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2話 99/100


約一週間後…


昼休み、一稀は校内の自販機にオレンジジュースを買いに来ていた。120円で買えるここのオレンジジュースはとにかく甘ったるいのだが、一稀はその味が好きだった。


オレンジジュースを取り出して振り返ったとき、


ドンッ


「あわぁっ!」

「あ、ごめんなさい」


後ろで待っていた女子生徒とぶつかってしまった。幸いボトルは開けていなかったので、中身が制服にかかってしまうことはなかった。


「大丈夫です…か?」


ぶつかってしまったのは社美玖だった。なんてことしちまったんだオレ!

一稀が慌てていると美玖は不思議そうな顔をしながらも、すぐに笑顔で


「全然大丈夫です。急に動きだしてごめんなさい。」


と言って頭を下げた。

なんで美玖ちゃんが謝るんだよ!?と驚いている一稀も、


「オレも気づかなくて、本当にごめん。」


と言って頭を下げると、逃げるようにして教室へ帰って行った。美玖は、


「変な人だなぁ」


と呟き、自販機に120円を入れた。


………………………………………………………


放課後…


「アハハッ。そりゃドジってるわw」

「仕方ないだろ動揺してたんだから」

「でも、やっぱ可愛かったんだろ?しかも今までで一番近い距離じゃね?」

「マジそれよ、抱きしめたかった」

「それはキモいわw」


一稀はあずまに今日の反省を打ち明けていた。今日は部活がなかったので、途中まであずまと一緒に帰ることにした。チャリを引きながら親友と歩く帰り道が、一稀は好きだった。


「あの子、こっち歩いてきてるぜ」

「マジで?美玖ちゃんこっちだっけ」

「そうなんじゃない多分。でもあんまこのへんじゃ…」




「や“し”ろみ“く”!!!!!」




2人の会話は、男の大声で掻き消された。一稀が振り返ると、夕陽を背にして黒パーカーの男が大通りの真ん中に立っていた。1人で歩いていた美玖が振り返るのが見えた。


「はいぃ?」


美玖が素っ頓狂な声を出す。男の右手がきらめいた。


「包丁持ってるぞ!」


誰かが言うが早く、男は包丁を握りしめ全速力で美玖を狙って走りだした。


「美玖ちゃん!」


気づいた時には一稀は駆け出していた。あずまが後ろで何か言っているのが聞こえる。行くな、だろう。それでも一稀は自転車を投げ捨て、何も持たずに美玖の元へと走った。

どうして誰も止めないんだろう?そう考えたが、刃物を持った男を取り押さえるのを率先してやろうとする人はいないことには気づいていた。

“いつき、やめろ”、“美玖ちゃん逃げて!”

周りで叫ぶ声がする。一稀はやめず、美玖は恐怖で硬直していた。


一稀が先に美玖の元に着いた。彼女の前に立って身構える。


「え?」


美玖が声を上げる。え?そういえばオレ、この人とほとんど関わりないんだった。しかも走っていって守ろうとしたのはいいが武器になるようなものを持ってないし、怖くてどうすればいいかわからねえよ。


「どけぇ!!」


男が叫ぶ。3メートルほど手前に迫ってる。

カバンくらい持ってこればよかったな。そう思いながら一稀は、意を決して両手を広げ、大の字を作って美玖とパーカー男の間に立ち塞がった。


グサっ

え?


一稀は男を見下ろした。包丁は一稀の腹に深く突き刺さっている。見上げた男と目が合った。


「お前じゃねえよ」


男が呟く。包丁が腹から引き抜かれ、一稀は倒れた。腹が焼けるように熱い。身体から温かい血が流れ出ていくのを感じる。あずまの声、周りのざわめきがだんだん遠くなっていく。目の前にあった美玖の靴が離れていき、その後を男の靴が追いかける。

一稀の意識は美玖の悲鳴の中に消えていった。




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