんだこりゃー!」


翌朝、頭に愉快な花が生えていて絶望していたそうだ。


「へいへーい。今後、一生、よろしくな!」


しかも妖精は軽いノリで生涯離れることはないと宣言した。


エリックは頭に花を生やしたまま辺境へと旅立つことになる。


「へーいへいへい、へーいへーい」


白馬に跨ったエリックの頭の上で、花の精は陽気に歌っている。しかも、あの歌は聞き覚えがある。確か、女神・西園寺はあの曲を歌っているアイドルのファンだった。


「へい!へい!へい!へーーーーい!」


達者で暮らせよ、エリック。これで、しばらくは平和だなとエレクトラはホッとした。しかし、数ヶ月後、エリックから手紙が届いた。


曰く。


自分を王都に戻すよう父と母に進言しろ。そして、エレクトラが使役している精霊の力を使い、エリックを王位継承へと導くことに力を尽くせ。さすれば、これまでの事は水に流し、和解しても良い。


「何これ?」


エレクトラはすぐに父と母に報告(チクり)、手紙には「精霊様や妖精達は道具ではありません。それから王子殿下におきましては、(おつむ)の妖精様と交流を深めて下さい」と返事した。


これによりエリックの任期は2年延びた。


しかしエリックは王都に戻ることはなく、花の精と共に辺境で一生を終える。結婚はしていない。エレクトラも陽気でお喋りな花と一心同体の男と結婚は無理だ。そう思ったが、噂によると花の精は中々面倒見の良い御仁で、エリックを差し置いて辺境の人々に慕われていると言う。もしや、花の精が人気過ぎてエリックの帰還を引き止められているのではないだろうか。


その後――


エレクトラは15歳年上の公爵と結婚して、二男一女をもうけた。歳は離れているが、非常に仲睦まじい夫婦であったという。


エレクトラの長男がフェアリン王の後継として立太子し、次男が公爵家を継ぐことになる。娘は隣国の王太子に熱烈に請われ、隣国へ嫁ぐ。


エレクトラ自身は舞手の育成の他、学校や病院の建設などを始めとした慈善事業に取り組み、フェアリンの民のために尽くした。その傍らには常に精霊王の遣いである黄金の小鳥がいた。


貴族の中には、精霊の力を借りて他国へ進軍すべきとの声もあったが「精霊様や妖精を戦争の道具にするなど言語道断」とエレクトラは決して認めなかった。


その生涯でエレクトラが精霊や妖精の力に頼ることは少なく、彼らの力を利用しない、その姿勢こそが彼らに愛される所以だと言われる。


一方で、エレクトラの祝福を侮った者達もいた。大した力はないと甘く見た帝国がフェアリンに攻め入ったのである。


その時、エレクトラと共にいた、黄金の鳥は山を越えるほどの大きさになり、半日もせずに帝国軍を退けた。


その雄叫びは力強く戦場に轟き、フェアリン騎士団を勇気付けたという。


「ピヨ!」


めでたしめでたし。

お読み頂いた皆様へ。

リリィとドゥッキーを全然出すことができませんでした。

大変申し訳ございません。

彼女のその後を加えると、もはや短編ではなくなる勢いになりそうなので、一旦終了とさせて頂きます。

その後のリリィは別のお話でお披露目できればと思います。

でも需要あるかな……


お知らせ【エリック王子の嫁募集】

条件①昭和アイドルソングを歌う花の精と同居OKの方。

条件②見合い相手はエリックです。花の精が意外と漢気があって頼り甲斐があってもトゥクンしない方。


辺境の女性達は容姿よりも性格重視で実質剛健な男性を好みます。一見陽気な怪しい花ですが、エリックのメンターをしつつ周囲の人間にも気を配る花の精に「お花様、素敵よねぇ」「お花様が人間だったら……」という女性が続出し、エリックは見合い連敗中。


【後書きとか解説とか 】について。

明日、公開予定なので、興味のある方は遊びに来て下さい。原作のリリィにも会えるよ!

シリーズの【短編の後書きとか解説とか】に追加予定です。

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― 新着の感想 ―
あ、キョン²の方でしたか……フィンガー5の方だとばかり………
ここまでくるとお花さん主体の話が見たい…
お花ちゃんの昭和アイドルソングのメインが山〇百恵か松田〇子か小泉今日〇か中森〇菜か中山美〇かで大分難易度変わるんですが? それともキャンディー〇? ピンクレ〇ィー? ま、まさか戦後初の少女歌手として美…
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