3話 98/100
爆発が起きて、目の前でビルが崩れた。飛行船から白熱光線が放たれ、あらゆるものを破壊している。
またこの前の夢だ。
オレが美玖を助け、美玖がオレにキスをした。
「大丈夫。きっと上手くいくよ」
キスの後、美玖が言った。あれ?前見た時こんなこと言われたっけ?
不思議そうに美玖の目を見つめる一稀を白熱光線が貫いて…
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「起きなよ一稀。遅刻するよ!」
母の声がする。オレ死んだはずなのに。まさかお母さんもオレの後を追って…
「起きなって!」
目を開けると母がいた。フライ返しを片手に少し怒った顔でベッドの上の一稀を見下ろす。
「お母さん…」
一稀は母に飛びついた。涙を浮かべながら強く抱きしめる。
「ごめんね追いかけさせちゃって。母さんにはまだ幸せでいてほしかったのに」
「何変なこと言ってんの?ほら、学校の支度しなよ。テーブルに朝ごはんあるからね。」
母が戸惑いながらも優しく言った。一稀は着替えて顔を洗い、朝ごはんのトースターを一口食べた。
美味しい。死んでも味ってするんだ。天国でも親がご飯を作ってくれるのか。それに感動してまた涙を流す。
「お母さん、お父さんは?」
「今日は早くに仕事行ったよ。」
母が答える。そっか、父さんはこっちには来なかったのか。それはそれで寂しくて涙が出てくる。
「一稀なんか今日変だね。」
母が笑いながら言う。逆になんで母さんはこんないつも通りに動けるんだろう?まるでオレが生きていた時の朝みたいだ。
壁にかかっているカレンダーに目が留まる。天国の今日は何日の何曜日なんだろう?
「母さん、今日って何日?」
確かオレが死んだのが22日の水曜日だったから、今日は23日の木曜なのかな?それとも流石に天国にはカレンダーの概念はないのか?
「今日は16日だよ。」
母が言った。カレンダーも読めるんだ。ていうか…
「え?一週間見間違えてない?」
「いいや。今日は16日だよ」
母は答えた。一稀はショックで手を滑らせ。スープの入ったマグカップを床に撒き散らした。
母の叫びが聞こえるが全く気にならない。それより今なんて言った?一稀はカレンダーを睨んだ。
今日が16日。10月16日だって?
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1限目が終わり、廊下に出て隣のクラスを覗く。あずまが隣に来て、
「一稀どうした?今日なんかおかしいぞ」
と言った。
「オレはもう死んでるんだ」
「バカなこと言うなよ。生きてるじゃんか」
「オレは22日の水曜日の放課後に、通り魔に狙われてた美玖ちゃんの代わりに刺されて死んだんだ」
「それって一週間後じゃん。じゃあお前は未来で死んで、なんか戻ってきて今を生きてるってことなのか?」
「わからない。なんもわかんなくてもう授業どころの騒ぎじゃねえよ」
「変な夢でも見てたんじゃねえのか?」
「夢じゃねえよ!」
一稀は声を荒げた。あずまが驚いたように一稀の顔を見た。
「腹に包丁刺されて、なんか痛いっていうより熱いって感じ。あんな思い二度としたくねえよ。」
「……」
「また一週間後にはオレ、死ぬのかな…」
「いつき」
あずまがいつになく真剣な顔で一稀の眼をじっと見て言った。
「お前、本当に一週間後に死んだのか?」
「だからそう言ってんだろ」
一稀は教室の中の美玖を眺めながら言った。
「もう一回あの日が来るなら、オレは今度こそ美玖ちゃんを助けたい」
そう呟くと、一稀は自分の教室に戻っていった。あずまは一稀の背中と美玖の笑顔を交互に見ると
「これはまずいかもしれないな」
と呟いた。
2限目開始のチャイムが鳴った。